乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四十六
めいと視線だけで会話をして、ゲームに戻ろうとすると、凛香が優花の服の裾をくいくいと引っ張ってきた。
「優花さん、あの……」
「凛香さんどうかしました?」
なんだかもじもじしている凛香を見て、優花はすぐにピンと来た。
人前で言うことでもないので、凛香の耳に顔を近づけ、耳元に囁くように言ってあげることにした。
「トイレならリビング出て左に曲がった奥ですよ」
「っ! なっ、何を勘違いしているのですかあなたは! お花摘みな訳がないでしょう!」
お花摘みがトイレの隠語だと知ったのは、執事のバイトをした時、最初は庭に行くのかとついていこうとして怒られたものだ。
「トイレじゃないならどうしたんですか?」
優花の質問に、凛香はぼそっと答えた。
「その……わたくしもやってみても良いかしら?」
「やってみてもって……このゲームをですか?」
「……ええ」
どうやら凛香はここまでずっとゲームを見ているだけだったので、自分もやりたくなってきてしまったらしい。
「まあ楓が落ちたんで枠は空いてますから、大丈夫ですよ。ポイントと所持金は今残っている人たちの平均ってことにしましょうか」
今更初期値でゲームに参加しても勝負にならないので、優花がそう提案すると、何故か楓が焦ったように優花を制止してきた。
「っ! 待ってください! 灰島先輩! それはいけませんよ!」
「えっ? なんでだ? 枠は空いたんだから良いんじゃないか?」
真央や他のメンバーに目で問い掛けてみると、全員特に異論は無さそうだった。
「くっ! ここに来てイレギュラー? それじゃあ、あの人の指示通りにならないじゃない……!」
「ん? 楓今何か言ったか?」
ぶつぶつと何事かをつぶやく楓に聞き返すと、楓が優花を睨み据えてきた。
その視線の意味を察するのは簡単だった。
『ばらしますよ。良いんですか?』
ゲームをしていて忘れかけていたが、そう言えば優花は楓に弱みを握られたままだったことを思い出し、優花は咳払いをしてから凛香の方を向く。
「そうですね。それじゃあ俺の代わりに凛香さんがルーレットを回すっていうのはどうですか?」
このゲーム、 所持金やポイントの管理などはあるものの、基本的にプレイヤーがやることはルーレットを回し、コマを動かすだけだ。勝敗は優花のものになるが、凛香はそれで満足らしく、嬉しそうに微笑むと、凛香の笑顔を見たことがなかったらしい深雪が、目を丸くして驚いていた。
これなら問題ないだろうと、ちらりと楓を見ると、楓は苦々しい顔にはなっていたものの、口は挟んでこなかった。どうやら秘密はばらされずに済みそうだ。
「それでは回しますわ!」
意気揚々と凛香が手を伸ばしルーレットを回すと……出た結果は『突然の別れ、カップル状態を解消する』だった。
「カップル解消とかもあるのか……」
これでゲーム内の優花は完全に竜二を財布にして捨てた悪女になってしまったわけだ。
「虚空院の姉御……容赦ないっすね……」
「わっ、わたくしのせいですの!」
ぎゃーぎゃーと言い争う竜二と凛香をよそに、優花はマップの先を見た。
残り少ない高校マップにはもうカップル成立マスは無い、基本的にこのゲームカップル状態じゃなければろくに恋愛ポイントが増えず、ゲームに勝てないので、優花が勝利するためには、大学マップの最初の方にあるカップル成立マスに止まるしかなくなった。
優花の次は深雪の番で、再び所持金を増加、所持金は圧倒的に多いものの、恋愛ポイントはいまいちな深雪とカップル成立させ、竜二の時のように深雪の所持金を使い込みまくればもしかしたら勝てるかもしれないなと思っていると、いよいよ最後の大学マップに全員が到着した。
「よし! 俺様の番だ! 大学マップは金マスが多いからな! ここから俺様が大逆転を……」
翡翠がルーレットを回した結果止まったのは……『大学デビュー失敗恋愛ポイントマイナス500点』というとんでもないマスだった。
「……奥真はこれで脱落だな」
深雪の無情な言葉に、翡翠は魂が抜けて白くなってしまった。
いや、ショック受けすぎだろ……。
翡翠の次の真央は、無事恋愛ポイント大幅マイナスマスは回避し、また少しポイントを伸ばした。
「うしっ! おれの番っすね! おれはカップル成立マス狙った方が良さそうっすね」
「……りゅう……狙ってどうにかなるものじゃ……ないと思うよ」
竜二が思いっきりルーレットを回し、淀がぼそっと言うとルーレットが止まった。
「……奥間先輩と同じマスっすね」
「……りゅうも……これでリタイア」
ごっそり残っていた恋愛ポイントを削られて、竜二も脱落。残っているのは優花と真央、そして深雪だけになった。
「ここから兄貴が勝つには生徒会長とカップルになった方が良さそうっすよ」
「……だな」
前の番で竜二とのカップルを解消しているので、今後の展開を考えれば深雪とのカップルを成立させた方が良いのだが……。
「普通に超えましたね」
「……みたいだな」
凛香がルーレットを回すと、惜しいところでカップル成立マスを回避し、一個先のマスまで行ってしまった。
「わたくしは悪くありませんわよ!」
上手くカップル成立マスに止まれなかった凛香が唇をとがらせたが、優花の駒が止まったマスはなんと他のプレイヤーから所持金を奪い取るマス。
「えーっと……『一番お金を持っているプレイヤーの所持金の九割を奪う』か」
「なん……だと……」
所持金でトップを走っていた深雪から所持金をごっそりと奪ったことがわかると、凛香はふふんと胸を張り、高笑いをし始めた。
「おーほっほっほっ! さすがはわたくしですわね!」
「九割って……バランスひどくないか?」
「そうっすね、でも後半そんなマスばっかりっすよ」
竜二に言われて見てみれば、確かにプラスもマイナスも今までの比じゃないレベルになっていた。『恋愛ポイントプラス10000点』とか、『所持金マイナス10000円』とかが平気で並んでいる。
今までのゲームプレイがばからしくなるレベルの変化だ。
「どう見てもクソゲーだな」
「そっすね」
この中でたぶん唯一趣味でゲームをする竜二と意見が一致すると、楓が声を荒げた。
「ちょっと! 楓が持ってきたゲームをディスるのはやめてくださいよ! ここから面白くなるんです!」
「どう見てもここからつまらなくなるだろ」
「おれも兄貴と同意見っす」
もうやめても良いんじゃね? と思いながらゲーム批判をしていると、真央が楓を擁護した。
「ゆうかくんも、竜二くんもそんなこと言わないで、あと少しだから頑張ろ?」
真央に言われて優花も竜二もクソゲーと言うのをやめると、楓も落ち着き、深雪の番から再開。
その後の展開は……控えめに言ってひどかった。
真央はひたすら恋愛ポイントを稼ぎまくり、一人だけ恋愛ポイントが十万点台を突破。深雪も恋愛ポイントや所持金増加マスに止まっているのだが、優花――――凛香がそれを根こそぎ横から奪っていた。
「……虚空院の姉御がルーレットを回すようになってからずっと似たようなマスに止まってるっすね」
「言うな竜二……凛香さん気にしてるみたいだから……」
凛香に聞こえないようにこっそり言ったが、ばっちり聞こえていたらしい、凛香に睨まれ優花も竜二もすぐに口を閉じた。
ゲーム的には圧倒的に恋愛ポイントこそ高いものの、所持金はそれほど多くない真央に対し、優花は真央よりは低いがそこそこ高い恋愛ポイントに深雪から奪った圧倒的な所持金。深雪は優花に絞り尽された結果……。
「……む。『恋愛ポイントマイナス500点』か、自分も終わりだな」
ついに深雪もゲームオーバーになってしまった。
「これで真央もカップル解消だな、割と接戦で良い感じなんじゃないか?」
「あはは、そうだね」




