〔第42話〕陸海空汎用型戦術ロボット「ベクター」
この1話間長くなってしまいました。
海中に鎮座する巨大な機械。
カンネ•ロードの発言からして乗り物だという事は確定したが、一体どういう乗り物なのだろうか。
潜水艦UFO…?
そもそも水中用…?
それとも飛ぶのかな?
まぁ現時点で海中にいるのだから水中用って言われればそうか。
ていうか、今からあれに乗って海の中を行くのかな…?
「アレに乗るの〜?!うっひょぉ〜!!」
フブの表情はワクワクに満ち溢れていた。
私も正直ワクワクしている、あんな凄いUFOみたいな奴に乗れるんだ。
いちメカニック、発明家としても涎が止まらない。
——————ブッブブブブブブ。
海岸の海が細かく震えだす。
——————ブーーーンッ。
鈍い音と共に一部の海が割れ始めた。
海中の巨大な機械まで、1メートルの幅ぐらいに割れた海。 当然だが、海底が丸見えになっている。
「うぇ?!凄ぉッ!」
「すすす凄い…謎技術…」(しかし、何か妙だこの海底…)
私は違和感に気づく。
港の海岸、海底がこんなに深い訳がない。
この巨大な乗り物をここへ置く為にわざわざこの港の海底を削ったのか?
海を割れる技術を持っているのならば不可能ではない…と思うが、わざわざそこまでして…?
超技術を持つカンネ•ロード達が私に対し、何の価値を見出しているのかわからない。
「ほら、クソガキ共。行くぞ。」
——————シュンッ。
——————トッ。
カンネ•ロードは割れた数十メートル下の海底まで飛び降りた後、海底だった所から上を見上げてこちらへ合図を送ってきた。
「…すごぉ…この距離飛び降りて平気な顔してるよカンネ•ロード…。上には上が居るんだねぇ…。兎、私、運動音痴だったよぉ…」
「そそそんな事ない自信持って…」
流石のフブも私を背負ったままカンネ•ロードの所まで飛び降りると怪我をしそうなので少し困った顔をしている。
あ、降ります。
「ねぇ、流石にこの高さ。背中の兎が怪我しちゃう…どうしようカスミ…」
うるうるした顔で横のカスミに助けを求めるフブ。
「そうなのか?なら、2人共私の背中に掴まるといい。」
言われるがまま、私とフブはカスミの背中にひっさげている青白い光を放つ機械へ掴まる。
と、言ってもカスミの機械に直接掴まるのは(初心者だと)危ないという結論に至り、言葉のままカスミの背中にしがみつく事になった。
結果、カスミの背中に乗るフブにコアラされる私が出来上がった。
動物の親子かな?
——————ブゥーーンッ。
青白い光、中低音と共にカスミと私達はゆっくり浮遊しながら割れた海底へ降り立つ。
「すごぉー!!!」
「ののの乗り心地いい…ゆゆ揺れない…」
到着した海底から元いた地上を見上げるとエウレカもカンネ•ロードと同じ様な飛び降り方で海底へ飛び降りてきた…が。
——————シュッ。
——————ゴロゴロッスタンッ!
着地と同時に体を回転し、衝撃を逃した様に見える。
あれか、なんか三点着地法的な名前の降り方か。
数十メートルの高さだが、カンネ•ロードは椅子から飛び降りる程度の着地に見えのに対し、エウレカは大層大袈裟に、着地していた様に見える。
カンネ•ロードが凄いのかエウレカが凄くないのか。
いや、数十メートル無傷で飛び降りれるどっちも凄いけど…。
そんな事を考えているうちに巨大な機械の目の前まで来た。
「で、でででデカい…」
「兎、私達今からこれに乗るんだよ…ほげぇ〜…」
次の瞬間、カンネ•ロードがいきなり巨大な機械を蹴り付けて怒鳴り出した。
——————ガンッ!
「遅ェッんだよォ!早く開けろォや!!!」
こっわ…。
カンネ•ロードの怒鳴り声に応える様に、巨大な機械の入り口が開口し始める。
——————ガヒューッ。
——————シューッ。ガンガンガンガンガン。
折り重なり合った歯車が噛み合い、複雑な動きを見せる機械、蒸気の様な煙を上げながらその中身を見せる。
私から見えるその巨大な機械の中は奥に薄暗く光が伸びており、通路の様な物が見えるが、中は狭そうだ。
狭いといっても背の高いカンネ•ロード1人が屈まず歩ける程度には天井が高い。
しかし、横に手を伸ばせば壁にぶつかってしまうそんな広さだ。
そんな中、巨大な機械の入り口で1人の苦い顔をしている女が立っていた。
「ここはなァ゛“地上”だ。一瞬の隙すら許されない。わかァッてんのかァ“アネロ•ネッサ”。」
「す、すみませんッ。以後改善します。」
カンネ•ロードに胸ぐらを掴まれているアネロ•ネッサと呼ばている女が息苦しそうにひたすら謝罪している。
カンネ•ロードはパワハラ系上司だったか…。
まぁ喋り方がアレだからな…納得ちゃ納得か…。
そんなカンネ•ロードをカスミが少し諭す。
「まぁ、なんだ。トワイライト5000から回収した機械なんだろ?慣れていないのも仕方がない。そんな怒ってやるなカンネ。」
カンネ•ロードは不機嫌そうに巨大なUFOの様な機械の奥へ歩き、姿を消した。
カスミは私達に対し、入り口から軽く手招きをする。
私とフブは言われるがまま中へ入る。
そのUFOの入り口を跨ぐ。
その室内はメカメカしい配線は無く、代わりにボンベな様なものが無数に設置されているではないか。
何とも不思議な光景だ…。
奥へ進むにつれて、薄暗いはずだった船内が明るくなっていく。
そして、狭いと思っていた空間がひらけ…
「広ぉ〜い!」
フブの軽快な声が船内に響く。
そこは左右、上下、全方向の壁にモニターのついた広い空間だった。
そしてそのモニターには“海”が映し出されていた。
この機械の中から見た海岸の海の景色だろうか?
私達の後ろからついてきていたアネロ•ネッサと呼ばれていた女が改めて挨拶し始めた。
「周回移動都市 第II師団カンネ•ロード部隊所属 アネロ•ネッサと申します。サキミネ様と…ベリエッタ?貴方ベリエッタなの?!ねぇ!何処行ってたのよ!!!」
「ねぇ゛ーーー!!!またその話!!!」
猛抗議するフブの肩にエウレカは手を置き諭す様言う。
「この人はベリエッタじゃない。瓜二つの赤の他人だ。まぁ間違えるのも仕方がない。許してやってくれフブ。」
「ぶぅ〜…許す。」
「え…でも、エウレカ!明らかに…この顔…」
あっさり怒りをおさめたフブと違い納得のいかなさそうなアネロ•ネッサと名乗った女。
そこまでベリエッタという人物がフブと似ていたのだろうか。
自分のそっくりさんが世界に3人いると言うが、どうやらその話は本当の話だったらしい。
「ん゛ん゛では、気を取り直して。私、“アネロ•ネッサ”が周回移動都市までお連れします。では、向かいます。」
次の瞬間、船内が少し揺れた。
広い部屋全面に貼られたモニターに目を向ける一同。
どうやらこの巨大なUFOの様な機械が海中を進み出した様だ。
「この潜水艇で周回移動都市の海域まで進み、そこから先はスフィアで移動します。」
「あァ。」(カンネ•ロード)
「承知した。」(カスミ)
「了解した。」(エウレカ)
「みぃみぃみぃ?」(何もわかっていないフブ)
「みぃって何…?」(何もわかっていない兎)
「え…?んー、わかんない。」(フブ)
カンネ•ロード、カスミ、エウレカがそれぞれ返事を返した。
しかし、兎とフブはその会話についていけない。
「すすすすスフィア…って…何…」
ごもっともな兎の質問にアネロ•ネッサが応える。
「スフィアにも種類は様々あり一概に答えは出せませんが、周回移動都市が所有する巨大な人型ロボット兵器の事です。」
「…ろろろロマン。」
そんな説明を受ける最中、船内が再び大きく揺れた。
しかし、さっきの揺れとは比べ物にならない程の暴力的な揺れだった。
——————ゴォォォォォンッ!!!
「次はァ、ァんだぁよ?!」
その瞬間、船内のモニターが若干薄暗くなった。
この暗くなり方…覚えがある。
飛行艇が上から落ちてきた時の様な…
上を見上げる一同。
視線の先に見える巨大な不気味な“目”…?
——————『ゴォーーーーー!!!』
巨大な人型ロボットがこの潜水艇の外にいた。
「スフィア?!いや、ベクターか!何故ここに居るのだ!!」
そんなカスミの声に反応するかの様にベクターと呼ばれた巨大な人型ロボットが、このUFOの様な潜水艇を外から両手でがっしり掴んでいた。
「ねぇ゛ー!ベクターって何?!」
「しししし死ぬッ…」
「お前らァ!!!近くの物にしがみつけェ!!!」
フブと私は近くの柱にしがみついた。
激しく揺れる船内、そんな中ベクターと呼ばれていた巨大な人型ロボットをモニター越しに必死な形相で見る。
海中に揺れる赤い眼光と目があった瞬間、兎は思った。
この世界は弱肉強食に戻ったのだと。
—————— 『シュゴォォォォォォォォッ!!!』
巨大人型ロボットベクターは潜水艇を抱え込む様にがっしり掴みこちらを見ている。
それは目が赤く、緑の複雑な装甲で包まれていた。
美しくも恐ろしい姿は、酷く兎の心を怯えさせた。
——————ジュジュジュジュジュッ!!!
ベクターの体が複雑に可動し、有りとあらゆるところから赤いうねうねしたミミズの様なホースが出てきた。
「アネロ•ネッサァ!!!スフィアの護衛はァ?!?!」
激しく揺れる船内でカンネ•ロードが必死な形相で叫ぶ。
その叫びにアネロ•ネッサが応える。
「2機近くで待機していたはずですが!!!2機とも応答はありません!!!」
「チッ撃墜されたァかァ!!??」
——————バキバキバキバキバキバキッ!!!
ベクターから出てきている大量の赤いミミズの様なホースが潜水艇の装甲の隙間へと次々に差し込まれて行く。
その瞬間、船内から外の景色が見えるモニターがポツポツと消えて行く。
一台、また一台と画面が暗くなって行くモニターと船内。
そんな中、ケモ耳の目立つ和風な雰囲気を纏った1人の女が言った。
「私が捨て駒になろう。」
カスミが立ち上がり、腰についているバックパックの機械をその場で瞬時に展開した。
そして、そのまま潜水艇の入り口へ凄い勢いで飛んで行った。
——————プシューンッ!!!
——————『シュゴォォォォォォォォッ!!!』
カスミが潜水艇の入り口からバックパックの機械で出ていく音と共に、ベクターから出ているであろう唸りの声の様な音が船内に響き渡る。
カスミが潜水艇から出る為に船内の入り口を一瞬だけ開放した影響で若干の海水が床へ流れ込んだ。
「チッ、カスミ耐えろよォッ…」
緑の複雑な装甲に鋭く赤い眼光。
そしてミミズの様なホースが潜水艇を破壊して行く音が聞こえる。
——————バキバキバキバキッ!
それだけで死が近くまで迫ってきている事実を悟り、私達は震え上がった。
「う、兎!どどうしよう!」
「にに逃げよ!は、はは早くカンネ•ロード!」
珍しくフブがテンパっている。
今こそ私の衛生からの直落とし兵器を使うべきだろうか?
…否だ。
今海中にいる事やベクターに掴まれているにも関わらずしっかり目的地へ進行している潜水艇を見る限り、直落としするには“座標”がブレ過ぎている。
——————ドゴォォォォォンッ!!!
再び轟音が鳴り響いた。
その瞬間、潜水艇をがっしり掴んでいたベクターの手が離れた。
それと同時にミミズの様な赤いホースも無理やり引き剥がされ、モニターの一部が瞬時に回復する。
私は本能的に回復したモニターに視線を向けた。
それを見て私は瞬時に理解した。
海中へ飛び出して行ったカスミがベクターを引き剥がした事に。
そこから見える景色はSFなんて言葉でまとめていいのか分からなくなるほどの巨大な機械と機械の激突だった。
——————『シュゴォォォォォオオオオ!!!』
「カスミがァベクターの気を引いてるうちに行けェ!!!」
カンネ•ロードが叫びアネロ•ネッサに指示を出した。
潜水艇が再び速い速度で進行方向へ動き出し、ベクターとぐんぐん距離を離す。
ベクターと距離が離れた事によってそのロボットの全貌が見えた。
全身複雑な作りをしている巨大な人型ロボットベクター、背中にはボンベの様なものがいくつも付いている。
手足には羽の無い扇風機の様なスクリュー?がついていた。
最早それがスクリューなのかどうかもわからないがきっと何らかの推進力を生む奴なんだろう。
そのベクターと対峙しているカスミの姿が遠目で見えた。
ベクターに負けず劣らずの大きさに変形したカスミの機械は、人間の両手を連想させる様な巨大アームが付いており、カスミはその巨大アームを使って海中でベクターと激しく戦っていた。
カスミの腰についていたバックパックの機械があそこまで大きく変形出来る事に驚きつつも、私は心配する。
「いいいいくら何でも…海中じゃ息が続かないんじゃ…」
潜水艇は先を進む。
モニターから見えるベクターとカスミはどんどん小さくなっていく。
私の心配事に対し、エウレカがこの状況で懇切丁寧に答える。
「カスミ様は六防と呼ばれる周回移動都市最高峰の兵士です。本気を出せば半日だって息を止められる。心配ない。しかし…」
エウレカが話を続けようとした時、再び船内に轟音が鳴り響く。
——————ドゴォォォォォンッ!!!
——————ゴンッ!!!
大きな揺れの後、船内に大きな衝撃が走った。
最後の衝撃で柱に頭をぶつけたフブが叫ぶ。
「いッた゛ぁ゛!!!……ん?」
そして気づく。
船内の揺れが急に0になった。
海中を移動する時のわずかな揺れすらも無くなった。
モニターを見ると水の中、特有の光の屈折が無く、地上に上がった様な景色が映し出されていた。
「そそそ外に…出た…?」
(いや、違う。)
私は全方位のモニターを見回し、瞬時に理解した。
何故かわからないが、今この一瞬だけ海岸の海が“割れている”のだ。
しかし、前回の“割れ”とは違い、今回の“割れ”は違う。
わかりやすく言うとこの潜水艇が“意図的”に“継続的”に割っていた時とは大きく違う。
今回のは強い力で水溜まりを踏み抜いた時に出来る水の“弾き”の様に見える。
だとしたら…まずい!
私はモニター越しに遠くの景色を見た。
「やややややばぃッ…」
その予想は的中し、本来海岸に元在るべき水が海の方から押し寄せてきた。
擬似、津波だ。
——————ザッバァァァァァンッ!!!
その水が潜水艇に激突し、再び船内に大きな衝撃が走る。
——————ドォゴォォォォオンッ!!!
カンネ•ロードは瞬時の判断で私とフブを抱き抱えその場から大きくジャンプし瞬間的な衝撃から逃れる。
この衝撃ッ…人が兵器で死ぬ衝撃だッ皆んなはッ?!
エウレカは衝撃で腕がへし折れ、変な方向に曲がって苦渋の声をあげていた。
アネロ•ネッサは見当たらない。
一部船内が酷く損壊しているところを見るとそれに巻き込まれたのが容易に想像できる。
「エウレカ!大丈夫っ!?腕が…」
カンネ•ロードに抱えられながらも心配そうに声掛けするフブ、それも虚しく次の揺れが潜水艇を襲った。
——————ドゴォォォォォンッ!!!
——————ゴンッ!
再び同じ現象が起きた。
水がその場から勢いよく無くなり、潜水艇が“海底だった地面”へ激突する。
次に来る衝撃に備えてカンネ•ロードは私とフブを再度抱き抱え直した。
——————ヒュンッ。
「あ゛…?」
瞬間、室内が暗く影に覆われた。
今度は何だ?
船内が暗くッ…
あ、この感じ…上から…
一時的に水の無くなった海岸に鎮座する潜水艇。
そこに“カスミ”と“ベクター”が潜水艇の上部目掛けて遠くから凄い勢いで吹っ飛んできた。
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
潜水艇の上部から豪快に激突したベクターとカスミ。
その影響で潜水艇は大きく欠損した。
幸いこの潜水艇の船内フレームが思った以上に頑丈だったのか私達は圧死せずに済んだ。
お互いやり合っていたはずのカスミとベクターが何故、ここに居るんだ?!
何で今吹っ飛んできたッ、
見た感じカスミが負けてベクターを逃した訳でもなさそうなのに。
というより、カスミもベクターも何かに飛ばされてきた様な…
——————ピチョンッ…。
カンネ•ロードに抱き抱えられている私とフブの頭に水が垂れてきた。
「…ん?」
「なななッ…」
上を見る。
モニター越しではない本物の空が見えた。
故に導き出される必然的な答え。
さっきの衝撃で潜水艇に大きな穴が空いた。
その事実にカンネ•ロードは叫んだ。
「入り口ィから出んぞォ!!!」
カンネ•ロードの言う通りだ。
次、割れた海水が流れ込んできたらこの潜水艇は激しく揺れるだろう。
更に足元がぐらつき立てなくなるだろう。
更に更にそこに“激しい流水”が流れ込んできたらどうなるだろうか…答えは明白だ。
「ちょぉッうぉわぁ!!!」
「んぎぃッ!」
カンネ•ロードに体をキツく抱え直された。
ちょっとッ、痛い。
「ガキ共、舌噛むなァよ。」
カンネ•ロードは私とフブを抱き抱えたまま、入り口まで全力で走った。
しかし、後ろからカンネ•ロードの後に着くものは居ない。
エウレカやアネロ•ネッサはどこへ行ったのだろう。
後、ベクターと一緒に吹っ飛んできたカスミは無事なのだろうか。
カンネ•ロードは歪んで半開きになった潜水艇の入り口を蹴り開け外に出た。
モニターで見た通り、海に水は無かった。
海底が剥き出しになっている。
そして、遠くから津波の様な海水がこちらへ向かってくるが見える。
「…ねぇ、兎。アレって…」
その目の前には上半身がバラバラになったベクターと首の無いカスミが倒れていた。
「チッ。ガキ共、行くぞ。」
その言葉を無視してカンネ•ロードに担がれていたフブがその腕を振り払い、カスミのそばへ駆け寄った。
「カスミ…本当に、カスミだ。さっきまで普通に喋ってたのに…」
さっき出会ったばかりの人が死んだ。
その現実を呑み込む間も無く、また新しい現実が降りかかってくる。
——————『久しぶりやなぁ。』
聞き覚えのある声。
反射的に視線を上げる。
そこには小さな女が立っていた。
その女の目尻はほんのり赤く体は小さい、頭にボンボンを2つ付けており、その下にはツインテールがぶら下げられている。
そして…ソイツはチャイナ服を着ている。
「メイトン…」
私がその名を口にすると同時に割れた海水の津波が押し寄せて来た。
——————ザァッーーー!!!
それに伴いメイトンが拳を振り上げて下す。
その瞬間、押し寄せる海水がメイトンを中心に吹っ飛んだ。
——————ドゴォォォォォンッ!!!
まさか、メイトンがこのやり方で海岸の水を割っていたのか?!潜水艇をこれ以上目的地に進ませない為にかッ?!なんて規格外なッ…。
——————『ゴミがゴミ担いでクソみたいなぁ〜〜〜…親子丼みたいやねぇ〜!キャキャキャキャキャッ!!!』
無垢で無邪気な悪意含んだ声で笑うメイトン。
そんなメイトンをカンネ•ロードは心底、馬鹿にした様な顔で煽る。
「よォゴミィ。久しぶりィだなァ…アタシィに遠くまで、ぶっ飛ばされたァのに随分元気そォじゃねェか!!!」
『ハッ。アンタのせいでウチ九州まで飛ばされたんやからな!!!ほっっっっんま死ね。めんどくさいわぁ。』
「ほぉーん。じゃァなんでテメェは今ここに居んだァよ。九州からここまで来んのォが早すぎんだろォ。」
メイトンは上半身がバラバラになって動かなくなったベクターの方を指差して言った。
『上に無理言ーて、ベクターに運んで貰ったんよぉー。ほんまに連合に感謝やわぁ。』
「同じ連合の仲間ァ、ボロボロじゃねェか。カスミも…。これはァお前がやったのかァ?メイトン。」
メイトンは悪びれる様子もなく軽く言い放つ。
『運んでくれたんはありがたかったんやけど…なぁ?ここでサキミネに逃げられてたら元も子もないやろ〜。まぁ特に深い理由はないよぉ〜。このケモノの娘もベクターも海割るのに邪魔やってん。』
「同じ仲間ァにも容赦ねェなゴミ女ァ。」
『カスミもベクターもウチの一撃で沈んだわぁ〜。まぁひっくるめて雑魚やったて事やねぇ。』
メイトンはそう言いながら次に押し寄せてくる海水に向かって再び拳を振り下ろした。
——————ドゴォォォォォォンッ!!!
割れた海水が再び遠くまで吹っ飛んで行く。
『さぁ今度こそっ、さよぉ〜ならの時間やね。じゃぁ来世で待っててな。先に行って地獄でも掃除しといてぇや〜。』
メイトンが拳を振り上げたその時、私達の後ろから叫び声が聞こえてきた。
——————「英雄旗聖典!!!」
後ろを振り返ると、エウレカと思われるドス黒い騎士が地面に剣を刺していた。
そしてその剣を地面に刺したまま“捻った”。
次の瞬間、エウレカが剣を刺した地面から大量の血飛沫が吹き出してきた。
——————プシューーーーッ!!!
それと同時にエウレカの周りの地面から銀色の鎧を被った大量の中世風の騎士が地面から這い出てきた。
——————ヴァァァアァァアァァアァァア!!!
エウレカに呼び出されたのであろう騎士達は見た目こそ立派な騎士に見えるがその叫び声に理性は感じない。
その銀の騎士達が場を埋め尽くし、全員がメイトンの方向かって飛びかかっていく。
『あーーー!もう!四騎おるんやったら先言うといてぇなぁ!何でウチばっかり面倒くさい仕事回ってくんのぉぉお!』
——————ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!
カンネ•ロードはカスミの側に駆け寄ったフブを再度、抱き抱えてメイトンがエウレカと戦っている隙にその場を離れようとする。
「ねぇ゛ー!アネロ•ネッサって呼ばれてた人は?!無事なの?!」
「チッ。んなァ事より今のうちに逃げんぞォ!!!」
——————ダッダッダッダッダッダッ!
カンネ•ロードに担がれている私とフブは遠ざかっていくメイトンとエウレカを見る。
エウレカは呼び出した銀の騎士達を使い“数のチカラ”でメイトンを押しているように見える。
メイトンが銀の騎士を無数に吹き飛ばすが、吹き飛ばせど吹き飛ばせど銀の騎士は立ち上がりメイトンに襲い掛かる。
「兎!アレ!」
フブに言われて振り向くとフブが壊れた潜水艇の方を指差していた。
それはちょうど私達の角度から見えなかった潜水艇の裏側。
その方向を見て見るとアネロ•ネッサと呼ばれていた女が吹っ飛んできたベクターによって押し潰されて死んでいた。
あぁ、さっき船内で見かけなかった理由はここで死んでたからか…。
「あああ頭がッ」
頭蓋骨が割れ脳みそが丸見えになっていた。
一方、それに臆する事なく、カンネ•ロードは私とフブを抱えたまま速度を上げ、更にメイトンとエウレカから距離を離す。
しかし、結果的にメイトンから距離を離せば離すほど、押し寄せてくる海水へ近づく事になる。
“早く陸地へ上がらなければッ…”そんな思考が私の思考を鈍らせる。
そんな鈍い思考でも一つわかる事がある。
ここはメイトンの独壇場だ。
「かかかカンネ•ロード、さっきの港の方向はあっち!」
「違う!このまま目的地まで行くぞァ!」
「なななッ…ももも目的地?!」
「今はァ喋んなァ!舌ァ噛むぞ!!!」
「ひぇッ」
海水に呑まれたらッ…恐らく私達は激しい水流に巻き込まれ海面へ上がる事なく窒息死する。
考えるだけで恐ろしい。
しかし、その心配とは裏腹にメイトンが散らした海水は一向に押し寄せてこない。
「チッ。ここら一体の海水ァどこ行ったんだァ?」
その時、私達の後ろから高速で銀の騎士が弾丸の様に飛んで来た。
——————ヒュンッ!
「ダルい事ォすんなやァ!メイグトンッがァッ…!」
——————ヒュンッ!ヒュン!ヒュン!ヒュン!
6回連続して飛んでくる銀の騎士をノールックで交わすカンネ•ロード。
「かかかカンネ•ロード!!!そっち方向、やややっぱりううう海だよ!!!」
もう舌を噛んで死ぬより海の濁流に飲み込まれて死ぬ方が嫌だ。
「ここも元は海ん中ァだろがァ!目的地ィがあんだよォ!」
カンネ•ロードの言葉を信じるしか無いこの状況に嫌気がさす。
でも今は死ぬか、生きるかの選択だ。
カンネ•ロードの言葉を信じるしかない。
ていうか、何でこんな事になってるんだチクショウ。
——————ダッダッダッダッダッダッダッ!
メイトンが目視で見えなくなる程遠くまで来た。
カンネ•ロードの足の速さはきっと車より何倍も速い。
純粋にこの人が敵だったらと考えると恐ろしい。
——————ダッダッダッダッダッ!
カンネ•ロードにガッチリ抱えられてはいる状態でも、かなり揺れが少ない。
フブと同じぐらい…いや、それより凄い様に感じる。
焦る自分の気を逸らす為にそんな事を考えていると突然、カンネ•ロードの足が止まった。
「クソガキ共、3日前何してた。」
「え…」
急なカンネ•ロードの質問にフブが困惑した声を漏らす。
その質問の意味が全く分からないのは私も同じだ、しかし頭のよく回るカンネ•ロードの質問だ。
きっと何らかの意味があるに違いない。
「いいいい家に居た…2人で…」
「嘘じゃねなァ?」
「うううううん…」
「ねぇカンネ•ロード!今…そんな事より逃げなきゃ!」
何故、割れた海水が再び迫って来ないのか必死にそれについて考えている時だった。
「ガキ共アレを見ろ。」
私達はカンネ•ロードに言われるがまま指された方を見る。
遠くに山の様な建造物があった。
TVで謎の巨大建造物というニュースを見ていなければ山と勘違いしていたのかもしれない。
そう思わせる程のスケールだった。
そして、先ほどメイトンに壊された潜水艇がやっていた様なやり方で私達の近くの海を割っていた。
遠くから見る限りその規模は膨大すぎて目視では計り知れない。
ただその“建造物”のおかげで今海底だったはずの地面を歩けているのだろう。
つまり、カンネ•ロードが足を止めたと言うことは…
「都市のテリトリーに入ったァ。もうメイトンが放つ海水は迫ってこねェ。でも、メイトンはまだ来る…」
どうやら私達はまた一歩、目的地へ近づいたらしい。
いや、立ち止まったと言うことはそこに到着したのか…?
「何で止まってるの?!早くメイトンから逃げなきゃ…!」
フブの焦りがその言動のひとつひとつから伝わってくる。
「…ゴールまで一気に行くぞォ。」
「「え…?」」
カンネ•ロードは私達を抱え直し、さっきとは比にならない速度で再び走り出す。
さっきまでの穏便な揺れとは違い、今回のは走る衝撃がダイレクトに骨に伝わってくる。
少しでも気を抜けば背骨がポキッと折れてしまいそうだ。
——————ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!
しかも、速すぎて風を切る音しか聞こえない。
そして私はその風圧で首が耐えきれなくなり後ろを振り向く形になった。
「くっ、首の骨折れるッ…」
後ろを見た事で見たく無いものが見えてしまった。
メイトンが距離を詰めてきた。
ベクターの残骸を両手で振り回し、雑な竹馬の様な形でこちらへ向かってきた。
そこにエウレカの姿は無い。
「目的地ィまでラストォスパァートだァ!!!舌噛むなァよォ!!!!」
いくらカンネ•ロードの足が早くても、数十メートルある竹馬を軽石の様に軽々振り回しジャンプしながら近づいてくるメイトンにはいずれ速度で負ける。
「チッ、クッソだりィなァ!!!」
確実にじわじわ距離が詰められていく。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
カンネ•ロードは雄叫びを上げながら全力で走った。
しかし、その声を掻き消す様に空から再び轟音が鳴り始めた。
——————プシューッン!ゴウンゴウンゴウンゴウン!
上を見ると大量の巨大な人型ロボットが居た。
そのロボットの見た目を私は知っている。
多少なりとも細かいデザインは違うが222と同じ見た目だ。
「わぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!カンネ•ロードぉぉーー!!!!アイツ来ちゃったよぉ!!!しかもなんかめっちゃ居るよぉぉぉお!!!」
「ななななななッ…?!
2人の反応に全速力で走っているカンネ•ロードが全力で叫ぶ。
「アイツはァ222じァねェ!ほぼ見た目一緒なだけだァ!222は今、日本の街の方にいる!!これはァ都市のスフィアだ!!!」
さっきから“ありえない距離”を“ありえない速度”で走っているのに息一つ上げないどころか、私達と普通に話せているカンネ•ロードの方にも私はビビっている。
そして222と同じ見た目のスフィアが私達の目の前まで飛んで来て、近くへ着地して来た。
そのスフィアは何かを渡す様なポージングで拳をこちらへ差し出して来た。
——————プシューッ!!!
スフィアの手のひらが開かれた時、そこに現れたのは1人の男だった。
「お前がサキ…」
——————シュンッ!!!
——————バギャッ!!!
スフィアの手のひらから出て来た男が喋る間も無く、メイトンの放ったであろうベクターの残骸に潰された。
「そそそそんな…」
兎が嘆きの声を吐露したその時、スフィアの手のひらに居た男がカンネ•ロードの前にボトッと落ちて来た。
「ひぃっ…」
「ぐぐぐろい…」
その男の体は背骨がグニャグニャになり潰れていた。
しかし、カンネ•ロードはそれを無視して私達に言った。
「じゃァ大人しく家で待っとけ。今一度言っておくがァ、アタシ達は味方だァ。信用してくれてイイ。」
「は?!何言ってるか分ッかんないよ!!」
「わわわわ、わからない…わわ私の家はもう潰れ…」
後ろから、ベクターの残骸を放り投げたせいで、もう投げれる道具がなくなってしまい、泣く泣く徒歩で走っているメイトンがこちらへ迫ってきている。
「覚えてとけェ、ガキ共。潰れてるコイツァ“ツグネ”ってんだァ。」
カンネ•ロードの言葉を聞いた後、2人絶句した。
聞いたことの無い“ツグネ”という死んだ男の名前に驚いたからではない。
目の前の空間が剥がれ落ちて来たからだ。
——————パキッ。
「…え。」
「なななななッ!!!」
——————パキパキパキッ。
潰れた男を中心に空間が剥がれ落ちていく。
それらの超常現象を見て、私は黙ってフブの手を握った。
フブもその手を握り返す。
決して離れ離れにならぬ様に。
そしてどんどん空間が歪み出す。
——————バキッバカバキバキッ!!!!
私とフブは今度こそ、死を覚悟した。
視界が狭まる中、私は最後にメイトンの方をチラッと見た。
メイトンは酷く焦った様子で周りをひたすら殴りまくっていた。
——————バギャッン!バギャッン!バギャッン!
どうやらメイトンでもこの現象はどうにも出来ないらしい。
———————————————#####
完全に意識が消え……ん?
「ねぇ…兎、ここって。」
「…んぇ?」
私とフブは強く瞑っていた目を開けると薄い暗闇にいた。
しかし、この暗闇には見覚えがある。
爆散したはずの私のマンションの“物置の中”だ、まるでゾンビが勝手に部屋に入って来たあの時みたいだ…。
——————『イイイィイイイイイィィイ…』
「「ッ?!」」
2人はその不気味な声に体をビクつかせる。
物置の隙間から外を見る。
「やややっぱり、ほほ本当に私が住んでいた…わわわ私のマンション…」
——————ガチャッ。
フブは堂々と物置から外に出て、床の下で酷く怯え丸まったゾンビを見ながら言った。
「しかも…コイツってさぁ、あの時の顔の潰れたゾンビじゃん…」
そして、この状況を整理する間もなくフブは気づいてしまった。
ゾンビが何を見て怯えていたかに…。
大きなマンションの窓、そこからこちらを覗き込むように見る…
——————222と呼ばれていた大きな人型ロボットが居た。
[ベクター]
スフィアを模倣して作られた連合の人型ロボット兵器。
陸海空用に作られており非常に汎用性が高い。
扱いが非常に難しく連合でも乗りこなせる人はそう居ない。
代表者【ラスター•エネ•ウォンスキー】
九州までふっ飛ばされたメイトン。
——————ピンポーン。
「なぁアンタ。ここどこかわかる?え、九州…?」




