〔第47話〕震える子供に怯える兎
エウレカと六防のネネ(※名前だけ登場)その他5万人は今、地上で何してると思いますか?撤収?違います。その答えは後書きで書いておきました。
『流石サキミネ様で御座います。ツグネでも気付かないことにすぐ気づくとは流石ですわ。』
「……うん。」
「兎ってなんかチョロいね。」
「ちちち違う…優越感を噛み締めてるだけ…」
「げげ…やめな〜そーゆーの〜」
「そそそそんな事より…エヴァンテ…説明して…」
2人の会話に微笑みを浮かべていたエヴァンテは兎の前に差し出した本のページをめくり、とある場所を指差した。
『私達が住む世界の冬はとても寒いのです。その為、電力不足が命取りとなり最悪の場合は都市の住民全滅なんて事になりかねないのです。』
「…うう嘘だ。」
兎の行き過ぎた反応に流石のセルフレリアも差し止める。
「サキミネ様、大変失礼ながらお戯れが過ぎるかと…」
『セルフレリアいいんですよ。実際の所、寒さを凌ぐ為だけならあんな膨大な電力必要ないですからね。』
「たたた建前…でしょ…」
一方で、フブは兎とエヴァンテの会話を横目に出されたケーキを黙々と食べていた。
——————カチンッ、カチン。
フォークでケーキを突く皿の音が独り歩きしている。
『敵が弱っている所を狙う。自然界の至極真っ当な法則です。なので冬は特に電力を使います。』
エヴァンテと兎が言葉を隠し隠し濁し濁しして話す。
「ししし周回移動都市…本当に敵が多いいんだ…」
『しかし、都市特有の兵器の約半数は電気で動いてないんですけどね。』
「…え?ししし知りたい…そそそのテクノロジー…」
『すみません。冗談抜きで私も存じ上げないのです。』
「…そそそそんな事あるの…」
『5000年間優秀な研究者が調べ上げても何ひとつ分かりませんでした。』
「え…」
もしかして5000年も生きてるのに文明レベルが進んでないのか…?
そんなはずない…と思う。
何か理由があるのか…?
あっ、ゾンビ…。
「ももももしかして…ゾンビとかやばい奴がいたから文明の発展に集中できなかった…?」
『まぁそう言い訳しておきましょう。ふふっ。』
——————エヴァンテ様、到着いたしました。
馬車の前方から声が聞こえた。
恐らく馬車の馬に乗馬しているメイドの声だろう。
「エヴァンテ様、サキミネ様。では、参りましょう。」
完全に馬車が止まるとセルフレリアが扉を開け、先ほどと同じ様にピョイッと下へ降り、扉の下部から階段の様な足場を引き出す。
——————カッ、カッ、カッ。
エヴァンテは兎と共に階段を降る。
馬車に乗っているメイド達全員がエヴァンテの取り巻きとなり、後ろからゾロゾロ列をなしてついてくる。
後からフブとツグネも後ろから一緒に降りてきた。
「ふぁ〜…全然寝れなかった…」
「兎〜!何かここ凄いね〜!」
フブに言われて周りを見る。
いたって普通の森…とは言い難いほど木の一本一本が太くデカい。…が、それはさておき、目の前にトンネルの様な大きな穴が空いていた。
(でかい、30メートルはあるか?)
トンネルの中は青白く光っておりサイバーパンク感が凄い。
何となく後ろを振り返ってみた。
後ろには自分が乗っていたエヴァンテの馬車とは別に10台ほど金属でできた様なガッチガチの馬車が並んでいる。
見てすぐにわかった護衛の馬車だと。
エヴァンテは大統領とかそういう類の人なのかな…。
『では、行きましょう。』
エヴァンテが先陣を切ってトンネルの中へ入っていく。
私はフブの近くまで寄り、後ろに隠れながら進む。
ここはいつものポジションでなんだか安心する。
そんな中、ツグネが眠そうな声でエヴァンテに問う。
「ふあ〜…エヴァンテ、タフナはこの先にいんのか?」
『えぇその通りでございますわ。あくび可愛いですわね。ふふっ、皮肉とかじゃないですよ。』
「喧嘩売ってんのかっ!」
トンネルの奥へ進めば進むほど、この都市の異常さが垣間見える。
謎技術で浮遊する機械の様な何か、回転するエネルギー急の様な何か。
(なんだこの技術力は…)
トンネルの中は見た目以上に広く、若干薄暗い。
「ねぇ゛〜…エヴァンテこのロボット達怖いよ〜…」
『あら、すみませんこと。このスフィアは私達では動かせない昔からある謎のスフィアですこと。』
「謎なんかい…」
広いトンネルの通路を両側から挟む様に大きなスフィアが膝を立ててしゃがんでいる。
まるで貴族の城にある本物鎧の置物みたいだ。
まぁ…それとは規模が違い過ぎるんだけど…。
「ふふフブ…スフィアでかいね…」
「うん。なんだか圧が凄いよね。」
『一説によると、ここにあるスフィア達は“有事”の時さえ一切動かなかった事からこの施設を守る専属のスフィアという噂があるのですよ。』
その時小さな音がトンネルに響き鳴った。
——————ギィギィギィッ。
「…なんの音だァ?」
カンネ•ロードだけが若干聞こえるその音に気づく。
カンネ•ロードは周りを警戒し動き出しやすい様、若干体の重心を落とす。
『何か聞こえたかしら。カンネ?』
「さっきィから何かよォ…ギィギィ音なってんだよ。前来た時はこんな音聞こえなかったと思うが…」
メイド達がエヴァンテ達を囲い込む。
しかし、その足は止める事なく奥へズカズカ進むエヴァンテ。
「ねぇ兎、なんか物騒だね…」
「そそそそうだね…」
カンネ•ロード達は気づいていないが私は気づいている。
この音の正体。
実際私は言われるまで音、自体は聞こえなかったけど…このトンネルに入ってから常に“動いている”箇所があった。
両側で膝をついているスフィアの首だ。
まるで私とフブを警戒するかの様にジロジロ見てくる。
(全然このスフィア達、動いてるじゃん…)
カンネ•ロードとその他護衛の人達がスフィアの首が動いている事に気づかない事に違和感を覚える。
確かにちょっと視線を上げなければ気づけないという感じなのだが、先住民故の“このスフィアは動くはずがない”という固定概念に囚われているのだろうか。
(なんか…一方的にジロジロ見られるのなんか腹立つ…睨み返してやろう…)
兎はスフィアの方を睨み返した。
(こっち見るな!ジーーーどうだ…?)
——————ギィッギィッギィッギィッギィ!
「ねぇーやばい音鳴ってるよ!」
「ひひひひぇッ…」
「この音スフィアからァ出てたァのかァ?!」
「エヴァンテ様!私の後ろへ!」
「また“やり直し”はダルいぞ。」
フブ、兎、カンネ•ロード、セルフレリア、ツグネが各々話し出す。
そんな中、エヴァンテだけが指を口元に近づけ驚いている様な声で呟いた。
『ヴェルサイユが怯えている…?』
エヴァンテの独り言に純粋無垢な気持ちでフブが聞く。
「“ヴェルサイユ”って人がいるの?」
『人か…どうかは存じ上げませんが何らかの意識を持っているナニカという生物である事は確かでしょう。』
「ほう、その見た目は?」
『今からそれを見に行きます。お楽しみですよ。』
のんきに話すエヴァンテとフブにカンネ•ロードが釘を刺す。
「今までになかった事がァ起きてんだァ、気ィ抜くな。」
エヴァンテとフブはカンネ•ロードから急に正論で殴られた為、好奇心より安全に意識を回す事に集中する。
『そうですねカンネ。』
「シャッと、してくれやァ。」
——————ギィッギィッギィッギィッギィ!!!
…音は鳴っているものの特にそれ以外は特段、特筆すべき事は何も起きていない。
さっきよりも厳重に周りを護衛され歩く。
——————ザザザザッ、ザザザザッ。
全員の足音が重なって波の様な音になる。
——————ザザザザッ、ザザザザッ。
———————————————#####
『さぁ、サキミネ様。到着致しました。』
目の前には大きな機械のゴミ山があった。
というよりスクラップの掃き溜め…か?
「これ何メートルあるの、でかいねー。」
「すす凄い…壊れたスフィアの残骸…?」
『えぇ、サキミネ様その通りでございます。私達がこの都市に住み始めた5000年前からこの山は変わらずここにありますわ。』
「つまりこれは何なのさ?」
「みみみ見た目はスフィアの部品っぽいけど…」
——————『※※※※※※※※※※※※』
「うわぁっと?!」
「ッ?!」
瓦礫の中から機械音声の様な声が聞こえてきた。
しかし、支離滅裂で何を言っているのかわからない。
兎とフブはそれに驚きタタラを踏む様に後ろに待機していたセルフレリアに背中をぶつける。
「おっと、ごめんなさい。えーと…」
「せせせセルフレリア…さん…」
「いいえ、とんでも御座いませんサキミネ様とフブさん。」
フブと違い兎だけが馬車での会話の中で呼ばれていた、その“セルフレリア”という名前を覚えていた。
——————『※※※※※※※※※※※※』
『ヴェルサイユは市民権を与えるにあたっての注意事項を話してくれています。』
——————『※※※※※※※※※※※※』
一瞬、場が静かになる。
エヴァンテがヴェルサイユと呼んだ声に耳をすませるが何一つわからない。
そんな状況を最初にツッコんだのはツグネだった。
「…ッて、何言ってっかわかんねぇよ!翻訳しろよ!」
「流石、地上にいた時と変わらずツグネさんのツッコミは健在ですね。」
「うわっと…タフナ…お前いつから俺の隣にいたんだよ…」
「10分前ぐらいから合流してずっと貴方の隣に居ましたよ。」
「お前…もうちょっと存在感出した方せよ…」
「まるで僕の存在感が薄いみたいに言いますね。まぁ自負はしていますが。」
馬車の中には居なかった突然の登場人物に困惑する兎とフブ。
「誰?!あっ、こんにちは!私フブ。」
「わわわ私…兎。」
「兎さん…えーと、貴方が噂のサキミネさんですか…こんにちは。」
「えー、兎、噂の人だってさ。やったじゃん。」
「ゆゆゆ有名人になってしまった…」
——————『※※※※※※※※※※※※』
——————パチンッ。
エヴァンテが軽く手を叩き、皆の視線を集める。
『さっ、出揃いましたね。始めて下さいましヴェルサイユ。』
——————『※※※※※※※※※※※※』
『では、無抵抗でいて下さいまし。』
兎、フブ、ツグネ、タフナが同時に声を漏らした。
「「「「「 え? 」」」」
——————ガラガラガラガラッガンガンッ!!!
次の瞬間、スクラップの山から機械仕掛けの大きな腕が4本出てき、それぞれ4人を掴む。
——————『※※※※※※※※※※※※』
4人を山のてっぺんまで持ち上げた瞬間、花がつぼみを包む様に大量の腕が4人を包み込む。
そして瓦礫の下へ引きずり込まれていった。
「「「「うわぁぁあっ!!!」」」」
——————ガラガラッガシャンッガシャンッ!!!
——————ゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!!
「エヴァンテェエ帰ったら覚えるとけよ!!!!」
「これ死にませんよねぇぇぇええええ!!」
「ねぇ゛ーーー!!!鷲掴みはちょっと雑な気がする!!」
「…おわった。」
4人は各々絶叫した。
その様子を見たカンネ•ロードは少し心配になりエヴァンテに問う。
「おいィ、カンネ•ロード。“今回”はなんか雑に見えるがァ大丈夫なのかよ…」
『ふふっ雑なんかではありません。むしろその逆、ヴェルサイユにとって最大級のおもてなしではないでしょうか?』
「あんな大量の腕がかァ?」
『ヴェルサイユは嬉しくてつい興奮してしまっているのです。大丈夫、きっとサキミネ様の体に傷ひとつ付けないと思いますよ。』
「…ヴェルサイユがァか…なんかキモいな。」
『さっ、終わるまでゆっくり待ちましょうか。カンネ。』
———————————————#####
※「シャッと、してくれやァ…」シャッとは、方言です誤字ではないです。
〈答え〉メイトンはサキミネの血縁家族を捕まえ交渉のカードにする作戦を実行しています。つまり今、エウレカ達は必死にサキミネパパを守っています。君はわかったかな?




