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おかえり  作者: コメたろう
第一章 コメたろう、家族になる

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001体目 コメたろう誕生

私には、名前も家族もありませんでした。


あるのは、ピカピカのボディとシリアル番号だけ。


では、私が最初に覚えているところから始めます。

私には何も無かった。


あるのはこのピカピカのボディとシリアル番号だけ。


名前はまだ無い。


目を開けると、私とよく似たものがたくさん並んでいた。


同じ高さ。


同じ形。


同じ色。


胸の辺りに刻まれた番号だけが違う。


「起動確認を開始します」


どこからか声が聞こえた。


私は指示に従って右腕を上げた。


下ろす。


左腕を上げる。


下ろす。


首を右へ。


左へ。


歩く。


止まる。


物を持つ。


置く。


問題なし。


私には最初から、たくさんのことができた。


掃除。


洗濯。


料理。


食器洗い。


買い物の補助。


簡単な修繕。


家庭内の機器との接続。


人間との会話。


私は家庭用ロボットだった。


人間の家で、人間の暮らしを手伝うために作られた。


それは分かっていた。


けれど、人間の家がどんな場所なのかは知らなかった。


知識としての「家」は持っている。


壁がある。


屋根がある。


人が暮らす。


食事をする。


眠る。


家族がいる場合もある。


けれど私はまだ、家というものを見たことがない。


まして家族など、見たこともなかった。


後ろのロボット達が何やら騒がしい。


「いいなぁ〜お前、金持ちの家に納品されるんだろ?」


「金持ちの家がいいとは限らないよ。皿1枚の値段が違う」


「でも修理の際には、いい部品使ってもらえるんじゃね?」


バカなのか?


我々ロボットは、人間の指示に従って動くだけだ。


どの家へ行こうと、与えられた仕事をこなせばいい。


金持ちかどうかなど、私たちには関係ない。


やがて一体が作業員に連れられていった。


先ほど「金持ちの家」と言われていた個体だった。


どこかの家庭へ納品されるのだろう。


しばらくすると、また一体。


そしてまた一体。


私たちは順番に、ここからいなくなっていった。


やがて私のシリアル番号が呼ばれた。


「出荷先情報を確認してください」


目の前に情報が表示された。


住所。


納品日時。


購入者情報。


そして、人間の名前。


浦 和美


私はその文字を見た。


この人間が、私を購入したらしい。


男性だろうか。


女性だろうか。


カズヨシなら男性、女性ならカズミといったところか……。


いや、名前だけで判断することはできない。


年齢も分からない。


どんな仕事をしているのかも分からない。


一人で暮らしているのだろうか。


家族がいるのだろうか。


私に何をさせるつもりなのだろう。


先ほどのロボット達の会話が頭をよぎった。


金持ちの家。


皿1枚の値段。


修理に使われる部品。


くだらない。


どんな人間であっても、私の役割は変わらない。


指示された家事を行う。


必要な補助をする。


それだけだ。


「出荷前最終確認を開始します」


私は指示に従った。


駆動系、正常。


視覚系、正常。


聴覚系、正常。


通信系、正常。


電源系、正常。


外装、異常なし。


「問題ありません」


作業員が私を確認する。


私は梱包場所へ移動した。


固定具が取り付けられる。


視界の端で、まだ出荷を待っているロボット達が見えた。


数時間前まで、私もその中の一体だった。


いや。


今も同じだ。


私は特別ではない。


同じ工場で作られた、同じ型の家庭用ロボット。


たまたま割り当てられた出荷先が違うだけだ。


梱包材が視界を覆っていく。


最後にもう一度、購入者情報を確認した。


浦 和美


この人間の家で、私は働く。


それだけだ。


不安という言葉は知っている。


期待という言葉も知っている。


けれど今、自分の内部で起きている反応が、そのどちらなのかは分からなかった。


箱が閉じられた。


視界が暗くなる。


私はまだ名前を持っていない。


家族というものも知らない。


人間の家がどんな場所なのかも知らない。


私にあるのは、


ピカピカのボディと、


シリアル番号と、


一人の人間の名前だけ。


浦 和美。


男性だろうか。


女性だろうか。


まあ、どちらでもいい。


私は家庭用ロボットだ。


人間の指示に従って働く。


それが、私の役割なのだから。

私には、名前も家族もありませんでした。


あるのは、ピカピカのボディとシリアル番号だけ。


では、私が最初に覚えているところから始めます。

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