〔第26話〕ツグネtheモーニング
※(こめじるし)は神の声です。(作者の声)
——————チャンッチュンッ…。
「…んぁ。」
窓から光が刺し頬を叩かれているかの様な錯覚さえ起こしてしまうほどの朝。
瞼を開ける。
「…あ…そうか、俺、エヴァンテの教会にいんのか…」
しばらくボーとした後、自分の服を見る。
ろくに着替えもせず寝たせいで、自分が汗臭いことに気づいた。
——————スンスンッ。
「くっさッ?!」
——————コンコンッ。
「ッ?!」
——————『おはようございますツグネ様。朝食をお持ち致しました。ドアをお開けしてよろしいでしょうか?』
ツグネはVIP対応にどんな反応をしていいか分からずおどけない返事を返す。
「あー、どうぞ…」
——————ガチャッ。
——————ガラガラ。
1人のシスターが朝食の乗った大きな手押し台を引いて部屋に入ってきた。
丁寧に一礼し、ツグネの部屋のテーブルに白いランチョウマットをしいた後、朝食の乗ったプレートをテーブルに乗せる。
『失礼します。こちら林檎パイとウリムのヨーグルトで御座います。』
「…ほう。ウリムとはナニカネ。」
その場の雰囲気に流されるツグネ。
質問に対してシスターは窓の向こう側の山を指差して言う。
『あの山にいる動物で御座います。ウリムからはミルクや羽毛、羊毛が取れます。』
「なんかそいつハイテク、だな…」
『ウリムの祖先は羊とされています。その羊から時間をかけ進化した生物がウリムで御座います。』
説明が終わると同時に開けっぱなしにしている部屋の扉からエヴァンテが入ってきた。
朝食を運んできたシスターは即座に片膝をつき騎士の様なポーズをとり言う。
『今日もお会いできて光栄です。エヴァンテ様おはようございます。』
シスターとは違い、ツグネは普通に言う。
「おはよ。」
「えぇ、おはようございます♪」
『では、お邪魔しました。良き朝を。』
シスターはエヴァンテを置き、手押し台を引いて部屋を出ていった。
タフナにも朝食を配達しに行ったのだろうか。
エヴァンテは満遍の笑みでツグネを見た後、部屋のタンスを開けた。
「着替えなどの生活必需品はこの中に入っています。他にも何か必要な物があれば近くのシスターに申し付け下さい。」
ツグネは並べられた朝食を横目にさっきシスターからの
【ウリムの祖先は羊とされています。その羊から時間をかけ進化した生物がウリムで御座います。】
という発言が気になりエヴァンテに問う。
「薄々思ってたんだが…3つの世界ってゾンビに侵食された時期が違うのか?どうにも俺の知ってる時間軸が違うんだが…」
「ツグネの世界より私達の世界の方が早い時代の段階でゾンビが発生していたという事です。ゾンビが早く発生した順に並べると…
〔旧世界〕※エヴァンテ達
〔現世界〕※ツグネ達
〔新世界〕※兎、フブ
になりますね。」
「エヴァンテはどの時代の段階でゾンビが出たんだ…?」
「んー…時代の名称という物が私達にあまり馴染みがないので分かりません。」
「じゃあ何年前ぐらいだ…?」
「んー、あまりハッキリ覚えていませんが五千年は経ってるんじゃないでしょうか…」
「つまりアレか…“旧世界”と“現世界”では、ゾンビの出る時期に五千年の差があったと言うことか…」
「そうなりますね。」
「五千年って聞くと改めて凄いな…。ヴェルサイユの市民権…噂には聞いていたが恐ろしな…。あっ。」
ツグネは、続けてニヤニヤした顔でエヴァンテに言う。
「ところでお前、スマホ知らねぇだろ?」
「私は勉強家なんですよ!現世界の事についてよく熟知しているつもりです!」
「まぁ三つの世界行き来してんなら現世界の情報収集ぐらいしてるか…」
エヴァンテは自信満々に満ち溢れた表情をし、ジェスチャーを交えて言う。
「パカパカして遠くの人と話せる小型通信機の事ですよねっ!」
ツグネはエヴァンテの自信満々なジェスチャーを見て、頭を抱える。
「ん゛ん゛ん゛惜しいぃー…お前が言ってるそれ、“ガラケー”だぁ…ちょっと古いわ…」
「古い情報でしたか…。五千年も生きていたら、どうしても時間に疎くなってしまいますね…」
「まぁガラケーからスマホに変わったのここ数年間だしな…やっぱ、五千年のオバァちゃんには荷が重いか。」
エヴァンテはツグネの謎挑発に怒るでも悲しむのでもなく、その場にしゃがみ込みセクシーポーズをとりながら言う。
「こんなオバァちゃんも有りじゃないですか?」
妙に鼻につく言い方とポーズ。
「あぁわかったよ。訂正するよお姉さんお姉さん。」
めんどくさそうにするツグネ。
エヴァンテはこの絡みに満足した様子で言う。
「では、私は大切な会議があるのでお暇させて頂きます♪良き朝を♪」
「おう。じゃぁまた昼ぐらいにな。」
エヴァンテは満足そうに部屋を出ていった。
その後、ツグネは部屋に残された朝食を口にする。
林檎パイをフォークで一口サイズに切りそれを口に運ぶ。
林檎のフルーティーな香りが感じられるが、甘さは控えめでご飯系と呼ぶにふさわしい味だ。
「美味いな…」
あっという間に林檎パイが無くなったた。
次はウリムのヨーグルトに手をつける。
「んー…ヨーグルトだな…美味いけど、意外性がねぇな…」
何というか…普通だ。
——————コンコンッ。
——————『失礼するぞ。』
聞き覚えのある声だ、誰だっけな。
返事を待たずに扉が開けられる。
——————ガチャッ。
『おはよう、ツクネ。』
「ツグネだ。お前は…」
ケモノ女が訪ねてきた。
よく見たらケモノ女の背中にドレス•ロードがいる。
相変わらず自分の顔をケモノ女の顔にすりすりしているが、俺に話しかけているのはケモノ女だ、一体朝から何の用なんだろうか。
『セネカ様がお呼びだ。今から1時間後、教会外に来てくれ。』
「あぁ。」
ケモノ女はその一言だけを言うとどこかへ行ってしまった。
ドレス•ロードに関しては、おはようも言ってこなかった。
まだ警戒されているのか…?
いや、あいつが怠惰なだけだな…なんかいっつも眠たそうだし、やる気なさそうに見えるな…。
セネカとは気が合いそうだから呼び出されたのちょっと嬉しい。
まぁ仕事の話であることは間違いないが、やぶさかではない。
これでニヴァとかに呼び出されてたら俺は無視してたかもしれないしな。
ツグネはエヴァンテに言われた通り、棚を開けて中にあった服に着替える。
普通に動きやすそうな肌触りのいい黒いシャツとズボンに心踊る。
「この服、普通におしゃれだな。めっちゃ現代風だ。」
準備が出来た。
「ふぁ〜ぁ…あー後、風呂も入りてぇ〜…」
そして、ツグネはそんな独り言を呟きながら部屋を出た。
ツグネはエヴァンテのことをお前と呼びます。
しかし、説明時や固有名詞の時はエヴァンテと呼びます。
【ワンって言えってかぁ?!おい、ごっるぅrrrrらぁ!ワンって言えってかぁ?!あ゛?!】




