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「えぇ……」
放課後。
一連の話を聞いたアキラは、天宮と全く同じ反応をした。
「姉御って、腐ってたんですか……」
「そうみたい……」
場所は文芸部の部室だ。
ちなみに天宮は五、六時間目の授業をエスケープし、ずっとここにいた。
ショックが大きすぎて、立ち上がる気力がどうしても沸いてこなかったのだ。
由紀のいる教室に近づきたくなかったというのもある。
「それで、兄貴はなんて」
「もちろん否定したさ。でも全然信じてなかった。あいつの中で、俺たちが付き合ってるのは決定事項みたい……。ど、どうすればいいかな」
「いや、俺に聞かれても……」
天宮は縋るような目でアキラを見る。
友達の少ない天宮には、頼れる相手が他にいなかった。
「力のこと、正直に打ち明けてみたらどうですか?」
「無理だよ。力を人に知られるのが一番怖いんだ」
「でも姉御なら誰にも言わないでしょ」
「そういう問題じゃないんだって」
「んー、ならもういっそ、姉御の記憶を改竄するとか」
「馬鹿、どうやってやるんだよ」
「兄貴なら出来るんじゃないですか?」
「無理に決まってんだろ」
「そんなこと言って、人の心を読むことは出来たじゃないですか」
「……む。確かに」
天宮は自分の胸に聞いてみる。
「……なんか、出来そうな気がする」
「おおっ、さすが!」
「でも怖いな。頭に指突っ込んで脳みそイジり回すとか」
「あ、そんな物理的な感じなんですね」
「ちょっと練習するか」
「え?」
「まず俺の力に関する記憶を消して……。ついでに俺が命の恩人だって記憶を植え付けとくか」
「ち、ちょっと待って下さい!」
天宮の人差し指がアキラの額を狙う。
アキラは天宮の腕を両手で掴み、必死に抵抗した。
「大丈夫だって、痛くしないから」
「無理無理無理! そんなの入るわけないでしょ!」
「先っぽだけだから」
「いやあああああ! (記憶が)犯されるううううう!」
アキラは死に物狂いで暴れた。
天宮が怯んだ一瞬の隙を突き、部室の外へと逃げ出そうとする。
ガラッと扉を開けたところに人がうずくまっていて、アキラは、
「ぎゃあ!」
とアホみたいに叫んだ。
「あ、由紀……」
天宮は戦慄する。
どうやら由紀は部室の外で、盗み聞きをしていたみたいなのだ。
(ど、どこから聞かれていたんだ……)
もしかしたら、力のことも……。
「……お前、いつからそこに」
「え? 今来たとこだけど?」
天宮の質問に、由紀は鼻血を垂らしながら答えた。




