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りふぁいんど  作者: 谺響
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第一話


May this world be beautiful.

And I hope you'll see, too.

薄暗い森の中をケイは全力で駆けてゆく。

息を吐いているのか吸っているのか、もはやどちらがどちらなのか分からない。

ケイの小さな身体が藪を一つ抜ける度に、汚れたシャツが更にボロボロになった。さっきから足の裏が痛むのは、どこかで石か小枝を踏んでしまったのだろう。

でもそんなことを気にしている余裕は、今のケイには一切なかった。木陰から向けられる視線が、今は気配を殺すこともなく、自分に突き立てられているのを感じる。

森に踏み込んだのは、あまりにも軽率だった。多少の躊躇いはあったものの、辿ってきた道が奥へと続いていたのでそのまま進んでしまった結果がこれだ。その道らしきものもとうに無くなってしまい、今はただひたすら、藪の薄い方へ、走りやすそうな方へと必死に足を進めている。自分がほとんど直感的な行動をとっていることに気が付くと今度は、既に追跡者の周到な罠に絡め取られているのでは?という不安に襲われた。頭を振って疑念を追い払う。

何で自分がこんな目に?と思っても、ケイはまだ、諦観という言葉を知らない。

木立が伸ばす手が何度もケイの頬を撫でたが、その頬を濡らす雫は増えるばかりだ。

姿を見せない追跡者の包囲網が着実に狭まりつつあると、ケイは感じていた。自分の思い込みだと思いたくとも、追跡者の息遣いさえ感じられる気がする。生温かく、不快な空気が肌の上を這ってゆくのを感じるたびに、そこから自分の肌が一斉に逃げようと縮み上がってしまう。それでも身は竦むことなく、足はどうにかまだ動いた。

追い付かれたら、捕まったらどうなるのかなど、ケイは全く考えていなかった。そもそも何に追われているのか、本当に追われているのかも分からない。追われる理由に思考を回すこともなかった。

ただただ恐怖だけがケイを突き動かしていた。純粋な生存本能よりももっと深い何かが、ケイの行動の根源にあった。ケイの魂に染み付いてしまった、ケイ自身を構成する一要素として確立している、何かだ。

暗い森の中で視線を感じた気がした。

害意を向けられている気がした。

気が付いたら走りだしていた。

それ以上のものはなかった。焦燥感の理由さえ不確かなまま、ケイは何かから逃れようと必死にもがいていたのだった。

そして逃走劇は唐突に終幕を迎える。

突然、溢れるばかりの光に包まれてケイは驚き、足を止めた。一瞬の眩暈のあとで急激に開けた視界に気付く。木立が途切れている。森を抜けたのだ。

だがそれでもまだケイには安堵することが許されてはいない。森を抜けたその場所は切り立った崖の上だった。

猫の額ほどの空き地から下を覗きこんで、再び眩暈を覚える。が、直ぐに後ろを振り返る。明るい陽の下でも変わらず、木陰からの視線が感じられた。


逃げ場がないーー


ケイがそう思うのと同時だった。

ふわりと身体が浮かんだような。

あるいは力が抜けて身体が崩れ落ちたのか。

急に大きく揺れて沈み込む景色にケイは一瞬戸惑うが、直ぐに理解した。自分が立っていた崖が崩れたのだ。


「うわぁぁぁーっ!?」


反射的に手を伸ばしても、掴めるものなど何もない。

叫び声と共にケイは崖の下へとまっ逆さまに落ちていった。

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