刻を超えた絆の戦い
遺跡の奥地で地鳴りを起こす程の足音が轟く。
「ラーグ! アチシが牽制するっス、一気に近づいて側面に回るっス」
流れる様な所作で次々と矢を山なりに放つ左胸に黒い鉄製の胸当てを着けたスカイブルーの髪色を持つ美女。
ヘルガの見事な射撃を横目に見ながら指示通り側面に回る為、ステップを踏みフェイントを交えながら巨大な敵に近づく。
流石、斥候のエキスパートで毒舌の司令塔と呼ばれる歴戦の猛者。的確な指示だぜ、思わずほれちまう瞬間が多すぎる。
「其の矢は全てを穿つ、貫通!」
その動きに合わせて桃色の長い髪をなびかせて、古代の魔術を顕現させる幼い顔つきの少女。
エル得意の凝縮詠唱は俺も使えるほど単純なうえ、戦闘で使用するのに特化しており即時発動が出来る。俺が使える種類は少ないが、開発者のエルはその時に合った多数の魔術を操る。
見た目は少女だが、俺にとっては魔術の師匠。やっぱり安心感がスゲェ。
淡く神秘的な光を放つ鱗を全身に纏った巨大なトカゲの背にトットットと軽快な音を立て光り輝く矢が突き刺さっていく。
痛みを感じ俺を丸呑み出来るほどの大口を開け鋭い牙を剥き出しにして、こちらを威嚇する巨大トカゲ。
両手で反りを持つ片刃の大剣を右肩に担ぎながら威嚇の攻撃を避け、左前脚の後方に着くなり袈裟斬りで鱗の隙間を斬りつける。
斬撃に特化した鋭い片刃の一閃。太い脚が半ばまで斬りつけられ、真っ赤な血が噴き出し脚の力が無くなりバランスが崩れる。
その瞬間トカゲは左脚を踏み込み、長い尻尾を俺に叩きつけてくる。
「我が身は鬼人の如く!」
エル直伝の身体強化魔術を発動し剣を右手で持ち、左手には腰の短杖を抜き尻尾に潜り込みながら剣と短杖をクロスに構え上に押し上げて受け流す。
身体強化の魔術は俺の身体を劇的に向上させ両手でしか扱えないはずの大剣を片手で楽々扱える様に身体を作り変える。
短杖を直ぐに腰にしまい、再び力みなぎる両手で剣を握り込んで尻尾の根元に向けて剣を大きく引きながら一気に振り下ろす。
一刀両断され、ぼとりと落ちる尻尾を踏みつけ背中に駆け上がる。軽やかに走り、首部分に向け助走して高く跳躍しながら大声で叫ぶ。
「ここで決める、叩きつけてくれ!」
剣を下に構える。
「地の力は無限なり、重力!」
エルの淡々とした凝縮詠唱が響き俺の体が急激に重さを増して、下突きが強靱な鱗を砕き首を貫通する。
骸となった巨体が地響きを立てる。俺は無言でヘルガとエルに近づきハイタッチを交わす。
「ラーグやるようになったっスねぇ〜、ピーピー鳴いて逃げ回ってた二年前から想像できない成長にお姉さんは、涙ちょちょ切れっスよ」
ヘルガの口からサラサラと、褒め言葉なんだか毒なんだかよくわからない感想が流れる。
「ラーグ。動きは良いし武器のスイッチも、うまくなり状況判断も申し分のないレベルまでに上がっている。もう少し酷評する気だったけれど、これは褒めるべき。よく頑張った。」
エルは普段無口だが、興奮すると饒舌になる。今回の戦いはお眼鏡に叶ったらしい、うれしい限りだぜ。
二人の褒め言葉に浮かれていると背後から何かが襲いかかってくる。
「チッ」
舌打ちをしながら大剣を手放して左手で腰の短杖を抜き、留め具を外して大きく振る。
ジャコンと三倍ほどに伸びた短杖を使って俺と同じくらいの大きさのヒルのような気持ち悪い怪物の牙を受け流す。トカゲの内臓に寄生していた様で牙は血と肉で汚れている。
凄まじく軽くしなやかで丈夫な短杖の速度だからこそ喰い付かれずに済んだ。冒険者だったオヤジから受け継いだ唯一の形見…………いつも助けられてる俺のお守りだ。
袈裟薙ぎに叩きつけて地面へ撃ち落とす。
ひゅん!
鋭い音を立ててヘルガの手元から鞭が閃き、瞬く間に黒い怪物を縛り上げると頭上に放り投げる。
それを見計らい、詠唱で十分に魔力を練り込んだエルの完全詠唱魔術が完成する。
「業火爆縮!」
黒いヌルヌルした怪物が、恐ろしい程の火力を持つ火の玉に飲み込まれる。
俺達の頬が熱くなるほどの火力で、灰すら残さず焼き尽くされる。そして、急速に火炎は収束していき跡形もなく消え、残されたのは火照りのみ。
「相変わらずすげぇんだが、やり過ぎじゃね?」
思わずボソリと感想を言ってしまう。
「ふっ、我がヴァルグランをお興しになった偉大なる神は言った、物語は絶対にハッピーエンドじゃね〜といけないと。そして、派手なら派手な方が盛り上がるではないかと♥ フハハハハハハッ!」
あっ、しまった…………エルの国興しの神様大好き病…………
「これが始まると長いんっスよね…………」
ヘルガも肩をすくめてこっちを見ている。
その間も、ペラペラと神の賛美を続けるエル…………まぁいつもの事なので気を取り直し、ヘルガと共に部屋の奥、即ち最奥の部屋に行く支度を始めた。




