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第三話 デート

順調な稜と茜の関係です。

日々楽しそうに過ごしていきます。

 約束の水曜日の朝。

「おはよう」

稜と茜が洗面所で顔を合わせた。少し先に歯磨きを始めていた稜。そこに来た茜は鏡に映った自分を見て「うわつ!」と声を上げた。

「ど、ど、うした?」

歯磨き粉で泡だらけの口で稜が驚く。

「やだ~前髪こんなの~」

と左のおでこを押さえて茜が言う。稜が見ると前髪の左側が飛び跳ねてあっちを向いている。あぁ~やだやだ~と今度は両手で押さえて茜は落胆している。

「そんな落ち込む?」

そういう稜の顔を睨みつけるように見て

「前髪は大事なの!今日デートだよ!」

と眉間にしわを寄せて茜は歯ブラシを取った。左手は前髪を押え渋い顔をしながら歯を磨き始める。その様子を見ながら稜はクスっと笑う。すると茜がまたギロッと横目で見る。またその姿が可愛く稜はクスっと笑う。そうして無言で歯磨きを終えて稜が「お先に」と洗面所を去った。

 茜は暫し前髪と格闘してどうにか納得いく状態に出来たのか、稜がお隣のロッキーの散歩に行こうと玄関に向かうと「一緒に行く~」と茜が急いで来た。

「前髪直ったみたいだね」

と稜が茜の頭をポンポンと撫でる。うん、と嬉しそうに頷いて茜は腕を掴みながらスニーカーを履いた。

 二人でロッキーを連れ住宅の周辺から空の店のコンビニを通過。ロッキーは二人一緒の散歩だとご機嫌だった。二人と一頭の息が合って、もう突然走り出すロッキーではない。

「今日は映画の前にちょっとお買い物しようよ」

そんな他愛もない話をしながら、今日のデートの予定を立てて歩いた。

「私達、同じ(うち)から出かけるから待ち合わせしなよね」

「まぁそうだよね。でも会社帰りだったら、たまに待ち合わせするじゃん」

「うん、でも帰りの途中と、これから出かけるっていう家から向かうドキドキ感、ちょっと違わない?」

「そう?」稜は不思議そうに問う。

「家からお洒落して待ち合わせに向かうドキドキあるでしょ?」

「う~ん、同じ家からでも俺はドキドキするよ、茜見てたら」

「え?」ちょっと照れて茜は稜を見上げた。

「ほら、ドキドキしたでしょ?」

稜は悪戯そうにそう言って笑う。

「も~」からかわれたようで茜が不貞腐れるふりをして、内心ちょっと嬉しかったりしていた。

こうやっていつもふざけたり、笑ったり、ふくれっ面になったり、毎日どんな時も一緒に居ると楽しくて仕方ない。でもデートで出かけるとなると、やっぱりいつもより特別な気分になっていた。


「ねぇそろそろ行こうよ~映画の前にお買い物するの、時間無くなっちゃう~」

「分かった~。あ!ちょっと俺、空に用事あるからコンビニ寄って行くわ!後でバス停で待ち合わせね」

「え?今?後でいいんじゃないの?」

「いいから、ちょっと先行くわ!」

予定の時間間際に稜が慌てて家を出て行った。

「もう~」

茜は不貞腐れながらも自ら長い髪を編み込み可愛く仕上がって、最終的には満足気に鏡の中の自分に微笑んだ。

その頃、稜はコンビニでパンの品出しをしている空に「よぉ~」と声をかけていた。

「今日は一人?」

と稜の背後に茜がいないのを確かめる。

「うん、これから待ち合わせ」

ちょっと嬉しそうに稜が言う。

「何?同じ家からじゃないの?」

「いや、同じ家からだけど・・・」

「意味わからん、ハハハ」

空はパンを棚に並び終え、カップ麺の棚に移った。空が後を着いて茜が待ち合わせのドキドキ感の話をしたことを説明する。

「ドキドキさせようと思って?」

空は呆れたように笑いながら言う。

「だって共同生活からぬるっと同棲みたいになったし…っていうか、確かにこれから待ち合わせって思ったら急にドキドキこっちがしてきてさ」

「は?稜ちゃんがドキドキしてんの?二人は高校生か?ハイハイ、早く待ち合わせ行ってください。時間いいの?それで遅刻したらあかねぇ逆に怖いよ、ハハハ」

は!と腕時計を見て「やべっ」と稜はコンビニを出て行く。「何しにきたんだか」そう言いながら空は稜と茜が仲良くやっているようで安心していた。まだ寒い二月。コンビニにはバレンタインのチョコが並んでいた。


 茜はいつものバス停に着き稜を待つ。今日はショッピングモール内の映画館で映画を見て、少しお買い物をして・・・に合わせて服装も可愛いカジュアルなワンピースを着てみたりした。先に出た稜はこの姿を見てどう思うだろうか、なんて思うドキドキ感、を稜と話していたのだが、思いの外稜が遅くて何してるんだろう?とソワソワしてきた。

「あれ?もうすぐバス来ちゃうんだけど」

電話しようとスマホを手にしたところ、稜が走って来る姿が見えた。と同時に後方にもうバスが迫ってきている。

「稜くん!早く!」

やっべ~と後方のバスに気付き必死に走る稜。二〇〇メートルくらい全速力で走った稜は流石元陸上部、バスとギリギリ同着でバス停に着く。

「稜くん、大丈夫?」

「はぁはぁ・・・だ、大丈夫」

息を切らしながら稜は茜の手を取りバスに乗り込んだ。

幸いバスの座席が空いていたので二人して座る。乱れた髪を茜がヨシヨシと整えて顔を見合わせ同時にクククと笑いだした。

「もう何やってんの?間に合わないかとドキドキしたじゃない」

「ごめん、待ち合わせでドキドキしたいって言ったから、空のとこでちょっと時間潰してた」

「ドキドキ違いだよ」

茜がそう言うと、稜はいつもの三日月の目でクシャっと笑う。自分の言葉をくみ取ってくれた稜を茜は愛おしく思い、この笑顔が大好きだと改めて思った。

「ねぇ映画、これ、泣くやつだけど大丈夫?」

「え?泣くやつ?」

スマホで今日見る映画のサイトを二人で見る。二つ前の席の三歳くらいの女の子が後ろ向きに座り二人のその様子を見ている。ふと気づいた稜が「ん?」と女の子に目配せすると、女の子が恥ずかしそうに隣の母親の肩に隠れた。茜も気づき見ていると、女の子はまた母親の肩から顔を覗かせる。

「稜君、面白い顔してあげな」

「え?俺が?」

とか言いながら稜が目を見開いてみたり口を尖らせてみたり、女の子の気を引いて見せた。キャハハとその子は笑い出し、恥ずかしそうに顔を母親の肩に隠してはまた覗かせるを繰り返す。気付いた母親が「あら、すみません」と微笑みながら女の子に話しかけ、次のバス停で降りて行った。

「子供あやすの上手いね」

茜に褒められて稜がちょっとドヤ顔になっているのが茜にはまた可愛らしく、いつか二人から三人になることもふと想像したり。とにかくバスは幸せと一緒に二人をショッピングモールまで運んだ。


 映画を見終えて、稜も茜も目を腫らさんばかりに泣いていた。茜が見たかったものだったが、予備知識もほぼ無かった稜は茜以上に号泣で他の客に迷惑にならないか心配になるほど涙を流した。

「恋人に先立たれる話だなんて、知らなかったし・・・」

席を離れても鼻水か涙か分からないほど顔中ぐしょぐしょになった稜は

「絶対先に死なないでよ・・・」

と茜の手を強く握る。茜は酷いその顔を見、泣き笑いし「今度は笑えるのにしよう」と返し稜は「ずっと一緒にいようね」と二人は手を繋いで映画館を後にした。

「ねぇ夕飯は何食べる?」

「切り替え早いね」稜が鼻水をすすりながら

「そうだね、ワインとか飲もうかせっかくだし・・・じゃぁあの店・・・」

と二人はそのままデートの続きを楽しんだ。どこまでもどこまでも続くであろう二人の時間を重ねていく。戻る家は同じ場所。


『ずっと一緒にいようね』

メッセージと共に開いたチョコレートの箱がテーブルに置かれている。帰宅後、茜が稜に渡したバレンタインのそのチョコも、二人で一緒に食べた。


二月最後の日曜に大分へ向かった稜。遠征の大会で荒木は上位に入り、翌日温泉を満喫する。大会の様子に加え温泉のプライベートな様子もSNSで発信し、閲覧数がいつもより伸びた。充実した二日間を終えて、稜が帰宅する。

「ただいま~」

「お帰り!」

と茜が出迎えてくれる。

「はい、お土産!」

と鞄からキャラクターのぬいぐるみキーホルダーを出した。

「ん?これくまモンでしょ?」

「え?ダメ?」

「いやいや、稜くん大分行ってたのに、これ熊本土産でしょ?」ケラケラと茜は笑ってくまモンを眺める。

「あ、空港で可愛いと思って買ったけど、そっか」

「そっかって気付くの遅い~ま、可愛いのは間違いないからね」

ふふふと笑いながらくまモンを連れて茜はリビングに戻った。その後を稜が「温泉饅頭もあるし、ね、大分の他のお土産もあるからね」と鞄を持って追いかける。

「今度温泉私も連れてってね」

茜がそう振り向き稜に抱き着き見上げる。

「うん、今度一緒に行こう」

三日月の目でクシャっと稜は笑った。


お読みいただきありがとうございました。

前髪の大切さ伝わりましたでしょうか(笑)

楽しそうな二人がこの先も続くように、次回もお楽しみに。

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