〔第57話〕爪剥ぎ爪剥ぎ爪弾き
割とすぐ222来ます。
ラスターの名誉のために言っておきますが、彼はかなりキツイ拷問を受けた後なのでとても情緒が不安定になっています。
スフィアやベクターに乗る人達は全員精神力がとても強いのですが、今回のラスターはかなりギリギリです。精神崩壊寸前って奴です。
——————バキィッ!
痛々しい音が響く正方形の部屋の中、ボロボロの石壁が男の絶叫を乱反射させる。
——————バキィッ!!
爪の上にできる逆剥けを剥いた事はあるだろうか。
まぁ、ピッて引っ張ったら痛いわな。
——————ベリィッ!!
それのLv.100が爪剥ぎだ。
——————パキィッンッ!!
叫んでも叫んでも終わらない。
——————バキィ!!!
同じ質問を繰り返される。
俺は本当に何も知らない聞かされていない。
——————バキィ!!!
ダグラス•モニカからは最低限の作戦の事しか聞かされていない。
ダグラス•モニカは俺がこうなる可能性を考慮して教えなかったのだろう。
——————バキィ!!!
大正解だ。
——————バキィッ!!!
メイトンはどうやって連合の物資を受け取っているか。
ずっとそればっかり聞いてくる。
おれはしらない。
——————パキィッン!!!!!
おれはしらないほんとあた
おれはなにおしらないんた
しんしてほしい
おれはほんとになにも
——————バキィッ!!!!!!!!
たからほんとにおれはなにもしならない
しんしてくれよ
やめれほりいもうやめへくせ
ちゃんほはらしをきいてほひい
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ラスターは薄暗い牢獄の中にいた。
床には柔らかいマットが敷かれ、仕舞いにはふわふわのベッドまで用意されていると来た。
これはなかなか待遇が良いのでは?
…そう思っていたのだが、流石ヴェルサイユ陣営。
やる事はきっちりやるのな…。
「痛…」
ラスターは腫れた顔面を爪の無い手で撫でる。
「俺はダグラス•モニカから何も聞かされてねぇってのに答えようねぇじゃねぇかよクソ…」
ラスターは受けた拷問を思い出し身震いする。
両手の手の爪が後1つか2つ多ければ俺は気が狂っていたに違いない。
——————トットットッ。
薄暗い牢獄の外から軽い足音が近づいて来る。
——————トットットッ。
しかし、人影は一向に見えてこない。
「まさか、もう次の拷問の時間か…」
しかしラスターの声に返事はない。
足音も完全に無くなり、少し不安になるラスター。
「おい、ホラー映画でこういうの観たぞ。やめてくれよ…。なに?爪剥がした後はこーゆーごーもんか?ハァ…勘弁してくれよほんと…」
すると、ラスターの牢獄の前にカシャンッと音を立てて大きな皿が置かれた。
「おい…ガキが何の様だよ…」
それと同時にラスターの目の前には癖っ毛が目立つ謎のお面を被った小さな子供が立っていた。
『これは私の質問に嘘偽りなく答えてくれたらあげる。』
「あ?これって…。おい、まさか。ハンバーグじゃねぇか…」
『たしか…連合で肉を食べられる人間なんて、ほんの一握りなんじゃなかったっけ?」
ラスターは無意識出たヨダレを腕の裾で拭い、その皿に向かって牢の隙間から手を伸ばしていた。
『テイッ!!!』
——————ドスッ!
牢から手を伸ばしたラスターの腕が無慈悲な子供のキックによって引っ込められる。
「痛ッてぇな!何すんだよ!」
『まだ質問すらしてないだろ。はやとちるな獣。』
「獣ってお前…」
そして謎のお面を被った子供は自分の指を2本を立ててピースの様な形を作りラスターに言う。
『私が知りたい事は1つ。』
「…指は2つになってんぞ。」
『メイトンはどうやって連合の物資を受け取っているか。それに嘘偽りなく答えたらこのエサをやろう。』
ラスターはその質問に内心怯えたが、疲れさえも感じた。
「お前もその質問かよ…」
『そうだ。しかし、お前がこの機会を逃せばこのハンヴァーグは食べられない。』
「本当に何も知らない…けど…」
ラスターは自分の中で天秤に賭ける。
何も知らないが、断片的な意味のあるかどうかもわからない連合の情報を隠して惨めに死ぬか。
連合の空軍の全てを話して、この終末世界における人生最後になるかもしれないハンバーグを味わうか…。
「俺はな…大人だぞ。こんな飯1つで知ってること喋ると思ってんのか。しかも、俺ホンッットに何も知らねぇんだって。」
『デミ』
「デミ?」
『デミグラァァスッ…』
「…うわぁ…性格悪ッるいなお前、もしかしてそれ、食欲唆らせようとしてんのか?」
『君はかの有名なラスター•エネ•ウォンスキーだ。連合の空挺部隊の絶対的エースであり過去最高のスコアを叩き出した世界に数人しかいないラウンドの称号を持つラウンダーだ。こんな所で死んで良い才能ではない。』
その言葉を聞いたラスターは一瞬目を丸くし、視線を下へ落とす。
「ハハッ…こりゃぁ大層な勧誘だな。だがな、この世の中ってのは広いんだぜ。連合の空挺には俺より強い奴がゴロゴロいたぞ。」
『でも、居たって事は、そいつら全員死んだんでしょ?』
「言っとくがな、俺は強いが卑怯だし臆病でもあるんだ!………まぁ…テメェらヴェルサイユ側にはうってつけの性格ではあるのか…不毛。」
『そうだ。こっち側に来るべき人間なんだよ。』
「チッ…皮肉にも無んねぇのかよ…」
『好きなおもちゃは近くに置いときたいじゃん?』
「うわぁー…引くわー…流石のラスターさんもその発言ドン引きですわー。」
『えへへ。そう?』
「褒めてねぇよ。てか、いい加減そのツラ拝ませろよ。どーせ俺は何の質問にも答えんよ。そもそもメイトンの事について何も知らんからな。」
『デミグラスハンヴァ〜グッ。デミグラスハンヴァ〜グッ。デミグラスハンヴァ〜グッ。』
「だからッ、食欲唆らせようとす…テメェ。まさか、new orderか?」
『はい残念〜!安直だねぇ〜ワ↑タ↓シ→の下手な物真似に引っかかるとか愚カワ〜君は歳の功と言うものを重ねてこなかったのかにゃ〜!』
「はい〜きっしょい奴〜。いたわいたわ。連合の上層部に腐り切ったそーゆー奴いたわー→。」
少女は付けていた何とも言えない謎の仮面をポイッと床へ投げ捨て、牢越しにラスターと対面する。
すると、みるみる内に子供の肉体が変異していき成人程の体の大きさになった。
『改めこんばんは、ワタシ“ニヴァ”。』
「いや、だから結局誰だよ…」
『んー強いて言うなら貴方の神様かにゃ?あ、具体的にはヴェルサイユの師団員してまーす。』
「ハンバーグを人間に渋ってるヴェルサイユ師団員の神様がいてたまるかよ!」
『んーまぁね。ただね?ワタシ目線ダグラス•モニカのトンチななぞなぞを解いてるだけなんだよ。』
ラスターはニヴァに爪の無くなった手を見せた。
「俺の爪返せよ。いや、人生でこんなセリフ吐くと思ってなかったわ。…いや、まぁ爪もそうだけどさ…俺の顔見りゃボコボコに殴られまくった事ぐらいわかるだろ…。パンパンじゃねぇか俺の顔?」
『ワタシ、人を見た目で判断しないからわかんにゃい。』
「うん、あぁ…うん、それは良い事だな。いや、見た目というアイデンティティを軽んじた行為にイイ事と言っていいのかラスターさんは疑問を呈しますよ。いや、まぁそんな事どーでもいいわ。ていうかさ、もうさ、もうすぐ殺されるであろうこのラスターさんにハンバーグをあげてやってもいいんじゃないでしょうか神様?」
『ん〜でも、なぁ〜。神様って言った時、若干馬鹿にしてたからなぁ〜…』
「めんどくせぇなお前…あー疲れた…。もういらねぇからどっか行けよアホ。」
『ふむふむ…』
「…何だよ。何してんだよ。」
ニヴァは自分の指を顎に添え、ラスターの顔を牢屋越しにジロジロ見る。
それはまるでラスターの思考を直接覗き込む様な不気味さがある。
『へー、君本当にダグラス•モニカから何も教えられてないんだね。』
「あぁそうだよ。こうやって拷問されても作戦内容バレない様にする為にな。チッ、心覗ける系の奴がいんなら最初からそうしとけやッ。」
『まぁなぞなぞは自力で解きたいじゃ〜ん。そもそもワタシ、捕虜の尋問に参加できる部署じゃないんだよね〜。だから、こうやって貴方に直接答えを聞きにきたの。』
「…まぁ結局俺は何も知らなかったんだから、答え合わせに来た意味なかったな。…何も知らねぇ俺はこの都市にとって無価値だ。明日にでも処刑されちまうだろうよ。」
『はい、どーぞ。』
——————コトンッ。サーーーッ。
「…?」
牢の下から滑り込む形でハンバーグの乗った皿か入れられる。
『もう冷めてるだろうけど。』
「…ハァ。長時間に渡る拷問の中で誰も俺の言葉を信じてくれない辛さ、終わらない痛み…」
綴られるラスターの言葉の端々に痛みが伝わってくる。
『うんうん。』
「敵であれ、信じてくれないってのはこんなに辛いもんなんだな…」
ラスターはそう言うと、素手でハンバーグを掴み齧り付いた。
「チクショォ…クソうめぇこのハンバーグ…」
ボロボロ涙を流すその姿にニヴァは神様の様な優しい笑顔を向ける。
「あぁチクショ…チクショ…てめぇが本当の神様に見えちまうだろうが…チクショ…」
ニヴァは牢屋から背を向け歩き出す。
『んじゃまたね〜。次ワタシが来た時までにダグラス•モニカのトンチなトンチの答え、考えといてよね〜。』
(もうすぐ222が来ちゃうけど、ワタシの予想が正しければその前にもうひと波乱あるから。そこで君は決断しなよ。あっちかこっちか。そっちか。)
空腹の状態でデミグラスハンバーグって書くの辛い。
【あの時になんて思わなかった歌詞が今になってこんなに刺さるのは何故でしょうか。しかし、私にとってそれだけが歳を重ねる楽しみになってしまいました。】




