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周回移動都市ヴェルサイユ《原案》  作者: 犬のようなもの
《セカンドオーダー編》            [番外編]京伝
53/78

〔番外編第2話〕大聖堂

 

 《こんにちは動物の皆さん。ゲロゴミのお前らに名乗る名前なんてないけど、そうね。“セカンドオーダー”とでも呼んでちょうだい。》


 空に響く声は傲慢と蔑みに満ちていた。



 ——————シューーーンッ!!!



 上から下降制御装置の稼働音が複数聞こえて来た。



 ——————「ギャァァァアッ!」


 ——————「おい!早く逃げろぉ!!!」



 先ほどゾンビが出た時、上へ逃げて行った作業員達が下降制御装置(かこうせいぎょそうち)を凄い勢いで下降させ、下へ降りてくる姿が見えた。


「な、何があっ…」



 ——————ゴォォォォォッン!!!



 ——————ゴォォォォォッン!!!



 ——————ゴォォォォォッン!!!



 鐘の()が鳴り響く午前、私の質問に答える声は無い。代わりに叫び声だけが必要以上に耳に入ってくるこの現状に怯える事しか出来ない。



 ——————「早く逃げろぉぉぉおお!!!」



 誰かの必死な声が上から聞こえて来た。

 やばい。

 何か来るッ…。


 私は必死に自分の下降制御装置を叩く。


「動けよ!!動けって!!何でこんな時にこんな場所でこんな状況になってるんだ馬鹿野郎!!!」


 相変わらず私の下降制御装置は壊れていてここから動けない。

 しかし、幸いな事に上から聞こえて来た絶叫からしばらく経ってもゾンビなど危険な生物は降って来ていない。

 そうなれば必然的に何の警告だったのか、一体自分に何が迫っているのか…。

 緊張で吐きそうになる。


 何が来るッ……上から聞こえて来た声は一体何の警告だったんだ。



 ——————ゴォウンッゴォウンゴォウンッ。



 その時、頭上から激しい機械音が聞こえてきた。



 ——————ガシュンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!!!



 嫌な予感は的中した。

 なんと、ヴェルサイユの外壁が激しく()()し始めた。


「ッ?!何が起きてッ…」



 ——————ガヒュンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!!!



 はるか先の頭上から順に壁の1部が飛び出したり、回転したり、複雑に変形したり、大胆な変形を見せた。

 先程ゾンビから逃れる為に上へ逃れたメンテナンス作業員達がそれに体を巻き込まれ…。



 ——————「ギャァァァアッ!!!!」



 ——————ブシュッ…!!!



 ひき肉にされて行く作業員達が遠くに見える。

 必然的に私にその作業員達の血と肉のシャワーが降り注ぐ。



 ——————ドバドバドバッ、ベチョベチョベチョッ。



 遠い頭上から順番に変形していくその外壁を見て、私は焦りの絶頂に達した。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!頼む!頼むよォ!下降制御装置(ゴミスクラップ)ッ!早く動けよ!逃げなきゃ死んじゃう、死にたくないッ!死にたくないッ死にたくないッ!!!」



 ——————バンッバンッバンッ!



 下降制御装置を必死に叩きながら迫り来る頭上の音に危機感を抱き再度上を見る。



 ——————ガヒュンッ!ゴウンッ!ゴウンッ!ゴォォォォォッ!!!



 (せま)り来るヴェルサイユの可動に巻き込まれ、死んでいく作業員達の声が徐々に減ってゆくのを感じる。

 しかし、ソレと相対して血肉のシャワーは量を増す。




 ——————ドバドバドバッ、ベチョベチョベチョッ!!!




「あ゛あ゛あ゛ッ…」



(私は(なに)で死ぬのだろう。(なん)の事態に巻き込まれて死ぬのだろう。そもそも一体これは(なん)なんだろう。この仕事が高給なのは外壁の中のゾンビに襲われる危険があるからであって、こんな訳のわからないヴェルサイユの外壁可動に巻き込まれるからではない。)


 走る思考から走馬灯に切り替わろうとした。


「あぁ…死ッ…」


 ヴェルサイユの可動が目の前まで迫り諦めかけた瞬間、体を大きく動かされた。



 ——————「こっちだァァア!!!」



「ッ?!」



 知らない男に手を引かれ、体を少し横へ移動させられた。



 ——————ガヒュンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!!!



 ヴェルサイユの外壁が体の真横スレスレで複雑な可動をみせる。


「ひぃッ…!」


 これに巻き込まれてたら歯車の間に挟まれて…肉団子に…ッ!



 ——————ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッン…。



 可動が終わった場所からは鈍い音が鳴っている。

 下を見ると外壁の可動自体は下へ下へまだ進んでいる様だ。

 私は必死に息を整え、命を救って貰ったその人を見る。

 その人のガタイはゴツく、熊の様に体がデカい。


「ハァッ…ハァッ…ハァッ…た、助かったありがと…」


「危ない所だったなぁ嬢ちゃん。」


「ハァ…はい…。ハァ…はい?」


 この仕事を始めて以来、初めて嬢ちゃんと呼ばれた。

 血管が破裂しそうな程、激しく心臓が動く。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


 焦る心と息を整えながら手を引いてくれた仲間の作業員の方を見る。

 この男も私と同じ逃げ遅れた奴…か?

 いや、まぁ、逃げ遅れたのが功を奏したんだけど…。


 この熊の様なゴツい男は年齢は40〜50歳と言ったところか?


「最初血だらけだったからゾンビかと思ったぜ、がはははッ!」


「…上から血肉が降ってきただけだ…。け、怪我はしてないし、ゾンビに噛まれてすらいない。多分、血肉は全部人間のでゾンビの感染も心配ない…と、思う…多分…」


「そうかそれなら良かったぜ。しっかし、嬢ちゃんも不幸だな。何千年に一回あるか無いかのこんな特別な有事に…しかも“大聖堂(だいせいどう)”に巻き込まれるなんてよぉ。」


「なんだ、その大聖堂…?ってのは…」


「まぁ今回は確実にアレに対して発動しただろな…。説明するよりもなんだ…。ほら、もうすぐ大聖堂始まるぞ見とけ。てか、外壁の窪みから落ちねぇようになんか安全な場所掴んどけ。」


 男が指差した先には空に開いた大きな黒い空間があった。

 傲慢な女の声が聞こえてきた場所…か?



 ——————ゴォォォォォッゴォォォォォッゴォォォォォッ!!!



 ヴェルサイユの有りとあらゆる外壁から円柱形の筒状の様なナニカが出てくる。

 ソレは一つ一つが自分の体の何十倍も大きく直感的にソレが何かわかった。

 多分これは“兵器”だ。

 そしてその攻撃対象と思われる開いた空間の真上に大きな歯車が何重にも重なって現れた。

 その歯車は半透明の金色をしており、各々が重なり合って複雑な回転を見せている。 

 一体自分が何を見ているのかわからないが、きっとこれは都市の大規模な攻撃なんだろうそれが直感で分かった。」



 ——————ゴォォォォォォォッン!!!ゴォォォォォォォッン!!!ゴォォォォォォォッンッ!!!



 鐘の()が鼓膜から脳みそへ(じか)に響く。



「…来るぞ!揺れ(衝撃)に備えろ!嬢ちゃん!」



 ——————ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!



 そして、無数の円柱の筒から無数のミサイルが発射された。

 激しい揺れで体の重心がズレ外壁の窪みから落ちそうになる。が、男に言われた通り、壁の突起を掴んでいたので何とか持ち堪える。



 ——————ゴォォォォォォォッン!!!ゴォォォォォンッ!!!ゴォォォォォッン!!!



 ——————ゴウンッ!ゴウンッ!ゴウンッ!



 激しい機械音がミサイルの発射音と共に響きわたる。

 放たれた無数のミサイルが対象へ向かって真っ直ぐ飛ぶ。

 ミサイルは初速からだんだん速く加速していき、ぎりぎり目に見えるで対象へ直撃する。



 ——————ドゴォォォォォッン!!!

 ——————ゴォォォォォッン!!!

 ——————ドガァァァァンッ!!!

 ——————ドンッ!!!



 無数に放たれたミサイルは空を覆い尽くす程、の量になった。

 それでも尚、次から次へと発射される。


 激しい揺れと轟音の中、男が叫んだ。


「もっと、こっちに寄れぇ!!!もう外壁の可動で俺達の下降装置のワイヤーは切れてんだぞ!下に落ちたらどーすんだ!!!」


「えっ…?あ…」


 腰に目を向けると下降制御装置のワイヤーが無かった。

 そうか、さっきの壁の可動に巻き込まれてワイヤーが切れたのか…。

 この特別な鋼鉄(こうてつ)で編まれたワイヤーが切れたのか…。

 上に逃げた他の作業員達の体が簡単にバラバラになるわけだ…。

 あっ…。

 もし、外壁の窪みに逃げ込んでいなかったら可動に巻き込まれずとも、ワイヤーが切れて落下死してたのかッ…。


「おい!揺れで落ちんぞ!!!」


「あッ、マズ…」



 ——————フラッ。



 落ちそうになった時、ガタイのいい中年の男に体をがっしり掴まれ寄せられる。


「しっかりしろ!死にてぇのか!!!」


「おっ…あッ…えっと…す、すまない。助かった…」




 ——————ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!!!



 都市から発射されるミサイルは空へ開いた空間へ対し、止まる事なく放たれ続けている。

 その絶え間ない轟音で耳がイカれになりながらも現状を打破する為に外壁から見える外を観察する。

 するとその時、目の前に大きな30メートル程のスフィア(巨大人型ロボット)が2体が掴み合いしながら目の前を高速で通過した。



 ——————ヒュゴォォォォォンッ!!!



「ッマジかよッ!!!こんな所で戦うかよぉ!?」


「おい、アレはスフィアか?!何でこんな所にッ?!」


「こっちが聞きてぇよ!嬢ちゃん危ねぇ!来るぞ!!!」



 ——————ヒュォォォォォォォッ!!!



 ——————ドゴォォォォォォォォォォォォッン!!!



 数十メートル頭上の外壁に激突したスフィア2機。

 砂埃と外壁の残骸を撒き散らしながら2機は壁にめり込んでいる。

 そして壁にめり込みながらもお互い何もなかったかの様に2機は再び空中で戦い始めた。


「勘弁してくれぉよぉおッもう!!」


「何だ!一体何が起きてるんだおっさん!!!」


「もしかして、アレが222(セカンドオーダー)か?!とうとう攻めてきたのか?!おい、嬢ちゃんこのままじゃやべぇぞ!!!」


222(セカンドオーダー)って街で噂になってた事象(じょう)の奴か?!」


「あぁそうだよ多分なぁ!!!」



 —————— ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!!!



 大聖堂の轟音が鳴り響く中、目の前でスフィア(巨大人型ロボット)2機が目の前で暴れている。

 走り出しそうになる走馬灯を必死に思考で押さえ付け、一つ思い出した事があった。


「おっさん!!!もしかして2機の内の1機、アレ(あのスフィア1機)が都市の英雄サキミネか?!」


 サキミネはこの都市に突如現れた天才パイロットだ。

 連戦連勝(れんせんれんしょう)所か、連合軍艦隊ベクター(ヴェルサイユの敵)の集団(スフィア500機)を1人で壊滅させた英雄だ。


「アレがサキミネかどうかなんて一般庶民以下の俺らにはわかんねぇよ!!!おい!おい!おい!おい!次来るぞぉぉ!!おい!」



 ——————ドゴォォォォォォォォォォォォッン!!!



 私達が居る場所から数メートル横、再びスフィア2機が外壁に激突した。


「クソッ…!」


「大丈夫か嬢ちゃん!」


 砂埃が舞う中、スフィア達が数メートル先の壁にめり込んんでいるのが、近く鮮明に見えた。


 鋭く光る眼光、水色と緑が混じり合った混濁(こんだく)のエネルギー(きゅう)が体の各々に散りばめられている。

 そしてもう1機の方は全身が黒く所々にシルバーが散りばめられている。

 その姿は見る(もの)が見れば(あが)(たた)えたくなるだろう。

 しかし、妙だ…スフィア2機共少しの違いはアレど同じ様な機種に見える…。


「危ねぇぇぇええ!!!」


 おっさんに頭を地面に押し付けられた。



 ——————ヒュンッ!!!



 スフィアが高速で外壁を蹴り出し、移動した事で、外壁の残骸が飛び散り、ソレが私の頭上を掠めたのだ。

 おっさんが私の頭を無理矢理下げさせてくれていなかったら頭と胴がサヨナラしてただろう。


「アッブッ…!あっぶぅッ!!!あぶぅ!!!!」


「おい、大丈夫かッ?!嬢ちゃん?!ボーっとすんな!!」


 次の瞬間、1人の作業員が上から落ちてきた。



 ——————ヒューッ、ドカッ!



 その作業員は運良く私達の居る外壁の窪みに入り込んできた。


「お、おい!大丈夫か!…生きてる!まだ生きてるぞ!嬢ちゃん、ここの傷口抑えてくれ!!!」


「あ、あぁ!」


 私とおっさんが避難している6畳程の外壁の(くぼ)みに負傷している男を寝転がす。

 両足がへし折れドクドク血が流れているが出血量は少なそうに見える、もしかしてまだ生き残りが上に居るのだろうか。

 そう思った瞬間さっきのスフィアの内、1機が再び外壁に吹っ飛んできた。



 ————————————ヒュォォォォォォォッ!!!



 ——————ドゴォォォォォォォォォォォォッン!!!



 そのスフィアは勢いのまま壁にめり込んみ激しく外壁を欠損させた。

 一方で爆風の勢いで体が吹っ飛び、外壁の窪みから弾き出されそうになったが再びおっさんに腕を掴まれ救われた。


「本当なんなんだよ畜生!!!」


「ハァ…ハァ…ハァ…あ、ありがとおっさん…」


 黒くない方のスフィアが受け身の体勢から、立て直そうと腕を雑な場所に突く、が…。



 ——————ベチャッ!!!



 スフィアは先程落下して来た作業員を自分の体勢を立て直す為に動かした腕で潰した。

 それはまるで人間が気づかずに蟻を踏み潰すかの様に。


「ッ!!チクショオ!!!」


「…くッ。」


 そのスフィアは一瞬、腕の下に気づく。

 そして私達の方へ顔を向けた後、下敷きになってグチャグチャに潰れた作業員を手で掴み、まるで手をハンドソープで洗うかの様に、死んだ作業員の血肉を手に塗り始めた。


「…何してんだアイツ…ッ、チクショオ馬鹿にしやがってぇぇえ!!!!」


 悍ましい光景におっさんは憤怒する中、私は何故かその動きを見て直感した。


「滑り止めにしてるの…か…?」


 血肉を手に塗りつけたそのスフィアは私達の少し下に飛び降り、外壁を思いっきり殴りつけた。



 ——————ドゴォォォォォッン!!!



「何してんだぁアイツッ!?」


「ッなんだ?!」



 スフィアは私達2人の方をチラッと見た後、外壁を蹴りそのまま遠くの戦線へ戻って行った。

 依然、大聖堂のミサイルは止まらず発射され、轟音が鳴り響く。

 そんな中、何も出来ない無力と絶望と恐怖が体の底から迫り来る。

 しかし、何故かその恐怖が周り周って一周し、激しく憤怒する隣のおっさんと相対するかの様に、私を冷静にさせた。


「何なんだよぉ!アイツ、作業員を手に塗りたくりやがった!!!しかも、壁を殴って八つ当たりなんかしやがって!!!」


 本当に八つ当たりか…、そしてあのスフィア2機の内どっちが噂のサキミネの機体なんだ。色は、黒じゃない方だったが…。

 壁を殴ったのは八つ当たりだったのか?この戦闘かで…

 もし、さっきの機体がサキミネなら…そんな無駄な事…


 そうかッ!!!


「おい、おっさん!!!下殴ったのは八つ当たりなんかじゃない!!外壁から中へ避難できる様に風穴(かざあな)開けてくれたんだ!!!」


「ッな?!で、でも、中にはゾンビが居んだぞ?!」


「ここで確実に死ぬか、中に入って一か八か生きるか、どっちがいいんだよ!!!」


「わーたよっ!!!風穴(かざあな)から中入んぞ!!!」




潰れた作業員を手に塗りたくって滑り止めにしたスフィアに乗っていたのは味方のスフィア(サキミネ兎)です。


逆消毒ぬりぬり

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