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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケ転移、狙われ少女の自立と結婚〜  作者: 三多来定


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19.新騎士団長

 騎士団内の騎士団長室。


 先程から、前騎士団長のカイルと騎士団長に就任したばかりのロイが、引き継ぎの業務をしているのだが、実際はただの言い合いになっている。


「だから、内容を確認して、問題がなければこっちの承認の箱に入れる。問題があったら、差し戻しの紙を貼ってこっちの箱に…って、お前きいてるのか!?」


「…箱が、どっち?」


「箱は2個しかないだろう!?」


 ロイは、ミコトの想像を遥かに超越するほどの、ポンコツだった。


 マリーに自分で判断するといい、と言われたが、引き継ぎが始まってからまだ数分しか経っていないのに、判断がついてしまいそうだ。


 ふと、情けない顔のロイと目が合う。

 

 「ミコト、助けて…」


 何を助ければいいのだろうか。

 むしろカイルを助けたい。


 カイルは溜息をつく。


「ミコトが問題があるかないかを判断するから、お前は頷くだけでいいから、な?」


 それではミコトが騎士団長だ。


「それぐらいなら、出来るかも。箱にも入れて欲しい」


 ロイのいる意味が全くない…。




 コンコンとドアがノックされ、アレンが入ってくる。


「どうだ? 引き継ぎは?」


 どうもこうもない。


 ロイは目を逸らし、カイルは溜息をつく。


「ミ、ミコトはどうだ? 困った事があったら、何でも言ってくれ」


 アレンはミコトに引きつった笑顔を向ける。


「あの、アレンさん。ロイはこの仕事、向いてないです」


 アレンはその場にガクッと膝をつく。


「それだけは、それだけは言わないでくれ…」


 何でも言ってくれって言ったのに。


 ミコトはロイの事を批判したい訳ではない。


 人間誰しも、向き不向きがあると言いたいだけなのだ。


 ミコトだって、料理が壊滅的に出来ないのでよく分かる。


 ロイには北の大地みたいな職場が合っているのだと思う。


 再びコンコンとドアがノックされ、今度はリントが入って来る。


「失礼します…って、何? この状態…」


 アレンが跪いてるし、ロイとカイルは下を向いている。


 ミコトは仕方なくリントが持ってきた書類を受け取る。

 殆ど終わっていないのに、書類が増えてしまった。


「ロイさん、ミコト借りてもいいですか? 薬品を各部門へ配布する伝票を…」

「ダメだから。ミコトがいなかったら、この書類の判断、誰がするんだよ?」

 

 ロイはリントが言い終わる前に却下する。


「いや、ロイさんが判断してくださいよ」

 

 リントの言う事がもっともである。


「あの、すまん。ちょっと重要な話があるんだが、いいか?」


 アレンは立ち上がって、ロイとリントの会話に入った。


「リントとミコトにも関係あるから、聞いてくれ」




「今年の国家特別人物懇親会に、ロイの婚約者を連れて行くことになった」


 アレンの言葉に、騎士団長室がしんと静まり返る。


「あれ? 俺、婚約者いましたっけ?」

「いないから、困ってるんだよ!」


 アレンはロイを睨んだ。




 国家特別人物懇親会。


 簡単に言うと、エラルダの国家特別人物同士で集まって、食事して話して親睦を深めよう、という会である。

 

 3年に1回行われるこの会は、国の代表、15歳以上の国家特別人物、その1番目の配偶者を連れて行く事が、暗黙の了解となっている。


 ちなみにロイは、北の大地勤務のため、前回は欠席している。


「ありましたね。そんな会」


 ロイは嫌そうに言う。


「さすがに今回は欠席出来ないので、ロイだけ連れていこうと思っていたのだが、まだ配偶者は見つからないのかと各国から言われてな。婚約者なら連れて行く義務がないから、婚約者はいるのですがと答えたところ、連れて行く流れになってしまい…」


 アレンはガックリと肩を落とす。


 つまり、適当な事を言って逃げようとしたら、退路を塞がれた感じになった…と。


 おそらく各国に婚約者自体嘘だとバレていたんだろうなぁ。


「マリーに婚約者役を頼んだら、断られて…」


 アレンはガタガタと震えている。


 マリー、どんな断り方したの!?


「そんな訳で、婚約者役をミコトにお願いしたいのだが…」


 アレンはチラッとミコトを見る。


「わ、私ですか?」

「ち、ちょっと待って! そんな訳でって、何でミコト…」


 ロイが椅子から立ち上がると、アレンはロイに黙っていろという仕草をした。


「今回の懇親会は、第2エラルダ国で行われる。1泊2日の日程にはなってしまうが、美味しいものが食べられるし、2日目は観光してくれていい。何より、これは公務なので、出張費と特別手当を支払おう」


「やります! ぜひ、やらせてくださいっ!」


 ミコトの目が輝いた。

 お金は本当に大事である。


「ミコト、いいの?」


 ロイは心配そうにミコトを見る。


「ロイ、私、婚約者役頑張るね!」


 嬉しそうなミコトを見て、ロイはふぅっと息をついた。


「ロイ?」


「いや、さっき向いてないって言われたから、俺と仕事するの嫌になったかと思って…」


 ロイの事を批判する気は全くなかったのに、誤解させてしまった。


「違うの! そういう意味じゃなくて、ロイは北の大地のような剣を振るう場所の方が向いてるって意味で…」

「もう、北の大地には、行かせられないけどな」


 アレンの言葉に、カイルもうんうんと頷いている。


 ロイは苦笑した。


「確かに、北の大地は向いてたし、楽しかったよ」


 ミコトは冒険者の掲示板に「楽しい職場」とあったのを思い出した。


「ロイも酒場とか娼館とか行ったの?」


 再び、騎士団長室がしんとなる。


「さ、酒場は、行ったけど、えーと…」


 ロイは、しどろもどろになる。


「ちょっと、ミコト!」


 リントはミコトの袖を引っ張った。


「リント、ミコトに仕事があるんだったな? 連れて行っていいぞ(そしてちゃんと教えておいてくれ)」


 アレンはリントに目配せをする。


「はい。行くよ、ミコト」


 この雰囲気と皆の態度で、やらかしてしまったことは、さすがに分かるミコトであった。




「ごめん、リント」


 リントの後ろを歩きながら、ミコトはとりあえず謝った。


「俺に謝られても…。何が悪かったって思うのさ」


「多分、娼館とか言った事だと、思う…」


 リントは振り向かず歩いていき、倉庫の扉を開けて、ミコトに入るように促した。


 倉庫には、先日納品された傷薬を始め、いろいろな物が置かれている。


 リントも倉庫に入り、扉を閉める。


「娼館っていうのは、男性の客に、お店の女性が奉仕するところ。つまり…」


「……!!」


 説明を受けたミコトが真っ赤になって絶句しているのを見て、リントは溜息をついた。


「やっぱり知らなかったんだ?」

「…私、ロイに謝ってくる」


 リントはミコトの腕を掴んだ。


「謝られても困るから。それより、今後この話はしないこと」


 ミコトは渋々頷く。


 確かにこの話を蒸し返されても困るだろう。


「ここの薬品類、各部門に人数の割合で振り分けるから、その数量の伝票作ってくれる? 作業は他の団員でやるから。こういう計算は他の団員は分からないし、ミコトは得意でしょ」


 リントはミコトを褒めたのだろうけど、ミコトはこの計算が、日本の小学生なら誰でも出来ることを知っている。


 こんな誰でも出来ることで、いい気になって、ロイに向いてないと言うなんて、最低だ。


「ミコト?」

「なんでもない。わかった。すぐやるね。」


 リントは倉庫から出て行き、ミコトは作業に取り掛かった。




 ミコトとリントが騎士団長室から出て行き、椅子に座って下を向いたままのロイを見て、アレンとカイルは顔を見合わせた。


「ロイ、お前、ミコトに弱すぎじゃないか? 俺たちに取る態度とかなり違うが…」


 アレンはロイを覗き込む。


「オッサンたちには何言われても全然気にならないんだけど、ミコトに言われると、いろいろ、気になるというか…」

「いや、俺たちの言う事も気にしろよ」


 アレンは苦笑する。


「娼館の話は、ミコトは知らなかったんだと思うぞ? 男なら誰でも行くところだし、リントが上手く教えるだろうから、気にするな」


 カイルはロイの肩をバンと叩く。


「…ってないから…」


 アレンとカイルは、「は?」と言う。


「娼館には一度も行ってないから! そもそも、女の人苦手なんだよ」


 カイルは、「いやいやいや!」と言ってロイに詰め寄る。


「そんな訳ないだろ? お前15歳くらいから、結構いろんな女の子と付き合ってたじゃないか!」


 ロイは首をブンブンと横に振る。


「誘われたから、食事には行ったけど、みんな最後は俺といてもつまらなさそうで、それなのに離れていかないっていうか、仕方ないから全員に別れを切り出したら、泣かれたり、争い出したりして、俺といてもつまらないくせに、意味わからないでしょ。だから、もう、女の子はいいやってなって…」


 アレンとカイルは顔見合わせて、溜息をついた。


 まさか、ロイが女嫌いを拗らせていたとは知らなかった。


「ああ、それ、俺も覚えてますよ。騎士団にまで押しかけて来て、かなり修羅場でしたね」


 いつのまにか、リントが騎士団長室に戻ってきている。


「結局、皆、ロイさんの外見と国家特別人物の肩書が好きなだけなんですよ。嫁候補がなかなか見つからないのも、どうせそんな女性ばかりなんですよね?」


「うっ…」


 アレンとカイルは図星を指されてたじろいだ。


「俺、仕事はします。結婚しなくちゃいけないのなら、結婚もしますけど、1人だけにします。修羅場も嫌ですけど、……母のような人をつくりたくありません」


 ロイの珍しく真面目な顔に、アレンもカイルも黙る他なかった。

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