〔第34話〕安全地帯
「ふふふフブ…一様、クリアリングとかしながら進もう…」
「お、了解〜。」
2人はホテルの屋上プールからホテルの中へ入る。
屋上プールの受付に人影は無かった。
今、外の世界がどれだけ終末に近づいているのかわからない以上、慎重に動いた方が良いに決まっている。
もしかしたら、今このホテルの中もゾンビだらけになっているかもしれない。
「兎、客室に出るよ。」
非常階段を降りていた2人は客室に繋がる扉を開ける。
「ふふふフブ…待って…」
「ん?どうしたの?」
「こここ…ここのホテル高級…」
「ん?それがどうかしたの?」
フブは不思議そうな顔で兎を見る。
「えええエレベーターも客室のキー使わないと動かない様なホテル…だと思う…。せせセキュリティちゃんとしてるはずなのに、今…非常階段の扉、全部鍵あいてた…」
「んーと…つまりどう言う事だってばよ?」
「もも…もしかしたら、中でゾンビが発生して皆んなが逃れる様に非常階段の扉の鍵…あけたのかも…」
「なるほど…中でゾンビがでて、えらいこっちゃになった可能性があるんですね兎探偵。でも、血とか全然見かけてないよ?」
「たたた確かに…じゃぁ、もしかしたら…生存者がこのホテルを要塞化してるのかも…」
「まぁ考えても仕方ないし注意して行こう…ぜ!へっ。」
2人は非常階段から客室に繋がる扉をゆっくり開ける。
——————ガチャッ。
流石高級ホテルなだけ客室の廊下の幅が広い。
高そうな赤いカーペット、金色の額縁に入れられた絵画、それに彫刻…は無いが凄く豪華だ。
所々天井からぶら下がっているシャンデリアにも目がいく。
「凄ぉい…」
「ふふふフブ…クリアリング…」
「あ、そそうだね!」
2人はそろりそろりと廊下の角を左右それぞれ見に行く。
鍵があいている客室はないか一部屋一部屋確認する。
——————ガチャッ。
——————ガチャッ。
——————ガチャッ。
「んー…全部鍵かかってないじゃん…兎!何これ!でも中、入るの怖い!」
「ととととりあえず一室借りよう…ふふ服着替えたい…ビチョビチョ…」
「そうだね…私も着替えたい!じゃぁこの部屋でいっか!おっじゃましまー…」
「あああ危ない…慎重に行こう…」
兎とフブはゆっくりホテルの一室に入る。
フブが前に立ち兎が後ろに隠れる、なんとも立派な隊列だ。
「…兎、あれ見て。」
「…な、なにあれ。」
部屋に入ってすぐ目に飛び込んできたのは、赤い大きな文字だった。
———“クリア”
そう書かれている文字に兎が反応する。
「ももももしかして、もうホテルの部屋は誰かが全部確認したのかも…」
フブが走って部屋の隅々まで確認する。
トイレの中、浴槽の中、ベッドの下、収納の中。
どこにもゾンビは居なかった。
「大丈夫そうだね!とりあえず部屋閉めといて!あ、U字ロックかけといてね!」
「わわわかった…」
——————ガシャッ。
フブはタンスからホテルのアメニティのバスローブをだしその場で着替え始める。
「ここここれにするの…?」
戸惑う兎。
「せっかくの高級ホテルだよ!バァスゥローブ着るに決まってるぢゃん!!」
「う、動きやすそうなやつもある…」
「え、兎…バスローブ着ないの?」
「あ、え…」
「え、着ないの?」
フブのなんとも言えない圧が兎を追い詰める。
「なっ、なななな…」
一歩一歩追い詰められる兎。
「なななななッ?!」
何故かバスローブを着せられた兎。
その後、フブと共にこのホテルを根城にしているであろう生存者を探す事にした…が、その前に。
「でも、その前に屋上プールで冷えた体を温める事にしよう。この部屋の風呂…温泉ね。入らないともったいないよね!」
「ばばばバスローブ着る前に、言って欲しかった…」
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「ねぇ、さっき風呂沸かしてる時、ホテルのTVつけてニュース見てたんだけど。警察署がゾンビに潰されて、軍もゾンビに潰されたらしい…でも、なんでテレビ局生き残ってんのってなるよね…なんでぇ?!」
「たたた多分…TV局の中に超優秀な人がいる…のかな…ごごごめん…私もわかんない…なんでだろ…」
「しかも、電気が使えてるって事は発電所も持ち堪えてるって事だろうし…謎…だな、世界。」
「よよよ予想外…デスネ…」
「だね〜。」
——————チャプンッ。
大きな温泉の湯船に浸かる2人。
「ねぇ、兎。」
「なななナニ…」
「兎の家の風呂の方が大きいね。」
「ま、…まぁね。」
兎は少し口角を上げる。
フブはそんな兎の体をジロジロ見る。
「ななななに…」
訝しげなフブの視線に兎は危機感を感じる。
「兎の体って…やっぱり、他の人とはちょっと違うよね…」
「ふ、ふふふ太り過ぎかな…」
「いや、全然太ってないじゃん…そうじゃなくて、なんて言うんだろー…なんか胸の下辺り、肋かな。」
「ああ肋の骨ちょっと弄ってる…」
「えぇ?!改造人間ってこと?!」
フブは兎の腹に顔を近づけてベタベタ肋を触って確認する。
「あ!!!なんか確かに肋骨一本違う!!!」
「わわわ私の肋…一本デバイス化してる…」
「お〜、ん?なにそれ。」
「ひ、ひひ秘密兵器…これは…」
その時、部屋の扉が激しく叩かれる。
——————ダンダンダンダンダンッ!!!
——————『誰だ!誰かいるのか!?』
突然の訪問者に兎とフブは驚き飛び上がる。
「やばい!!誰か来た!!」
「せせせ生存者!!!」
——————ガチャガチャッ。
——————『U字ロックかかって入れねぇよ!誰かいるなら返事して!!』
フブは返事して良いのか兎にアイコンタクトで確認した後、返事する。
「待ってぇぇぇぇぇ!今風呂入ってるからー!!!」
——————『えぇ???あぁ…わ、わかった…』
そして2人は湯船から上がり、高級ドライヤーで髪を乾かした後、バスローブを着た状態で玄関に向かう。
「お待たせしました〜!」
『また流石だよ…もう15分経ってるよ嬢ちゃん…』
「あ、ごめんなさい…待たせ過ぎちゃいましたね。」
フブはU字ロックを解除し扉を開けようとするも、扉はビクともしない。
——————ガンッ。ガンッ。
「もしかして、なんだけど…なんかそっちから扉、抑えてない?!」
『大正解。』
「ねぇ゛ーーー!!!なんでそんな事するのぉー?!」
フブの文句を扉越しに聞く生存者が答える。
『1階から5階までは閉鎖してあった。入り口も1箇所にしている。そこを通らずどうやってこのホテルに入ってきた?』
「上から飛んできましたぁ!」
『嘘つけぇ!!そんな雑な嘘つくなよ!つくならもっとマシな嘘つけよ!』
「ねぇ゛ーーー!!!嘘じゃないよ!!本当だもん!!」
『パラシュート出来たっていうのか?!』
「違うよ!ウイングスーツでだよ!」
『え、ウイングスーツ…なんだそれ。』
「鳥みたいに飛んで〜その後、屋上プールに着地したんだ!」
『君だけレッド◯ルチャレンジでもしてんのか…ぶっ飛んでるな…』
【まるでこの世界のエンドロールに居るみたいねー!】




