転校生
「皆さん、今日から一緒に学ぶ転校生のユウカさんです。ユウカさん、自己紹介をどうぞ」
「先生、ありがとうございます。今、紹介していただいたユウカと申します。親の仕事の都合でこの街にやってきました。1年間だけになりますが、皆さんよろしくお願いします」
高校3年の5月に、転校生がやってくるというのは珍しいと思うが……そこではない。あの見た目は、なんというか……普通に考えると美人そのものなんだけど……マジか?
「サワ兄……あれ……」
前の席に座っている妹のヤコが、振り向きながらしゃべりかけてくる……。
「うん……あのユウカって転校生……母さんじゃないか?」
「そうよね、どう見ても母さんだし声もそっくりよ」
そう。ヤコの言う通り、どう見ても母さんだ……しかし。
「い、いや……母さんは銀髪だ。ユウカさんは茶髪だ」
「そうだけど……え?」
母さんは、その見た目からして俺たちとは全然違う顔立ちだ。しかも、歳を取らないくらいに見た目が若いし美人でもある。というか、近所では『美少女ママさん』とか呼ばれている。それほどまでに見た目を維持している母さんが……なんでここに転校生としているんだ?
「ユウカさんの席は……」
「先生、私の席はそこですよね」
ユウカと名乗った母さんが、魔法少女の様な笑顔で俺の隣の席を指さしている。というか、席を見ているのではなく、俺を凝視している。
「ええ、ユウカさんの席はそこなのでどうぞ。サワ君、ユウカさんにいろいろ教えてあげてね」
担任の先生がそれを言うよりも前に、すでに俺から目を離さず歩いてくるユウカさん。その眼力は母さんのそれとは違うが……顔は母さんそのものだ。
「サワ、よろしく頼む」
彼女は、席に着く前に俺に対して一礼をしてから「サワ」と言った。先生が今俺の名前を言ったから把握したのだと思うが……いやいや、なんで俺の名前知ってるんだ?
「その隣にいるのは、ヤコさんか? よろしく」
ユウカさん……いや、母さんは、俺の兄妹でもあるヤコの名前を呼んで挨拶をした。ヤコは驚きを隠せず頭がバグって「え? は?」としか言えていない。やっぱり母さんじゃないか!
「ヤコさん、2回目になるが……よろしく頼む」
「ゆ、ユウカさん……よろしく」
ヤコの顔の変化が目まぐるしい。
「ちょっと、サワ兄! どうしたらいいの?」
「し、知らないよ、というか静かにしろ」
ユウカさん……じゃなかった、母さんは聞こえているはずなのにポーカーフェイスで俺たちを一瞥してから、教室に溶け込むような形で先生の方を見て授業の準備を開始した。
「ヤコさん、授業を始めますよ。サワ君もユウカさんに気を取られすぎです」
クラスメイトがクスクス笑うが……いや、母さんが転校生してくるとかの身になってみろって。気にするなという方が無理だ。
今日一日の授業は平和そのものだったが、昼休みは周囲の生徒が美人のユウカさん……この言い方で良いのだろうか……を囲んで根掘り葉掘り様々なことを聞きながら飯を食っていた。ユウカさんは、俺やヤコのことを聞いていた。
友達からも「早速サワをロックオンするなんて」とか言ってからかってきたが……そんなことをされると落ち着かん。
というか、母さん何してんだよ!
「サワ兄、あたし探りを入れるわ」
「どうやるんだ? こんなところで『母さんよね』とか言うと違っていた場合にお前が変なことになるぞ」
「大丈夫よ、そんな聞き方はしないわ」
放課後、帰宅準備をしているユウカさんのところに、戦闘態勢のヤコが接近し「今朝は何を食べたか?」とわけの分からない質問をしている。相変わらずヤコのズレっぷりが兄妹ながら面白いが……。
「今朝の朝食? トーストとゆで卵だったが?」
「そ、そう……」
ヤコは敗北した顔でこちらに来る。当たり前だ。
「サワ兄、聞いての通りで朝食の内容が違っていたわ」
「あんなの誰でも回避できるよ」
俺たちがこのアホみたいな会話をしている間に、ユウカさんはそそくさと教室から出ていた。
「ヤコ、追いかけよう。こんなに早く、部活の説明も聞かずに帰るのはやっぱりおかしい」
「そ、そうだった。あいつ、もう帰るだなんて何を考えてるの?」
「知らんが急ごう」
二人でユウカさんの後を追いかけたが、すでにその姿はどこにもなかった。こちらも油断していたとはいえ、もうちょっと学校にいると思ったが……仕方ない、帰宅して母さんに直接聞くしかない。
「母さん、今日は一日家にいた?」
「え? 私は、ずっとここにいましたよ。どうしたんですか?」
どう見てもユウカさんそっくりな母さんだ。その顔は、俺たちが幼少の頃に撮った写真から全く変化していない。優しく、美人で、時には強く叱ってくれる母さん。そんな人が、いくら見た目が若く見えるからって、転校生として子供たちのクラスに乱入するなんて考えられない。
「今日、転校生がきたの」
「そう、サワちゃんとヤコちゃんのお友達がまた増えるのね」
「そうかもしれないけど、ユウカと名乗って、母さんそっくりだったの。母さんが化けてるんじゃないかって、サワ兄と話ししてたのよ。母さん、この家にいたよね?」
「ええ、いましたよ」
母さんは、いつものような顔で答えてくれた。そこに驚きの表情などはなかった。しかし、「ユウカ」と聞いた時に、少しだけ空を見るような表情をしてから、ゆっくり目を閉じて再び開き、俺とヤコを一人ずつ見てから「いましたよ」と優しい笑顔で言った。




