〔第13話〕おまぇぇぇぇぇぇええええ!!!
新キャラ【ニヴァ】
雲ひとつない快晴、間違いなく気持ちいい朝。
フブはすっかり兎の家の風呂にハマっている。
「ぷはっ〜兎ん家の風呂そこら辺の温泉より広いよ〜最高ー!!ふひひひひっふふぁ〜っ!」
バスタオルを散らかして喜ぶフブにヴィーナスはリビングの遠くでため息をついた。
「ひひ、広く作ったから…」
「そういえば、兎のマンションってロビーとかもそうだけどさ、結構装飾拘ってるよね。」
「そそそそうだね…」
「なんでそんなに装飾拘ったのか教えてよ〜ねぇーー!」
「ぜ、ぜぜ税金対策…」
「夢が無いねぇ〜…」
そんな話を交わしながらフブ特製ピザトーストを齧る朝。
ヴィーナスは今から風呂の掃除に行くらしい。
最近、例の庭に作った畑も順調なので空き時間が増えた。
まぁいわゆる、ゾンビ騒動で外に出られないし街はロックダウンされてるし…暇って事だ。
いつも通りTVからはゾンビ関連のニュースと謎の建造物と不倫と…ふ、不倫?!この状況でそのニュースやるんだ…。
「フフ、フブ…」
「どしたのさ。」
「サ、サササッカーしない…?」
「えー流石にこの部屋の中じゃ出来ないでしょう…」
「そ、そうだね…でででも、20階に運動場ある…そこでしよう…」
「……ん?それは〜………最高じゃん!!!」
「い、いいい行こう…」
「え!!!いこー!!!!ねぇーーーー!!!ヴィーナッスくふぅん!!!20階の運動場行ってくるねぇぇぇえええ!」
———かしこまりましたぁあーーー。
風呂で掃除をしている為、お互い大声で話した。
玄関を開けて外に出ると両脇に警備ロボが左右1体ずつ合わせて2体いた。
「なんかあれだね…神社にいる狛犬みたいな感じ?」
「みみみ見た目は全然違うけど…」
警備ロボが2体で兎とフブを護衛して20階まで連れていく。
「ねぇー、なんか警備ロボ増えてない…?」
「うん…ささ最初15体の上位AI個体を起動して、残りの奴はそれの部下…みたいな…」
「へー、なんかアレだね。このマンションがひとつの街ですかってぐらいロボいるね。いや、祭りの時の人混みに近いかもね。」
「たたた確かに祭りの時みたい…」
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「あのぉ〜…俺、今からどうなりますかねぇ〜…」
『んー……どーしよーかな〜ぁ〜…』
「ミルさん…靴でも何でも舐めますぜぇ…」
『ミル•レイディの方で呼ばないでよね〜セネカの方で呼んでよね〜。』
「セネカさん…俺死にますかねぇ…」
『んー…死にはしないけど、目的地に着き次第しばらく投獄かなぁ〜…』
「や、やったー…」
配信者はセネカ•ミル•レイディに捕まった。
それも呆気なく。
後ろから尾行して居たら突然後ろに回られて居た。
もう一度、起きた事をそのまま話すぜ?
気付いたら後ろに居たんだぜ?
もう、そんなん無理です。
わっしはただの元軍人の配信者ですやん…。
元軍人の俺が後ろに回られた事に後から気づくって…。
戦場カメラマンレベル100みたいな事やってるけど…。
「ところでカメラ拾って良いですか…?」
配信者は無様に膝をつかされた状態でセネカに尋ねる。
『カメラ…?それは一体、何のことかな?』
配信者がカメラを落とした方向に指を刺そうとした時、尾行していた5人組のうちの1人がカメラを拾い上げて配信者に差し出した。
『はい。カメラってこれでしょ?』
『おい、勝手に渡すなよ…ニヴァ…』
「あ、ありがとうございやす…へへっ…」
配信者は命より大切なカメラを抱きしめる。
このカメラが無いと配信できないからだ。
今ポケットにあるスマホとカメラを繋いで配信を行っている。
カメラの画面でコメントや投げ銭を確認できるように改造したり、いつなん時も持ち歩いている…とにかく思い入れのある物で我が子みたいな存在なのだ。
『武器…じゃ無さそうだけど…ナニカネこれは。』
「ぶ、武器なんかじゃ無い!これは俺の命だ!誰も傷つけない!」
『あー…命なんだ…じゃあちょっとそれ貸して。』
「わ、渡さないっ…い、命なんだぞ!」
『壊したりしないよ。君を殺すならとっくに殺してるよ。』
セネカは腕を伸ばして手を広げた。
まるでこの手の上に早くカメラを乗せろと言わんばかりに。
「………確かに、はい。」
セネカは差し出した手に置かれたカメラを受け取る。
それを見てニヴァは突っ込む。
『チョロすぎる…フフッ…』
「お、落とすなよ!!」
『落とさないよ!だって…』
セネカがニヤついた顔で配信者に向かって言う。
『これ君の命だもんねぇ〜今からこれが人質ねぇ〜。』
「おまぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!」
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「なぁ、俺目隠しとか腕とか拘束されてないけど、良いのかよ?」
『んー、良いよ。人質も居るし何より僕達から逃れる能力も無さそうだしね。』
「…。」
何回かゾンビに遭遇したがセネカ•ミル•レイディ以外の人が倒してくれた。
そして大きな謎の建造物の“足の中”の端っこに来た。
端は崖の様に上に伸びていていた。
普通の人間は絶対登れない事を悟り配信者は泣きつく。
「お、俺を置いていくのかぁ!!」
『んー、どうしよっかなぁ〜ぁ〜。』
『ここまで連れてきて置いていかないよ…フフッ。』
セネカに揶揄われニヴァに馬鹿にされる配信者。
「でも、この崖どうやって…」
『大丈夫だよ。ほら、ダーレン出番だよ。』
『あいよ。』
——————ミチミチミチミチッ…。
ダーレンと言う男は尾行した時に観察していた。
セネカと仲睦まじく話していた、セネカより大柄な男に見えたが…流石に腕が4本になるとは聞いていない。
「ば、バケモン!!!!!」
『オマッ、誰がバケモンじゃ!!』
『ほーら、怒らない。ダーレン。』
『フフッ、バケッバケッモノってフフッ、確かに…』
ダーレンはゆっくり配信者に近づき4本の腕の内、2本でおんぶの様な体勢で背負う。
「えっ…あ、おんぶ?あ、は運んでくれるんすか?バケッ…ダーレンさん。」
『お前、本当に失礼な奴だな…運んでやんよ上まで。』
「あ、あざすっ…」
『いくぞ、』
ダーレンが壁を登り始めた。
ほぼ90度の壁を真っ直ぐに登り始めた、とても人間ができる技には見えない。
そして何より、登っている2本の腕があり得ないぐらい太くなっている。
指も凄く硬そうだ。
壁を指のチカラで掴みながら上がっているのか?
もしかして、ここの5人は全員こういった“能力”を所持しているのだろうか?
俺が捕まってからゾンビを倒した時は普通にそこら辺に落ちている鉄パイプの様な物で殴り倒していたが…。
最初に見た、鯨という武器も気になる…。
『ほら、着いたぞ。』
「え、あっ…」
そしてみるみる内に下の地面が見えなくなるほど高いところへ登ってきた。
「たっか…」
『じゃぁ皆んなが登ってくるまで待つか…』
「やっぱり、他の皆さんもここを登ってこれるんすか…?」
『あー、ニヴァ以外なら登れる。あっ、ニヴァ俺が背負うんだった…ちょっくら行ってくるわ。あっ逃げんなよ。』
「まぁ俺もアンタらと一緒にいた方が生き残れるし…逃げねぇよ。」
『分かった。じゃぁちょっと待っとけよっとっ。』
そう言って4本腕の体を操るダーレンは崖の下へ落ちていった。
さて、俺としてはどうしよう。
なんか崖の1番上のところまで来たけど…。
暗くてあんま何もみえねぇな…。
スマホのライトライト…。
———ピカッ。
「な、何だアレ…。」
最初に配信者の目に入ったのは壁画だった。
崖の1番上とは言え壁はあるし、なんか下より若干小さい空間の中に居る様にも感じる。
体感はアレだ、屋根裏みたいな感じかな…。
まぁ広いんだけど…。
んー。エジプトの壁画みたいな感じー、でも無いな。
なんか、文字だなコレは。
んー、読めねぇな。
あ、でもちょくちょく絵みたいなのが載ってんじゃん。
ふむふむ…。
猫に犬に兎…動物の絵画か?
「こ〜れは…何だ…ヘッタクソな絵だな。」
(それにしても…はぁ…、、、)
ため息を吐く配信者。
はぁ…俺は命を捨てる覚悟はしているが…それはカメラの前で無いといけない。
セネカにカメラを取られたから俺はまだ死ねない。
ここにゾンビとかバケモノは…いなさそうだが…。
んー。
スマホのライトで周りをぐるっと一周照らす。
んー、なんかアレだな。
謎の建造物の足の中だけど、その中にもさらに階層みたいなのがあるのか。俺は多分今まだ大分、低い層に居るんだろうな…。
おいおい、俺。何ちょっとワクワクしてんだよ。
自分が楽しむ事より視聴者が楽しむ事を意識しろ馬鹿。
いや、まぁまず自分が楽しまないと良い画が取れないからなぁ…。
ワクワクしとくか…。
——————ガシッガシッガシッ。
アイツらも登ってきたか…?
———グルグルグルグルグル…。
やばい。この音、ゾンビのか…?
まさか、ゾンビって下から上がって来れんのか?!
だとしたらまずい…けど…。
なんかこの“声”聞き覚えある…。
———グルグルグルグルグル〜バァ〜ア!
「び、びっくりさせんなよニヴァさんよ…」
『えー、もう名前覚えてくれたの〜うっれしぃ〜!』
『おい、お前ら全員…まとめて俺の背中に乗るのは酷くねぇか?』
ダーレンが文句を言いながらニヴァとセネカ、その他全員を背中に抱えて上がってきた。
『いーじゃん、文句言わないでよケチッ、』
『おい、ニヴァ!おまっ!全員乗せてやったのにケチとは何だ!!』
グチグチ喧嘩を始めたダーレンとニヴァを見た後、配信者はこの5人組をゆっくり観察する。
1人はセネカ、身長は普通ぐらいの鯨という武器を使って、さっき戦っていた男だ。
そしてニヴァ、こいつは見た感じセネカと同じぐらいの身長…いや、セネカよりちょっと低いか?まぁやかましそうな女だ。
ダーレン、こいつは俺を運んできてくれた“異能”の持ち主だ。口ぶりからして全員“異能”を持っているみたいな感じだろうけど…。
後、セネカより遥かに大きい髪の長い奴、多分…女か?フード被ってるからよく見えねぇな…。
190cmは有るんじゃないか?でっけぇな。
コイツが良く、尾行してた時にセネカとダーレンを注意してた奴だな。
最後に、コイツ……何というか特徴ねぇな…。
誰よりも深くフードを被って…身長はセネカと同じぐらいで…無口…それぐらいしか分からない。
『体力は温存するべきですよぉ〜だ。』
『俺の体力が削られてんだよ今ぁ!!!』
相変わらずニヴァとダーレンは漫才みたいな絡みをしている。
てか…、、、
「なぁ。俺たち今どこ向かってるんだ…?」
その質問にセネカが答える。
『んー…安全な所、かな?』
「ほぉーん…。そこ着いたら“人質”返してくれんすか?」
そう言って配信者は、カメラの方を指差す。
セネカはカメラを自分の頬に擦り付けてニヤけズラで言う。
『そ〜だね〜その時の気分によるかなぁ〜。』
———ベシッ。
『イテッ。』
5人組の中の1人の大きい女がセネカの頭を叩く。
『その辺にしておけ。もうコイツも逃げんだろ。』
『べっ!別に僕はただ揶揄う為に言ってるだけで、』
———ゴツンッ。
『イッテェ。』
『尚更だ、やめろ。』
「あ、あのぉ…貴方達はどこで暮らしてるんですかねぇ…?」
5人組はそれぞれの顔を見渡した後、少し間を開けて大きい女が答えた。
『周回移動都市だ。』
「しゅ、周回移動都市ってのは…この歩く建造物の事で…?」
『あぁ。』
「お、俺こんなこと聞いて口封じとかで殺されないっすかね…へへ…」
大きい女がため息を吐いた後、何か言おうとした時、セネカとニヴァが割り込んだ。
『ワタシ達が口封じで殺しちゃうかもヨォ〜!ガァオ〜!!』
『へへへッ、さぁ〜て何処から食べようかなぁ〜へへへッ。』
———ゴンッ。ゴンッ。
2人に対して大きな女が制裁を加えた。
『ほっっっんと…お前らってガキだよなぁ…』
『イッテェェ…』
『アー頭われりゅ…』
「つ、つまり、このしゅ、周回移動都市は人が…人間が住める場所になってるのか…?」
5人組が再び顔を見合わせてから、今度はダーレンが代表して話す。
『この姿、見ても人間認定してくれんのな。お前…良い奴じゃねぇか。あぁそうだよ、この周回移動都市は人間が住めるぜ。』
「自分で言うのも何だけどよ…本当に見ず知らずの俺にここまで話して良いのかよ…本当に聞いといて何だけどよ。怖いんだ…まだ此処が…。」
不安そうにカメラの方を見る配信者に、セネカが近寄り優しく言う。
『まぁ気楽にしなよ。別に僕達は君を取って食おうとなんかしないよ?ただ…助けに来たんだ君を。“鷹田くん”を…ねっ。』
配信始めてから1回も身バレした事、無いのに。
俺が1番聞き覚えのある名前。
俺が1番長く付き合ってきた名前。
「お前…何で、俺の名前知ってんだ…」
『んー、今はまだ秘密かな。』
人生で1回は言いたい言葉。
『おまぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!』
【限界は突破する為にあり、垣根は越える為にある。そして運命は否定する為に存在する。らしいぜ。】
【存分に殺し合おうぜぇ今日は邪魔が居ねぇからなぁ…】
【逃げた弱虫が何ゆーてんねんダッサイなぁ。】
【逃げたぁ?あぁお前をぶっ飛ばした時の奴かぁ。あんなんでぶっ飛ぶお前が悪いんだろ、弱ゴミ虫は鳴き声が大きくてキモいキモい。とっとと黙って死ねやぁ】




