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周回移動都市ヴェルサイユ  作者: 犬のようなもの
《セカンドオーダー編》            [第二章]サキミネを探せ
49/51

〔第46話〕お前…面の皮、辞書ぐらい厚いな…。

もうすぐ3章始まります。

 


 周回移動都市の地面を踏んだ。

 生い茂る青々とした草木が気持ちいい土地だった。


「謎の建造物って…自然豊かだね。」


 フブの関心した声にカスミが返す。


「謎じゃなくて周回移動都市だ。ここは独自の生態系でな、色々な植物や動物がいるぞ。」


「ほげぇ〜…」


「ふふふフブ…あれ…」


「ん?」


 兎が指を指している方向には大きな馬車が複数台並んでいた。

 アレに乗るのか…と考えつつ兎は何となく周りを見る。

 カンネ•ロードにカスミ、私とフブ、それにツグネ…強い人が沢山いる安心だ…ん?エウレカが居ない。


「かかかカンネ•ロード…えええエウレカは…?」


「あぁ、そういやァアイツまだ地上にいんなァ。すぐ都市に招集すっかァ。」


 そんな事を話しつつ全員は馬車の前まで来た。

 すると馬車の扉が開き、中から1人の青年が顔を出した。


「おっかえりぃ〜!初めましての人はこんにちは〜僕はセネカ〜!皆んなサキミネ見つけてきた〜?」


 底抜けに明るい声に皆の緊張が緩まる。

 しばらくの沈黙が場を掌握する。

 誰も咲嶺兎が誰か話そうとしなかったので、フブが兎の手を後ろから握り腹話術の様な話し方で話し出す。


「コンニチワッ、ワタシガ“サキミネ”ダヨッ!」


 兎はフブに体を操られ、恥ずかしさで静かに視線を落とす。

 フブの腹話術を見たセネカが思い付いたかの様に馬車の中から1人の女を引っ張ってきた、そしてその女を自分の前に立たせる。

 その女はセネカの行動に戸惑った様な表情をするが、セネカはそれを一切気にする事なくフブの様に腹話術をし出す。


「コンニチワッワタシィ〜セルフレリアァッ!君がサキミネなんだネェ〜ヨロシクネェ〜↑」


 セルフレリアと呼ばれた女がセネカの腹を肘で殴る。



 ——————ドスッ!



「ぐぇッ!」


 地面に落ち(うずくま)るセネカを無視し、セルフレリアが馬車からヒョイと降りる。

 その先で腰を屈め、扉の下から階段の様な足場を引き出した。


「エヴァンテ様、用意が出来ました。どうぞ此方へ。」



 ——————トッ、トッ、トッ。



 大きな馬車の中から豪勢な白い聖職服を着た女が出て来た。

 豪勢な服を着ているにも関わらず、目隠しをしているその姿に違和感や少しの畏怖(いふ)を感じざる得ない。

 その女が引き出された階段を降りようとすると馬車の奥からぞろぞろとお付きのメイドが出てき、女のスカートの裾を皆で持ち上げ始めた。



 ——————トッ、トッ、トッ。



 ゆっくり階段を降りてきた。

 そして周回移動都市に()()()()()カンネ•ロードの前に立ち軽く膝を折り曲げ、スカートの裾を持ち上げた。

 その姿はまるで女王様の様だ。

 その女はカンネ•ロードとカスミに無言の挨拶を済ませた後、兎とフブの前に来た。


『初め…』


 エヴァンテが口を開いたと同時に甲高い声が聞こえてきた。



 ——————「コンニチワッ!ワタシィエヴァンテェッ↑」



 さっきの少年セネカの声だ。

 地面に(うずくま)ってエヴァンテにアテレコするセネカはセルフレリアと呼ばれていた女に蹴り上げられた。



 ——————ドスッ!!!



「ガハァッ…!!!」


 2メートル程空に舞うセネカを無視し、エヴァンテは話し出す。


『初めまして。私は六防第Ⅰ議席、周回移動都市エヴァン代表、ヴェルサイユ代理人の“エヴァンテ”と申します。』


 エヴァンテは自己紹介した後、フブの顔をまじまじと見て困った顔をする。

(…知っているぞ、その反応…)

 横を見るとフブが眉をひそめている。


『何処に行っていたのベリエッタ?』


「ねぇ゛ー!!!もう何回目なの…そろそろ私“ベリエッタじゃありません”ってプラカード持って歩くよ。ねぇ?!プラカード持って歩くよ?!」


『大変申し訳ございません…サキミネ様にご挨拶のつもりが貴方があまりにもベリエッタに似ていたものでつい、頭がそっちに傾いてしまいました。』


「髪型変えよっかな…」


 フブが自分のポニーテールを振り回しながら呟く。

 それと同時に、兎はエヴァンテの自己紹介が何一つ理解できず少し困惑していた。

 しかし、だ。

 自己紹介されたから自己紹介で返すのが礼儀だ…とりあえず、私も…


「ははは初めてまして…私は咲嶺兎…あああ貴方の自己紹介何一つわからなかったけど…わわわ私は何をすればいいの…」


 (要らぬ事も、話してしまった気がする…)


 エヴァンテは兎と目を合わせ優しい笑顔を作った。

 その笑顔に兎は身震いし、フブの背中に再び隠れた。


『サキミネ様とツグネ御一行(ごいっこう)、馬車へお乗り下さい。』


 完全にボーっと油断していたツグネは急に名前を呼ばれ咄嗟に声を出す。


「んぇ?!教会に帰んのか?」


『いいえ、帰るのではなく“市民権”を()()()()()()()()()


「やっとか…長かった…タフナにも市民権ちゃんと渡せよ。」


『えぇ、タフナさんには先に目的地の方へ向かって頂きました。』


 何の話をしているかわからない。

 私とフブには理解させなくて良いって言う事なのか?

 私達はこれから何をされるのだろうか。

 洗脳か、実験か、情報の絞り出しか…つまり拷問か…?

 市民権とは…何かの隠語なのだろうか。


 カンネ•ロードやカスミその他周りのセネカと呼ばれていた青年やセルフレリアと呼ばれていた女…脅威は計り知れない。

 すぐに理解した、私達に対抗する(すべ)は無いと。


『さぁ、サキミネ様。お乗り下さいまし。』


 エヴァンテお付きのメイド達が馬車までの短い道に花道を作った。

 兎とフブがその花道に入る、通過した地点のメイド達が頭を下げてお辞儀をしてくる。

 んー…見たことあるこれ…。

 兎の考えている事がフブのツッコミによって代弁された。


「いや、ヤ○ザか!」


 フブの痛快なツッコミが入る。

 フブのツッコミにツグネが声を漏らして笑う。


「ギャハハッ!ダメだ…お前のせいでもうそれにしか見えなくなったじゃねぇか!ギャハハッ!!」


「え?ツグネさんはヤ○ザって言葉の意味わかるの?」


「俺の事はツグネで()い。あぁヤ○ザって言葉はわかる、まぁどんだけお互いの世界の常識が違っているかわからな。」


「え…?」


 フブは困惑し兎の方をチラッと見る。

 兎もフブと目を合わせる。

 そうだ、私達は何もわからないのだ。

 2人が思った事は同じだ。

((まるでその言い方だとパラレルワールドがあるみたいな…))



 ——————キィッ、ガチャンッ。



 大きな馬車に乗り込んだ。

 中には高価そうな赤い装飾のカーペットに絵画や暖炉。

 奥に仮眠室、テーブルにキッチンの様な物まで付いている。


「きききキャンピングカーLv.100(レベルひゃく)みたい…」


「だね…しかも、思ったより中大きいね…これバス3つを横に並べてくっつけた広さだよ…もう家だよ、家。」


 兎とフブがこそこそ話している様子を遠目から見たエヴァンテがお付きのメイドにアイコンタクトを送る。

 するとメイドが兎とフブに豪勢な椅子を用意しそこに座らせた。

 そしてテーブルに飲み物とケーキが運ばれてきた。


「え?ケーキ…食べて良いの?」

「だだだダメ…危ない…どどど毒入ってるかも…」


『サキミネ様とそのお連れの〜…』


「フブ!」


『コホンッ。サキミネ様とそのお連れのフブ様にその様な事が出来るはずがありません。貴方様は周回移動都市にとっての希望の星なのですから。』


 そんな会話を横目にしたツグネは何だか馬鹿らしくなり兎の前に置かれたケーキを自分のフォークですくって食べた。


「ほら、毒なんて入ってねぇよ。」


「けけけ…」


「あ?なんだ?」


「けけケーキ減った…交換して…」


「お前…面の皮、辞書ぐらい厚いな…」








 ———————————————#####



 エヴァンテは兎に対面する様、テーブルにつく。

 “目は口ほどに物を言う”という(ことわざ)があるが、今その意味を完全に理解した。

 エヴァンテの笑顔の裏、今この移動時間で聞きたい事全部聞いてこい、そう言っている様に見える。

 でも、私は逆張りなのだ。

 聞けと言われたら聞きたく無いし、聞くなと言われれば聞きたくなる性分(しょうぶん)

 故に“今は聞かない”という選択肢を取ろう。

 思い通りになってたまるか。


『サキミネ様、これを受け取ってくださいまし。』



 ——————パタンッ。



 兎の目の前に1冊の本が置かれた。


「ここここれは…」


『周回移動都市で使われている一般教養の教科書です。』


(ぐっ…やられた…こっちが聞いてこない事を想定していた行動だ…)


 兎がその本に手を伸ばし隣に座っているフブにも見える様に開く。



 ——————ペラッ。



 ———1.この都市は移動する。

 ———2.この都市は一年で地球を一周する。

 ———3.この都市は三つの世界を行き来する。

 ———4.この都市の住民は、ヴェルサイユから市民権を与えられる。

 ———5.…



「ねぇ兎…窓の外見て…」


 せっかくフブにも見える様に本を読んでいたのに全然読んで無いんかいっという事はさておき、窓の外…確かに見たい。

 フブが窓にかけられたカーテンに食べられながら外を見ている。

 兎も迷わずフブと同様、カーテンに食べられに行った。

 明るい陽の光に瞼が重くなる。


「…ななななッ!」


 森の中の道を抜け、街に入った。

 瞬間、窓から見える景色に時代が遡ったかの様な錯覚さえ覚えた。

 中世の世界に迷い込んでしまったのか、はたまた不思議の国に迷い込んだのか…。


「兎、上も!」


 フブの声に兎は空の方へ目線を上げる。


「なッ…」


 なんとそこには大量という言葉では足りない程の“スフィア”が目的地まで花道を作っていた。

 しかし、その花道は空にある。

 兎は目を凝らしてそのスフィアをよく見た。

 全員両手の指を絡め、祈りの様なポーズをしている。


「ぎょぇ…なんか多い通り越してキモいよ…この数…」

「きききキモいね…」


『都市総出のお出迎えですね。目の保養にして貰うつもりでしたが、お見苦しい物をお見せする結果となり申し訳ございませんでした。』


 兎とフブはカーテンと窓に挟まれた状態でエヴァンテと話している。

 尚、顔に掛かったカーテンは振り払わずそのまま話す。

 エヴァンテも目隠しをしているのだからこっちもカーテンという目隠しをしよう。


(顔から滲み出る情報を抜き取られないし案外良いかも…。)


 エヴァンテはそんな2人を見て何故だかほっこりした。

 兎とフブはカーテンに食われる事に飽き静かに顔を出す。

 兎はもう一度チラッと窓の外を見て言った。


「…でででも、この馬車の近くのスフィアだけ毛色が違う…」


『えぇ、スフィアには様々な用途や種類があります。私の所有す…』



 ——————ガシャーンッ!!!



 奥から皿の割れる音がした。

 これと同時にセネカの軽い声も聞こえてきた。


 ———「ごめ〜ん!お皿割っちゃった〜!てへへ〜許してごめん遊ばせ〜。」


 エヴァンテの隣に立っていたセルフレリアがキッチンの方へ動き出し、セネカの首根っこを掴みここまで持ってきた。

 まるで猫に捕まえられたネズミみたいだ。

 その状態でセルフレリアは怒りが隠しきれない声でセネカに話し出した。


「セネカ、貴様トワイライト5000の時も待機を命じられていましたね。」


「え…あぁ…その(せつ)は誠にごめんなさい…」


「運動不足で仕方ないでしょう?」


「え…?あー。いや、別にそんな事〜…」


 セルフレリアはセネカの首根っこを掴んだまま馬車の扉を()け放り投げた。


「いやァァァァァァ!!!」



 ——————ドンッ!ゴロゴロゴロゴロッ!!!



 激しく地面に転がるセネカ。


「走って馬車について来なさい。良い運動になると思うわ。」


 セルフレリアは静かに扉を閉めた。


「エヴァンテ様、サキミネ様、お見苦しい物を見せてしまい申し訳ございませんでした。」


 流石に周りのメイドもエヴァンテもセルフレリアのその行動に引いている。


「ひぇ…スパルタ過ぎるよぉ…」


 フブの悲痛な声。

 しかし、兎は別のことを考えていた。


(扉の外、人がいっぱい居た。)


 謎の巨大建造物“周回移動都市”に沢山の人が住んでいた。

 窓から覗いていた時は人影が見えなかったが、人の居ない場所だったからなのだろうか…?


『サキミネ様、エヴァンの街に入りました。』


 エヴァンテが兎の考えを見透かした様に言う。


(こここコイツ…頭良い…私の疑問を読み取って来る…キモい…)


「え?!市民権?って奴、今から貰いに行くんだよね?!」


 フブが急に声を上げた。


『そうで…』


 エヴァンテがニコッとした表情で返事するがエヴァンテが話し終える前に興奮したフブが話を続ける。


「ここ!この本に市民権を得た市民は不老になるって書いてるよ!」


『えぇ、その通りですわ。』


「ななななッ?!さささ詐欺師の常套手段(じょうとうしゅだん)?!」


『ふふっ、詐欺師ではありませんわ。信じがたいでしょうが市民権を得た者は不老のチカラを得ます。』


「え?!てことは、エヴァンテも不老なの?!」


 エヴァンテに対し敬語を使わないフブにセルフレリアがぴくりと眉を動かすが、隣にサキミネがいる為何も言えない。


『えぇ、もちろん例外なく私も不老です。』


「えぇ?!何十…いや、何百…歳なの?!」


『うふふっ何歳でしょうか?当てて下さいまし?』


「んーっ、300歳!!!」


『違いまし。』


「えぇ?!んー…1000歳?!」


『違いまし。ふふっ。』


「えぇ?!」


 エヴァンテとフブの質問大会に兎が割り込む。


「ごごご5000歳…」


『あらっ、大正解ですこと…』


 エヴァンテ目隠しの上からでも,分かる様な表情と驚きの声を漏らした。


「えぇー?!兎凄い!!!何でわかったの?」


「ここ声と仕草で…予測した…」


 兎はエヴァンテに少しのドヤ顔をした。

 どうだ?やってやったぜ。と言わんばかりの顔にエヴァンテは素直に関心する。


『この目隠し姿でも声と仕草だけでそこまで予測できるのですね。流石、都市の救世主様ですわ。』


 よいしょされて気持ちよくなる兎。


(いや、でも…5000歳って…何から何まで未知だ。あまり下手な事しない方がいいのか…?私が救世主?意味がわからない。私にはメカニックの技術しかないし、なんかスフィアとかいうロボットがいる時点でそっちの方が技術高そうだし…あっ。)


 兎は気づく。


「ななな何でスフィアとかすすす凄いロボットがあるのに馬車なんか使ってるの…?」


『鋭い観察力、感服(かんぷく)致しますわ。』


つまみ食いに失敗したセネカがお皿を割ってしまい馬車から放り出される。

セネカ自身もこんな事、初めて体験した。

転がっている時とても背中が痛かった。

流石にあれはやり過ぎだと思います。

               byセネカ•ミル•レイディ



カーテンに挟まれた兎とフブ、その状態で話を続けている姿を見たエヴァンテは思いました。


(室内で飼い慣らしていた小動物が初めて外を見た時見たいですね…)

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