19.国家特別人物懇親会①
国家特別人物懇親会が第2エラルダ国で行われる日、ミコトは朝から準備に追われていた。
いや、正しくは、マリーが準備に追われていた。
ミコトはマリーに白いふわふわとしたワンピースを着せられ、足元はヒール低めの赤いパンプスを履かされ、いつもポニーテールに括っている髪は下ろしてキラキラした石が散りばめられたカチューシャをつけられて、少しお化粧までされた。
「ミコちゃん、可愛い!! アイツにもったいない!」
セイラはミコトの周りをくるくると回り、嬉しそうである。
ミコトは鏡を覗き込み、馬子にも衣装ってこういう時に使う言葉だったかと感心していた。
というのも、琴子に似ているからだ。
「ママに似てる……かも」
「うん! 琴ママにそっくりだよ!」
美人の琴子に似なかったと諦めていたが、似ているところもあったようだ。
「マリー、ありがとう! こんなに化けさせてくれて!」
「化けさせてって、ミコトは元々可愛いよ?」
マリー、いいお姉さんだなぁ。
「でも、帯剣していないと、なんか落ち着かないな。隠し武器とか買っておけば良かった」
マリーは、ガクッとなる。
「隠し武器! 女暗殺者みたいなの、いいね! 太ももにナイフしのばせようよ、ミコちゃん」
セイラは、日本のアニメや海外の映画を思い出した様で、ノリノリだ。
「いいね、それ。せっかくスカートだし」
「ミコちゃんは胸おっきいから、胸の谷間にナイフしのばせて、油断させたところで、アイツを殺ろう!」
セイラの中で、隠し武器でロイを殺すことになってしまっている。
「いや、胸の谷間にはさすがに入らないよ。かなり小さいナイフじゃないと……」
「2人とも! 物騒な話で盛り上がらないの!」
マリーに叱られて、ミコトとセイラはしゅんとなった。
「そんなに武器が欲しいなら、これでいいじゃない」
マリーはロイから貰った短剣を出した。
「帯剣していいの?」
「懇親会に帯剣はダメだけど、コレはアクセサリーとして認められているの」
あ、そうか。
プロポーズ用だからか。
マリーはミコトの腰にベルトをして短剣をつけてくれた。
ベルトでワンピースのふわふわ感が抑えられ、少し痩せて見える。
「うん! 痩せて見えるし、帯剣で落ち着くし、コレで行くよ。ありがとう、マリー」
「どういたしまして」
セイラは短剣が気に入らないようで、「隠しナイフの方がいいのに」と言っている。
「じゃあ、お土産買って来るね。行ってきまーす!」
ミコトは上機嫌で聖女の部屋を出た。
おしゃれって結構楽しいなと思っていた。
馬車の停留所に、今日乗る予定の公務用貸切馬車が停めてある。
アレンがすでに来ているようだ。
「アレンさん!」
ミコトが手を振ると、アレンは驚いた顔をした。
「ミコト! すごく可愛いじゃないか!」
「えへへ。ロイの婚約者に見えるように、マリーが頑張ってくれたんです」
「いやいや、ロイにはもったいないよ」
さすがマリーのお祖父様、お世辞が上手である。
アレンはふと、ミコトの腰の短剣に目を落とす。
「それは……」
「おはようございまーす」
後ろから声がして振り向くと、いつもの騎士服を着たロイが歩いて来る。
髪も髭も整え、安定のイケメンである。
ミコトがいくらおしゃれしても、隣に立つには無理な気がして、急に婚約者役に自信がなくなってきた。
「おわっ。ミコト、可愛いね」
ロイも驚いて可愛いと言ってくれたが、何だか心から喜べない。
「マリーがやってくれて……。ロイもかっこいいよ」
ロイは、ふっと笑う。
「ミコトはお世辞がうまいな」
お世辞とは、一体……。
「ミコト、その短剣はマリーが用意したのか? ちょっと高価な物だろう? アイツ聖女の国費を……」
アレンはぶつぶつと文句を言って短剣をじろじろと見る。
「これは、違います。マリーはお金を無駄に使ったりしません」
「アレンさん、俺が買ったんですよ、ミコトに」
ロイは、にこやかにアレンに言う。
「は? 今日の演技のために自腹切ったのか?」
「え? 演技ってなんでしたっけ」
会話が噛み合っていない。
アレンはこの短剣が婚約者のふりをする小道具だと思っているし、ロイはそもそも今日の趣旨を忘れてしまっている。
「あの、アレンさん。これに深い意味は全くなくて、お詫び? として貰ったんです。私も勘違いはしてませんので」
ミコトの助言に、アレンは深く息をついた。
「ロイの行動を深く考えても仕方ないことを思い出したよ。さ、乗ろうか」
第2エラルダまでは馬車で5時間かかる。
こんな時は、地球の車や電車をありがたく感じてしまう。
第2エラルダ国に着いた時は、午後2時だった。
第2エラルダは、第1エラルダと隣接しているためか、国の雰囲気はよく似ている。
政務棟や教会などがあり、懇親会は国立宿泊所のホールで行われる。
懇親会後はそのまま宿泊所に泊まり、明日の朝、帰路につく。
ミコトは第2エラルダ国の首都である町の観光がしたいので、お昼発の乗合馬車で帰ろうと思っている。
今日の懇親会は午後5時からなので、十分余裕ではあるが……。
「あだだだ……。腰が、尻が、死ぬ……」
馬車で5時間はミコトも辛かった。
60歳越えのアレンには相当だろう。
「お部屋で腰もみますよ。私、結構うまいんです」
「うう、ミコトはやさしいなぁ」
すっかりおじいちゃんと孫である。
「俺がもみましょうか?」
ロイがアレンに提案すると、アレンは声を荒げた。
「お前のバカ力でもんだら、死んでしまうわ! 1人だけ平気そうな顔しやがって、あだだだ、痛い……」
確かにロイは、けろっとしている。
「ロイは平気なの?」
「うん、俺、あんまり疲れないんだ」
アレンは、「なにが、あんまりだ!」と怒り出す。
「ミコト、コイツは1週間くらい寝ないで戦闘出来るんだよ!」
「本当に? すごい羨ましい! 私も寝ないで戦闘したい!」
寝ないで冒険者やったら、かなり儲かるだろう。
「そういう反応は初めてだなぁ」
ロイは楽しそうに笑った。




