〔第22話〕防衛省襲撃
「ねぇ…兎。これ…普通の犬じゃないよね…」
「こここ、これは、チワワ…?」
2人は運動場に設置されているモニターから外の様子を見る。
防犯カメラに映ったのは人の生首を咥えているチワワ、メインサーバー曰く名称はデスチワワらしい。
一体どこの国の何の基準で定められた名前なのか知らないが…センスが独特だ。
——————キャンッ!キャンッ!
小さなチワワがこのマンションの警備ロボに向かって吠えている。
——————「対象を排除します。ピッピッピッ…」
——————シュンッ。シュンッ。シュンッ。シュンッ。
——————キャンッキャンッヒィーンッ!!!
画面の外で警備ロボとチワワが戦闘を始めた。
警備ロボのテーザー銃がデスチワワと呼ばれるチワワの首元に刺さる。
苦しそうに感電しているのが見てとれる。
「ねぇ…兎。ちょっと可哀想じゃない?デスチワワって言っても普通のチワワみたいだよ…小っちゃいし…心が痛むよぉ…」
「みみみみ見て!」
兎が驚いた様に声を出して、フブの肩を掴む。
「ん…、ってどぅわぁぁぁああ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!!」
——————グルゥゥゥゥゥゥウブワァ!!!
小さいはずのチワワが熊の様に大きくムキムキになる。
他の警備ロボより先にデスチワワの元について、戦闘していた警備ロボNo11が薙ぎ倒される。
「ねぇ゛ーーー!!!このチワワやばいぃ!!!!」
「ほほほ本当に、デデデデスチワワだった…」
「そもそもデスチワワってなにぃよぉ!!!」
——————メインサーバーがお答えします。防衛省が正式に感染したチワワゾンビを“デスチワワ”と命名しました。
「ねぇ゛ーーー!!!可愛くないーー!!!」
「ぼぼぼ防衛省が名前決めたんかいっ…」
運動場に設置されたモニターに釘付けになる2人。
デスチワワは複数の警備ロボットに囲われテーザー銃を乱射される。
——————グルゥゥゥゥゥゥウアアア!!!!
ムキムキのデスチワワは警備ロボを吹っ飛ばして暴れ回っている。
そして何台もの警備ロボがテーザー銃や捕獲網を発射するがデスチワワは止まらない。
——————シュンッ。ファサッ。
———ビリィッ!
——————グルゥゥゥゥゥゥウア!!!
——————シュンッ。シュンッ。シュンッバリビリビリ!
———グルゥゥゥゥゥゥウ!!!
「うわぁぁぁぁぁあ!!!」
「うわぁぁぁぁぁあ!!!」
「ねぇ゛ーーー!!!全然警備ロボの攻撃効いてないよ!」
「やややややばい…も、もう手段を厭わない…め!メインサーバー!“全力を許可する”!!!」
兎の命令が出た瞬間、警備ロボの目が赤くなる。
——————ファンッ…ドドドドドドドドッ!!!
「う、兎!これって!!」
「ううう…うん…“銃”…」
「銃刀法が緩くなったとは言え大丈夫なの…?」
心配そうに聞くフブに兎は親指を立てて言う。
「けけけ権力のチカラで…なんとかなるっ…」
「まぁゾンビいるし…いっか!」
——————ドドドドドドドドッ!!!
デスチワワは警備ロボから乱射される。
体の血が噴き出てふらふらするデスチワワ。
体に空いた穴から血が出なくなった頃、ようやく倒れる。
嵐が過ぎたと安堵する2人。
その時、画面の端っこに黒い何かが映る。
大量に映る。
「まさか…」
「そそそそういえば…メインサーバー、ささささっきデスチワワの報告してきた時…大量って言ってた…」
「わぁー!!!」
——————ドドドドドドドドッ!!!
———グルゥゥゥゥゥゥウア!!!
——————ドドドドドドドドドドドドッ!!!
———ブルゥァァァァァァァア!!!
モニターに映る光景はまるで戦争の様だった。
警備ロボが撃つ銃弾にデスチワワが対抗して突進する。
一台の警備ロボを犠牲に数匹のデスチワワが倒される。
——————ドドドドドドドドッ!!!
———グルゥゥゥゥゥゥウア!!!
——————ドドドドドドドドドドドドッ!!!
———ブルゥァァァァァァァア!!!
その繰り返しで数分が経過した。
兎が所有するマンションの前の入り口に大量の肉塊が乱立する。
「…うぇ…ぇ。ぐっるぅろぉ…」
「…ききき、きっも。」
——————メインサーバーから報告いたします。35匹のデスチワワを処理。総動員警備ロボ65機、内損壊5機。残弾数……
「メインサーバー、もういい…ありがとう…」
——————かしこまりました。対象の後処理は焼却でよろしいでしょうか?
「それでいい、灰にしろ。」
——————かしこまりました。
「デスチワワより、私達の方がよっぽどエグいね…」
「わわわ私達のテリトリーに、はは入ってきたワンコが悪い…」
すると突然、運動場のモニターから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
——————『エグい事すんなぁアンタら。』
———————————————#####
「サキミネさん今日は2時間後に記者会見があります。更にその後、ベリエル国立研究所へ訪問の予定でございます。」
「ハァ…」
「やはり、お疲れですか大臣。」
大きなオフィスの真ん中で自分の目頭をつまみ、ため息をする中年の男。
「こんだけ働いて高校生の娘より手取りが少ないんだよ…」
秘書の女はサキミネに訝しげな表情をして言った。
「映えある防衛省トップより、稼いでらっしゃる娘さん…株トレーダーとかですか?」
「いいや、メカニック系だ。あー、アレだ。最近だと“ナノシステム”の開発に携わっていた。」
「娘さん凄いですね…」
秘書は驚愕の顔を見せ、感心する。
「俺も結構頑張ったんだけどなぁ〜…父親として、ちょっと自信無くすよ〜…」
その時、秘書とサキミネが居るオフィスのドアが勢いよく開いた。
——————ガチャンッ!!!
——————大臣はいらっしゃりますか!?!?!
勢いよく開けられたドアに立っていたのは、汗だくの職員の男だった。
「ど、どうした。」
あまりに激しい勢いで呼ばれたので、少し困惑するサキミネ。
「とうとう走るゾンビが現れました!!!!」
広いオフィス内が慌ただしくなる。
「ま、まずい。それは確かなのか?!」
「は、はい。目撃情報と現場の被害からソースは確実かと…」
サキミネは急いでスマホを取り出し、娘に電話をかける。
その間、秘書はありとあらゆる機関に報告の連絡を入れ始める。
———プルルルルッ。プルルルルッ。
「兎、久しぶりだな。いきなりだが落ち着いて聞いてくれ。お前なら出来るはずだ。」
———————————————#####
「あぁ。そうし…」
『大臣!!今、再び報告が入りました!!!』
「ん?どうした、今娘と電……」
『声を使って玄関を開けさせるゾンビが確認されました!!!』
「なんだと?その話本当か?あぁわかった。その件は追って伝える。」
『は、はいっ!』
——————『どどどどうしたの…』
「たった今、新しい情報が入った。人の声を話して玄関を開けさせるゾンビが出たらしい。決して誰もマンションにいれるな。それと…」
その時、巨大な轟音と地鳴りが響く。
——————ズッドォォォォォォォォオオオオ!!!!
オフィスが揺れに揺れ、ぶら下げている蛍光灯も割れる。
職員全員がその場に倒れ込み、立ち上がることが出来ない。
サキミネの手からスマホが落ち、揺れで倒れてきた棚に潰される。
それを気にせずサキミネは叫ぶ。
「なっ、何だ!!!何があった!!!」
書類やPC画面が倒れ荒れたオフィスにサキミネの大声が響く。
[じ、地震…?]
[イッタイ…足に何か落ちてきた…]
[デカい地震…]
[怪我は無いかー?!?!]
[足首イッタァ…]
各々の職員が話出し、オフィス内がガヤガヤする。
サキミネはオフィスの窓に急いで近寄り外の様子を見る。
「お、おい。嘘だろ…」
防衛省の入り口の門が無くなっている。
この国の防衛省は他国のテロリストなどの侵入を防ぐ為、建物自体が高く大きな壁で囲われている。が…
「痛たっ…って、大臣…これ、隕石でも落ちたんです…か?」
秘書の言葉に恐怖の感情が混ざっていた。
その光景にサキミネが声を漏らす。
「何がどうなったらこんな…」
大きく抉れた地面に地割れした様な穴。
縦に伸びた穴の底は見えない、深く割れている。
地割れした地面を視線で辿るとそこに1人の少女が立っていた。
サキミネは困惑した。
何故、ここに少女がいる?
何故、破壊された門の前にいる?
もしかして…あの少女が破壊したのだろうか。
「チャイナ服…?」
秘書は各機関にこの状況を連絡する為、速攻で電話の受話器を取り番号を入れる。
「大臣!電話が繋がりませ…」
——————ドォゴォォォォオンッ!!!
[キャーーーッ!]
[うわぁぁあッ!]
[あぁぁぁぁあ!]
[きゃぁぁあ!]
各々の悲鳴がオフィスに響く。
天井の一部が剥がれ落ち怪我人が出る。
そんな中ひとり、窓の外を見るサキミネ。
悲痛な声が飛び交う中、大声で叫ぶ。
「防衛省にチャイナ服を着たバケモノが侵入した!!ただちに警戒体制aからzへ移行しろ!!!」
その号令を機に職員はオフィスから走って出ていく、負傷者を置いて…。
サキミネの叫びから7秒後、建物の窓が厚い鉄板に覆われる。
——————ガシャンッ。
「私はまだ死ぬわけにはいかない。相手がいかようなバケモノでも…」
サキミネはチャイナ服女に対抗する為、全ての職員に無線で指示を出す。
——————「対象、チャイナ服女の殺害を開始せよ。」
頑張れ兎パパ( ̄^ ̄)ゞ
【躓くお前に、明日はない。】




