58 デルード先生
三日目、俺は復活した。
やっと顔を出した俺を見て、憮然とするデルード。
「見た目によらずひ弱な奴だ。仕方がないからこれからは、ゆっくり教えてやる」
サクラの司祭が、こっそりと俺に耳打ちする。
「ベルーダ様からお叱りを受けたのよ、デルṙṙドは。優しくしてあげなさいって」
ふーん、そうだったのか。もっと叱られればよかったのに。
隣で、サクラたちが羊皮紙にぺんを当てて、カリカリとひっかく音を立てている。
たまにコソコソとした話し声が聞こえるが、俺は緊張しながらデルードの声に耳を向け、集中した。
「まずは、この一行目を私が読む。その後に続いて君が読む。いいな」
「はい」
「第一章――」
「だいいっしょう――」
「命名規則」
「めいめいきそく……」
「魔法語は以下の三つの――」
「まほうごはいかのみっつの……」
と、こんな感じでデルードの後に続きながら、文字も一緒に見ながら少しずつ進んだ。
「ラデṙィア光の初級魔法」
「ラデア、光のしょきゅうまほう」
「ラデṙィア……だ!」
「らでるあ」
「フーッ、まあいい。字を読めるようになることが目的なんだ、だろ?」
「……はい」
声を出しながらの学びは、意外と疲れない。
「不思議だ……」
身体を使えば、俺の場合性に合っていると言うことなんだろう。
俺は、着々と文字を読めるように――いや、理解できるようになっていった。
一ヶ月もすると、一人でも内容が頭に入ってくるようになった。
一ページ目だけだけど。でも、このページが一番内容が濃い。
前半三ページは、魔法の体系をまとめた物で、あとの数百ページは、それを詳しく説明した部分らしいのだ。
魔法の成り立ちや、誰それが発見したとか、どうでもいい内容ばかり。
なら、これだけでよくね? なんて思ってしまう。
だが、やると決めたからには、文字を完璧に覚えて帰らねば。
折角サクラたちが俺のために写本してくれているのだから。
ベルーダは、俺に感謝しているという。
紙のこともそうだが、魔素の核をたくさん見つけてくれたから、だそうだ。
「ベルーダ様は来年の春の祭事には、二番目の位置に立てるそうよ。すごい出世だわ」
そうこうしているうちに、ここへ戻って三ヶ月が過ぎてしまった。
ヌアタラでは三年経ったことになる。
俺は段々焦り始めた。
そんな時、デルードが”紙切れ”を持ってきてくれた。
「これは、巻き舌が出来なくてもいい魔法言語だ。数は限られてはいるが、実用的なものばかりを集めておいた。これなら君にも威力が出せるのでは……と思ってな」
「あ、ありがとうデルード……さん」
意外と良い奴だった。今まで、心の中で嫌みを言って悪かった。
※
魔力操作:魔力を直接動かす基礎。
魔力視覚:魔力の流れ・属性・濃度を視る。
魔力流動化:魔力を液体のように柔らかくする。
魔力刃:魔力を刃状に形成。
風属性:天嵐招来
効果:天を裂く暴風と雷鳴が降り注ぎ、広範囲に嵐を発生させる。
※
結構すごい魔法も書かれている。
試してみたくなった。俺が目を輝かせるとデルードが、
「ここで試すのは危険だ、サンクチュアルでやって見せなさい」
俺たちは、早速サンクチュアルの一階層、砂漠の荒野へ向かった。
サクラたちは、微笑みながら俺たちを見送っていた。
サンクチュアルの一階層、砂漠の荒野はいつも通り広大だ。
照りつける太陽。
細かいさらさらの砂。どこまでもうねるように続く砂丘。
俺達は水もちゃんと持ってきている。
「デルード……さん。先生も水を持ってきたんですね。水出せるのに」
「フン、何も知らないとは哀れだ。この乾いた土地で水を出すのは魔素を大量に使う。あっと言う間に魔力切れに陥るのだ。水属性は、環境依存魔法だ」
へえ、そうだったんだ。
俺の場合――魔素が身体を循環する魔法というか、スキルしか使えないから、今まで魔力切れの経験がなかった。
「まるで自然の砂漠に感じるけど、ここも魔法の国からは隔絶された空間なのだろうな……」
「そういう説が有力だ。異空間だという学者もいる」
「ここまで来ればいいだろう。さっき渡した紙に書かれていた、魔力を動かす基礎からやってみなさい」
「はい、ム・マニピュラ」
……何も起きない。変だ、ちゃんと言えているのに。
「コタルㇽッロ! まずは念じる。それから唱える。分かったか?」
今度はちゃんと出来た気がする。身体の中にぐるぐると何かが回っているのがハッキリ分かった。
「コタルㇽッロ、君は身体系が得意そうだ。確か無詠唱で身体強化をやっているそうだな」
「はい、俺、初めから何もしなくても出来ていました」
「……そうか……たまにいるんだよな。親和性がある属性はすぐに開花すると聞く。君はその典型のようだ」




