〔第6話〕遭遇
ねぇ゛ーーー!!!
今回は兎とフブの話です。新キャラメイトンが出てきます。
私は兎、けして跳ぶことは無い。
面白くない学校での日々、私にとって授業は簡単すぎたけど、友達を作るのは難し過ぎた。
でも、今日はフブと朝からアニメをリアタイ(リアルタイム視聴)する。
クラスで超人気者だったあの委員長と“一緒に”だ。
誰が何と言おうと私は勝ち組であろう。
朝アニメのリアタイを提案したのは私だ。
自分から提案した癖に朝フブに起こされた…。
うぅ、情けない、恥ずかしい。
フブは私が起きるよりも前に早く起き、朝ごはんを作っていたそうだ。
確かに今日の朝食はいつもより豪華な気がする。
「ほら、ご飯食べよ!」
「うん。」
朝ごはんを食べながらテレビをつけて視聴の準備をする。
「ねぇー兎。あの空にある裂け目ってさ、やっぱり異世界に繋がってるのかな?」
「いいい異世界があったら一回は行ってみたいね。」
「ねー。」
空には大量の飛行艇と戦闘機がずっとホバリングしている。
空にできたあの裂け目と戦っているのだろうか。
というか、裂け目の少し下にいるロボットみたいな奴は異世界からやって来たのだろうか…。
兎が色々考えている中、フブはその場から立ち上がり兎の顔をガシッと掴んで下を向いた顔をぐっと上へあげさせる。
「不安なのは、わかるけど!今は目の前のミッションこなそうぜ!」
「あああアニメ見るだけじゃじゃん…みみみミッションってそ、そんな大袈裟な…」
——————♫
アニメがオープニングと共に始まった、いつも聴く曲に心が踊る。
毎回毎回オープニングで泣きそうになる程このアニメが好きだ。
そうだ、フブの言う通り今は目の前の事に集中しよう。
そして私は集中した。
アニメは次回で最終回を迎える。
悲しいけどフィナーレに畳み掛ける大どんでん返し。
考察が捗る、フブと色々話した。
あぁでもないこうでも無いと、そしてTV周辺から視線を外した瞬間、私達は気がついた。
「フ、フフフブ…窓の外…」
「嘘だろ…随分キレイな空になりやがった…」
本来はそこにあって当たり前のはずの“綺麗な空”…しかしその綺麗な空の下には複数ヶ所、煙が立ち込めていた。
恐らく墜落させられたのだろう。
あの数の戦闘準飛行艇や戦闘機が全部か分からないが墜とされた。
【ナニカ】に墜とされた。
やはり望遠鏡で見たあのロボットの仕業なのか…?
「そそそ空綺麗になった…ね…」
「こ、これは…何と言うか超ド級だね…」
フブが立ち上がり大きなテーブルを上から見下ろして何かを探している。
しばらくじっと見下ろした後、それは見つからなかったらしく、次に大きなフカフカのソファに目をやっている。
フブの顔がパッと明るくなった。
可愛い…探してたものが見つかったのかな。
ーピッ。
どうやら探していたのはTVのリモコンだったらしい。
表情豊かで分かりやすいフブに心を和まされている。
———『未知のウイルスが街を覆っています。この事態にサキミネ防衛大臣はただちに感染が広がった地域を隔離し、対処すると発表しました。』
フブは何だか歯痒い所に手が届かない雰囲気で兎に言う。
「ねぇ゛ーーー!!!私達が昨日まで見てた空は幻覚だったわけぇ!?なんでTVでやらないわけぇ!?ねぇ゛ーーー!!!」
「こここ国家機密にしては、随分おおっぴらだったね…あの数の飛行艇…」
「今、私達はゾンビより、あの空間の裂け目の方が気になるの!」
フブのその言葉を聞き、思い出したかの様に空を見た。
やっぱり、空間の裂け目が無くなっている。
大量の飛行艇が街に落ちて、街は煙で溢れかえっていたのに…。
もしかして、空間の裂け目の下にいたロボットに全滅させられた?
いや、あの数をあの一機だけでどうこう出来る気がしないけど…。
そもそも空間の裂け目が閉じたのは何故だ…?
もう目的を終えたから…?
それとも【ナニカ】をこっちに送り込んだから…?
そのナニカが飛行艇達を全部墜としたってこと?
いや、それは違うな。
あの日、空にいた大量の飛行艇はこの街に充満している墜落した飛行艇の煙の量と比例していない。
なら我が国の軍は全員撤退したのか?
いや、裂け目が無くなっているんだ【ナニカ】を討ち取った可能性も…。
でも、討ち取ったら…果たして、裂け目は消えるのか?
「ねぇ゛ー!兎!」
「ええええと…なんて?」
「もー!ボーッとして!今日はきゅうりのタネを買いに行く日でしょ!外にゾンビがいるかも知れないから、下に防護服着て行くよ!」
「ははは初めて着る…ううう上手く着れるかな…」
「大〜丈夫、私が手伝ってあげるから!ほら、脱いで!」
今着ているパジャマを半ば無理矢理に脱がされて下着姿になる兎。
少しの恥ずかしさで目が若干泳ぐ、そんな事気にせんとばかりにフブは真っ直ぐ見つめる。
フブは兎の寝室の棚から防護服を持って来て兎の両手を上げさせ防護服を着せる。
今着ているのは有事が多くなったこの時代の為に作られた国民全員に配布されている防護服。
地震や津波、戦争の時用に作られているらしい。
私は着たことが無いけど…。
「あれ…?これ私のやつとちょっと違う気がするけど…?気のせいか。」
「そそそうなの…?」
フブは防護服の肩に付いているツマミの様な物を少し捻る。
——————フシューーッ。
か細い空気が抜ける音が聞こえる。
すると防護服が兎の体に沿ってゆっくり収縮し始める。
体のラインが丸見えになり兎は肩を丸める。
(肋の傷だけは見せない様にしないと…)
それを見かねたフブが兎の後ろに周り防護服がちゃんと着れているか確認を始める。
「うんうん。ちゃんと着れてるね。」
「は、ははは恥ずかしい…」
「何〜んで〜ッ!せいッ!!!」
フブは後ろから兎の両肩を両手でガッシリ持って、体を反らせる。
兎は小柄ながらに豊満な体を露わにさせる。
「ひひゃぃッ!!こここ腰がッ…」
「兎の体って、なーんか他の人と違う気がするだよねぇ…何かって言われたらわからないけど…ん〜…」
一方、運動不足の兎の体に電撃が走る。
(腰…というか背骨が痛い…長らく縮めていたからカチコチだ。)
本当にそこまでやらなければならないか、という気持ちもあったが…んー…何でこんな事してるんだっけ…あっ。
(ゾンビ映画ごっこしてたの忘れてた。)
「フフフブ…フブの防護服はどうするの…?いいい家に取りに行く…?」
兎が心配そうに問いかけたが、フブは自信を持て余した様な顔で自分の胸を叩き言った。
「私は毎日着てる!」
「え。め、めめんどくさくない…?」
「だってこんな凄い物、国からタダで貰えるんだよ?使わなきゃ勿体ないじゃん!」
「たたた確かに…」
「ほら、事故とかにあってもこれのおかげで無事だった人もいるみたいだし!安全に越したことはないよ!」
その言葉を聞き、フッと兎の中の記憶が蘇る。
[ここ25階ぃぃぃぃぃいいいいいいい!!]
いや、流石に防護服着てても…25階から落ちたら助からないでしょ…。
まぁフブもそこまで防護服を信用してないだろうけど…。
フブは貧乏性な所があるから少し心配だ。
いや、私がフブの心配をするなんておこがましいにもほどがあるか…。
「ほら、外にはゾンビが蔓延っているから慎重に行くよ!」
「き、きききゅうりのタネの為に生きて戻ろう…」
そして2人は玄関を開け、外の廊下に出る。
——————ガチャ。
広い廊下の奥にエレベーターがある。
エレベーターの所まで歩き、1階へ行くボタンを押そうとした瞬間、フブに強く腕を掴まれた。
「アッヒャぃ…なななに…?」
「ねぇー…。うーさーぎ…本当に言ってるの?この世界はゾンビに侵されているんだよ?エレベーターに乗ったら行き先は1つそこに着いたら逃げ道はないんだよ?」
「たたた確かに…。でも…かかか階段で行くの…?」
「下りじゃん?よゆーよゆー!」
「そそそそれでも…少なき体力が…」
「少なき体力って、何その言い方ッアハハハハッ!!!」
むむむ無理だ私の体力じゃ階段なんて使ったらへとへとになる…。
嫌な顔をする兎にフブは背中を後ろに向けてしゃがんだ。
「…?」
兎は戸惑う。
「ほら、乗って!おんぶ!おんぶだよ!」
更に戸惑う兎。
「ゾンビから逃げ切るにはねぇ体力が大事なの!兎が体力を温存する事で私達の生存率が上がるでしょ!」
「ででででも、フブは疲れる…」
「私は日頃から運動してるから大丈夫!ほれ!のれぇい。」
「あっ!」
半ば無理やりフブの背中に乗せられた兎はその背中の筋肉に驚く。
何と言うか見た目が細いのに、しっかり肉の感触がある。
柔らかい筋肉がぎっしり詰まっているみたいだ、肩の筋肉が使われる時とてつもなくその部分が硬くなる。何と言うか…凄い。
「わぁっ…兎、軽いね。」
「わわわ私、運動不足で太ってる…」
「そう…?なんか見た目よりすっごく軽くて、すいすい階段降りれるよっ!!!」
「ちょっ、あぁあっ!」
——————トットットットッ。
「はははは速いッてぇ!」
——————トットットットッ。
「はははは速いィ!!!」
「へへっ!兎専用フブの即席ジェットコースターじゃ〜!!!」
フブの階段を降りる速度がどんどん上がっていく。
落ちない様にしっかり肉の詰まった体につかまった。
でも、乗り心地がとても良い。
この速度と揺れがありながら、しっかり体幹を使って真を通している感じだ。
揺れが極限まで抑えられている。
(やっぱり運動できる人って凄い…)
「ほ〜れ到着っ!」
「フフフブ…ゾンビが居ないかクリアリングしないと…」
ジェットコースターでテンションが少し上がり、満更でもない兎はゾンビ映画の世界観に没入し始める。
「そうだね!」
フブが明るく返事する。
「しー…こここ声小さく…」
「おっと、いけねぇ。ゾンビにバレちゃうぜ…」
兎はクリアリングを自分で提案しておきながらフブの後ろに隠れる。
フブはそれを気にせずに階段から1階のロビーに繋がる扉をゆっくり開けて外を確認する。
「ん〜…」
フブがそう言った後、ゆっくり扉を閉める。
「どどどうしたの…?」
若干の小声でフブに問いかける兎。
フブの表情は眉をひそめ、険しく何かを考えている様子だった。
「…いるね。」
「………ん?」
「んー、ゾンビいるね。」
「あー…そそそそうなんだ…」
2人の会話は一旦ここで途切れた。
私は扉を開けて、自分から見ようとしない。
しかし、フブの言葉を疑っている訳ではないが状況を読み込めない。
多分フブも同じだろう。
「はて、う〜ん…もう1度見てみるね。」
ゆっくり扉を開け、顔を覗かせるフブ。
ゾンビを探すかの様に周りをキョロキョロ見回した後、再びゆっくり扉を閉める。
「居なくなったね…」
「え…」
「んー…。こういう時ってさ、なんかロビー血だらけ〜とかそういうのあるよね。ないって事は気のせいかな…?」
「ぞぞぞゾンビじゃなくても…ボロボロの人がこのマンションに入った…とか…?」
「んー…兎のこのマンション格式もセキュリティも高そうだし、そんなボロボロの人、入れないと思うよ?」
「うううん…確かに…」
2人は黙り込んだ後、結論に至った。
警戒しつつ“気にせず”に行こう。
一見、矛盾している様に見えるこの言葉。
しかし、世の中には私達の理解に及ばない“気のせい”があるのだ。
体が感知したその“気のせい”はきっと何かの異変で見過ごせる物ではない。
しかし、“だからこそ”警戒して“気にしない”なのだ!!
——————ガチャンッ!
勢いよく扉を開けるフブ、兎はフブの後ろに隠れている。
バッと出た先に見えた景色。
いつも通りのロビー…に血。
さっきまでは見えなかった死角の場所に、ポタポタした血の点が線上に続いている。
「ねぇ、兎…?私が見たのはさ。フラフラして足を引きずった顔のぐしゃぐしゃの人なんだけど…もしかして…」
フブの目線の先に居たのはいつもロビーにいる受付のおばさんだ。
「ううう、受付のおばさんの事?」
「んー…私が見たのは違うんだけどなぁ…」
鼻血を出して広いロビーの中央に突っ立っているおばさん。
なんというかチカラが抜けた肩とぶらぶらさせた腕…確かにゾンビに見える。
フブはゾンビとおばさんを見間違えたのだろうか。
「おおばさん…だ、だだだいじょうぶ…?」
——————ピチャッ。ピチャッ。ピチャッ。
おばさんの鼻から出る鼻血が滴る音で場が凍る。
おばさんは血が出ている鼻を抑えようともしていない。 フブがおばさんの周りをゆっくり見渡した後、大きな声で言った。
「ねぇ゛ー!!!鼻血ぃ…?出てるけど大丈夫゛〜…?」
私は隣でいきなり大声を出されびっくりし、肩をビクつかせる。
「?!?!」
——————ピチャッ。ピチャッ。ピチャッ。
ゆっくりおばさんの顔が上がる。
その顔は血まみれで血を流しすぎたせいなのか何だか青白い様に見える。
ゾン…ビ?
「ごめんなさいねぇ…私、今ボーっとしちゃっててね…」
——————ピチャ。
「あら、鼻血が出て…あらぁ兎ちゃんのマンションのロビー汚してごめんねー…」
私はフブの後ろから顔をひょっこり出して返事する。
「いいいいえ、す、す凄く…体調が悪そう…なので…き、救急車呼んだ方が…」
フブは後ろから顔だけ覗かせた、ひょっこり頭の兎の癖っ毛をイジイジしながらおばさんの方を見ている。
兎はそれに気づかずスマホを取り出し、119に電話しようとする。
「大丈夫よ〜。私、自分で電話するわ〜。」
「そ、そそそそうですか…お大事に…」
私はそれを聞きスマホをポケットにしまった。
かわりにおばさんが自分のポケットからスマホを取り出し、119に電話し始める。
電話を終えたおばさんは自分の裾で鼻血を拭き取って言った。
「何か用事があったんだろぉ?ほら、行ってきな私はもう救急車呼んだから大丈夫だよ。」
「本当に大丈夫ですか…?私達…救急車来るまで待ちましょうか?」
「ありがとうねぇフブちゃん。でも私はもう大丈夫だからほら、行ってきな。今、街は物騒な事になってるから気をつけてね〜…」
「で、でも…」
「おおおお大事に…」
救急車が来るまで居座ろうとするフブの腕を無理やり引っ張って外へ連れ出す兎。
フブはけげんそうな顔をしていたがこれで正解だったと思う。
流行病とかだったら移されかねないし…なんか…今日のおばさん怖かったから。
なんか…近寄ってはダメな感じがした。
——————ゴーンッ。ゴーンッ。ゴーンッ。ゴーンッ。
外に出た瞬間その音を聞いて思い出した。
この街にはまだ鐘の音が鳴り響いていた事に。
でも、もう空間の裂け目も消えているんだし、飛行艇達もいなくなっている。
何だか本当にゾンビが出てきそうな雰囲気だ。
でも、決して霧が出ていたり空が暗かったり赤かったりしている訳じゃない。
快晴の朝だ。
清々しい空気が鼻の奥へ抜ける様な〜…
小鳥の鳴き声が耳を撫でる様な〜…
いや、
なんか、
いつもと違う嫌な雰囲気がする。
何でだろう…。
「ねぇ〜兎…おばさん大丈夫かな…?」
「だだだ大丈夫だと思うよ…きき救急車もすぐに来るだろうし…」
「で、でも…さ?私、あの人に良くお世話になってたし…」
まだ兎がフブに対して警戒心を抱いていた頃の話。
フブは兎のマンションに入る時、オートロックをあのおばさんに顔パスして貰っていたのだ。
「ああああのおばさん、ちょっと今日…こ、怖かった…」
「んー…?確かにちょっと血、流しすぎてボーっとしてた所はあったと思うけどそこまでかな?…あっ、てか!私の見たゾンビはおばさんじゃないんだけど!」
「えええぇ…みみみ…みみ見間違いじゃない…?」
「んー…私の事だからロビーに溜まってた血のせいで変な勘違いしちゃったのかな…?でも、扉から覗いてた時は血…見えなかったけどな…」
そんな会話で2人は雲ひとつない快晴の下を歩く。
いつもより小鳥達がうるさい様に感じるがきっと2人の素晴らしき外出の後押しをしてくれているのだろう。
——————ピーポーパーポー。
救急車が横を通り過ぎる。
おばちゃんが呼んだ救急車だろうか?
きっとそうだろう。
良かった。
そして地元のスーパーに向かうその途中、黄色い“キープアウト”と書かれたテープが巻かれた家を発見した。
この家はこの間、髪の毛と肉塊が玄関から見えた家だ。
「ひぇッ…」
「あーそういえばここ何があったんだろうね〜」
「き、きききっと、さささ殺人事件とかだよ…」
「でも、ニュースもネットでも、な〜にんも出てこなかったよ?」
「たたた確かに…じゃぁ孤独死だったとか…?」
「あー高齢化社会だからねぇ〜その可能性は高そうだ」
名通り車が多い大通りの横を歩く、なんだか今日はやけに車が多い気がする。
平日の朝だからそんなものかと思ったが渋滞してる。
「何だか今日はそんなに暑くないね?」
フブに言われて気づいたが確かにそうだ。
防護服のおかげ…?
いや、防護服にそんな体温調節機能は付いていないはずだけど…。
「そ、そそそうだね…す、涼しい快適な、朝…」
「やっぱり早起きして出歩くのは気持ちいいね兎!神様が私達を祝福してくれてるよぉ〜!」
うっ、眩しいその笑顔、笑った時に見える若干の八重歯が可愛い…。
フブが楽しそうにしていると私も嬉しくなってしまう。
「ふへへっ…」
「…ん?どうしたの、兎?」
キモい声が出てしまった…あまり人前で感情を出す機会がない弱点が出てしまった…。
——————————————————#####
2人はその後、地元の直売経営スーパーで、きゅうりのタネと店員が自前で作って売っているきゅうりの浅漬けを買った。
——————バリッ。
歯ごたえの良い軽快な咀嚼が鳴る。
「このきゅうりの浅漬け超〜美味しいね!」
「お、おお美味しい…。わわ私達もこれぐらい大きい奴、育てたいね…」
「そうだね〜!いっぱい愛情込めて育てようぜ〜へへっ。」
なんだろうこのきゅうり浅漬け、甘酸っぱい。
癖になる味だ…また近くに来た時買わせてもらおう…。
お金積んで作り方も教えてもらった方がいいかな…。
——————ドーーーーンッ!!!
「ウヒャイッ!!」
「あうぅっ!!」
フブと兎はそれぞれ大きな音に驚いて肩をビクつかせる。
常に鳴っている鐘の音を掻き消すほどの轟音。
すぐさま首を横に振り、周りを確認する。
遠くから煙が上がっている。
「爆発…?」
「かか火事…?」
どうやら遠くで何かあったらしい。
マンションから見た時に街の所々にあった煙と関係あるのだろうか。
「何だろう…?」
「ななななな…」
奥のビルの12階ぐらいの高さが激しく燃えている。
火事でガス管などに引火して、爆発したのだろうか?
いや、違う。
爆発じゃ無い。
その奥のビルの更にその手前のビル。
直感した“ナニカ”が来る。
——————ドーーーンッ!!!
——————ドーーーンッ!!!
“ナニカ”が高速でこっちに飛んできている。
ビルとビルを貫通して“ナニカ”が来る。
——————ドーーーーンッ!!!
——————ゴロゴロゴロゴロッドーーーンッ!!!
そして、それは兎とフブの真横を高速回転し着陸した。 着陸というより墜落に近い様な気がするが…。
転がってきた地面が所々えぐれている。
ぶつかった先のコンクリートは酷く大破し、見るに耐えない形になっている。
——————太陽の陽が影り辺りが若干、暗くなる。
「ッッッ!!」
「なななななななななっ!!」
2人はアワアワし転がってきた“ナニカ”を見る。
少しづつ漂う砂埃が薄くなっていき、“それ”が見え始める。
「人…?」
コンクリートにお尻がめり込んでジタバタしてる…チャイナ服の女…が。
んー。
…え。
何だ…?
謎だ。
アレはなんだ。
単発的な思考が頭に羅列する。
道路がえぐれるぐらい転がってきても元気にジタバタしているチャイナ服の女…。
——————『カンネロードォォォォオオオオ!!!』
「うわっ…なんか叫んでる…」
「ふふふふ不審者…カチカチの不審者…」
恐らく誰かの名前を叫びながらジタバタしている。
まだ、お尻がコンクリートの壁にハマって抜け出せない様だ。
——————ドカーーーーンッ!!!
再び轟音が鳴る。
砂埃が舞い視界が再び塞がれる。
また数秒して砂埃が薄くなっていく。
お尻が挟まってジタバタしていたチャイナ服女の後ろの壁が消し飛んで無くなっていた。
「ななななななななッ!!!」
「なっっっっっっ!!!!」
フブと兎が同じ様なリアクションをする。
度重なった轟音のせいか体が恐怖で動きたがらない。
その場でじっとしている2人にチャイナ服の女がゆっくりと近づいてくる。
——————タッ。タッ。タッ。
(なななななんか、やばい)
私は動きたがらない体を無理矢理動かした。
それ故か…恐怖故か…、腰を抜かしてしまった。
一方、フブは静かに体の重心を落とし、いつでも兎を抱えて逃げれる体勢を確保した。
そして、2人は本能から感じ取った。
後ろを向いて逃げてはダメな気がする。
きっと一歩、何かが違えば簡単に命が消える…。
フブが思考を巡らせて唾を飲む。
兎を見る、兎は腰を抜かしてフブの足にへばりついている。
コアラみたいだ。
女が近づいてきた。
姿が鮮明に見える。
チャイナ服を着たその姿。
頭に2つのボンボンを付けているツインテールの様な髪型。
目尻が赤い…全体的にフブより体は小さく凄く細身に見える。
兎と同じぐらいの身長だろうか…?
いや、兎より小さいな…。
私はこの小さな女の子に本能レベルで危機を感じているのか…?!
フブの目の前に来た。
チャイナ服の女は何を言うでもなく、兎が落としたきゅうりの浅漬けを地面から拾い一口かじった。
——————シャクッ。
「…」
「なななッ…」
怯える兎、体が力むフブ。
女はきゅうりの浅漬けが思ったより気に入ったのか、フブが持っているきゅうりの浅漬けも静かに奪い取って食べた。
——————シャクシャク。ゴクっ。
——————ハァ〜…。
ため息が聞こえた。
謎が謎を呼ぶが気軽に話しかけてはいけないそんな異様な雰囲気を漂わせている。
兎は震えて私の足にしがみつき、コアラみたいになっている。
私が何とかしなければ。
それにしてもコンクリートが大破しているのにこの女の体には傷ひとつついていない。
ビルとビルを突き破るほどの勢いで飛んできたんだぞ…。
その女はきゅうりの浅漬けを食べ終えた後、肩を丸める兎の背中に座った。
『ハァ〜…余計にお腹空いたわ。アンタらここの人?』
突然話しかけられて言葉がパッと出てこないフブ。
(えーと、まぁ嘘つく理由もないか…)
でも、言葉を口にするのがとても怖い。
ぜっったい怒らせない様に気をつけよう…。
「そ…そうだね。私達はここの人だよ。」
自分でも自分に驚いたなんかいつも通りの口調で話せた。
『そっ。なら、私に良いもん食べたせてぇ〜な。お礼は弾むで。』
「…うん、わかった。」
どういう系が食べたいですか?とは聞けず流されるフブ。 しかし、兎に乗るのはやめて頂きたい…怒りを買うのも怖いどうするか…。
でも、怖いけど…考え過ぎも良くない…か、言ってみよう…
「あ、あの。その子の背中に乗っかるの辞めて貰っていいですか…」
『…ん?』
やばい、少し言い方がきつかったか…?
しかし、リカバリーはもう考えている。
兎にもやったアレだ。
「その場に座りたいぐらい疲れているなら私がおぶるよ!」
何だこのテンション、自分でも少し怖いな…。
さぁどうなる…。
フブは前と同様しゃがんで人を背中に乗せれる様に体を丸くする。
すると静かに兎の背中からフブの背中に乗り換えたチャイナ服の女。
怒っては…なさそうだ。
よかった。
「乗り心地はどうですかぃ?」
チャイナ服の女はしばらく黙った後にポツリと言った。
「やっぱり、人の背中はあっこぉて、いいなぁ。」
———————————————#####
私ははカタカタと震え、フブの様子を伺っていた。
ひぇ…チャイナ服着た女が私達の方へ歩いてきたッ…。
怖いッ怖いッ怖いッ…!
なんだ、あの破壊力を持った女は超能力者…?
分からない…が、私は確かにあの瞬間見た。
コンクリートの壁をパンチでぶち抜いたチャイナ服女の姿を。
フブは見えていただろうか…。
一瞬の出来事だった、とにかく怖い。
(怪物、殺される…)
ん?
背中にあの女が乗ってきた。
(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああやばい。)
死ぬ。
私、死ぬ。
助けて、神様。
フブ様ぁ。
しばらくして背中が軽くなった。
反射的にフブの方を見た。
フブはあの女を背中におぶって、何か話している。
怖くてあまり何も話を聞けていないがまたフブに助けられた…気がする。
でも、あの怪物が隣にいる状況は変わっていない。
けど…フブのおかげで少し物事を考える余裕が生まれた。
私はこの小さな脳みそで役に立とう…。
《私は3秒で考える。》
あの女は超能力者なのか…?
話が通じる辺り無差別殺人鬼みたいな人ではなさそうだ。
でも、機嫌が悪そうだ…怖い。
…。
フブにご飯を要求している?
ビルとビルを貫通するほど、何かに凄い勢いで吹っ飛ばされてきた。
トラックとか…いや、コンクリートにぶつかって無傷だったそんな奴がトラックになんて、飛ばされるわけがない。
しかも、ビルとビルを突き破るあの勢いはトラックの何百いや、何千、何万倍のエネルギーが必要なはずだ。
一体どうやって吹っ飛んできたんだ。
同じ超能力者がいて…対決して…吹っ飛ばされた…?
でも、もしそうだとしたらきっと吹っ飛ばした方の超能者の追撃があるはずだ。
今の所は〜…無さそうだ。
それに吹っ飛ばされた事で何かを諦めた…様子に見えた。
勢いから見て…一体、時速何kmで飛ばされて来たんだろう。
何故、チャイナ服女は敵を追いかけない?
チカラはあってもスピードは出せないから追いかけないのか?
もう、ここは勘で行くしかない。
1番濃厚な説は同じタイプの能力者的な人に吹っ飛ばされたって説だ。
多分、お互い追撃しないと言うことは勝負的な戦いじゃなくて、偶発的に出会ってやり合った感じだろう。
なんだか…今日は頭がよく回る。
フブがチャイナ服女の気を引いてくれているおかげで気が楽だ。
「兎、ほら立って。とりあえずなんかご飯を食べに行くことになった。」
「え…。あ、うん。」
やばいッ…チャイナ服女とフブの会話あんまり聞いてなかった…状況がわからない。
『ん〜…?アンタぁ〜うちとご飯行くの嫌け〜…?」
チャイナ服女の圧が凄い、今にも押し潰されて殺されそうだ。
フブの背中から見える顔は太陽の日照りの性か、黒く暗い影になっていた。
「いいいいいいいいいべべべべつに…」
『そうか〜。良かったわ〜。』
「ねぇ゛ーーー!!!兎をイジメないで!!」
『嫌やわ、イジメてなんかないよ。』
なんだか打ち解けてる…?
いや、そんな事無い。
フブの顔を見ればわかる。
アレは…きっと、怯えている。
私が人の話も聞かず色々考えてる時にフブはチャイナ服女と何かを話していたんだろうか?
きっと色々話していたに違いない。
あの女の雰囲気は何だか妙に妖艶で…命を狙うバケモノみたいな感じがする。
私より若干背が、小さいのに何だろうこのオーラは。
「じゃぁ!フブちゃん特製カレーライス夏ver.きゅうりの塩アレンジを振る舞う時が来たか!」
そのフブの言葉に関西弁のチャイナ服女は答える。
『いや、ええわ。そこら辺で早く食べれる美味しいもんがいいわ〜。疲れたねん。もう今日はあんまり動きたくないからな〜。』
その言葉に緊張で張り詰めていたフブと兎からツッコミが漏れた。
「さっきコンクリぶち抜いた人が疲れたって…」
「つつつ疲れた…?」
兎はフブの背中に乗ったチャイナ服女の顔を見て様子を伺った。
怒っては〜…いないみたいだ。
良かった。
このツッコミで殺されていたら私達の最後の言葉がツッコミになってしまっていたから。
「じゃあ、私達がよく行くラーメンでいい?」
フブがチャイナ服女に問いかけた。
その当人は話も聞かず首を縦に振った後、体を脱力させフブの背中でダラダラしていた。
ゾンビの映画世界ごっこはもう中断せざる得ない。
ゾンビよりもやばい奴と出会ってしまって、私達はその人とご飯に行く事になった。
ん…?そう考えたら私達が1番やばいのかもしれない…。
「ねぇ、あなた名前は何て言うの?」
『あー、うちはメイトン、可愛い名前やろ?』
「え〜いいなぁ!可愛い〜!」
フブは無理矢理いつものテンションで取り繕い名前を褒める。
この恐怖はきっと本能からの警鐘だ。
———————————————#####
——————ガラガラガラッガンッ。
ラーメン屋の扉を開け様とするが、長年使われていた扉だった為、鯖が開閉の邪魔する。
「あ、開かないや。ちょっと〜店長ー!!ねぇー!!また開かないぃー!!!ねぇ゛ーーーー!!!」
いつもなら、店の中から店長が扉を開けてくれるが…今日、店の奥からは返事がない。
でも、店長が店を離れる事は結構あるからあんまり気にしない。
多分、タバコ休憩とかだろう…。
偶にある事だ…。
——————ガンッ、ガンッ、ガンッ。
「うぇ〜。開かないよ〜。ねぇ゛ーーー!!!てーんちょぉ!!!」
『うるさいな〜…ちょっとうちが開けるから。私の体、扉に寄せてぇな。』
「あ、うん。」
フブの背中に乗ったまま腕を伸ばして片手で扉を開けるチャイナ服女。
——————バキャッ!!!
「おー流石、コンクリ破壊するだけあるわ…」
「ななななななな。」
ひしゃげる扉は、見る人が見れば熊が出たと思うだろう。 クマでも素手でコンクリは破壊出来ないだろうけど…。
フブが店内を見渡し店長を探して厨房にズカズカ入っていく。
厨房入っていいのかな…フブ…。
フブは気付いていないけれど、あのチャイナ服女が店の扉を無理やり開けた時、違和感があった。
おんぶしているフブの体にチャイナ服女が扉を壊した時の反動が一切伝わっていなかった。
一体どうすれば、そんな事ができるのだろうか。
扉をひしゃげさせる力で開けたんだ、それなりの衝撃がフブの体に伝わって良いはずなんだ。
明らかに物理法則を無視ししている様に見える。
それともエネルギーか何かを飛ばしたのか?
いや、そんなの漫画の世界でしか見た事ないし…。
『なんや?浮かへん顔して、うちの事が怖いんか〜?』
「いいいいいいや、べべ、べ別に…」
自分の考えをのぞかれている様なタイミングでチャイナ服女に話しかけられた。
フブは店長を探しに店の奥へ消えてしまっている。
つまり、今…私を守ってくれる人はいない。
故に失言は許されない。
——————トポポポポッ、カッカッカッ。コトンッ。
チャイナ服女がコップに水と抹茶の粉を入れて混ぜる。
『何考えてるか知らんけど、うちは無差別殺人鬼とちゃうよ〜。まぁ出会い方が悪かったよなぁ〜。』
「そ、そそそそのチカラ…なななんですか…?」
つい踏み込んだ質問をしてしまった。
好奇心が恐怖を上回ってしまった。
やばい。
死ぬか?
——————ギュッ。
「あひぃ…」
チャイナ服女が兎の手を指先と指先を絡め合う様に握った。
『細いし〜、白い綺麗な指やなぁ…うちの手も負けてへんやろぉ?』
「な、ななっ、ななっ…」
さっきコンクリをぶち抜いたり、ビルとビルの間を突き破ったりして来たのに…“手が綺麗だ”。
しかし、そのチャイナ服女の指は柔らかかった。
爪で引っ掻けばすぐに血が出る様な柔らかい肌だ。
『うちはチカラ強いねん、もう、それはそれはもぉ強いんよぉ〜。だからなぁチカラ加減がわからんのが悩みなんよなぁ。』
———グググッ。
手を握られる力が強くなる。
「い、いたッいたい…」
『うちなぁ思うんよ、世の中にはわかっても口に出せへん方がええ事もあるって…』
——————グググッ。
「わ、わわッわ、わかっ…わかっ…たっ。」
———パッ。
手が離される。
ちょうど、それと同時にフブが店の厨房から帰って来た。
しかし、隣に店長の姿は無かった。
そしてフブは私とチャイナ服女を真っ直ぐに見た後、ポカンとした顔で言った。
「店長…。死んでた。」
今回少し長くなってしまいました。話が進むにつれて設定、世界観、入れなければならない事と入れたいセリフ仕草が多すぎて纏めきれません。不甲斐ない限りです。
【あれ、私だ。】




