〔第42話〕陸海空汎用型戦術ロボット「ベクター」
更新とこの1話間長くなってしまいました。
この話から本番の222編のスタートとなります。
トイプードルがそう言ってました。
水中に鎮座する巨大な機械。
カンネ•ロードの発言からして乗り物だという事は確定したが、一体どういう乗り物なのだろうか。
水中用…?
それとも飛ぶのかな?
まぁ現時点で水中にいるのだから水中用って言われればそうか。
ていうか、今からあれに乗って海の中を行くのかな…?
「アレに乗るの〜?!」
フブの表情はワクワクに満ち溢れている。
私も正直ワクワクしている、あんな凄いUFOみたいな奴に乗れるんだ。
いちメカニック、発明家としても涎が止まらない。
——————ブッブブブブブブ。
海岸の海が細かく震えだす。
——————ブーーーンッ。
鈍い音と共に一部の海が割れる。
巨大な機械の距離まで、1メートルの幅ぐらいに割れた海、海底が丸見えになっている。
「うぇ?!凄ぉッ!」
「すすす凄い…謎技術…」(しかし、何か妙だこの海水…)
兎は持ち前の洞察力で何かの違和感に気づく。
港の海岸、海底がこんなに深い訳がない。
この巨大な乗り物の機械をここに置く為にわざわざ地面を削ったのか?
海も割れる技術を持っているのならば不可能ではない…と思うが、わざわざそこまでして…?
「ほら、クソガキ共。行くぞ。」
——————シュンッ。
——————トッ。
カンネ•ロードは割れた数十メートル下の海底まで飛び降りた後、海底だった所から上を見上げてこちらを見上げている。
「…すごぉ…上には上があるんだねぇ…兎…私、運動音痴だったよぉ…」
「…そそそそんな事ない自信持って…」
流石のフブも兎を背負ったままカンネ•ロードの所まで飛び降りると怪我をしそうなので少し困った表情をする。
「ねぇ、流石にこの高さ背中の兎が怪我しちゃう…どうしようカスミ…」
うるうるした顔で横のカスミに助けを求めるフブ。
「そうなのか?なら、2人共私の背中につかまるといい。」
言われるがまま、カスミの背中にひっさげている機械につかまるフブ。
カスミに乗るフブにコアラされる私兎。
動物の親子かな?
——————ブゥーーンッ。
青白い光、中低音と共にカスミはゆっくり浮遊しながら割れた海底へ降りる。
「すごぉー!!!」
「ののの乗り心地いい…ゆゆ揺れない…」
到着した海底から元いた地上を見上げるとエウレカもカンネ•ロードと同じ様な飛び降り方で飛び降りてきた…が。
——————シュッ。
——————ゴロゴロッスタンッ!
着地と同時に体を回転し、衝撃を逃した様に見える。
数十メートルの高さだが、カンネ•ロードは椅子から飛び降りる程度の着地に見えた。
反対にエウレカは大層に大袈裟に、着地していた様に見える。
カンネ•ロードが凄いのかエウレカが凄くないのか。
いや、数十メートル無傷で飛び降りれる方が凄いけど…。
そんな事を考えているうち、巨大な機械の目の前まで来た。
「で、でででデカい…」
「私達今からこれに乗るんだよ…ほげぇ〜…」
次の瞬間、カンネ•ロードがいきなり巨大な機械を蹴り付けて怒鳴った。
——————ガンッ!
「遅ェッんだよォ!早く開けろォや!!!」
こっわ…。
カンネ•ロードの怒鳴り声に応える様に巨大な機械の入り口が開口し始める。
——————ガヒューッ。
——————シューッ。ガンガンガンガンガン。
おり重なり合った歯車が噛み合い、複雑な動きを見せる機械、蒸気の様な煙を上げながらその中身を見せる。
私から見えるその巨大な機械の中は奥に薄暗く光っており、通路の様な物が見えるが、中は狭そうだ。
狭いといっても背の高いカンネ•ロード1人が屈まず歩ける程度には天井が高い。
しかし、横に手を伸ばせば壁にぶつかってしまうそんな広さだ。
そんな巨大な機械の入り口で、ひとりの苦い顔をしている女が立っていた。
「ここはァなァ地上だ。一瞬の隙すら許されない。わかァッてんのかァ“アネロ•ネッサ”。」
「す、すみませんッ。以後改善します。」
カンネ•ロードに胸ぐらを掴まれているアネロ•ネッサと呼ばている女。
そんなカンネ•ロードをカスミが少し諭す。
「まぁ、なんだ。トワイライト5000から回収した機械なんだろ?慣れていないのも仕方ない。そんな怒ってやるなカンネ。」
カンネ•ロードは不機嫌そうに巨大なUFOの様な機械の奥へ歩き、姿を消した。
カスミは兎とフブに対し、入り口から手招きをし中に入る様に促す。
兎とフブは言われるがまま中に入る。
入り口を跨ぐとメカメカしい配線は無く、代わりにボンベな様なものが無数に設置されている。
奥へ進むにつれて、薄暗いはずだった船内が明るくなっていく。
そして、狭いと思っていた空間が…。
「ひ、広い!」
フブの軽快な声が船内に響く。
しばらく進んだ先、横、上下、全方向の壁にモニターのついた広い空間へ到着した。
モニターには“海”が映し出されていた。
この機械の中から見た海岸の海の景色だろうか?
兎とフブの後ろからついてきていたアネロ•ネッサと呼ばれていた女が改めて兎とフブに挨拶した。
「周回移動都市 第II師団カンネ•ロード部隊所属 アネロ•ネッサと申します。サキミネ様と…ベリエッタ?貴方ベリエッタなの?!ねぇ!何処行ってたのよ!!!」
「ねぇ゛ーーー!!!またその話!!!」
猛抗議するフブの肩にエウレカが手を置き言う。
「この人はベリエッタじゃない。瓜二つの赤の他人だ。まぁ間違えるのも無理ない。許してやってくれフブ。」
「…許す。」
「え…でも、明らかに…」
あっさり怒りをおさめたフブと違い納得のいかなさそうなアネロ•ネッサ。
そこまでベリエッタという人物がフブと似ていたのだろう、自分のそっくりさんが世界に3人いると言うがどうやらその話は本当の話らしい。
「ん゛ん゛では、気を取り直して。私アネロ•ネッサが周回移動都市までお連れします。では…」
次の瞬間、船内が少し揺れた。
広い部屋全面に貼られたモニターに目を向ける。
どうやらこの巨大なUFOの様な機械が水中を進み出した様だ。
「この潜水艇で周回移動都市まで行きそこから先はスフィアで移動します。」
「あァ。」
「承知した。」
「了解した。」
カンネ•ロード、カスミ、エウレカがそれぞれ返事を返した。
しかし、兎とフブはその会話についていけない。
「すすすすスフィア…って…何…」
ごもっともな兎の質問にアネロ•ネッサが応える。
「スフィアにも種類は様々あり一概に答えは出せませんが、周回移動都市が所有する巨大なロボット型の兵器の事です。」
「…ろろろロマン。」
そんな説明を受ける最中、船内が再び大きく揺れた。
しかし、さっきの揺れとは比べ物にならない揺れだ。
——————ゴォォォォォンッ!!!
「なァんだぁよ?!」
その瞬間、船内のモニターが薄暗くなった。
この暗くなり方…覚えがある。
飛行艇が上から落ちてきた時の様な…
上を見上げる一同。
視線の先に見える巨大な不気味な“目”。
——————『ゴォーーーーー!!!』
巨大な人型ロボットが潜水艇の外にいた。
「スフィア?!いや、ベクターか!何故ここに居るのだ!!」
カスミの声に反応するかの様に巨大な人型ロボットが、このUFOの様な潜水艇を水中の外から両手でがっしり掴んだ。
「ねぇ゛ー!ベクターって何?!」
「しししし死ぬッ…」
「お前らァ!!!近くの物にしがみつけェ!!!」
フブは兎と共に近くの柱にしがみついた。
激しく揺れる船内、そんな中2人はベクターと呼ばれていた巨大な人型ロボットを必死に見る。
潜水艇を抱え込む様にがっしり掴みこちらを見ている。
その顔は目が赤く、緑の複雑な装甲で包まれていた。
——————ジュジュジュジュジュッ!!!
ベクターの体が可動しありとあらゆるところから赤いうねうねしたミミズの様なホースが出てきた。
「ネッサァ!!!スフィアの護衛はァ?!?!」
激しく揺れる船内でカンネ•ロードが叫ぶ。
その叫びにアネロ•ネッサが必死の様子で応える。
「2機近くで待機していたはずですが!!!無線の応答はありません!!!」
——————バキバキバキバキバキバキッ!!!
ベクターから出てきている大量の赤いホースが潜水艇に差し込まれて行く。
その瞬間、船内から外の景色が見えるモニターがポツポツと消えて行く。
一台、また一台と画面が暗くなって行くモニター。
「私が捨て駒になろう。」
カスミが立ち上がり、腰についているバックパックの機械を展開する。
そして、そのまま潜水艇の入り口へ飛んで行った。
——————プシューンッ!!!
——————『シュゴォォォォォォォォッ!!!』
カスミがバックパックの機械で出ていく音と共に、ベクターから出ているであろう唸りの声の様な音が船内に響き渡る。
緑の複雑な装甲に鋭い赤い眼光、ミミズの様なホースが潜水艇を破壊して行く音が聞こえる。
——————バキバキバキバキッ!
それだけで死が近くまで迫ってきている事実を悟り震え上がる兎。
——————ドゴォォォォォンッ!!!
再び轟音が鳴り響く。
その瞬間、潜水艇をがっしり掴んでいたベクターの手が離れた。
それと同時にミミズの様な赤いホースも引き剥がされモニターの一部が回復する。
カスミがベクターを引き剥がしたのだ。
——————『シュゴォォォォォオオオオ!!!』
「カスミがベクターの気を引いてるうちに行けェ!!!」
カンネ•ロードがアネロ•ネッサに指示する。
潜水艇が再び動き出し、ベクターと距離を離す。
ベクターと距離が離れた事によってそのロボットの全貌が見えた。
全身複雑な作りをしている巨大な人型ロボット、背中にはボンベの様なものが付いている。
手足に羽の無い扇風機の様なスクリュー?がついている…最早それがスクリューなのかどうかもわからないがきっとそうなんだろう。
そのベクターと対峙しているカスミの姿が遠目で見えた。
ベクターに負けず劣らずの大きさに変形した腰についた機械、人間の両手を連想させる様な巨大アームが付いており、カスミはその巨大アームを使って水中でベクターと戦っていた。
カスミの腰についていたバックパックの機械があそこまで大きく変形出来る事に驚きつつ、兎は心配する。
「いいいいくら何でも…水中じゃ息が出来いんじゃ…」
潜水艇は先を進む。
モニターから見えるベクターとカスミはどんどん小さくなる。
兎の心配事に横槍を入れるエウレカ。
「カスミ様は六防の獣人です。本気を出せば半日だって息を止めれるでしょう。心配ありません…しかし…」
エウレカが話を続けようとした時、再び船内に轟音が鳴り響く。
——————ドゴォォォォォンッ!!!
——————ゴンッ!!!
大きな揺れの後、船内に大きな衝撃が走った。
最後の衝撃で柱に頭をぶつけたフブが叫ぶ。
「いッた゛ぁ゛!!!……ん?」
船内の揺れが0になった。
水中を移動する時のわずかな揺れすら無くなった。
モニターを見ると水の中、特有の光の屈折が無く地上に上がった様な景色になっていた。
「そそそ外に…出た…?」
(いや、違う。)
兎は瞬時に理解した。
何故かわからないが、今この一瞬だけ海岸の海が“割れている”のだ。
だが、今回の“割れ”は違う。
この潜水艇が“意図的”に“継続的”に割っていた時とは違う。
今回のは強い力で水を一時的に端っこ寄せた様な…だとしたら…まずい!
兎はモニター越しの遠くの景色を見た。
「やややややばぃッ…」
その予想は的中し、本来海岸に在るべき水が海の方から押し寄せてきた。
——————ザッバァァァァァンッ!!!
その水が潜水艇を呑み込み、再び船内に大きな衝撃が走る。
——————ドォゴォォォォオンッ!!!
カンネ•ロードが兎とフブを抱き抱えその場から大きくジャンプし瞬間的な衝撃から逃れる。
アネロ•ネッサはその衝撃で頭が船内のモニターに激突し気絶した。
エウレカも衝撃で腕がへし折れていた。
「エウレカ!大丈夫っ!?腕が…」
心配そうに声掛けするフブ、それも虚しく次の揺れが潜水艇を襲う。
——————ドゴォォォォォンッ!!!
——————ゴンッ!
再び同じ現象が起きた。
水がその場から勢いよく無くなり、潜水艇が“海底だった地面”に激突する。
次に来る衝撃に備えてカンネ•ロードが兎とフブを再度抱き抱える。
——————ヒュンッ。
一時的に水の無くなった海岸、カスミとベクターが潜水艇の上部目掛けて遠くから凄い勢いで吹っ飛んできた。
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
潜水艇に直撃しベクター、カスミ、潜水艇が大きく欠損した。
お互いやり合っていたはずのカスミとベクターが何故、ここに居るんだ?!
何故吹っ飛んできたんだ?!
カスミが負けてベクターを逃した訳でもなさそうだ。
というより、カスミもベクターも何かに飛ばされてきた様に見える。
——————チョロチョロチョロチョロ。
カンネ•ロードに抱き抱えられている兎とフブの頭に水が垂れてきた。
「…ん?」
「なななッ…」
上を見る。
空が見えた。
故に導き出される必然的な答え。
潜水艇に穴が空いた。
その事実を瞬時に察知したカンネ•ロードは叫んだ。
「入り口ィから出んぞォ!!!」
カンネ•ロードの言う通りだ。
次、割れた海の水が流れ込んできたらこの潜水艇は激しく揺れるだろう。
更に足元がぐらつき立てなくなるだろう、そこに“激しい流水”が流れ込んできたらどうなるか答えは“死ぬ”だ。
「ちょぉッうぉわぁ!!!」
「んぎぃッ!」
「ガキ共、舌噛むなよ。」
カンネ•ロードは兎とフブを抱き抱えたまま、入り口まで全力で走る。
しかし、後ろからカンネ•ロードについてくる人は居ない。
エウレカやアネロ•ネッサはどこへ行ったのだろう。
後、カスミは無事なのだろうか。
潜水艇の入り口を開け外に出た。
モニターで見た通り、割れた海に水は無かった。
海底が剥き出しになっている。
遠くから割った海の水がこちらに向かってくるのが見える。
だが、問題はそこじゃない。
上半身がバラバラになったベクターと首の無いカスミが倒れていた。
「チッ。ガキ共、逃げんぞ。」
その言葉を聞きカンネ•ロードに担がれていたフブがカスミのそばに駆け寄った。
「カスミ…本当に、カスミだ。さっきまで普通に喋ってたのに…」
その現実を呑み込む間も無く、また新しい現実が降りかかってくる。
——————『久しぶりやなぁ。』
聞き覚えのある声。
反射的に視線を上げる。
見覚えのある女が立っていた。
その女の目尻はほんのり赤く体は小さい、頭にボンボンを2つ付けておりチャイナ服を着ている。
「メイトン…」
兎がその名を口にすると同時に割れた海の波が押し寄せた。
——————ザァッーーー!!!
メイトンが拳を振り上げて下す。
その瞬間、押し寄せる水がメイトンを中心に吹っ飛んだ。
——————ドゴォォォォォンッ!!!
(まさか、メイトンが海岸の水を割っていたのか?!潜水艇をこれ以上目的地に進ませない様にする為に…)
——————『ゴミがゴミ担いでクソみたいなぁ〜〜〜…親子丼みたいやねぇ〜!キャキャキャキャキャッ!!!』
無垢で無邪気な声で笑うメイトン。
そんなメイトンにカンネ•ロードが話しかける。
「おォゴミ久しぶりィだなァ…アタシィに遠くまで、ぶっ飛ばされたァのに随分元気そォじゃねェか!!!」
『ハッ。アンタのせいでウチ九州まで飛ばされたんやから!!!ほっっっっんま死ねぇめんどくさいわ!!!』
「ほぉーん。じゃァなんでテメェは今ここに居んだよ。早すぎんだろォ九州からここまで来んのォがよォ。」
メイトンは上半身がバラバラになって動かなくなったベクターの方を指差して言った。
『ベクターに運んで貰ったんよぉー。ほんまに連合に感謝やわぁ。』
「同じ連合の仲間ァ、ボロボロじゃねェか。カスミも…だ。お前がやったのかメイトン。」
メイトンは悪びれる様子もなく悠々と話す。
『運んでくれたんはありがたかったけど、ベクターぁ。ここでサキミネに逃げられてたら意味ないやろ〜。まぁこのケモノの娘もベクターも海割るのに邪魔やってん。』
「同んなじィ仲間ァにも容赦ねェなゴミ女ァ。」
『カスミもベクターもウチの一撃で沈んだわぁ〜。雑魚やねぇ〜。』
メイトンはそう言いながら次に押し寄せてくる水に向かって再び拳を振り下ろした。
——————ドゴォォォォォォンッ!!!
割れた海の水が再び遠くまで吹っ飛んで行く。
『さぁ今度こそっ、さよ〜ならの時間やね。じゃぁ来世で待っててな。』
メイトンが拳を振り上げたその時、後ろから叫び声が聞こえた。
——————「英雄旗聖典!!!」
後ろを見ると、エウレカと思われるドス黒い騎士が地面に剣を刺している。
そしてその剣を地面に刺したまま捻る。
するとエウレカが剣を刺した地面から大量の血飛沫が吹き出してきた。
——————プシューーーーッ!!!
それと同時にエウレカの周りの地面から銀色の鎧を被った大量の騎士が地面から這い出てきた。
——————ヴァァァアァァアァァアァァア!!!
エウレカに呼び出されたのであろう騎士達は見た目こそ立派な騎士に見えるがその叫び声に理性は感じない。
その銀の騎士達が周りを埋め尽くし全員がメイトンの方向かって飛びかかっていく。
『あーーー!もう!四騎士おるんやったら先言うといてぇなぁ!何でウチばっかり面倒くさい仕事回ってくんのよ!!!』
——————ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!
カンネ•ロードはカスミの側に駆け寄ったフブを再度、抱き抱えた。
「ネッサって呼ばれてた人は?!無事なの?!」
「チッ。んなァ事より今のうちに逃げんぞォ!!!」
——————ダッダッダッダッダッダッ!
カンネ•ロードに担がれている兎とフブは遠ざかっていくメイトンとエウレカを見る。
エウレカは呼び出した銀の騎士を使い“数のチカラ”でメイトンを押しているように見える。
メイトンが銀の騎士を吹き飛ばす。
しかし、吹き飛ばせど吹き飛ばせど銀の騎士は立ち上がりメイトンに襲い掛かる。
「兎!アレ…」
フブに話しかけられて振り向くとフブが壊れた潜水艇の方を指差していた。
その方向を見て見るとアネロ•ネッサと呼ばれていた女が吹っ飛んできたベクターによって押し潰されていた死んでいた。
「あああ頭が…ッ」
頭蓋骨が割れ脳みそが丸見えになっていた。
一方、カンネ•ロードは兎とフブを抱えたまま速度を上げ、更にメイトンとエウレカから距離を離す。
メイトンから距離を離せば離すほど、カンネ•ロードはその異様さに気づく。
「チッ。ここら一体の海水ァどこ行ったんだァ?」
その時、後ろから高速で銀の騎士が弾丸の様に飛んで来た。
——————ヒュンッ!
「あのゴミィッ…」
——————ヒュンッ!ヒュン!ヒュン!ヒュン!
6回連続して飛んでくる銀の騎士を走りながらノールックで交わすカンネ•ロード。
「かかかカンネ•ロード!!!そっち方向、ううう海!!」
「ここも元は海ん中ァだろがァ!目的地ィがあんだよォ!」
カンネ•ロードの言葉を信じるしか無いこの状況。
死ぬか、生きれるか。
——————ダッダッダッダッダッダッダッ!
メイトンが見えなくなる程遠くまで来た。
カンネ•ロードの足の速さは車より速い様に感じた純粋にこの人が敵だったらと考えるだけで恐ろしい。
しかし、妙だ。
さっきまでとは違い、割れた海の水が迫ってくる事はない。
そういえば、メイトンは海の水だけをぶっ飛ばしていた。
その時、衝撃波の様なものは出ていたが風圧はそこまで感じなかった。
考えれば考えるほどメイトンの能力が分からない。
——————ダッダッダッダッダッ!
カンネ•ロードの背中は揺れが少ない。
フブと同じぐらい…いや、それより凄い様に感じる。
そんな事を考えていると突然、カンネ•ロードの足が止まった。
「クソガキ共、3日前何してた。」
「え…」
カンネ•ロードの質問にフブが困惑した声を漏らす。
その質問の意味が全く分からないのは私も同じだ、しかし頭のよく回るカンネ•ロードの質問だきっと何らかの意味があるに違いない。
「いいいい家で居た…2人で…」
「嘘じゃねェな?」
「うううううん…」
「今…そんな事より逃げなきゃ!」
兎はその質問の意図を考える間も無く、遠くから聞こえてくる音の方を向く。
——————ブブブブブブッ。
何故、割れた海の水が再び迫って来ないのかが分かった。
遠くに見えるあの山の様な“建造物”が先ほどメイトンに壊された潜水艇がやっていた様なやり方で海を割っていた。
遠くから見る限りその規模は膨大すぎて目視では計り知れない。
ただその“建造物”のおかげで今海底だったはずの地面を歩けているのだろう。
つまり、カンネ•ロードが足を止めたと言うことは…。
「都市のテリトリーにィ入ったァ。もう海水は迫ってこねェよ。でも、メイトンはまだ来る…」
どうやら目的地に近づいたらしい。
立ち止まったと言うことはそこに到着したのか…?
「何で止まってるの?!早くメイトンから逃げなきゃ…!」
フブの焦りがその言葉ひとつひとつから伝わってくる。
「…ゴールまで一気に行くぞォ。」
「「え…?」」
カンネ•ロードは両手を後ろに回しさっきとは比にならない速度で走り出す。
——————ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!
速すぎて風を切る音しか聞こえない。
風圧で首が耐えきれなくなり後ろを振り返る形になる兎。
後ろを見た事で見たく無いものが見えてしまった。
メイトンが距離を詰めてきた。
ベクターの残骸を使い両手で竹馬の様に進んできている。
そこにエウレカの姿は無かった。
「目的地ィまでラストォスパァートだァ!!!舌噛むなァよォ!!!!」
いくらカンネ•ロードの足が早くても、数十メートルある竹馬を風船の様に軽々振り回しジャンプしながら近づいてくるメイトンには負ける。
確実にじわじわ距離が詰められていく。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
カンネ•ロードが雄叫びを上げながら走る。
しかし、その声を掻き消す様に空から轟音が鳴り始めた。
——————プシューッン!ゴウンゴウンゴウンゴウン!
上を見ると大量の巨大な人型ロボットが居た。
そのロボットの見た目、知っている。
222と同じ見た目だ。
「わぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!カンネ•ロードぉぉーー!!!!アイツ来ちゃったよぉ!!!」
「ななななななッ…」
2人の反応に全速力で走っているカンネ•ロードが全力で叫び答える。
「アイツはァ222じァねェ!見た目一緒なだけだァ!222は今、街の方にいる!!これはァスフィアだ!!!」
222と同じ見た目のスフィアが兎達の目の前に着地した。
そのスフィアは手をこちらに差し出して来た。
——————プシューッ!!!
スフィアが手のひらに載せていたのは1人の男だった。
「お前がサキ…」
——————シュンッ!!!
——————バギャッ!!!
スフィアの手のひらから出て来た男が喋る間も無く、メイトンの放ったであろうベクターの残骸に潰された。
「そそそそんな…」
兎が嘆きの声を吐露した時、スフィアの手のひらに居た男がカンネ•ロードの前にボトッと落ちて来た。
「ひぃっ…」
「めめめメイトン…」
その男の体は無慈悲にも潰れていた。
目を逸らそうとする2人とは真反対にカンネ•ロードは笑った。
「しゃ゛ーーーー!!!」
雄叫びをあげると同時に兎とフブを背中から落とすカンネ•ロード。
兎は必死に頭を回すもの事態が把握出来ずオロオロしている。
フブは困惑を通り越して怒りに変わる。
「何に喜んでッ!!!」
——————ブンッ!
フブはカンネ•ロードに向けてパンチするも赤子の手を捻るかのように対処され、その拳を掴まれる。
「じゃァ大人しく家で待っとけ。今一度言っておく。アタシ達は味方だァ。」
「は?!何言ってるか分かんないよ!!」
「わわわわ、わからない…」
後ろから、ベクターの残骸を放り投げたせいで道具がなくなり徒歩で走ってくるメイトンが迫る。
「覚えてとけェ、ガキ共潰れてるコイツァ“ツグネ”ってんだァ…」
カンネ•ロードの言葉に反応しようとした2人の口が止まる。
——————パキッ。
「…え。」
「なななななッ!!!」
——————パキパキパキッ。
潰れた男を中心に空間が剥がれ落ちていく。
それらの超常現象を見て、兎は黙ってフブの手を握った。
フブもその手を握り返す。
空間が歪み歪み出す。
——————バキッバカバキバキッ!!!!
兎とフブは今度こそ、死を覚悟した。
——————バギャッン!バギャッン!バギャッン!
視界が狭まる中、兎はメイトンの方を見た。
メイトンは酷く焦った様子で周りを殴りまくっている。
どうやらメイトンでもこの現象はどうにも出来ないようだ。
———————————————#####
完全に意識が消え……ん?
「ねぇ…兎、ここって。」
「…んぇ?」
兎とフブは目を開けると薄い暗闇にいた。
しかし、この暗闇に見覚えがある。
爆散したはずの兎のマンションの“物置の中”だ、まるであの時の…。
——————『イイイィイイイイイィィイ…』
「「ッ?!」」
2人はその不気味な声に体をビクつかせる。
物置の隙間から外を見る。
「やややっぱり、ほほ本当に私が住んでいた…わわわ私のマンション…」
——————ガチャッ。
フブは堂々と物置から外に出て、床の下で酷く怯え丸まっているそれを見ながら言った。
「しかも…コイツってさぁ、あの時の顔の潰れたゾンビじゃん…」
そして、この状況を整理する間もなくフブは気づいてしまう。
ゾンビが何を見て怯えていたかに。
大きなマンションの窓、そこからこちらを覗き込むように見る…
——————大きな目玉があった。
[ベクター]
スフィアを模倣して作られた連合の人型ロボット兵器。
陸海空用に作られており非常に汎用性が高い。
扱いが非常に難しく連合でも乗りこなせる人はそう居ない。
代表者【ラスター•エネ•ウォンスキー】
九州までふっ飛ばされたメイトン。
——————ピンポーン。
「なぁアンタ。ここどこかわかる?え、九州…?」




