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周回移動都市ヴェルサイユ  作者: 犬のようなもの
《セカンドオーダー編》            [第一章]ようこそ新世界へ
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〔第7話〕———ブチブチッ。ボトッ。

基本、心の中の声みたいな文章は兎の声です。

フブの心の中の声の時は兎が〜とか兎は〜とか入れるようにしています。兎、フブそれぞれ1人の時は他でもありません。


あ、しばらく兎フブの話続きます。

 

「店長、死んでた…」


 その言葉で場が凍る。

 フブは状況が読み込めていない機械みたいな表情で2人の顔を順番に見つめる。

 兎はメイトンに脅迫(きょうはく)された事で頭がいっぱいになり、あまり話を聞いていなかった。



 ———カタッ。トポトポトポ。カッカッカッ。



 メイトンが再びテーブルの水をコップに注いで、2人分の抹茶を入れかき混ぜた。


『とりあえず、座りーな。』


「うん、ありがと。」

「…あ、ありがと…ん?フブ…ななななんか話してた?」

「聞いてなかったんかいっ…」

「ご、ごごごめん。」


『早よ座り。とりあえず状況教えてぇ〜な。』


「えーと、いつもの店長の…首が無い死体〜…ご遺体がありました…」

「え…?ま、まままままじ…?」


 最初の話を聞いていなかった分、兎のリアクションだけワンテンポ遅れている。


『店長さん首なかったんかいな。それは残念やねぇ。』


「あ、はい。」

「ざざざざ残念…」


「あっ、救急車はね…。呼ぼうとしたけど119繋がらなかった。」

「え、」


『119って何ぃ〜な?うちそんな数字知らんのやけど。』


 メイトンは海外の人っぽいから、この番号に馴染みは無いのだろうか。

 気を使うのを忘れていた。

 こういう事は、しっかり教えてあげないと。


「日本のピーポーピーポー…コール?」

「いいいや、ambulance(救急車)だよ。」


『あー、うちその言葉もわからへんわ〜。でもなんとなくピーポーピーポーで分ったわ。』


「ほら、兎…私の表現を見習いたまえ。」

「うぅ、ふふふ不毛…」


『まぁもう死んでるんやからピポピポなんか要らんやろ。』


「でも…」

「たたた確かに…」


 ちゃんと供養するという意味でも救急車を呼びたいフブと死んだ人の為に救急車は要らないという答えに(いた)る兎とメイトン。


「で、でもさ!この後、警察呼んだらどうせ救急車呼ばれるよ!あ、警察呼んでなかった。」

「けけ警察よ、よよよ呼ぼう。」


『警察ぅ…?なんやまた知らん単語でてきたな。』


「あー、警察は〜…。治安守る人達。」

「そそそそう…。」


「あーなるほど。まぁこんないきなり首無し死体と出会うことなんか人生そうそう無いもんな〜キャッキャッキャッ。」


 何だか楽しそうで怖い。

 多分、こういう人は幾千もの修羅場を乗り越えてきたのだろう。

 きっと生きる世界が違うのだ。



 ———ピポパッ。ツーッ。ツーッ。ツー。



「警察も繋がらないよぉ〜もぉ〜!!!外でテロでも起きたのぉー!!!あ、まぁそれっぽい煙はあったな。」

「けけけ警察も忙しいんだよ。」


『警察さんも大変やなぁ〜。うちはお腹空いたわぁ〜。』


「あ、抹茶あざす。」

「ま、まま抹茶あ、あああざす。」


 言葉は軽くなっていく2人だが、メイトンに対する恐怖は拭えていない。

 それどころか肥大化していく。


「ええんやでぇ。うちこの粉、混ぜる奴だけは知ってるからなぁ〜。」



 ——————ゴクゴクゴクッ。



 左端からメイトン、兎、フブの順番でカウンター席へ座って、抹茶を飲み干す。

 しばらく誰も喋らなかった。

 何というか正直3人はどうして良いかわからなかった。




 ———ガシャンッ。



 厨房から食器が落ちる音がした。


「うぉ、びっくりした…」

「ななななっはは犯人が隠れているのでは…」


『んー…なんか音鳴ったなぁ。』


「私、見てくるよ。」


 フブがそう言うと兎が引き止める。


「ちちちちょっとあ、ああ危ないって。」


「大〜丈夫、私逃げ足速いからさ!ほら、私小さい頃学校のチーターって呼ばれてたから。」


「でで、でも…。え、チーター…?」


『もうお腹空いて待ちきれんねん。うちが見てくるからその間になんかこの店で食べれるもん用意しといてぇな。』


「あ、うぃっす。」

「やややったー…」


 メイトンは厨房へ蝶の様にフラフラと歩いて行った。

 多分、コンクリをぶち抜けるメイトンなら何が居ても大丈夫だろう。

 私達はメイトンに何か食べるものをあげよう。

 とりあえずこの店のものはもう食べないほうが良さそうだな。


「あっ、カップ麺とかは?せっかくラーメン屋来たんだしさ。」

「いいい、いいね。」

「兎、買いに行って私はメイトン見張っとく。この状況から逃げたと思われたくないからね。」

「あああありがと…危険な方…任せてごめん…」


 兎はラーメン屋の前にあるコンビニで、カップ麺を買う。

 お湯を入れて蓋を閉め、ラーメン屋に持って行く。

 ドアはひしゃげて使い物にならない為、()けっぱなしになっている。


「あー…あのぉ〜…ももも持ってきました…」


「あ〜!良いじゃん!この味のカップ麺…って、ねぇーー!!!3つもお湯入れて持ってくるの危ないでしょ!!あーちょちょちょ私も持つからほらカウンターに置いて…」


 厨房から足音がする。

 出てきたのはメイトンだ。


『忙しそうな所、悪いんやけど店長さん動いてはったよ。』


 メイトンが何かを掴んで持っている。

 自分の顔から遠ざけて、まるで汚い物を持っているみたいに…。




 あっ、店長の頭だ。




 ———アウッ…。ガァッ。ヴァッ。



 店長の頭が何か動いている…というか口をパクパクさせている。

 私達を見て必死にパクパクしている。

 メイトンは店長の髪の毛を掴みこっちを見ているが多分メイトンも困っているのだろう。

 見つけたのは良いもののどうすれば良いのか分っていない様子だ。


『頭だけって…あんたらホンマになんも知らんねやろな?』


「え、きも…」

「き、ききききもい…」


『意外と落ち着いてるんやな。うちはもう怖くて仕方ないわぁ〜。』


 怖いと言いながらもガッツリ店長の頭を持っている。

 しかも、ちょっとユラユラ揺らしている。

 全く怖くなさそうだ。

 まるでそれがメイトン日常にとって、当たり前の事の様な…。



 ———ブチブチッ。ボトッ。



 メイトンが髪の毛を持って揺らしすぎたせいで髪の毛がちぎれて頭が地面に落ちる。


「うわぁぁぁあ!!」

「ききききったなぁぃ!!」


『……あんたらホンマにこの人の知り合いやったんかいな。うちが言うのも何やけど、なんか無慈悲やねぇ…』


「いや、まぁ…流石にねぇ。生首は聞いてないっていうか〜。流石に知り合いでもきついよね。」

「そそそそう。なな生首だけは聞いてない…」


『まぁそうかいな…。まぁ汚いからここ置いとこか。』


 そう言って生首は使われていなかったであろう鍋の中にしまわれた。

 少し落ち着いたら3人はカップ麺を啜りながら話す。


「ねぇー。結局これ殺人なの事故なの…?」

「まままぁ…ラーメン屋に首を切断できる機材ない…と思う。」



『これラーメン?って言うんやねぇ。結構好きやでうち。』



「てことは殺人?犯人は逃亡したのかな。私とかメイトンが見に行って犯人が居なかったし。まぁ、殺して逃げたとかかな?」

「でででも、生首だけで動くのはもう…ゾンビ…」



『今食べてるこのラーメン?ってやつは何味なん?』



「あー、味噌味です。とうとう私達の街にも出ちゃったかゾンビ…何というか流行り(やまい)だね。」

「そそそんな流行り病…あ、あ、あってたまるか…」



『うちは少食やからこれぐらいの量のご飯がちょうどええわ。』



「あ、良かったです。カップ麺はどこにでも売ってるんで気に入ってもらえたのは光栄です。」

「あ、よよよ良かったですね…」



『まぁこんな美味しいもんご馳走になったからお礼ぐらいはしよか。何でもひとつ質問に答えてあげるよ〜。』



 予想外の結果が出た。

 まさか自分から口止めしておいて自由にひとつ教えてあげるって…やっぱりだめだ、コイツよめない。

 能力の事を聞くか…?


 どうする。


 この土地の事や日本の事を分っていなさそうに見える。

 でも“日本語”が通じている。

 引っかかる所があまりにも多い。


 何を聞くか…。


「んーーー!!!兎!!!任せた!!!私は何を聞けば良いかわからないし、ひとつしかダメらしいから!!!」


 (いさぎ)よすぎるだろ…、ていうかなんかセコいよフブ。


『んー確かに可哀想やね。アンタら2人でそれぞれ1回ずつでもええよ〜。』


「え!ほんと!?ありがと〜メイトン〜!」

「ま、まままじですか…」


 フブの口調は軽いが恐怖は拭えていない。


『ええよ〜ええよ〜この世界に来て優しくされたん初めてやからなぁ〜。おっと、口が滑ったわぁご愛嬌って事やねぇ〜。』


「じゃー私、質問〜!メイトンの仕事教えて下さい〜!」


 意気揚々と放たれるフブの言葉、でも見方によってはチャイナ服の女、メイトンが仕事してる年齢に見えないが…。

 でも、この質問結構いい線行ってると思う…多分あの感じだとフブは何も考えていないのだろうけど。


『いい質問やねぇ〜。私は“()い人材”の引き抜きをして、その対価にその人にとっての悪い奴を殴り飛ばしてるねん。まぁいうなれば、それが仕事やねぇ〜。』


「ほげぇ〜、初めて聞く仕事だぁ…」

「ふふふ復讐代行業っていう事で、ですか…?」


『んーまぁ自分に才能があってそれをうちに売るからアイツに復讐してくれぇ〜。なんてことも昔はあったなぁ。まぁ大体そんなもんよ。』


「なんか何となく分った気がする。」

「すすす凄い仕事だ…」


『まぁ結構(けっこう)色々あっておもろいんよ。あ、でも人のドロドロな所に踏み込んでいくんやからそれはちょっとキツイなぁ。んで、んで、ほんで、アンタは?』


 兎の方を見るメイトン。

 兎の質問は決まっていたがメイトンの目を見てふたつ目に考えていた質問に変更した。

 あの目は人の事を何とも思っていない目だ。

 安直(あんちょく)に能力のことは聞けない。


「じじじゃあ私も…」


『ええよ。ええよ。なんでもききぃ。』


「じゃじゃぁ…わっ、わわ“私達は生きて家に帰れますか…”」





 一瞬の沈黙が場を掌握する。




『キャッキャッキャッ。』


 メイトンは立ち上がって兎の方に体を向ける。

 フブはメイトンと兎の間に入って、兎を庇う。


『だから言ったやろ?うちは無差別殺人鬼では無いんよ。優しくしてくれた人に恩を仇で返すような事はせんよぉ。一様なうちも組織の顔やから“キズナ”を(みだ)す様な芯の通ってない事もできひんのよ。』


「人…殺したことあるの?」

「ふふふフブあんまりもう聞かない方が…」


『もしかしてアンタら命は平等で尊い物とかいうタイプ?うち、あーゆー奴らめんどくさいねんなぁ。』


 メイトンの拳が握られる。


「別に命を平等とも思ってないし綺麗事言うつもりも無いよ。」

「ふふふフブ…ちょっと…」


『アンタもなかなかいい性格してるなぁ。うちはそういう仕事やねんなぁ。まぁ仕方ない仕方ない。汚れてるから。“汚い血”で汚れた手ぇは新しい“新鮮な血”で洗ってピカピカやわぁ〜!』


 イカれてるこの女。

 でも、芯は通ってる様に感じるが、ただこの状況と話し方で場にのまれている様にも感じる。


「もう私達、行くね。メイトンの事はよく分からないけど日本では大人しくしててよね。安心して暮らしたいんだから。」

「そそそそうだそうだ。」


 フブの後ろに隠れて強くなった気でいる兎。

 メイトンが困った様な表情をする、天井を見てから少し考えた後言った。


『あー…。言いにくいんやけど、もうすぐ日本終わるで?』


「え?」

「んぇ?」


『ほら、222(セカンドオーダー)が来たやろ?まだ派手に暴れてないみたいやけど時間の問題やで。』


「セカッ?セカンド、セカンドオーダーってなんですか?」

「なななななんですかそれは…」


『あー…。アンタらはそら知らんねやろね、アレは怖いよぉ〜…。何というかめっちゃ無慈悲やねんアンタらよりも。』


「失礼な。」

「しししつれい…」


『まぁうちから話せる事はあんまないけど、普通の人間は周回移動都市に拾って貰うしか生きる方法はないんとちゃうかぁ〜。』


「ちょちょちょちょ、周回移動都市って何。」

「ししし周回移動都市って何。」


『うちもそこまでは教えられんわぁ〜。てか、最初の時みたいにもっとうちの事、怖がってビクビクしてくれてもいいんやでぇ。』


「恩売ったから私達に牙向けないの分ったし、なんか緊張ほぐれた。」

「あああ安心…人には優しくしておくものだね…」


『んー。根性あるんか無いんか分からん奴らやなぁ。まぁ頑張って生きやぁ〜。』


 そう言ってメイトンはラーメン屋の壁をぶち抜いて去っていった。



 ——————ドォゴォォォォオンッ。



 なんか色々大胆(だいたん)な人だったなぁ。

 悪い人の部類ではあるんだろうけど、何だかよく分からない人だった。

 掴みどころが無いというか…その割には…。

 でも、結構、緩かった様にも見えたな。



 ———ピポパ。プルルルル。



「あっ。」

「うわっビビビックリした…どどどうしたのフブ。」


「警察に繋がったわ。」






 その後、警察が来て現場検証やら色々した。

 メイトンという女が壁をぶち抜いたという事実を話した。 もちろん、最初は信じてくれなかった。

 しかし、防犯カメラが作動していたので事実確認が取れた。

 警察は鍋の中に置かれた店長の生首が動いているのを確認するとバイオハザードマークが描いてあるケースを取り出して、トングで慎重(しんちょう)に掴み入れた。

 私とフブはとにかく警察に色々聞かれた。

 メイトンは知り合いかとか破壊されたコンクリは他にどこにあるとか…。

 あー疲れた。

 一連の押し問答が終わった後、フブが男の警察官と何やらラフに話していた。


『ほんとに人間とは思えないな。』


「どっちがですか?」


『え?どっちって?』


「あー、生首かコンクリ女かです。」


『今はコンクリ女の事だ。人間があんな事出来るとは思えんのだけれどな。』


「あー。そうっすよね…。あ、最初警察に電話した時、出なかったのやっぱり忙しかったんですか?なんか空の裂け目〜とか空にいたロボットとかで。」


『あー。もうほんっっっとね、空の事もそうだけど。はぁー…ここだけの話だけどさ、ゾンビが出た〜って通報が入りまくってね。今そのゾンビのサンプルを回収しまくってんの。』


「えー、意外。ゾンビ映画ならゾンビに街の人が襲われて手遅れになるとかですけど、リアルだと意外とゾンビ弱いんですか?」


『いや〜、実際すっごい足遅いし自分で立ってられない奴が大半らしいね〜。でも、進化とかされて手遅れになる前に動いた方がいいって今、国をあげて捜査してんの。だから空の裂け目に気を回してる時間無いんだよね。』


「へー、忙しいっすね…。色々大変そうだけど頑張って下さい。」


『ありがとね、そんで通報一回目で来れなくてごめんね。警察として謝ります。』


「いえいえそんな忙しい中、お疲れ様です。」



 そんな会話がなされた後、フブは私の方に駆け寄ってきた。

 ポケットに入れていたきゅうりのタネの袋を取り出して言った。


「よし、じゃぁタネ埋めに帰ろうぜ〜」


メイトンがピポピポの事について少し知っていたのは理由があります。

 兎達と出会う数時間前、職務質問をして来た警察官3人をバラバラにしました。

 その時、駆けつけた救急車の音が印象に残っていたからです。


「なんや独特な音する乗り物ん来たな…」


 ※能力の使用上、メイトンの方向に返り血は飛びません。



次回、配信者の話です。



【ほげぇ〜】

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