Section6
名札見て苗字変わっていることは知ってたし、結婚してるんだろうなぁって思ってたけど、やっぱりショックだった。
幸せになってほしいって気持ちの反面、ずっと自分のこと思ってて欲しかった、っていう気持ちで結構複雑だったんだ。
でもやっぱり、態度に出したらダメだと思って俺は答えた。
「あ、ほんとに来てくれたんですか、ありがとうございます!」
「うん、今日は特に予定なかったの。それにこの前来て、って言ってたから」
そういわれると、早速俺はメニューを渡した。
「では、このメニューの中から選んでください、決まったらまた呼んでくださいね」
俺は言い終わって、とりあえず厨房に戻った。
しばらくして、決まったといわれたので注文を受けるためにもう一度戻る。
最初に、男の子が注文してきた。
「お子様セットください!」
「はい、かしこまりましたー、じゃあおもちゃ一つこの箱の中から選んでねー」
うちのラーメン屋はよくファミレスとかにあるような「お子様セット」なるものがあった。
その中身は、半ラーメン+ギョーザ+おにぎり+おもちゃという子供に非常に人気のあるメニューだったんだ。
たぶん、まだ5歳くらいの男の子が大人一人分のラーメン食べられるわけもなかったから、ミキが促したのかもしれない。
男の子はは小さかったから、おもちゃが入ってる箱に届かなくて、ミキが抱っこしてた。
「はい、こうきー、好きなおもちゃ一つ選んでいいってよー」
「えっとね、どれにしようかなー」
こうきの名前聞いて、俺は頭が真っ白になった。
だって、「こうき」ていう名前は俺の名前だったから。
昔は、その声で俺の名前を呼んでくれていたから。
内心泣きそうになったけど、自分でもやっぱり平静を装っていなきゃいけないと思った。
こんなところで、お客さんのまえで、泣くわけにはいかない。
だけど、少しだけ俺はミキに言いたかった。
「あ、あの…」
「はい?」
この会話が、現世のミキと真面目にした最初の会話だった。
「あ、えっと、いい名前ですね」
「ありがとうございます、ほら、こうきー、お兄ちゃんにありがとうは?」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
俺は今でも男の子の笑顔が忘れられない。
決して深い思い出があるわけじゃないけど、やっぱりなんとなく心に残ってる。
俺は続いてミキの注文を受けた。
「あ、えっと、ミキさんは何にしますか?」
「じゃあ、しょうゆラーメンください」
「は、はい、かしこまりましたー」
「あ、それと…」
「はい?」
「ねぎ抜きでお願いします!」
そういえばミキはねぎが嫌いだった。変わってなかった。