表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
周回移動都市ヴェルサイユ  作者: 犬のようなもの
《セカンドオーダー編》            [第一章]ようこそ新世界へ
7/51

〔第6話〕遭遇

※日常編を飛ばしてセカンドオーダー編から読もうとしている… そこのアナタ…一話からじゃないと内容分からないと思う…


ねぇ゛ーーー!!!




今回は兎とフブの話です。新キャラメイトンが出てきます。

 私は兎、けして跳ぶことは無い。

 面白くない学校での日々、授業は簡単すぎたけど、

 友達を作る事は難し過ぎた。

 でも、今日はフブと朝からアニメをリアタイ(リアルタイム視聴)するクラスで超人気者だったあの委員長と一緒にだ。

 誰が何と言おうと私は勝ち組であろう。


 でも、朝アニメのリアタイを提案したのは私だ。

 自分から提案した癖にフブに起こされた…。

 うぅ、不甲斐(ふがい)ない、恥ずかしい。

 フブは私が起きるより前にずっと早く起きて朝ごはんを作っていたそうだ。

 確かに今日の朝食はいつもより豪華な気がする。

 朝ごはんを食べながらテレビをつけて視聴の準備をする。


「ねぇー兎。あの空にある切れ目ってさ、やっぱり異世界とかに繋がってるのかな?」


「いいい異世界があったら一回は行ってみたいね。」


「ねー。」


 空には大量の飛行艇と戦闘機がホバリングしている。

 空にできた裂け目を警戒しているのだろうか?

 というか、裂け目の少し下にいるロボットみたいな奴は異世界からやって来たのだろうか…。

 兎が色々考えている中、フブは立ち上がり兎の顔をガシッと掴んで下を向いた顔を上げさせる。


「不安なのはさ、わかるけど今は目の前のミッションをこなそうぜ!」


「あああアニメ見るだけじゃじゃん…みみみミッションってそんな大袈裟な…」


 アニメがオープニングと共に始まった、いつも聴く曲に心が踊る。

 毎回毎回オープニングで泣きそうになる程このアニメが好きだ。

 そうだ、フブの言う通り今は目の前の事に集中しよう。


 そして集中した。 




 アニメは次回で最終回を迎える。

 悲しいけどフィナーレに畳み掛ける大どんでん返し。

 考察が(はかど)るフブと色々話したあぁでもないこうでも無いと、そして気づいた。


「フ、フフフブ…窓の外…」

「嘘だろ…随分キレイな空になりやがったな…」


 本来はそこにあって当たり前の“綺麗な空”…しかし空の下の街には煙が立ち込めていた。

 そう、恐らく墜落させられたのだ。

 あの数の戦闘準飛行飛行艇や戦闘機が全部か分からないが堕とされた。


【ナニカ】に堕とされた。



「そそそ空綺麗になった…ね…」

「こ、これは…何と言うか超ド級だね…へっ…」


 フブが無言で立ち上がり大きなテーブルを上から見下ろして何かを探している。

 それは見つからなかったらしく大きなフカフカのソファに目をやっている。

 フブの顔がパッと明るくなった。

 可愛い…探してたものが見つかったのかな。



 ーピッ。



 どうやら探していたのはTV(テレビ)のリモコンだったらしい。

 表情豊かで分かりやすいフブに心を(なご)まされている兎。


『未知のウイルスが街を覆っています。この事態にサキミネ防衛大臣はただちに感染が広がった地域を隔離し対象すると発表しました。』


 フブは何だか歯痒(はがゆ)い所に手が届かない様な感じで兎に言う。


「ねぇ゛ーーー!私達が昨日まで見てた空は幻覚だったわけぇ!?なんでTV(テレビ)でやらないわけぇ!?ねぇーーーーーー!!!!」


「こここ国家機密にしては、随分おおっぴらだったね…あの数…」


「今、私達はゾンビより、あの空間の裂け目が気になるの!」


 フブのその言葉に兎は思い出した様に空を見る。

 空間の裂け目が無くなっている。

 大量の飛行艇が街に落ちて街は煙で溢れかえっているのに…。

 もしかして、空間の裂け目の下にいたロボットに全滅させられた?

 いや、あの数をあの一機だけでどうこう出来る気がしないけど…。

 そもそも空間の裂け目が閉じたのは何故だ…?

 もうやる事を終えたから…?

 それとも【ナニカ】をこっちに送り込んだから…?

 そのナニカが飛行艇達を全部堕としたってこと?

 いや、違う。

 飛行艇達の数はこの街に充満している煙の量と比例していない。

 撤退したのか?

 いや、裂け目が無くなっているんだ【ナニカ】を討ち取ったのか…?

 討ち取ったら裂け目は消えるのか?


「ねぇー!兎!」

「ええええと…なんて?」


「もー!ボーッとして!今日はきゅうりのタネを買いに行くよ!外にゾンビがいるかも知れないから、下に防護服着て行くよ!」


「ははは初めて着る…ううう上手く着れるかな…」


「大〜丈夫、私が手伝ってあげるから!ほら、脱いで!」


 今着ているパジャマを(なか)ば強制的に脱がされて下着姿になる兎。

 少しの恥ずかしさで目が若干泳ぐ、そんな事気にせんとばかりにフブは真っ直ぐ見つめる。

 フブは兎の寝室の棚から防護服を持って来て兎の手を上げさせ防護服を着せる。

 今着ているのは有事が多くなったこの時代の為に作られた国民全員に配布されている防護服。

 地震や津波、戦争の時用に作られているらしい。

 私は着たことが無い…。


「あれ…?これ私のやつとちょっと違う気がするけど…?気のせいか。」


「そそそうなの…?」


 フブは防護服の肩に付いているツマミの様な物を少し曲げる。



 ———フシューーッ。



 か細い空気が抜ける音が聞こえる。

 すると防護服が兎の体に沿ってゆっくり収縮し始める。

 体のラインが丸見えになり兎は肩を丸める。

 それを見かねたフブが兎の後ろに周り防護服がちゃんと着れているか確認を始める。


「うんうん。ちゃんと着れてるね。」

「は、ははは恥ずかしい…」


「何〜んで〜ッ!せい!!!」


 フブは後ろから兎の両肩を両手でガッシリ持って、体を()らせる。

 兎は小柄ながらに豊満な体を(あら)わにさせる。


「ひひゃぃッ!!や、やややめんてぃ!!」


 (兎の体って…ごくわずかだけど何か普通の人とは違う気がする。具体的に何が違うかどこが違うか分からないけど…)

 フブが勝手に考える。

 兎の運動不足の体には、電撃が走る。

 腰…というか背骨が痛い…長らく縮めていたからカチコチだ。

 あ、でもフブの防護服はこの家にない。

 本当にそこまでやらなければならないかと言う気持ちもあったが…んー…あっ。


 ゾンビ映画ごっこしてたの忘れてた。


「フフフブ…フブの防護服はどうするの…?」


 兎が心配そうに問いかけたが、フブは自信を持て余した様な顔で自分の胸を叩き言った。


「私は毎日着てる!」


「え、めめめめんどくさくない…?」


「だってこんな凄い物、国からタダで貰えるんだよ?使わなきゃ勿体ないじゃん!」


「たたた確かに…」


「ほら、事故とかにあってもこれのおかげで無事だった人もいるみたいだし!安全に越したことはないよ!」


 その言葉にフッと兎の記憶が蘇る。


 [ここ25階ぃぃぃぃぃいいいいいいい!!]


 いや、流石に25階からじゃ落ちたら助からないでしょ…。

 まぁフブもそこまで防護服を信用してないだろうけど、フブは貧乏性(びんぼうしょう)な所があるから少し心配だ。 いや、私がフブの心配をするなんておこがましいにもほどがあるか…。


「ほら、外にはゾンビが蔓延(はびこ)っているから慎重に行くよ!」


「き、きききゅうりのタネの為に生きて戻ろう…」


 そして2人は玄関を開けて外の廊下に出る。

 広い廊下の奥にエレベーターがある。

 エレベーターの所まで歩いて下に行くボタンを押そうとした時、フブに腕を掴まれた。


「アッヒャぃ…なななに…?」


「ねぇー…。うーさーぎ…本当に言ってるの?この世界はゾンビに(おか)されているんだよ?エレベーターに乗ったら行き先は1つそこに着いたら逃げ道はないんだよ?」


「たたた確かに…。でも…かかか階段で行くの…?」


 むむむ無理だ私の体力じゃ階段なんて使ったらへとへとになる…。

 嫌な顔をする兎にフブは背中を後ろに向けてしゃがんだ。


「…?」


 兎は戸惑う。


「ほら、乗って!おんぶ!おんぶだよ!」


 更に戸惑う兎。


「ゾンビから逃げるにはねぇ体力が大事なの!兎が体力を温存する事で兎の生存率が上がるでしょ!」


「ででででも、フブは疲れる…」


「私は日頃から運動してるし大丈夫!ほれ!のれぇい。」


「ワッ。」


 (なか)ば無理やりフブの背中に乗せられた兎はその背中の筋肉に驚く。

 何と言うか見た目が細いのに背中がしっかり柔らかい。

 柔らかい筋肉がぎっしり詰まっているみたいだ、肩の筋肉が使われる時とてつもなくその部分が硬くなる。何と言うか…凄い。


「わぁっ…兎軽いね。」


「わわわ私、運動不足で太ってる…」


「そう…?なんか見た目通り軽くてすいすい階段降りれるよっ!!!」


「ちょっ、あぁあっ!」



 ——————トットットットッ。



「はははは速いッてぁ!」



 ——————トットットットッ。



「はははは速いィ!!!」

「へへっ!兎専用フブの即席ジェットコースターだぁ〜!!!」


 フブの階段を降りる速度がどんどん上がっていく。

 落ちない様にしっかり捕まった。

 でも乗り心地がとても良かった、この速度と揺れがありながらしっかり体幹を使って真を通している感じだ、揺れが極限まで抑えられている。

 やっぱり運動できる人って凄い…。


「ほ〜れ到着っ!」


「フフフブ…ゾンビが居ないかクリアリングしないと…」


 ジェットコースターでテンションが少し上がって満更でもない兎、ゾンビ映画の世界観に没入し始める。


「そうだね!」


 フブが明るく返事する。

 兎は自分で提案しておきながらフブの後ろに隠れる。

 フブは気にせずに階段から1階のロビーに繋がる扉をゆっくり開けて外を確認する。


「ん〜…」


 フブがそう言ってゆっくり扉を閉める。


「どどどうしたの…?」


 若干の小声でフブに問いかける兎。フブの表情は眉をひそめて険しく何かを考えている様子だった。


「…いるね。」


「………ん?」


「んー、ゾンビいるね。」


「あー…そそそそうなんだ…」


 2人の会話は一旦ここで途切れた。

 兎は扉を開けて自分から見ようとしない。

 フブの言葉を疑っている訳ではないが状況を読み込めない。

 多分フブも同じだろう。


「はて、う〜ん…もう1度見てみるね。」


 ゆっくり扉を開けて顔を覗かせるフブ。

 ゾンビを探すかの様に周りをキョロキョロ見回す様子を見せ再びゆっくり扉を閉める。


「居なくなったね…」


「え…」


「んー…。こういう時ってさなんかロビー血だらけ〜とかそういうのあるよね。ないって事は気のせいかな…?」


「ぞぞぞゾンビじゃなくても…ボロボロの人がこのマンションに入った…とか…?」


「んー…兎のこのマンション格式(かくしき)高そうだし、そんなボロボロの人、入れないと思うよ?」


「うううん…確かに…」


 2人は黙り込んだ後、結論に至った。

 警戒しつつ“気にせず”に行こう。

 一見、矛盾している様に聞こえるこの言葉。

 しかし、世の中には私達の理解に及ばない“気のせい”があるのだ。

 体が感知したその“気のせい”はきっと何かの異変で見過ごせる物ではない。

 だから、警戒して“気にしない”なのだ!!



 ——————ガチャンッ!



 勢いよく扉を開けるフブ、兎はフブの後ろに隠れて出る。


 バッと出た先に見えた景色。


 いつも通りのロビー…に血。

 さっきまでは見えなかった場所に、ポタポタした血の点が線上に続いている。


「ねぇ、兎…?私が見たのはさ。フラフラして足を引きずった顔がぐしゃぐしゃの人なんだけど…もしかして…」


 フブの目線の先に居たのはいつもロビーにいる受付のおばさんだ。


「ううう、受付のおばさんの事?」


「んー…私が見たのは違うんだけどなぁ…」


 鼻血を出して広いロビーの中央に突っ立っているおばさん。

 なんというかチカラが抜けた肩にぶらぶらさせた腕…確かにゾンビに見える。

 フブはゾンビとおばさんを見間違えたのだろうか。


「おおばさん…だ、だだだいじょうぶ…?」



 ——————ピチャッ。ピチャッ。ピチャッ。



 おばさんの鼻から出る鼻血が滴る音で場が凍る。

 おばさんは血が出ている鼻を抑えようともしていない。 フブがおばさんの周りを見渡した後、大きな声で言った。


「ねぇ゛ー!!!鼻血ぃ…?出てるけど大丈夫゛〜…?」


「?!?!」


 いきなり大声を出されてびっくりする兎。



 ———ピチャッ。ピチャッ。ピチャッ。



 ゆっくりおばさんの顔が上がる。


 その顔は血まみれで血を流しすぎたせいなのか何だか青い様に見える。

 ゾン…ビ?


「ごめんなさいねぇ…私、今ボーっとしちゃっててね…」



 ——————ピチャ。



「あら、鼻血が出て、あら兎ちゃんのマンションのロビー汚してごめんねー…」


 フブの後ろから顔を出して兎が反応する。


「いいいいえ、す、す凄く体調が悪そうなので…き救急車呼んだ方が…」


 フブは兎の癖っ毛をイジイジしながら兎の方を見ている。兎はそれに気づかずスマホを取り出して119に電話しようとする。


「大丈夫よ〜。私、自分で電話するわ〜。」


「そ、そそそそうですか…お大事に…」


 兎がスマホをしまった。


 かわりにおばさんが自分のポケットからスマホを取り出して119に連絡し始める。

 電話を終えたおばさんは自分の裾で鼻血を拭き取り言った。


「何か用事があったんだろぉ?ほら、行ってきな私はもう救急車呼んだから大丈夫だよ。」


「本当に大丈夫ですか…?私達…救急車来るまで待ちましょうか?」


「ありがとうねぇフブちゃん。でも私はもう大丈夫だからほら、行ってきな。今、街は物騒な事になってるから気をつけてね〜…」


「で、でも…」

「おおおお大事に…」


 救急車が来るまで居座ろうとするフブの腕を無理やり引っ張って外へ連れ出す兎。

 フブはけげんそうな顔をしていたがこれで正解だったと思う。

 流行病(はやりやまい)とかだったら移されかねないし…。


 なんか…近寄ってはダメな感じがした。



 ———ゴーンッ。ゴーンッ。ゴーンッ。ゴーンッ。



 外に出た瞬間その音を聞いて思い出した。

 街にはまだ鐘の音が鳴り響いていた事に。

 でも、もう空間の裂け目も消えているし飛行艇達も居なくなっている。

 なんか数機墜落させられてそうな煙が有るが…。

 何だか本当にゾンビが出てきそうな雰囲気だ。

 でも、決して霧が出ていたり空が暗かったり赤かったりしている訳じゃない。

 快晴の朝だ。

 清々しい空気が鼻の奥へ抜ける様な〜…

 小鳥の鳴き声が耳を撫でる様な〜…

 いや、

 なんか、

 いつもと違う嫌な雰囲気がする。

 何でだろう…。


「ねぇーー兎…おばさん大丈夫かな…?」


「だだだ大丈夫だと思うよ…きき救急車もすぐに来るだろうし…」


「で、でも…さ?私、あの人に良くお世話になってたし…」


 まだ兎がフブに対して警戒心を(いだ)いていた頃の話。

 フブは兎のマンションに入る時、オートロックをあのおばさんに顔パスして貰っていたのだ。


「ああああのおばさん、ちょっと今日…こ、怖かった…」


「んー…?確かにちょっと血、流しすぎてボーっとしてた所はあったと思うけどそこまでかな?…あっ、てか!私の見たゾンビはおばさんじゃないんだけど!」


「えええぇ…みみみ…みみ見間違いじゃない…?」


「んー…私の事だからロビーに溜まってた血のせいで変な勘違いしちゃったのかな…?でも扉から覗いてた時は血…見えなかったけどな…」


 そんな会話で2人は雲ひとつない快晴の下を歩く。

 いつもより小鳥達がうるさい様に感じるがきっと2人の素晴らしき外出の後押しをしてくれているのだろう。



 ——————ピーポーパーポー。



 救急車が横目に通り過ぎる。

 おばちゃんが呼んだ救急車だろう。

 良かった。

 そして地元のスーパーに向かう、その途中。

 黄色い“キープアウト”と書かれたテープが巻かれた家を発見した。

 この家はこの間、髪の毛と肉塊が玄関から見えた家だ。


「ひぇッ…」


「あーそういえばここ何があったんだろうね〜」


「き、きききっと、さささ殺人事件とかだよ…」


「でも、ニュースもネットでも何ーんも出てこなかったよ?」


「たたた確かに…じゃぁ孤独死だったとか…?」


「あー高齢化社会だからねぇ〜その可能性は高そうだ」


 車が多い大通りの横を歩く、なんだか今日は車が多い気がする。

 平日の朝だからそんなものかと思ったが渋滞してる。



「何だか今日はそんなに暑くないね?」



 フブに言われて気づいたが確かにそうだ。

 防護服のおかげ…?

 いや、防護服にそんな体温調節機能は付いていないはずだけど…。


「そ、そそそうだね…す、涼しい快適な、朝…」


「やっぱり早起きして出歩くのは気持ちいいね兎!」


 うっ、眩しいその笑顔、笑った時に見える若干の八重歯が可愛い…。

 フブが楽しそうにしていると私も嬉しくなってしまう。


「ふへへっ…」

「…ん?どうしたの、兎?」


 キモい声が出てしまった…あまり人前で感情を出す機会がない弱点が出てしまった…。

 2人は地元の直売経営でやっているスーパーで、きゅうりのタネと店員が自前で使って売っているきゅうりの浅漬けを買った。


「このきゅうりを丸々1本使った浅漬け美味しいね!」


「お、おお美味しい…。わわ私達もこれぐらい大きい奴、育てたいね…」


「そうだね〜!いっぱい愛情込めて育てようぜ〜へへっ。」


 なんだろうこのきゅうり浅漬け、甘酸っぱい。

 癖になる味だ…また近くに来た時買わせてもらおう…。




 ——————ドーーーーンッ!!! 





「ウヒャイッ!!」

「あうぅっ!!」


 2人はそれぞれ大きな音に驚いて肩をビクつかせる。

 常に鳴っている鐘の音を掻き消すほどの轟音。

 周りを確認する。

 遠くに煙が上がっている。

 火事…?

 爆発…?

 どうやら遠くで何かあったらしい。

 マンションから見た時に街の所々にあった煙と関係あるのだろうか。


「な、何だろう…?」

「ななななな…」


 奥のビルの12階ぐらいの高さが燃えている。

 火事でガス管などに引火して爆発したのだろうか?


 いや、違う。


 爆発じゃ無い。


 その奥のビル更にその手前のビル。

 来る。



 ——————ドーーーンッ!!!ドーーーンッ!!!



 “ナニカ”が高速でこっちに飛んできている。

 ビルとビルを貫通して“ナニカ”が来る。




 ———ドーーーーンッ!!ゴロゴロゴロゴロッドンッ!!




 そして、それは兎とフブの真横を高速回転して着陸した。 着陸というより墜落に近い様な気がする。

 転がってきた地面が所々えぐれている。

 ぶつかった先のコンクリートは酷く大破して見るに耐えない姿になっている。


「ッッッ!!」

「なななななななななっ!!」


 2人はアワアワして転がってきた“ナニカ”を見る。

 少しづつ砂埃が薄くなっていき、それが見え始める。


「人…?」


 目が良いフブは兎よりも先にそれが見えた。

 コンクリートにお尻がめり込んでジタバタしてる…チャイナ服の女…が。

 んー。

 謎だ。

 アレはなんだ。

 道路がえぐれるぐらい転がってきても元気にジタバタしているチャイナ服の女…。



 ———『カンネロードォォォォォォォオオオオ!!!』



「うわっ…なんか叫んでる…」

「ふふふふ不審者…」


 誰かの名前を叫びながらジタバタしている。

 まだ、お尻がコンクリートの壁にハマって抜け出せない様だ。



 ———ドーーーーンッ!!!



 再び轟音が鳴る。

 砂埃が舞い視界が塞がれる。

 数秒して砂埃が薄くなっていく。

 お尻が挟まってジタバタしていたチャイナ服の女の後ろの壁が無くなっていた。


「ななななななななッ!!!」

「なっっっっっっ!!!!」


 フブと兎が同じ様なリアクションをする。

 度重(たびかさ)なった轟音のせいか体が恐怖で動きたがらない。

 その場でじっとしている2人にチャイナ服の女がゆっくりと近づいてくる。


 (なななななんか、やばい)


 兎は焦って腰を抜かす。

 フブは静かに体の重心を落として、いつでも兎を抱えて逃げれる様な体勢を確保した。


 後ろを向いて逃げてはダメな気がする。

 これは本能なのだろうか…。

 熊に出会った時みたいな感じがする。

 まぁ、出会った事無いけど…。

 一歩、何かが違えば簡単に命が消えるみたいな…。


 フブが思考を巡らせて唾を飲む。

 兎を見る、兎は腰を抜かしてフブの足にへばりついている。


 コアラみたいだ。


 女が近づいてきた。

 姿が鮮明に見える。

 チャイナ服を着たその姿。

 頭には2つのボンボンを付けているツインテールの様な髪型。

 目尻が赤い…全体的にフブより体は小さく凄く細身に見える。

 兎と同じぐらいの身長だろうか…?


 フブの目の前に来た。

 何を言うでもなく兎が落としたきゅうりの浅漬けを地面から拾い一口かじった。


「…」

「あわぁあうあうあうあう。」


 怯える兎、体が(りき)むフブ。

 女はきゅうりの浅漬けが思ったより美味しかったのか、フブが持っているきゅうりの浅漬けも静かに奪い取って食べた。



 ———ムシャムシャムシャ。ゴクっ。



 ———ハァ〜…。



 ため息が聞こえた。

 謎が謎を呼ぶが気軽に話しかけてはいけないそんな異様な雰囲気を漂わせている。

 兎は震えて私の足にしがみついてコアラみたいになっている。

 私が何とかしなければ。

 それにしてもコンクリートが大破しているのにこの女の体には傷ひとつもついていない。

 ビルとビルを突き破るほどの勢いで飛んできたんだぞ…。


 その女はきゅうりの浅漬けを食べ終えた後、肩を丸める兎の背中に座った。

 フブは困惑し、兎はいまだに震えている。



『ハァ〜…お腹空いたわ。アンタらここの人?』



 突然話しかけられて言葉がパッと出てこないフブ。


 (えーと、まぁ嘘つく理由もないか…)


 でも、言葉を口にするのがとても怖い。

 怒らせない様に気をつけよう。


「そ…そうだね。私達はここの人だよ。」


 自分でも自分に驚いたなんかいつも通りの口調で話せた。


『そっ。なら、私に良いもん食べたせてぇ〜な。お礼は弾むわ。』


「…うん、わかった。」


 中途半端なエセ関西弁の様な喋り方をする女。

 しかし、何かを感じさせるオーラは凄かった。


 どういう系が食べたいですか?とは聞けず流されるフブ。 しかし、兎に乗るのはやめて頂きたい、怒りを買うのも怖いどうするか…。


「あ、あの。その子の背中に乗っかって座るの辞めて貰っていいですか…」


「ん…?」


 やばい、少し言い方がきつかったか。

 しかし、リカバリーはもう考えている。


 兎にもやったアレだ。


「その場に座りたいぐらい疲れているなら私がおぶる!」


 何だこのテンション自分でも少し怖いな…。

 さぁどうなる…。

 フブは前と同様しゃがんで人を背中に乗せれる様に体を丸める。

 すると静かに兎の背中からフブの背中に乗り換えたチャイナ服の女。

 怒っては…なさそうだ。


 よかった。


「乗り心地はどうですかぃ?」


 チャイナ服の女はしばらく黙った後にポツリと言った。


「やっぱり、人の背中はあっこぉて、いいなぁ。」






 ———————————————#####


 兎はカタカタと震えてフブの様子を伺っていた。

 落ち着け私、震えるな。

 なんだ、あの破壊力を持った女は超能力者…?

 分からないが私は確かに見た。

 コンクリートの壁をパンチでぶち抜いたチャイナ服女の姿を…。

 フブは見えていただろうか…いや、見えていたに違いない。

 一瞬の出来事だった怖い。

 怪物。

 殺される…。


 ん?


 背中にあの女が乗ってきた。

 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああやばい。

 死ぬ。

 私、死ぬ。

 助けて、神様。


 フブ様ぁ。


 しばらくして背中が軽くなった。

 反射的にフブの方を見た。

 フブはあの女を背中におぶって何か話している。

 フブが何とかしてくれた様な気がする。

 怖くてあまり何も話を聞けていないがまたフブに助けられた気がする。

 でも、あの怪物が隣にいる状況は変わっていない。

 しかし、フブのおかげで少し物事を考える余裕が生まれた。

 私はこの小さな脳みそでフブの役に立とう…。



 あの女は超能力者なのか…?

 話が通じる辺り無差別殺人鬼みたいな人ではなさそうだ。

 でも、機嫌が悪そうだ…怖い。


 …。


 フブにご飯を要求している?



 ビルとビルを貫通するほど、何かに凄い勢いで吹っ飛ばされてきた。

 トラックとか…いや、コンクリートにぶつかって無傷だったそんな奴がトラックになんて、飛ばされるわけがない。

 しかも、ビルとビルを突き破るあの勢いはトラックの何百いや、何千、何万倍のエネルギーが必要なはずだ。

 一体どうやって吹っ飛んできたんだ。

 同じ超能力者がいて対決して吹っ飛ばされた…?

 でも、もしそうだとしたら吹っ飛ばした方の超能者の追撃ついげきがあるはずだ。

 今の所は無さそうだ。

 それに吹っ飛ばされた事で何かを諦めた様子に見えた。

 勢いから見て…何キロから飛ばされて来たんだろう。

 何故、チャイナ服女は敵を追いかけない?

 チカラはあってもスピードは出せないから追いかけないのか?


 ここは勘で行くしかない。


 1番濃厚な説は同じタイプの能力者的な人に吹っ飛ばされたって説だ。

 多分、お互い追撃しないと言うことは勝負的な戦いじゃなくて偶発的に出会ってやり合った感じだろう。


 なんだか…今日は頭がよく回る。


 フブがチャイナ服女の気を引いてくれているおかげで気が楽だ。


「兎、ほら立って。とりあえずなんかご飯を食べに行くことになった。」


「え…。あ、うん。」


 やばいチャイナ服女とフブの会話あんまり聞いてなかったから状況がわからない。


『ん〜…?うちとご飯行くの嫌け〜…?」


 チャイナ服の女の圧が凄い今にも押し潰されて殺されそうだ。

 フブの背中から見える顔は黒く影になっていた、怖い。


「いいいいいいいいいべべべべつに…」


『そうか〜。良かったわ〜。』


「ねぇ゛ーーー!!!兎をイジメないで!!」


『いややわ、イジメてなんかないわ〜』


 なんだか打ち解けてる…?

 いや、そんな事無い。

 フブの顔を見ればわかる。

 アレは怯えている。

 私が人の話も聞かず色々考えてる時にフブはチャイナ服女と何を話していたんだろうか?

 あの女の雰囲気は何だか妖艶で…命を狙うバケモノみたいな感じがする。

 私より背が若干、小さいのに何だろうこのオーラは。


「じゃぁ!フブちゃん特製カレーライス夏ver.きゅうりの塩アレンジを振る舞う時が来たか!」


 そのフブの言葉にエセ関西弁のチャイナ服女は答える。


『いや、ええわ。そこら辺で早く食べれる美味しいもんがいいわ〜。疲れたねん。もう今日はあんまり動きたくないからな〜。』


 その言葉に緊張で張り詰めていたフブと兎からツッコミが漏れた。


「さっきコンクリぶち抜いた人が疲れたって…」

「つつつ疲れた…?」


 兎はフブの背中に乗ったチャイナ服女の顔を見て様子を伺った。

 怒っては〜…いないみたいだ。

 良かった。

 このツッコミで殺されていたら私達の最後の言葉がツッコミになってしまっていたから。


「じゃあ私達がよく行くラーメンでいい?」


 フブがチャイナ服の女に問いかけた。

 女は話も聞かず軽く首を縦に振った後、体を脱力させてフブの背中でダラダラしていた。

 ゾンビの映画世界ごっこはもう中断せざる得ない。

 ゾンビよりもやばい奴と出会って私達はその人とご飯に行く事になった。


 ん…?そう考えたら私達が1番やばいのかもしれない。


「ねぇ、あなた名前は何て言うの?」


『あー、うちはメイトン、可愛い名前やろ?』


「え〜いいなぁ!可愛い〜!」


 フブはいつものテンションで名前を褒める。











 ———————————————#####





 ——————ガラガラガラッガンッ。


 ラーメン屋の扉を開けるが長年使われていた扉だった為、(さび)が開閉を邪魔する。


「あ、開かない〜。ちょっと〜店長ー!!ねぇー!!また開かないぃー!!!ねぇ゛ーーーー!!!」


 店の奥からは返事がない。


 店長が店を離れる事は結構あるからあんまり気にしない。 多分、タバコ休憩とかだろう…。



 ———ガンッ、ガンッ、ガンッ。



「うぇ〜。開かないよ〜。ねぇ゛ーーー!!!てーんちょぉ!!!」


『うるさいな〜…ちょっとうちが開けるから。ちょっと体、扉に寄せてぇな。』


「あ、うん。」


 フブの背中に乗ったまま腕を伸ばして扉を開けるチャイナ服女。




 ——————バキャッ!!!




「おー流石、コンクリ破壊するだけあるわ…」

「ななななななな。」


 ひしゃげる扉は、見る人が見れば熊が出たと思うだろう。 クマでも素手でコンクリは破壊出来ないだろうけど…。

 フブが店内を見渡し店長を探して厨房にズカズカ入っていく。


 フブは気付いていないけれど、あのチャイナ服女が扉を無理やり開けた時、おんぶしているフブの体に扉を壊した時の反動が伝わっていなかった。

 一体どうやったらそんな事ができるのだろう。

 扉をひしゃげさせる力で開けたんだ、それなりの衝撃がフブの体に伝わって良いはずなんだ。

 明らかに物理法則を無視ししている様に見える。

 それともエネルギーか何かを飛ばしたのか?

 いや、そんなの漫画の世界でしか見た事ないし…。



『なんや?浮かん顔して、うちの事が怖いんか〜?』


「いいいいいいや、べべ、べ別に…」


 自分の考えをのぞかれている様なタイミングでチャイナ服女に話しかけられた。

 フブは店長を探しに店の奥へ消えてしまっている。

 私の事を守ってくれる人はいない失言は許されない。



 ———トポポポポッ、カッカッカッ。コトンッ。



 チャイナ服女がコップに水と抹茶の粉を入れて混ぜる。


『何考えてるか知らんけど、うちは無差別殺人鬼とちゃうよ〜。まぁ出会い方が悪かったなぁ〜。』


「そ、そそそそのチカラ…なななんですか…?」


 つい踏み込んだ質問をしてしまった。

 好奇心が恐怖を上回ってしまった。

 やばい。

 死ぬか?



 ———ギュッ。



「あひぃ…」


 チャイナ服女が兎の手を指先と指先を絡め合う様に握った。


『細いし白い綺麗な指やなぁ、うちの手も負けてへんやろぉ?』


「な、ななっ、ななっ…」


 さっきコンクリをぶち抜いたり、ビルとビルの間を突き破ったりして来たのに手が“綺麗”だ。

 しかし、そのチャイナ服女の指は柔らかかった。

 爪で引っ掻けばすぐに傷つく様な柔らかい肌だ。


『うちはチカラ強いねん、もう、それはそれはもぉ強いんよぉ〜。だからなぁチカラ加減がわからんのが悩みなんよなぁ。』



 ———グググッ。



 手を握られる力が強くなる。


「い、いたッいたい…」


『うちな思うんよ、世の中にはわかっても口に出さへん方がええ事もあるって』



 ——————グググッ。



「わ、わわッわ、わかっ…わかっ…たっ。」


 ———パッ。


 手が離される。


 ちょうどフブが店の厨房から帰って来た。

 隣に店長の姿は無かった。

 そして私とチャイナ服女を真っ直ぐに見た後、ポカンとした顔で言った。



「店長…。死んでた。」



今回少し長くなってしまいました。話が進むにつれて設定、世界観、入れなければならない事と入れたいセリフ仕草が多すぎて纏めきれません。不甲斐ない限りです。



【あれ、私だ。】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ