勝ちはしないただの引き分け
新しく生み出された『炎霧刃者』と呼ばれ人の形をした変異体が零火に襲いかかり、瞬時に氷漬けにされている間に黒が白を連れて零火の後ろに隠れる。
その間にも『間迷燃虎』の爪が振り下ろされた場所とは無縁の場所を傷つけ、『血炎妖精』の血液に触れた場所が燃え出す。
今は敵は『間迷燃虎』ワールドのみだが、
「『零漢小砲』」
ワールド画声を出すたびに新しい変異体が作り出される。
今回のは足のない漢が拳銃を持って現れた。
そして「『敵声燃霊』」とワールドが言って、先ほど出てきた漢が「バン」と言って引き金を絞る。
弾丸は零火の腕を骨まで抉り、部屋にいる神楽以外の全員の体が燃え出して、弾丸を凍らされてその速度をなくすと同時に周囲の気温を一気に下げて鎮火する。
そしてその能力の仕組みもわかっていない。
ワールドの能力の下位互換を持っている縁連も今は神楽を守るので手一杯で、ワールドの能力、実際にある漢字を組み合わせてその意味を具現化する能力を伝えることができない。
今ワールドは、実際にある言葉「曖昧模糊」「遅延要請」「縁切り神社」「霊感商法」「適正年齢」などを使って遊んでいるようなものなのだ。
それでも闘う空間の狭さが悪いように作用して、攻め切ることができない。
零火の氷は、小さい物であれば狭い範囲だけ気温を下げて作ることができるが大きいものや刀などの形に仕上げると部屋中の温度がマイナスにいく。
寒い環境では筋肉も縮こまり本来の力を出せないと判断して本気を出せていないし、投擲をしようにも味方に当たりそうでできない。
陸も似たような事情であり、地球の重力の2倍の玉でも出した時点で全員の邪魔になるから能力を使うことができない。
黒は白を守るために力を使い、白にはそもそも対抗できるだけの力がない。
爆永も爆発は部屋のほぼ全員を巻き込むし、樹は木は出せても誰の邪魔にならないように細くするしかなく、大した戦力にならない。フェンのちからは見た物全てに作用するし、假偽の身体能力は普通と変わらないため近付くまでに殺される。狐火家の妹たちは白が零火の後ろに来た時点で問答無用に異空間に白とユイカごと入れられて戦いたくとも戦えない。
現在ワールドとまともに闘うことができているのは異形狩りの面々と八首大蛇だけでである。
水木の投げる玉は近づいてくる『血炎妖精』をその血が誰にもかからない位置で打ち抜き、『間迷燃虎』の攻撃で追った傷は、海の『巴鬼』で身体能力を底上げされた空が自分の体をナイフで傷つけ血を流し、傷ついた部位に血をかける。
自分の体を傷つけるのは痛いからなるべくやりたくないと空は思っていたが、こうなったら仕方ないと覚悟を決めていた。
この中で動かないのは神楽を守っている縁連とリオル、そして獅子の3人だ。
リオルは全員の奮闘を見てパチパチと拍手して「頑張れ〜」と言っていて、獅子は腰の刀の柄を握っている。
『零漢小砲』がまた「パン」と言って引き金を引くと『敵声燃霊』の効果で声の届く範囲にいるすべての人が燃え出し、また零火が周囲の空気を冷して消化する。
火傷した体は空が治し、その間にも攻撃を繰り返すが、一向に決定打にはならない。
何度か己龍や大蛇が『間迷燃虎』に刃を突き立てたが、まるで当たっていないかのように血も出ないし、痛みに虎が呻くこともない。
「あはは、残念だったわね。私の燃虎ちゃんは距離感が曖昧なの、間が迷子になってるの。だからあなたたちの攻撃はきかないの、残念だったわね」
自分から『間迷燃虎』の能力をあかし、後ろにいるリオルを見て
「あなたは動いてないけど、一応動かないでねってお願いしておくわ」
と言って。
「大丈夫大丈夫僕のことは気にしないでぇ、邪魔はしないからぁ」
リオルが応えて顔の横でピースを作る。
その言葉に少し安心したのか、ワールドが息をついて、その隙に距離を縮めた己龍が袈裟斬りにワールドの体を切り裂き、大蛇が頭から切り裂くが、その傷は切れた瞬間に焼き焦げ切られた部分が繋がる。
最初の袈裟斬りで死んでいたし、それで死んでなくとも脳も内臓も焼き切られているのだから生きているはずもない。
実際にその焼き焦がしつなげる剣で体を袈裟斬りに斬られ一度死んだことのある零火はそう判断して、
「いやーなかなかに効くねぇ」とワールドが言いながら別の肉体を持って姿を現したのを見てため息をつく。
「お前の目的はなんだ?」
「娘に会いに来たらちょっとひどいこと言われたからお仕置きしたいの」
「それなら2人でやってくれ、俺は関わらない」
非常なことを言った自覚はありつつも、このままではジリ貧、少しずつ削られて死ぬ。
それなら1人を差し出して逃げる方が被害が少なくていいのではないか。
零火のその提案に、ワールドは「それやっちゃっていいの?ならふたりで話そーか」と笑いながら縁連に言って、ゆっくりと縁連に近づいていく。それを己龍が止めようと動き、零火に止められ、ワールドの掌が縁連の方に触れそうになった瞬間。
「あえ?」
両腕両足が付け根から切り裂かれて、切り裂かれた部位がさらに細かく細切りにされ、頭部は下顎と上顎で切り裂かれる。
そして縁連が作っていた防御用の結界も切り裂かれる。
「えっと、何があったの?」
今までどんな惨状にも声を上げなかった神楽が疑問を声に出す。
「もぉさぁ」
神楽の疑問に答えたのはゆっくりと怒気をはらんだ声で、ワールドを睨みながら刹那が指を差し、
「いい加減に私の劫ちゃんに傷を負わせるのはやめてもらえるかなぁ?」
刹那がそう言って、そのセリフにリオルが首を傾げて「そういやぁなんで2人はダメージを食らってたの?『不可侵の盾』があったのに、しかも劫ちゃんがダメージを受けてすぐにやり返さないなんて、刹那ちゃん丸くなった?」と訊き、「なんか使えなくなってたんだよ」と睨まれる。
「ああ、それは私がいたからだね、私が入って数分間は強い能力2つから3つ使えなくなる『分陣制限』のせいだね、まぁこんなに広いところに出ちゃったら意味ないんだけどさ、だから気にしないでね」
言っている間に首が回転して、血を畳に撒き散らして落ちる。
獅子の手には剥き身の刀が握られており、血はついていないものの大蛇には獅子がやったことだと理解できる。
能力によって『巴鬼』以上に底上げされた速度を何度も見ているから、それを間違えることはない。
そして、そこからは現れるたびに若い女性の生首と死体が積み重なっていくだけで、
「ちょっ「とは「なしき「きなさ「い「よ!」
途切れ途切れの言葉を繋ぎ、獅子が手を止めて「なんだ」と空気が震えていると錯覚するほどの威圧感をワールドに向け問う。
「あのさぁ、私もういなくなるのよ?なのにどうして邪魔をするのかしら?」
「お前の存在が気に食わないから」
「全面的に同意だ」
零火がそう言って手足を氷で拘束する。
ワールドが驚いた顔をし、縁連は呆れたような顔をして「ほんとあんたってすぐに意見変えるよね、今回は誰になんて言われたの?」
「御霊さんに「あいつは逃しちゃダメ」って」
それを聞いた縁連は「はぁ?」と声を出し、零火の後ろにいるなぜかこの会議に参加していた精神年齢の幼そうな女が手を振っているのを見て、とうとうおかしくなったかと変な方に納得する。
先程零火の術で異空間に入れられていたことには気づかない。
そして気づく暇もなく、『場転送』となんの捻りもないそのままの言葉を言った時には、あたり一面瓦礫しかない場所に部屋にいた全員が移動していた。
その場所は恐怖と鋭霊割鋭が戦っていた場所だ。
そして、広い空間になったなら。
全員が距離を取り、己龍と大蛇だけが近くに残り、『間迷燃虎』を木が囲み、『血炎妖精』は爆殺される。地球の5倍の重力がワールドを中心に発生し、内臓も血管も全て潰れ、口から噴水のように血を噴き出す。
そのまま血を撒き散らしながら自分の体内の重力を消されたワールドの体が、地球の重力に引かれて、
倒れなかった。
まるで誰かに支えられているかのように倒れる途中で止まり、だらんと垂れた腕を持ち上げて、途中で力がなくなったように腕が落ちる。
それを見て、ようやっとワールドが死んだのかと縁連を除いて思い、
「はぁ、できれば死にたくないんだけどなぁ」
と暗い声色で言って、その発言に一瞬だけ場の空気が重苦しいものとなり、
突如として現れた闇が太陽光を防ぎ辺りを暗くし、それを不思議がる暇もなく、重くなった重力に全員が膝をつく。
それは気づくことはないが己龍と黒がついさっき味わった攻撃と似て非なるもので、重くなった空気を持ち上げて獅子が立ち上がり、走り一閃。
その剣筋は眼で捉えることが出来ず、膝をついている人たちが見たのは獅子が剣を振り切った姿だった。
その振り切った刀は確かに首を刎ね、
「『刀敵』」とワールドの言葉に従い獅子の手から刀は離れ宙に浮き、獅子の肌に傷をつける。
「いやいや本当に、君たちはとても強いよ、重苦しい空気はそこにいるだけで『息苦しいよね』」
同情するような、憐れむような、そんな声が聞こえた瞬間から、全速力で走り続けた時のように息苦しくなる。
重くのしかかる満足に呼吸することすらできない中で、獅子の傷は増え、零火の氷がワールドの体を氷漬けにする。
そして息苦しさからも重苦しさからも解放され、「おい、あいつの能力で知ってることがあるなら言え」と零火が縁連に訊く。
「あれは私の上位種よ、わたしの能力に出来ないことが全てできる。今は手加減しているの、本気を出せばすぐに全員死ぬ」
言っている間に新たな体になったワールドが現れて言う。
「いやいや、本当に、君たちはなかなかに手強いね。実に『面毒犀』なぁ、『体変鯛』」
言うと1匹の犀と鯛が現れる。
体の表面からは謎の液体が流れている、もう一体の鯛はその体から音を立てて自身の肉体を変形させ両腕が刀、頭部が銃、足が戦車のキャタピラに変化する。
「『火器氷』」
それに対抗するように縁連が言い、マシンガン、ライフル、ピストル、などが氷ででき自律して動く不思議生物が出来上がっていた。
「ふふふ、なかなか良いのを作るじゃない、是非とも手合わせ願うわ、とりあえず」
「妖怪と変異体以外の『死合わせ』を願うわ」
その一言はなんの効果も及さなかった。
「なんで死んでないのかなぁ?」
声は零火の後ろからして、ワールドがユイカの首を締め上げる。
その手だけを残して体が消滅する。
零火はユイカごと凍らせてしまうために攻撃できず、魂魄はそもそも封印を解かれていないので人への攻撃自体ができない、異形狩りで残っている狛犬には1日取り消し飛ばすだけの威力のある攻撃はできず、獅子の刀は消し去るほどの力はなく、大蛇の刀は焼き切るだけ、黒も燃やすことはできるが消すことはできないし、縁連にもできないし、ただの人の神楽とユイカには尚更無理だ。
だから、横から飛来したものを見ることが出来た全員が飛んできた方向を見て、そこに服がボロボロになった8人が立っているのを見て、その8人のうちの1人が大剣のような銃を持ち、双眼鏡のようなゴーグルをつけて、憎悪に満ち溢れた顔でワールドがいた場所を睨み、視線を零火たちに移し、引き金を引く。
零火の作り出した氷の壁を粉々に砕き、零火の腹部を抉り内臓を露出させる。
そこが修復する前に零火の前にユイカが守るように両腕を広げて立つ。
ユイカには新たな敵の姿は見えないはずだが、敵の表情が疑問に変わる。
その8人がこちらに近づいてきて、肉眼でも見える距離に来た時「姉さん!そいつらは姉さんを傷つけようとした奴の仲間なんじゃないの⁈離れて!」銃を零火に向けたままユイカを姉さんと呼び言った。
「違うよ皇也!この人たちは私を助けてくれた人たちなの!そんなひとたちを悪者扱いするなんて酷い!」
ユイカに酷いと言われた皇也はこの世の終わりのような顔をして弁解を開始する。
その間に零火たちは警戒の目を向けてくる残りの7人に目を向けてその顔を見る。
全員に見覚えがあった。
ぼたゆきさんからもらった磊落高校3年4組の生徒にいたはずだ。
麗華の考えは正しく、これで異世界に行った34人のうち、生きて三日間を過ごせた10人のうち8人が、元の世界に帰ってきた。
その様子を遠くから眺めるのは、また別の女性の体を乗っ取ったワールドだった。
「うんうん、無事に会えたみたいだし、なんか楽しそうだね。ねぇ、そう思わない?」
「うんうん思う思う、楽しそうなのって良いよねぇ。それとありがとう僕のお願い事を聞いてくれて」
自分の言葉への同意を求めたワールドに、リオルは首を縦に振って同意を示す。
「じゃあ、あなたのお願い事を聞いてあげたんだから、私のお願い事を聞いてもらおうかしら」
「うん良いよー、10個までだったらいくらでも〜」
「そんなにはいらないわね」
苦笑しながらワールドが言って、人差し指を立て、
「どうして私の言葉であの人の子たちは死ななかったのかしら?」
「『不可侵の盾』って言う反則級の防御技があったから」
「あの子たちは大蛇君に勝てるのかしら?」
「ケラケラ〜、無理に決まってるでしょ。君程度にすら勝てない弱さだもん」
「すぅ・・・・・・ふぅ。
最後、私はどうして神のバクになれないのかしら」
「え〜〜〜それ聞いちゃうぅ?」
「答えて」
「君がザコだからぁ」
「・・・・・・そぉ」
空気がピリつく。
その世界全てが自分に牙を剥いているような空気の中、まともな人間であれば、目の前の慈母のように優しい笑みを浮かべているワールドに救いを求めるのだろうが、そんなまともな精神性は生まれて約10万年立った頃に辛い思い出と共にリオルは捨てていた。
だから、
「なーんでそんなに怒ってるの〜?君が答えてって言ったんじゃん、僕悪くな〜い。
僕が悪いって言うんなら、それは逆恨みだぜ」
キザなポーズで完璧なウインクをしてワールドを指差し、
「『死ね』」
ワールドの口から絶死の言葉をリオルは引き出してしまう。
その言葉を聞いた鳥が、たまたま近くにいた猫が、墜落し、バランスを崩し、地面に落ちる。
『これが君が弱い理由だよ』
リオルが『念話』でワールドに語りかける。
『君の能力はなぜか、聴力を持つ生物には聞こえなければ作用しない。聴力を持たない分子とか原子とかには問答無用で作り替えることができるのにね。まぁ、こうゆう矛盾は強い能力にはありがちなのだよ、『極端』とか、『優先』とか、そう言うのがまさにそれだよね』
ワールドが何度か喋り、通じなくて苦々しい顔をしているのが見えて、リオルがケラケラと笑う。
『それに弱点もある。大抵の神のバクは弱点をつかれても一回じゃ死にやしない、なのに君は一回で死んでしまう。だから君はこの地球に自分の心臓と同じ反応をする場所をいくつか作って、自分の複製体の娘の目を欺いているんだろ?でも隠し場所が太陽の中心点とか、子供が真っ先に考えつく隠れ場所に隠してるってのがなおダメだ。やるなら別世界にでも隠せっての、本当、君には失望しっぱなしだぜ、弱くて使えない、生きてる理由を果たせない。君が生まれた理由はこの世界を混沌に導くことだろう?なのにこの世界のことを好きになっちゃって、人間全員殺して素晴らしい世界にしちゃお〜とか、馬鹿馬鹿しいにも程があるぜ。そんなことをしても君の願いは叶えられないし、君の気持ちに応えてくれるわけがないんだぜ?そんなの、辛いだろ。苦しくて、つらくて、悲しくて、死にたくなるんだよ』
語るリオルの瞳から、ワールドは目を離すことができない。
その暗い瞳に吸い込まれないように後ろに後退りして、その行為に無数の手に後ろから指を差され、馬鹿にするような笑い声がして、体の内側で無数の虫が這い回っているような気持ち悪い感覚がするが、全身が石になったように動かなくなり、身をよじることも声を出すこともできなくなる。
『ほら、僕の知ってる神のバクは全員このくらい振り払ったぜ?・・・・・・いや、どうだったかな?全員にやったっけか?もう昔のことすぎて覚えてないや』
『ま、とりあえず。
君は弱すぎるんだよ』
『でもまぁ、そんな君に餞別だ僕の残り5の残機の1つを捧げよう。感謝しなくて良いよ、君がこれで僕に勝てるのなら感謝してほしいけどね。でも君は勝たない。僕も勝たない。
勝ちはしない、ただの引き分けだ』
「『共間死』」
太陽の中、ピー玉ほどのサイズでキラキラと輝きを放っていた球体が、突如として砕ける。
それと同時に、ワールドの体とリオルの体が砕け、散る。
それから数秒後、逆再生でもしたように砕けた体がリオルという人間を形作ってゆき、
「あとこれで、よっつ。あともう少しだ」
歪な笑みを浮かべる。
妖異編超 完!
次回からは『34人の3日間だけの異世界生活』をお送りいたします。
また見てくださいねぇ、じゃんけんポンッッッッ!




