20.国家特別人物懇親会②
第2エラルダの国立宿泊所のホールで、懇親会が始まった。
第2の代表のリオが、始まりの挨拶をした。
リオは40歳前後で、身長170センチ程の濃い茶髪の男だ。
第2エラルダの国家特別人物でもある。
そのため、第2エラルダの出席者は、リオと金髪美女の1番目の奥様だけである。
リオは政治にとても優れた人、らしい。
「懇親会って、立食パーティーなんですね」
ミコトがアレンに言うと、アレンは苦笑した。
「俺のようなおじいさんには、立食なんて苦痛だよ。食事はやはり座って食べたいし、持ってきて欲しいよ」
きっと、交流しやすいように立食なのだろうが、アレンの言う事はもっともである。
「アレンさん、壁際に椅子があるから、座っていて下さい! 私、お料理はこびますよ」
すっかり孫気分のミコトが張り切ると、アレンは首を横に振った。
「そうもいかないんだよ」
「お久しぶりですね、アレンさん、ロイさん。そちらが婚約者の方ですか?」
目の前に先程挨拶をしたリオとその1番目の奥様が立っている。
「お久しぶりです、リオさん。はい。ロイの婚約者のミコトです」
ロイとミコトは会釈をする。
アレンには、極力喋るなと言われている。
そうだった。
この懇親会はアレン頼みなのだ。
「とても可愛らしい方ですね。随分お若いようですがおいくつですか?」
「15歳になったばかりです。いや、ミコトが15歳になるまで待ちましてなぁ」
アレンの嘘がすごい。
「そうなんですね。ミコトさんを待つほどミコトさんは優れている、ということでしょうか?」
リオは完全にミコトを疑っているのだろう。
質問もミコトを見る目も疑いの色を隠していない。
「ミコトは第1エラルダ国の唯一の女性騎士団員なんですよ。実力は保証します」
アレンも負けていない。
真実を交えると、婚約者役も真実味が出る。
「ああ、やはり、聖女様の護衛をしている方ですね。女性の護衛とは珍しいと思っていたのですよ。でも、女性の方が良いかもしれませんね。聖女様はとてもお綺麗ですので……」
含みのある言い方をしてくる。
ミコトが身構えると、突然、女性の大きな声がホールに響いた。
「でも、ロイさんのお相手が脳筋女なんて、いけないと思いますわ!」
ホールにいたほぼ全員が、声の主を見る。
真紅の髪をアップにした、赤いドレスの女性がこちらに向かって歩いて来た。
ロイと同じくらいの年齢だろうか。
キツイ目つきをしているが、なかなかの美人である。
「第3の国家特別人物の奥様だ」
アレンはロイとミコトに小声で伝える。
第3エラルダの国家特別人物は、古代魔法研究者だ。
その人の1番目の奥様が、ロイに色目たっぷりで近づいてくる。
「ロイさん、お久しぶりです。婚約者をお連れするときいておりましたので、私とても悲しかったんですよ?」
「はあ……」
ロイは気のない返事をする。
ロイのことだから、この人のことを覚えていないのだろう。
「でも、まだご結婚はされていませんよね? ロイさんには、こんな冴えない女なんて似合いませんわ。私とぜひ一緒になりませんか?」
この人、何を言っているのだろう。
第3エラルダの国家特別人物の奥様なのに、正気だろうか。
「ご冗談を、ライラさん。サンドさんが悲しまれますよ」
アレンは2人の間に入る。
ライラは、わざとらしくハァーと溜息をついて、ホールの隅にいる男を指差した。
「ご存知の通り、旦那様は古代魔法以外興味ありませんの。私のことも、自由に行動して良いって言われていますわ」
確かに、男は本に目を落としたまま、こちらを一度も見ない。
それでも、自由といっても限度がある。
これでは不倫だ。
「そもそもあなたね、その程度の容姿でロイさんに釣り合うとでも思っているの?」
ライラはミコトを指差した。
ああ、この感じ、久しぶりだ。
異世界に転移してから、周りにいた人たちがいい人ばかりだったから、忘れていた。
この世界にも、自分勝手で理不尽な人がいるのだ。
ミコトがライラを睨むと、突然、隣にいたロイがミコトをギュッと抱きしめた。
「俺はミコトが一番可愛いので、あなたには興味ありません」
「なっ!?」
ライラは顔を真っ赤にして、ミコトを睨んだが、ミコトはそれどころではなかった。
ロイの胸板の厚さとか、腕の筋肉とか、ロイの匂いとか、一番可愛いと言われたこととか、全てに、思考停止状態だった。
「ありえませんわね!」
ライラは、踵を返して去っていく。
アレンは胸を撫で下ろして、ロイを見た。
ロイの事は幼少期からよく知っている。
嘘やお世辞を言ったり、ましてや演技が出来る男ではない。
「ロイ、お前……」
「え?」
「あ、いや、ほら、ミコトが苦しそうだ」
ロイの腕の中のミコトがぐったりしている。
「ミコトごめん! 大丈夫?」
「う、うん。何とか……?」
自分の心臓のバクバクとした音がものすごいスピードで聞こえる。
「ライラさんにも、困ったものですね」
リオは溜息混じりに言う。
「はは、6年前はセタを狙ってましたかな」
アレンも苦笑する。
どうやらライラは、かなりの問題奥様のようだ。
「あんた、初めての人だよね?」
先程までホールの隅で本を読んでいた、第3エラルダの国家特別人物のサンドが、いつの間にか近くに来て、ミコトを指差している。
身長はミコトと同じくらいで黒髪の30歳くらいの猫背の男だ。
それにしても、何の挨拶もなしに、夫婦揃ってかなり失礼である。
「サンドさん、お久しぶりですね。はい。ロイの婚約者のミコト……」
「名前は興味ないからいい」
サンドはアレンの挨拶と紹介を途中でぶった斬った。
第3には、失礼な人しかいないようだ。
「一応初めての人には、検査してもらってるんだ。あんた、コレに触って」
ミコトの前に水晶玉のような透明の球体を差し出して来る。
「それは、古代魔法の適性を図る道具ですね。サンドさん、研究の方はどうですか?」
リオがサンドに話しかけたが、サンドは完全に無視してミコトにチッと舌打ちをした。
「早くしてくれない? 言葉わかんないの?」
ミコトの中の何かが、プチッと切れた感覚がした。
ミコトは水晶玉をそっと触りつつ、サンドを素早く軽く押した。
他の人から見ると、ミコトは水晶玉を触っただけのように見えるはずだ。
サンドはその場にドッと尻もちをついた。
「な、なんだ、お前っ?」
誰から見ても、勝手に尻もちついただけだ。
周りから、クスクスとした笑い声が聞こえる。
と、同時に、水晶玉がパァッと光り輝いた。
「ま、まさか……?」
サンドは尻もちをついたまま、水晶玉を凝視している。
「こ、古代魔法の適性が、ある!?」
サンドの声に、ホールにいた全員がざわついた。
ミコトは、古代魔法は神様が不要だと判断して消してしまったと思っている。
もしかして、異世界人だから、何か反応が出てしまったのだろうか。
「おい! お前、今すぐ一緒に来い! すぐ第3に帰国するぞ!」
サンドがミコトに怒鳴りつける。
古代魔法なんて、冗談じゃない。
この世界を変える事は禁止されているのだ。
ミコトはロイにしがみついて首を横に振った。
「嫌です!」
「ミコトはロイの婚約者です! 連れて行くのは……」
アレンはミコトの前に出る。
「どうせ、嘘なんだろう!?」
サンドはアレンを見てニヤッと笑った。
「皆言ってるよ。第1は国家特別人物の結婚に反抗的だってね。その女も今回だけの婚約者役だろ?」
「ちが……」
「だったら、古代魔法の研究の方が重要なんだよ! 全エラルダの悲願なんだ、古代魔法の復活は!」
古代魔法とはそこまでなのか。
サンドはアレンをどかし、ミコトの腕を掴もうとしたので、ミコトは思いっきり振り払った。
手を振り払われたサンドは、ワナワナと震えた。
「な、何なんだ! おい、そこの衛兵、この女を捕まえて連行しろ! 今すぐ第3に帰る。実験したい事が山ほどあるからな! 全く趣味じゃないが、便宜上、私と結婚もしてもらうからな!」
「結婚っ!?」
こんな奴と結婚なんて、死んでもお断りだ。
ホールにいた警備の騎士たちが困惑しながらも集まってきた。
と、同時に、何か、重苦しい空気のような、そんな風が吹いたと思うと、周りにいた全員が、その場にドッと倒れた。
「えっ!?」
サンドはすでに泡を吹いて失神している。
他の人たちも苦しそうに、ホールの床に倒れ込んでいる。
「ロイ! やめろ! 死人が出る!」
アレンはロイの腕を必死に引っ張る。
これ、ロイの力なのだろうか。
一瞬で、ホールにいた全員を倒してしまった。
こんなの、もう魔法だ。
アレンの言葉が届いたのか、倒れ込んでいた全員が、はぁはぁと息を吐いて起き上がり出した。
ロイは静かに、しかし、怒りを露わにして、口を開く。
「俺はミコトと結婚する。ミコトに手出ししたら、許さない!」
リオは息を整えながら、「わかりました」と言った。
「ですが、アレンさん、ロイさん。その結婚式には、ぜひ、出席させていただきたく、よろしいでしょうか?」
リオはアレンとロイを順番に見た。
まだ疑っているのだろう。
「もちろんです。元々1か月後に挙式予定でしたので」
アレンはニッコリ笑って了承する。
「もういいですか? ミコトが疲れているようなので、休ませたいです」
ロイは、ミコトをひょいと抱えると、ホールの出口に向かって歩き出した。
「ロイ、待て、あ、私も失礼しますね?」
アレンも逃げるようにロイを追いかけてホールを出たのだった。




