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周回移動都市ヴェルサイユ  作者: 犬のようなもの
《セカンドオーダー編》            [第二章]サキミネを探せ
36/51

〔第33話〕ヒュ〜〜〜〜〜〜ッ…

今回の話はちょっと周回移動都市ヴェルサイユっぽいですね。虐殺度合いで言えば、まだまだこんなもんじゃありませんが…。その〜、ノリというか…雰囲気というか…そんな感じの…


早よ下読んで下さい。トイプードルしますよ?

 




 ——————ドゴォォォォォォッン!!!





「うぉっ何の音だ?!?!」


 飲み会が終わり太陽の日照りも弱くなった夕方頃、デカケモと共に帰宅中、それは起こった。


「凄い音したヨ?!」


 音の方から獣々(ケモケモ)が逃げ(まど)う。



 [やばい逃げろ!!!]

 [凄い数だ!!!!]

 [もうここも終わりだ!!]



「またゾンビが上がってきたのか?!」


 ツグネの言葉にデカケモが額に汗を垂らしながら険しい表情で言う。


『いや、外の方から中へ逃げるなんて初めて見るヨ…』


 ツグネは近くの高台に登り獣々(ケモケモ)が逃げてくる方角を見る。


「…マジかよ。」


 薄暗いはずの広い市場の空間が明るさを取り戻している。

 もっと詳しく言うと遠くに見える外壁が大きく抉られて大きな穴が()いている。


『なんかよくわかんないけど、今度こそちゃんと逃げるヨ!』


「あぁわかっ…」


 次の瞬間、轟音が鼓膜を揺らす。



 ——————ドゴォォォォォォンッ!!!



 この街の外壁が大きく剥がれ落ち、薄暗いアングラな市場が夕焼けに照らされ真っ赤になる。


『やばい、やばいやばいヨ!!!』



 ——————ドゴォォォォォォンッ!!!



 再び轟音が鳴る。

 地震の様な揺れがツグネの膝を地面に付かす。

 完全にぶち開けられた外壁から何千、何万、数え切れない程の無数のスフィアが街になだれ込む。


「おい!戦争始めんのって今からなのか?!」


『違う!!このスフィアは僕達の盗んだスフィアじゃないヨ!!!』


「は?!じゃぁあの無数のスフィアは?!」



 街の宙に舞う無数の大きなロボット。

 まるで宇宙の星々とまで見間違える程のそれは、間違いなくこの都市の兵器スフィアだ。

 それらが集まり、中央に空間を作った。



 ——————『蛮族共(ばんぞくども)の皆さん、こんにちは“エヴァンテ”です。』



 拡声器の様な音声がこの街に響く。

 逃げ惑う獣々(ケモケモ)の足を止め視線を集める。


「エヴァンテ?!」


『や、やばいネ…あのエヴァンテが直々(じきじき)にきちゃったヨ…』



 ——————『トワイライト5000。貴方には5千年前からうんざりしています。その危機管理能力(ききかんりのうりょく)欠如(けつじょ)…変わりませんね。』



 無数のスフィアが作った中央の空間に一機だけ毛色(けいろ)の違うスフィアが出てきた。

 遠くからよく見えないが目を凝らして見ると、そのスフィアの手のひらにエヴァンテが立っていた。

 そのスフィアの手のひらにセルフレリアとケモノ女(シャルロッテ)も後ろに立っている。

 エヴァンテの服装が国会の時着ていた白い重厚なシスター服では無く“黒い”重厚なシスター服に変わっている。

 その他、セルフレリアはいつものシスター服、ケモノ女(シャルロッテ)は何だか軍服の様な服を着ている。



 [勝てる訳ないだろ…あんな…]

 [おい、俺達はあんな奴らに喧嘩売ろうとしてたのか…]

 [故郷なんてもういらねぇ!命あってだろ!]

 [おい!誰か白旗持ってこい!]

 [市民権なんて夢のまた夢じゃねぇか!!]

 [でも、戦わなければ得られないだろ!]

 [逃げろ!]

 [俺はやるぞ!!]

 [エヴァンテ初めて見たぞ…俺…]


 獣々(ケモケモ)各々(おのおの)の反応を示す。

 それはそうなるわな。

 あんな圧倒的な武力見せつけられたら2、30機のスフィアなんて浜辺の砂つぶに過ぎない…。

 そしてエヴァンテには権力もあるときた。

 ヴェルサイユの雫を使ってもどうしようもないと思うが…しかし、俺の誘拐を命令した王座のケモノの(まなこ)。アレは確実に何か考えがある奴の顔だった。



 ——————『トワイライト5000。貴方、ツグネに何を吹き込んだのか知りませんが無駄な事です。ここで(たたか)うか、大人しくツグネを引き渡すか。選びなさい。』



 しばらくの沈黙が続いた後、ケモ側から一機のスフィアが出てきた。



 ——————ゴゴォーーーッ。



 何だかこう、ケモ側のスフィアを改めて見てみるとなんかエヴァンテ側のスフィアと違って汚れているな。

 まぁ盗んできたとか言ってたしそんなもんか。


 そして、ケモ側のスフィア一機はエヴァンテが居る場所まで高度を上げ、目線を合わせた。



 ——————『久しぶりですね、トワイライト5000。』



 ———「わざわざ、エヴァンテ様が足を運んでくれるなんて光栄極まれり、だな。」



 ケモ側のスフィアから出た音声は王座のケモノの声だった。

 もしかして、あいつも自分であのスフィアに乗っているのだろうか。



 ——————『トワイライト5000貴方…ゾンビに対する知恵も無ければ、対策も(おろそ)か。しまいに222(セカンドオーダー)に対する切り札まで誘拐して…今までは見て見ぬふりをしていましたが目に余ります。』



 ———「あぁそうかい。僕は見せしめで殺されるのかい?また、あの時と同じ様に。」



 ——————『貴方方(あなたがた)が、よく(おっしゃ)る“奪われた故郷”。ほざくのも大概にして下さいまし?私の横を見て下さい。この獣人は貴方方(あなたがた)が愛してやまない故郷で働いてるではありませんか。私の横に立って、真っ直ぐにチカラをつけて。』



 ———「お前らが支配する故郷には、何の価値も無い。大切なのは奪われた物じゃない。()()()()()()()()()だ。」



 ——————『貴方方(あなたがた)の防衛体制が悪辣(あくらつ)(ゆえ)の決断です。話し合いで解決することも出来ましたが、それを拒んだのはトワイライト5000貴方でしょう?』



 市場で周りの獣々(ケモケモ)がざわつきだす。


 [おい、聞いてた話と違ぇぞ!トワイライト!]

 [どっちの言い分が正しいんだ!!]

 [エヴァンテは嘘をついている!!!]

 [トワイライトの言葉は本当だったのか?!]

 [どっちの言い分が事実なんだトワイライト!!]


 王座のケモノの名前がトワイライト5000なのか?

 何だか囚人番号Lv.100(レベルひゃく)みたいだな。



 ———「戦争だエヴァンテ、()()()()()()起動!!!」



 その言葉と共にトワイライトのスフィアは大きく両手を広げた。

 その両手からワイヤーの様な物が天井や壁に向かって発射されスフィアを宙にぶら下げる。

 その見た目は巣を貼った蜘蛛みたいだった。

 次の瞬間、トワイライトの()いたスフィアの胸が光出した。



 ——————キィィィィィィィィィイイイイッ!!!



 トワイライトのスフィアは元々胸に大きな穴が()いたデザインだった。

 しかし、今はそこの穴に青白い光の球体が収まっている。


 (あのスフィアのデザインいいな…ん?体が…動かない。)


 そして、激しい音と共にツグネ含めた獣々(ケモケモ)の体が動かせなくなる。


「何だ?!おい!デカケモこれはなんだ!!」


「わ、わからないヨ!私も何故か体動かせないヨ!!」




 ——————『ナノシステム、ですか。初めて見る技術ですね…。体が動きません。』



 ———「そのスフィアの中のパイロットも同じだろ。まぁ墜落しないだけ上出来だな。まぁ今のお前は誰も守ってくれる人が居ないけどな。じゃぁ大人しく死んでくれ。」



 次の瞬間、エヴァンテは簡単に腕を上げて肩についた汚れを払う。



 ———「はぁ?!お前、なぜっ!?」



 ——————『愚か者は人の言う事をすぐ信じますね。ツグネとは大違いです。』



 ———「まぁいい、お前だけは!!」



 トワイライトが自分のスフィアを動かし、大きな銃をエヴァンテに向ける。



 ——————『わかりました!では、この(たたか)いにおけるルールを決めましょう!』



 トワイライトのスフィアが銃を放つ。



 ——————バシュンッ!!!



 エヴァンテを囲んでいるスフィアの1つがトワイライトの放ったレーザービームを盾で受け止める。



 ——————ガキンッ!



 ———「何故だ?!何故お前も動ける!?」



 ——————『ワタシは貴方のナノシステムを解除させれば勝ち。貴方はワタシを殺せば勝ち。ワタシはこの勝負が終わるまで貴方に何の危害も加えないと約束しましょう。これでいいでしょう?』



 ———「ア゛?舐めやがってぇぇええ!!!!」



 ——————バシュンッ!!!バシュン!!!バシュン!!!バシュン!!!



 ——————ガキンッ!!!ガキンッ!!!ガキンッ!!!



 撃てど、撃てど、盾に弾かれるビーム、そのビームが壁の方に反射して壁が抉れていく。

 そんな中、エヴァンテが下の市場の方、指差して言った。









 ——————『ヒュ〜〜〜〜〜〜ッ…』









 突然の陽気なエヴァンテの声にトワイライト含めた市場の獣々(けもけも)が目を丸くする。








 ——————『ドカ〜ン。』






 ——————ドゴォーーーーンッ!!!






 エヴァンテの(号令)と共に市場に1発のレーザービームが落とされた。

 被弾したケモノ達は一瞬で蒸発した。

 周りの獣々(けもけも)もそれを見て逃げようとするがナノシステムのせいで体が動かせない。



 ———「お前!!何して!!アイツらは関係ないだろ!!!市民権も無い奴らなんだ!!!アイツらは俺の勝手な復讐に付き合わされてるだ…」






 ——————『ヒュ〜〜〜〜〜〜ッ…』






 ———「おい、!!!聞けって!!おい!!!」



 トワイライトの叫びを無視して、エヴァンテは指で線をなぞりながら広い市場のどこにレーザービームを落とすか決めている。


 そして、指が止まる。





 ——————『ドカ〜ン。』





 ——————ドゴォーーーーンッ!!!






 ———「やめろ…もう、やめてくれ…やるなら俺とやれよ…おい。聞いてんのか!!」






 ——————『ヒュ〜〜〜〜〜〜ッ…』





 ———「おい!このクソ女ぁぁぁあ!!!やるなら僕と直接、勝負しろォォォォォォォオオオオ!!!」



 ——————バシュンッ!バシュンッ!バシュンッ!



 ——————ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!



 トワイライトの攻撃は全てエヴァンテの周りのスフィアにガードされる。



 ———「おい!!聞いてんのかくそアマがぁぁぁ!!」



 エヴァンテの頭に罵倒は届かない。



 ———「や、やめッ!」



 (くう)をなぞっていたエヴァンテの指が再び止まる。






 ——————『ドカ〜ン。』





 ——————ドゴォーーーーンッ!!!




 下にいるデカケモとツグネは頭が動かせないながらも震えながら周りを目で追う。

 泣き叫ぶ声、怒号の声、助けを求める声、トワイライトへの怒りの声、それぞれがおりなす狂気の景色。


「おい、デカケモ。俺をエヴァンテに差し出したらこの虐殺は止まる。何とか出来ねぇか!?」


「そんな事言われても動けないヨ!!!」




 ———「なぁ、おい…僕らの方のスフィアはナノシステムの影響で動けないんだよ!飛べすらしないんだ!しかも僕のスフィアのレーザーもお前に防がれる。もう勝負はついてんだろ?!」





 ——————『ヒュ〜〜〜〜〜〜ッ…』





 ———「なぁ、もうやめてくれ…」





 ——————『ドカ〜ン。』





 ——————ドゴォーーーーンッ!!!





 [キャ゛ーーー!!!]

 [俺はまだ死にたくないっ!!]

 [やめろ、やめてくれ!!!]

 [わ゛ーーんっ…わ゛ーーーんっ…]

 [神様…神様…]





 ———「なぁ…エヴァンテぇ…」





 エヴァンテを子犬の様な顔で見るトワイライト。





 ——————『ヒュ〜〜〜〜〜〜ッ…』





 ———「やめろぉって…なぁ…」





 するとその時エヴァンテの隣に居たケモノ女(シャルロッテ)がトワイライトにボソッと言った。


「ナノシステム止めりゃいいじゃん…」


 トワイライトはその言葉を聞いた瞬間すぐにスフィアの電源を落とした。



 ——————シューーーンッ…。



 電源を落とされたトワイライトのスフィアは、胸にあった青白いエネルギー球を失い完全に沈黙する。

 その瞬間ナノシステムが解除されツグネ達は動ける様になった。


 [わーーー!!!]

 [逃げろ今のうちに逃げろぉ!]

 [動ける、動けるぞぉ!!!]

 [パパ!!死なないでぇ!!]

 [だめだ、嬢ちゃんそいつはもう死んでる!!いくぞ!!]




 ———「ハァハァハァ…なぁ、エヴァンテ…これでいいのかなぁ?」



 ——————『この勝負ワタシの勝ちですね。では、また来世で。』



 その瞬間セルフレリアの白い金属の翼がトワイライトの首をはねる。



 ——————ドチュンッ!



 ——————ボトッ…。



 セルフレリアは黙って出した翼を引っ込め、元いたエヴァンテの後ろ側に戻った。



 ——————『セルフレリア、ありがとう。』



 セルフレリアはトワイライトの生首を見ながら言った。


「贅沢な自殺志願者でしたね。」






 下から一連の行動を見ていたデカケモは震えて身を丸める。


「私殺されるヨ!いやダ!!死にたく無いヨォ!!」


 ツグネは丸まっているデカケモの背中をさすり励ます。


「大丈夫だ、俺はお前らの事黙っといてやるから今のうちにどっか逃げろ!!ほら、いけ!走れ!!」


「ありがと…ツグネ、感謝するヨ…あの時腹殴ってごめんネ…」


「わーたからもう行け!早く!!」


 ツグネはデカケモを逃した後、エヴァンテが飛んでいるスフィアの下まで走った。

 転がる死体に焼けこげた肉。

 それが子供が大人かなんてわからない。

 抉れた地面に燃える市場の店。

 そんな光景を横目にツグネは走る。



「おい、エヴァンテぇぇぇぇええええ!!!聞こえるかぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


 エヴァンテを手のひらに乗せたスフィアは獣々(けもけも)が逃げて(から)になった市場に降り立つ。



 ——————フシューーーーッ。



『ツグネ!ご無事でしたか!』


「エヴァンテお前ぇ!!やり過ぎだ!!」


 ツグネの声に護衛のセルフレリアがエヴァンテの前に出る。

 しかし、エヴァンテはセルフレリアを静止して自分がツグネの前に出る。


蛮族(ばんぞく)に対して中途半端は出来ません。中途半端こそ罪なのです。やる時は()らねばなりません。』


「…ッ。だからって……!!!」


 その言葉に反論できないツグネ。

 それはそうだ。

 この都市に222(セカンドオーダー)という絶対的な脅威が迫ってきている状況でそれに対抗する切り札を奪う。

 国家転覆にも(ひと)しい行為、現世界の法律なら死刑だ。

 しかし、エヴァンテ側も無駄な殺生(せっしょう)が多すぎた様にも感じる。

 いや、もしかしたらこれが1番血を流さずに済む最適解だったのかもしれない…。

 俺だって無駄な正義感は捨てたつもりだ、殺す時は殺す。

 草薙の時もそうだった、機関銃で乱射し虐殺した。


『ツグネ、トワイライト5000は歴史の中の()()です。その席を誰かに譲る時が今、来たのです。』


「…まぁいい。俺はまだこの都市の歴史を知らない。から、もうどうでもいい。」


 もしかしたらエヴァンテがこうしなければならない事情があったのかもしれない。トワイライト側もそうだ。なるべくしてなったのかもしれない。


『私に減滅(げんめつ)しないで下さい。ツグネ。』


 エヴァンテが心配そうな顔でツグネを見る。


「あぁ、しねぇよ。俺も殺す時は躊躇なく殺す。」


『では、エヴァンへ帰りましょう。』


「…あぁ。」





 その日、トワイライト5000が仕掛けた闘いで、エヴァンテは獣族の1/5を殺害した。





後に作中で説明されますがシャルロッテの先祖がトワイライト5000です。後、ここのアングラな街の名前もトワイライト5000です。



【こんな世界、滅ぶべくして滅んだんだよ。】

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