再会の約束
右手に杖、左手に箱を持ち
進んだ
最後の大門を開く
そこには
小さな女の子がいた
一人
泣いていた
「お主が我の死か?」
「……わからない」
僕も
泣いていた
「さぁ、無の連鎖の続きを紡げ」
「その前に、少し、話をしないか」
「異な事を言う奴だな。構わんぞ」
彼女と、色んな事を話した。
何日もかけて……話した。
彼女は魔人の事をよく知らなかった。僕も多くは語らなかった。
魔王になり、時節ダンジョンの運営報告を受ける程度。魔族も稀にしか現れない。
何をすればいいのかもわからないまま、魔王と呼ばれた。
倒したはずの魔王に、何故自分が……。それを理解するのにすら数百年もかかった。
魔物たちからの報告も、魔族の訪問も徐々に減り、この1000年、数回見たかどうかだった。
マナも碌に貯めず。魔王城からも出ず。魔王になってすぐ、慕ってくれた魔物も魔族も死に絶えたそうだ。時に勇者に、時に身内に、殺されたそうだ。
少なくとも北の王族の大半は魔族に支配された魔族そのものか……傀儡……。
僕も自分の話をした。
「笑わせる。家族がいるではないか。死んでいようといまいと。家族がいる。このままでは、お前は何も守れない。早く帰れ。」
「僕は恵まれていたんだな……」
彼女も自身の話をする。
「望まないままに魔王に……」
「魔王について、何も知らずにこの地へ赴き。こうなった」
彼女の知る限りの話を聞いた。
世界は無数にある事。聞いた事もない単位で説明していた。
だが、数多ある世界の中『九界』の一つのこの世界は重要な役割があるらしい。
本来は……死者も生者も、様々な力さえも巡り廻らせ数多世界に回帰させる世界……。
創世の女神が創る事に失敗し、ただでさえ失敗したというのに……更に何者かが『楔』というこの歪な世界の改編すら行えない呪いを打ち込んだという。
「輪廻の止まった世界……。楔……」
「人の手と身に余る。神の所業の業の深さよ」
しっかりと確認してみた。
「廻らぬ世界の理を正す者はおらぬ。だから、淀んでしまったのだ。死者も生者も……力さえも淀む……。淀みが深淵に至り、魔物ともなる。東の者どもはヨウカイと呼ぶ者もおるようだな。万物に宿る異形と聞く。女神は疲れ眠り。使いは世界を侵す。竜はいつしか姿を消した」
決意する。
「魔王、この世界、滅ぼそう。一緒に……来てくれ」
「魔族の悲願をお主が……?何故だ?」
「人も、魔族と呼ばれる他の世界の人も、あるべき形に戻るべきだ。歪に争う、この醜い世界を……美しくするために……」
彼女は笑いながら後ろを向く。
そして
長く、綺麗な髪をたくし上げ、首元を見せた。
「ならばその、最初の所業は、やはり我の首だ」
「……どうしてそうなる?」
「魔王も楔の一つなのだよ。マナをほぼ無限に蓄えるこの体。消すべき楔の一つだ。その箱があれば可能だ。次元を揺蕩い望んだ得物を呼び出すその箱なら。魂をここに繋ぎ、体のみ滅する魔剣も呼び出せよう」
「なるほど……そんな事が……」
「後は……これを渡しておこう。魂回帰の秘術の術式だ。我が人だった時に編んだ物だ。お主では難しいだろうが、魔に通ずる者なら理解出来よう。入れる器は死体でも人形でも構わんが、かわいい物にしてくれよ?」
「わ、わかった……。さて、魔剣か……取り出せるのだろうか……」
女戦士の持っていた貧者の箱から禍々しい剣を取り出す。
「ああ、そうだった、お前は魔王化せぬだろうが……一応伝える事があった」
「……何かまだあるのかい?」
「『俺は失敗した。次は……お前の番だ』だそうだ。始まりの魔王と呼ばれるモノから伝わる……遺言?かな」
「…………重い言葉だな……。必ずまた戻る。探したい人がいるんだ。その人に秘術を伝えて……戻る」
「あぁ……まぁ期待せずに待ってるよ」
ザン
勇者は魔王を倒しました
おしまい
勇者のメモ 2
彼女の言った美しい世界にするために僕は……何者にでもなろう。




