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転生悪役令嬢、麻雀で異世界を制す!Ⅱ 打倒勇者編  作者: 南蛇井


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22/24

あなたがいるから、私は打ち抜ける

リオが《神算のレクス》を打ち破った報せは、風のように王国全土へ駆け抜けた。

最初は小さな噂に過ぎなかった。

だがそれは、井戸端の囁きから、酒場の歌へ、そして街の広場での叫びへと形を変え、瞬く間に人々の心を震わせる伝説となっていく。

「雀姫は……勇者軍を退けた!」

「四天王ですら敵わなかったんだと……!」

「やっぱり、雀姫様こそ麻雀を取り戻す希望なんだ!」

市場では子どもが「ポン」や「チー」と遊びながら声を張り上げ、農村では老人たちが麻雀牌の代わりに木片を刻み、夜な夜な卓を囲む。

かつて禁じられた遊戯が、まるで解き放たれたように人々の暮らしへ戻り始めていた。

そして、街角や城門、村の小さな祠――至る所に「雀姫の旗」が翻り始める。

白布に赤々と描かれた〈中〉の字。

あるいは東南西北、四風を象った模様。

それを目にした者の胸に、自然と勇気が宿った。

「恐れることはない。雀姫が、我らと共にある!」

「麻雀を奪われた日々は終わる!」

各地で蜂起が頻発し、兵士たちへの抵抗が日常となっていく。

――そう、人々は確信した。

**「雀姫クラリッサこそが、麻雀を取り戻す希望」**なのだと。

王都・牌帝宮――天を突く白亜の宮殿、その最奥に広がる漆黒の玉座の間。

豪奢な赤絨毯の先、玉座に腰かける男の姿は、まるで絶対の王そのものだった。

勇者アレス。

黄金の瞳が、膝をつき報告する兵士たちを冷ややかに射抜く。

「し、失礼ながら……レクス様が……!」

「《神算》までもが雀姫の一行に敗れたと――」

ざわめき、動揺、恐怖。

報告を口にする兵士の声は震え、背後の将校たちすら顔を見合わせる。

だが――玉座の主は、ただ微笑んだ。

冷徹に、嘲るように。

「……雑音が増えたな」

重苦しい空気を裂くその声は、低く響き、誰一人逆らえぬ威を帯びていた。

「所詮、弱者の戯れに過ぎぬ。私に届く前に、その小さな火は踏み潰される」

兵士たちは息を呑む。

アレスは続けて立ち上がり、玉座から玉杖を軽く振り下ろした。

「命じる。蜂起を抑えるため、各地へ精鋭を派遣せよ。

そして……雀姫討伐の名のもと、軍を再編せよ」

その命は、王国全土に新たな戦火を呼び込むものだった。

そしてアレスは最後に――

「《神算のレクス》を前線に立たせよ。敗北を知った彼の知略、なお我が軍に必要だ」

冷酷な勇者の声は、玉座の間に轟き渡った。

蜂起は希望を呼んだ。

だが同時に――王国の本気をも引き出したのだ。

王都・牌帝宮――天を突く白亜の宮殿、その最奥に広がる漆黒の玉座の間。

豪奢な赤絨毯の先、玉座に腰かける男の姿は、まるで絶対の王そのものだった。

勇者アレス。

黄金の瞳が、膝をつき報告する兵士たちを冷ややかに射抜く。

「し、失礼ながら……レクス様が……!」

「《神算》までもが雀姫の一行に敗れたと――」

ざわめき、動揺、恐怖。

報告を口にする兵士の声は震え、背後の将校たちすら顔を見合わせる。

だが――玉座の主は、ただ微笑んだ。

冷徹に、嘲るように。

「……雑音が増えたな」

重苦しい空気を裂くその声は、低く響き、誰一人逆らえぬ威を帯びていた。

「所詮、弱者の戯れに過ぎぬ。私に届く前に、その小さな火は踏み潰される」

兵士たちは息を呑む。

アレスは続けて立ち上がり、玉座から玉杖を軽く振り下ろした。

「命じる。蜂起を抑えるため、各地へ精鋭を派遣せよ。

そして……雀姫討伐の名のもと、軍を再編せよ」

その命は、王国全土に新たな戦火を呼び込むものだった。

そしてアレスは最後に――

「《神算のレクス》を前線に立たせよ。敗北を知った彼の知略、なお我が軍に必要だ」

冷酷な勇者の声は、玉座の間に轟き渡った。

蜂起は希望を呼んだ。

だが同時に――王国の本気をも引き出したのだ。

夜の帳が牌帝街道を覆っていた。

遠くに見える王都・牌帝宮の灯りは、まるで星々のように煌めいている。

だがその輝きは冷たく、鉄と威圧に満ちた「勇者王国の牙城」を象徴していた。




焚き火を囲むクラリッサ一行。

普段なら冗談を飛ばすサラも、この夜ばかりは口数少なく、火の揺らめきをじっと見つめていた。

ゴルド爺は静かに目を閉じ、まるで祈るかのように手を組む。

クラリッサは立ち上がり、王都の方向を見据えた。

胸にのしかかるのは、もはや一個人の想いではない。

旗を掲げ、勇気を振り絞って立ち上がった無数の民衆。

「雀姫」という名に託された希望の重み。

――私は、もう引き返せない。

「……本当は、ただ麻雀を楽しみたかっただけなのに」

クラリッサは夜風に紛れるように呟いた。

だがその瞳は揺らがない。

「でも、私が立たなければ……あの笑顔は、もう戻らない」

隣に歩み寄る気配。

リオだった。

焚き火の赤に照らされたその顔には、もう迷いはなかった。

「クラリッサ。君は一人じゃない」

彼は静かに言った。

「僕がいる。サラも、ゴルド爺も。……そして、あの旗を掲げた人々がいる」

クラリッサは思わず目を見開いた。

リオの言葉は、不思議な温もりを伴って胸に染み込む。

気づけば彼女の口元には微笑が浮かんでいた。

「ありがとう、リオ。……一緒に行こう」

二人の視線が王都の光に向かう。

明日、すべてが決まる。

勇者アレスを倒すか――それとも夢が潰えるか。

だがその緊張の中に、確かな絆と決意があった。

――雀姫クラリッサ。

――そして雀士リオ。

二人の心は、すでにひとつの未来を見据えていた。






王都へと続く街道。

その両脇に広がる村や町では、民衆が道端に並び、一行を迎えていた。

「雀姫様だ!」

「クラリッサ様、どうかご武運を!」

「麻雀を……取り戻してください!」

声援と共に振られる旗、掲げられる手作りの団扇。

かつては怯えに沈んでいた人々の瞳に、今は光が宿っている。

クラリッサはその笑顔に応えながらも、胸の奥で静かに震えていた。

(私は……ただ麻雀を楽しみたかっただけ。

けれど今、民衆の希望そのものを背負っている――)

喜びと誇り。

そして、重責と恐怖。

相反する感情が心を締めつける。

そんなクラリッサの隣に、リオが歩み寄った。

かつては後ろで支えるだけだった少年が、今はまっすぐ彼女と肩を並べる。

「クラリッサ……僕はもう迷わない」

「え……?」

振り返る彼女に、リオは真っ直ぐな瞳を向ける。

「僕も雀士として、最後まで打ち抜く。あなたと一緒に」

その言葉は、クラリッサの胸に灯火のように届いた。

彼女は小さく頷き、握り締めた拳を空へ掲げる。

「ならば進もう。麻雀を取り戻すために……アレスの玉座へ!」

群衆の歓声が、さらに高く響き渡った。

王都を目前に控えた「牌帝街道」。

その道は、兵士たちの軍勢でびっしりと埋め尽くされていた。

整然と並ぶ鎧の列、交差する槍の光。

その配置は、まるで巨大な麻雀卓を模したかのように計算し尽くされている。

一歩でも進めば即座に包囲される……それほどまでに完璧な布陣。

やがて、白銀の軍服を纏った一人の男が前へ進み出た。

軍師――《神算のレクス》。

冷たく研ぎ澄まされた眼差しでクラリッサたちを見据え、ゆるりと扇を広げる。

「姫よ。ここまでよく辿り着いた。だが――貴様の“夢物語”はここで潰える」

低く、だが街道全体に響き渡るような声。

兵士たちが一斉に槍を構え、威圧の波が押し寄せる。

「麻雀は遊戯ではない。計算され、制御され、理を尽くした者だけが勝者となる。

ゆえに――理を制した私こそが、真の王に相応しい」

扇子の一振りと同時に、兵の列が揺れた。

その瞬間、クラリッサは一歩前へ進み、怯むことなく声を放つ。

「理だけで……人の心は縛れない!」

彼女の言葉に、背後で旗を掲げる民衆が応じるように叫んだ。

「雀姫様!」 「負けないで!」

クラリッサの瞳はまっすぐにレクスを射抜く。

「麻雀は遊びだ。けれど――人と人を繋げ、心を震わせるもの。

私は……それを証明してみせる!」

街道の空気が、一瞬にして熱を帯びた。

決戦の幕は、今まさに切って落とされようとしていた。

「……ふむ、やはりそうか」

レクスは冷たい眼差しをクラリッサに向けたかと思えば、すぐさま隣に立つ少年へと視線を移した。

「姫の剣を折るのは容易い。だが本当に折るべきは――彼女を支える盾だ」

挑発の言葉に、リオの心臓が大きく跳ねた。

クラリッサの影に立ち、支えるだけだと思っていた自分を――真っ向から見抜かれている。

「俺が……?」

唇から震える声が漏れる。

「そうだ」レクスは扇を閉じ、刃のように鋭い声を放つ。

「貴様を砕けば、姫は孤立する。たとえどれほど強く見せかけようとも、背を預ける者を失った者は脆い」

ゴルド爺が眉をひそめる。

「リオ……無茶じゃ。相手は《神算》ぞ。ワシでさえ分が悪い」

サラも不安そうに拳を握りしめた。

「リオ兄ちゃん、危ないよ……!」

仲間たちの声が、重圧のようにリオの胸にのしかかる。

逃げたい――そう思った。

けれどその瞬間、隣からそっと伸ばされた手が、彼の背を押した。

「リオ」

振り返れば、クラリッサがまっすぐに彼を見つめていた。

恐怖も迷いもない瞳。

その瞳はただ、彼を信じていた。

「あなたがいるから、私は打ち抜ける。……信じてる」

短い言葉だった。

だがその一言が、リオの震える心をすべて吹き飛ばした。

――僕は、もう逃げない。

深く息を吸い込み、リオはレクスを見据えた。

「わかった。僕が……挑む!」

その宣言に、兵士たちのどよめきが街道を揺らした。

こうして、少年はついに「支え」から「挑戦者」へと歩み出したのだった。

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