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転生悪役令嬢、麻雀で異世界を制す!Ⅱ 打倒勇者編  作者: 南蛇井


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雀姫の盾

乾いた風が吹き抜ける。

 王都へと続く大街道――その名も「牌帝街道」。古より歴代の雀士たちが「決戦の道」と呼んだその道を、クラリッサ一行はゆっくりと歩を進めていた。

 誰も口を開かない。蜂起の炎はすでに王国全土へと広がり、勇者アレス軍も本気で「雀姫討伐」に乗り出している。

 ただの旅路ではない。ここを越えれば、彼らはもはや後戻りできないのだ。

 やがて、行く手に影が揺れた。

 軍旗がはためき、整然と並ぶ兵列。

 その中心に、白銀の軍服を纏う一人の男が静かに立っていた。

 「――来たか、《雀姫》クラリッサ」

 冷ややかな声音が、街道に張り詰めた空気を震わせる。

 男の名は《神算のレクス》。

 四天王の中でも最強と謳われる軍師にして、勇者アレスの頭脳。

 扇子を片手に携えたその姿は、まるで舞台に立つ役者のようでありながら、視線ひとつで兵士たちを縛りつける冷徹さを宿していた。

 「知略の勝負ならば、誰一人として私に勝つことはできぬ。運も勘も、私の盤上では塵にすぎん」

 扇子を軽く鳴らす音が、雷鳴のように重く響く。

 その姿を目にした瞬間、リオの足は止まった。

 喉がひりつく。

 かつて幾度となく耳にした噂――「神算のレクスに挑んで敗れぬ者はいない」。

 彼は声を震わせながら、呟いた。

 「……あいつが、《アレスの頭脳》。僕にとって……最大の壁だ」

 風が止んだかのように、街道は沈黙に支配される。

 ――運命の対局が、静かに幕を開けようとしていた。

乾いた風が吹き抜ける。

 王都へと続く大街道――その名も「牌帝街道」。古より歴代の雀士たちが「決戦の道」と呼んだその道を、クラリッサ一行はゆっくりと歩を進めていた。

 誰も口を開かない。蜂起の炎はすでに王国全土へと広がり、勇者アレス軍も本気で「雀姫討伐」に乗り出している。

 ただの旅路ではない。ここを越えれば、彼らはもはや後戻りできないのだ。

 やがて、行く手に影が揺れた。

 軍旗がはためき、整然と並ぶ兵列。

 その中心に、白銀の軍服を纏う一人の男が静かに立っていた。

 「――来たか、《雀姫》クラリッサ」

 冷ややかな声音が、街道に張り詰めた空気を震わせる。

 男の名は《神算のレクス》。

 四天王の中でも最強と謳われる軍師にして、勇者アレスの頭脳。

 扇子を片手に携えたその姿は、まるで舞台に立つ役者のようでありながら、視線ひとつで兵士たちを縛りつける冷徹さを宿していた。

 「知略の勝負ならば、誰一人として私に勝つことはできぬ。運も勘も、私の盤上では塵にすぎん」

 扇子を軽く鳴らす音が、雷鳴のように重く響く。

 その姿を目にした瞬間、リオの足は止まった。

 喉がひりつく。

 かつて幾度となく耳にした噂――「神算のレクスに挑んで敗れぬ者はいない」。

 彼は声を震わせながら、呟いた。

 「……あいつが、《アレスの頭脳》。僕にとって……最大の壁だ」

 風が止んだかのように、街道は沈黙に支配される。

 ――運命の対局が、静かに幕を開けようとしていた。

牌帝街道に突如、無数の兵が姿を現した。

 レクスの号令一下、兵士たちは綿密に計算された布陣で道を封鎖し、クラリッサ一行を分断しようとする。

 「前も後ろも塞がれた……!?」

 ルカが息を呑む。

 兵たちはまるで盤上の駒のように動き、一歩の狂いもなく隊列を組み替えていく。

 彼らを操るのはただ一人、《神算のレクス》。

 その扇子がひと振りされるごとに、兵士たちが幾何学模様の陣を描くのだ。

 「これが……軍師の戦場か」

 ゴルド爺が低く唸る。

 だが、クラリッサは決して怯まない。

 「分断しようとしても無駄よ。私たちは一緒に歩む仲間だから!」

 彼女の叫びに鼓舞され、一行は突破の一撃を繰り出す。

 リオの冷静な指示、ルカの俊敏な身のこなし、ゴルド爺の重厚な力――その全てが噛み合い、緻密な陣形を切り裂いていく。

 やがて一行は、街道の中央へと辿り着いた。

 そこに設けられていたのは――まるで戦場そのものを模した巨大な麻雀卓。

 石畳を削り、軍旗を突き立て、兵士たちが周囲を固めている。

 レクスはその卓の上に立ち、冷ややかな微笑を浮かべた。

 「愚かなる雀姫よ。運? 勘? 笑止千万」

 白銀の扇子が、乾いた音を立てて閉じられる。

 「勝敗を決めるのは計算と理。戦場も麻雀も同じこと。私に読み尽くせぬ牌など存在せぬ」

 冷徹な軍師の宣告が、大街道に轟いた。

 石畳に冷たい風が吹き抜ける中、軍師レクスは卓の前に立ち、冷笑を浮かべた。

 「雀姫本人……確かに看板としては派手だ。しかし、姫の剣を折るのは容易い」

 その扇子がリオを指す。

 「だが本当に折るべきは、彼女を支える盾。お前だ、少年」

 突如向けられた名指しに、リオの心臓が跳ねた。

 「ぼ、僕……!?」

 頭の中が真っ白になる。これまで、クラリッサを支える立場だと自覚してきた。だが真正面から四天王最強格に挑むなど――。

 「待て、リオ!」

 ゴルド爺が険しい顔で制止する。

 「軍師レクスは《アレスの頭脳》と呼ばれた男じゃ。知略にかけては王国随一……まともにやって勝てる相手ではない」

 「そうよ、無茶よ!」

 サラも声を張り上げる。

 リオの足はすくみ、唇が震える。

 その肩に、そっと手が置かれた。

 クラリッサだった。

 彼女の瞳は、戦場のざわめきも、軍師の威圧も跳ね除けるほど澄みきっている。

 「リオ……あなたがいるから、私は打ち抜ける」

 優しくも、強い声音。

 「信じてる」

 その一言で、胸の奥にあった迷いが霧のように晴れていく。

 リオは深く息を吸い、静かに卓へと歩み出た。

 「……分かった。僕がやる」

 震えは、もうない。

 レクスは満足げに扇子を開き、涼しげに笑った。

 「よかろう。では――戦場を始めようか」

乾いた秋風が「軍議卓」の縁を撫でる。配牌が落ちる音すら、戦の始まりの太鼓に聞こえた。

 レクスは扇子を畳み、ノータイムで一打。

 がない。思考の迷いが一切ない。

 ――序巡の安全域、他家の速度、受けの最大化……すべて計算済み、か。

 リオは息を詰める。早い。正確。鋭い。

 ツモった瞬間に最適解。危険域は一手先、二手先ではなく、終局までの「収束」で管理されている。

 (隙が……見えない……!)

 押せば受けられ、引けば横から刈られる。

 中盤、レクスの手から静かなリーチの宣告。場は凪いでいるのに、針の上に立つような緊張だけが張りつめた。

 「降りるしかないのか……」

 リオの喉が鳴る。指先が冷える。EVで言えば、ここは撤退。それが“正しい”。

 ――そのとき、胸の奥で別の音が蘇る。

 『打ち筋は心を映す』(ゴルド爺)

 『ね、麻雀は楽しいでしょ!』(サラ)

 『信じてる』(クラリッサ)

 路地裏で木片を牌に見立てて笑っていた子供たち。

 地下倉庫で震える手で牌を拾い上げた老夫婦。

 (僕は計算“だけ”でここに来たんじゃない。人と繋がる麻雀で、ここまで来たんだ)

 レクスが薄く笑う。

 「麻雀は計算で全て説明できる」

 扇子の先が、まるで盤面の未来をなぞるように動く。

 リオは首を横に振った。

 「いいえ……麻雀は人の心を繋ぐものだ!」

 声に張りが戻る。体温が戻る。

 彼は打牌の“間”を変えた。

 ノータイムの最適解を、あえて一拍置いて外す。

 序盤で抱えた浮き牌を、今までなら切らないはずの巡目で落とす。

 安全図から外れない“理”は守りつつ、相手の予測アルゴリズムから一ミリずつズレる“人のリズム”を混ぜ込む。

 レクスの視線がわずかに揺れた。

 (読み筋の分岐が増えた? ――誤差ではない、意図的な乱数だ)

 さらにリオは、捨て牌の“表情”を整える。

 端から染め気味に見せ、実は真ん中で受け直す。

 鳴ける牌を一度スルーし、次巡の押し引きでレクスの受けを狭める。

 「人は、完璧にはなれない。だからこそ――間、呼吸、視線……そこに“読み”が生まれる」

 押し引きの綾が変わる。

 レクスの機械仕掛けの正確さに、リオの“人の温度”が干渉する。

 終盤、場にわずかな歪みが生じた瞬間――リオは待ちを組み替えた。

 最短効率を外れるが、レクスの安全図から完全にこぼれ落ちる“裏の受け”。

 レクスの瞳が細る。

 「……面白い。確率の海に、心で石を投げるか」

 リオは静かに牌を立てた。

 「僕たちは卓で、独りじゃない」

 凪いだ戦場に、再び風が吹く。

 知略と直感が噛み合い、卓上の空気が一段深く震えた――。

 卓上に、緊張が凝縮したような空気が漂う。

 リオの指先が、牌に触れる。わずかに震えていた指は、今は静かに、しかし力強く――まるで道を切り拓く剣士の手のように迷いがなかった。

 通常なら切るはずの安全牌。

 「ここで押す理由はない」と、確率も期待値も囁いている。

 だが――リオは、敢えてそれを無視した。

 「……通れ!」

 牌が卓に落ちる音が、場を裂く雷鳴のように響く。

 レクスの扇子が止まった。眉がわずかに寄る。

 (……馬鹿な。統計上、切るはずがない一打……いや、あえて崩した?)

 次巡。リオはさらに常識を外れる一手を選択。

 安定の筋を捨て、あえて孤立した浮き牌を抱え込む。

 観戦する兵士たちがざわめく。

 「なぜだ……? あの手順は期待値が低すぎる!」

 「自滅にしか見えん……!」

 しかし、彼の瞳には確かな光が宿っていた。

 ――これは計算では測れない。直感と、これまで共に打ってきた仲間たちが教えてくれた「人を信じる打牌」。

 場に漂う流れが変わる。

 レクスの読み筋に“乱数”が走り、完璧に組み上げられた戦略図が少しずつ軋みを上げ始めた。

 「……バカな。私の未来図に、誤差が……?」

 そのとき、クラリッサが思わず身を乗り出した。

 「リオ……!」

 声は震え、そして叫びとなる。

 「あなたはもう、私の隣で打つだけの補佐じゃない! あなた自身が――雀士よ!」

 リオは振り返らない。ただ前を見据え、静かに微笑んだ。

 「……うん。僕はもう、誰かの影じゃない。僕の麻雀で、未来を掴む」

 場に落ちる一打が、音を立てて「覚醒」の瞬間を告げる。

 卓上の均衡が完全に崩れ――リオの新たな力が、戦場を支配し始めた。

卓上は最終局面――緊張が極限まで張りつめていた。

 牌山は残りわずか。場を支配しているのは、間違いなくレクスだった。

 彼の手はすでに整っている。美しい牌姿、理想の和了形。

 扇子を握る手は微動だにせず、ただ冷徹に告げる。

 「……終わりだ。雀姫の盾よ。お前の役割は、ここで潰える」

 その視線は冷たい刃のよう。

 確率も、牌効率も、心理戦さえも――全ては彼の掌の内。

 「この巡目、この形……勝利は揺るがぬ」

 リオの手は追い詰められていた。

 ――だが、その瞳は諦めてはいなかった。

 心臓が激しく脈打ち、仲間の声が脳裏を過ぎる。

 打ち筋は心を映す。

 楽しむ気持ちを忘れるな。

 信じてる――クラリッサの声。

 リオは息を吸い込み、そして……常識では選ばぬ一打を切った。

 ぱしん、と卓に響く音。

 レクスの目が見開かれる。

 「……何……だと?」

 その一打こそ、レクスの罠を逆手に取る“意外性”。

 数万通りの計算に存在しない、直感と覚悟の選択だった。

 そして次の瞬間――。

 リオの指が震えることなく牌を掴み、力強く卓に叩きつける。

 「――ロン! 倍満ッ!!」

 天地を裂くような声が広場に響く。

 レクスの手から扇子が滑り落ちる。

 沈黙。信じられぬ表情のまま、彼は呟いた。

 「……私の計算に……“敗北”が……?」

 冷徹な策士の瞳が揺らぎ、彼の世界を支えてきた絶対の理論が崩れ落ちていく。

 勝者の名は――リオ。

 その瞬間、民衆の歓声が大地を震わせた。

 雀姫の旗が風にはためき、運命の一局は新たな伝説として刻まれるのだった。

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