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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい おまけ2 不藤優花はくじが怖い

 優花以外にお客さんがいない、ひっそりとした店でディスミー君巨大ぬいぐるみを見つけた優花だったが、それは一回七百円のくじの景品だった。

 

 手に入れるためにはくじを引いて当てるしかない。

 

 一回目にペンが出たわけだけど……。


 今更ながらくじの内容を確認すると、A賞が優香が欲しいディスミー君のぬいぐるみ。B賞が手に乗る程度の小さいぬいぐるみで、C賞がグラス、D賞がポーチで、E賞が手帳、そして一番下のF賞がペンだった。


 もうやめておくべきだと言う冷静な自分もいるにはいたが、あと一回やれば当たるかもと思ってしまう自分に負けてもう一回やった結果――――B賞の小さいぬいぐるみだった。


「おめでとうございます!」


 ぱちぱちと大げさに店員さんに拍手され頭を掻く。


 うーん……もうこれでいいかなー。


 少し、いや、かなり悩んだものの、やっぱりA賞のぬいぐるみが欲しかった優花はくじを続けることにした。B賞が出たのなら、A賞だって意外にすぐ出るかもしれない。


 もう一回やってみると今度はまたF賞。少し柄の違うペンをもらい、もう一度やると今度はE賞の手帳だった。


 一回七百円なので、既に三千円近い額が財布から出ていってしまったわけだが、当たったのは手帳が一個にペンが二個、小さいぬいぐるみが一個。


 ど、どうする? このままやっても良いのか? ここでやめるべきじゃないか?


 今ならまだB賞が出ているので、勝っていると言えなくもない。

 ごくりと唾を飲み込み、財布を確認すると残りは一万円と少しあり、くじを引けるのはあと十六回。


「ふう……よし! あと五回お願いします!」

「はい! ありがとうございます!」


 あと五回と回数を決めてやった結果――――F賞が二個、E賞が二個、そしてC賞が一個だった。


 これでペンは四本、手帳は三冊になってしまい、全ての柄が揃ってしまった。当たりは今のところ小さいぬいぐるみとグラス。もはや勝ったとは言えない結果になりつつあったが……。


 も、もう一回だけ……。


 結局あきらめきれず、くじを続行。


 もう一回やるとD賞のポーチだった。


「A賞以外全部出たな……」


 まだ違う柄なんかはあるが、それもグラスが一種とポーチが一種だけ。

 ここからの戦いはさらに悲惨なものになるとわかりながらも、優花はA賞の大きいぬいぐるみをあきらめられなかった。


 全ては今日という日を最高の思い出にするために。


 優花はもう五回追加でくじを引くと、C賞とD賞が出た後F賞が二回、E賞が一回。B賞の小さいぬいぐるみは一種類だけなので、ついにA賞の巨大ぬいぐるみ以外の全てをコンプリートしてしまった。


「……ふう」


 大きく息を吐くと共に一度冷静になろうとする。


 一回落ち着け……残りの賞品の数もそれほど多くない。ここでやめたらそれこそ大負けじゃないのか?


 優花が残りくじができる回数はあと五回。あと五回でA賞が出せるかもう一度考えて出した結論は……。


「……あと五回お願いします」

「は、はい!」


 優花の覚悟が決まった顔に店員さんがびびっていた。

 ラスト五回の内の一個目はF賞。既に七本目となるペンを見ても優花に動揺は無い。


 二個目と三個目は両方ともE賞の手帳。


 ……あー。


 残り二回、優花の心は既に折れかけていた。


 なんとか踏ん張って次のくじをめくると、またE賞。三回連続のE賞だとわかった瞬間、優花の心は完全に折れた。


 や、やらなきゃ良かった……。


 もはや泣きそう、いや、ちょっと涙が出ている優花に店員さんが、困ったように笑っていた。


 最後の一回、既に心が折れていた優花は祈ったりすることもせずに、ぺらっとめくると――――。


「お、おめでとうございます!」


 へ?


 大げさに拍手してくれる店員さんの反応がよくわからず、優花は最後のくじを自分で確認すると、そこには『A』の文字。


 ……A賞? ほんとに?


 涙目で店員さんを見ると、店員さんはほっとしたような表情をしていた。



 A賞以外の賞品を大きめのビニール袋に入れてもらい、無理やり鞄に詰め込む。かさばるのはグラスと小さいぬいぐるみくらいなので、鞄が少し膨らむぐらいで済んでいた。


 無事A賞をゲットしたものの、問題はA賞をどうやって持って帰るかだ。あまりに大きすぎるので手が塞がるし、帰りも色々と邪魔になりそうだった。


「送料はかかりますが発送もできますが、いかがいたしますか?」

「あー……いや、大丈夫です。なんとか持って帰りますんで。長い時間対応してくれてありがとうございました」

「いえいえ、またお越しくださいね」


 相変わらずの完璧な営業スマイルで笑う店員さんに、頭を下げると優花はA賞の巨大ディスミー君ぬいぐるみを抱っこして店を出た。


「……持ちづらい」


 ぬいぐるみが大きすぎて視界が塞がり、前もよく見えない。仕方がないのでくるりとディスミー君のぬいぐるみを背中に回し、ディスミー君の手を首に回すとちょうどすっぽりはまり、手を離しても大丈夫になった。


 これなら大丈夫だなと思ってそのままで、集合場所に急ぐと、道行く人達の注目を浴び、中にはくすくす笑っている人までいた。


 なんだ? 男が一人ででかいぬいぐるみを背負ってるから可笑しいのかな?


 何で笑われるのかわからず、気にしないようにしてそのまま歩くと、不意にガラスに自分の姿が移った。


「……ああ……そういうことね」


 ガラスに映っていたのは……ディスミー君に頭からかぶりつかれているように見える優花の姿だった。


 財布も空になったし、なんだかすごく疲れたけど……手に入って良かったな……。


 戦利品を担ぐ自分の姿を見て、しみじみとそう思うと共に、もう二度とくじはやらないと優花は心に誓ったのだった。

少し短めのおまけその2でした!


読んでいただきありがとうございました。

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