妖編1話 10月21日『西から日が昇る』
「なぁ、あと11ヶ月4日でまた俺の妹たちの誕生日が来るんだが、何がいいと思う?」
真剣な表情でシスコンを晒している長身で、世間一般では1000人中999人はカッコイイと思う顔立ちをしている男、狐火零火は隣を歩いている女犬神白に訊く。
「なんでお前の妹の誕生日プレゼントをあたし様が決めなきゃなんないんだ。そんなことより今はあたし様と遊んでるんだから、あたし様が楽しめることを考えろぉ」
声変わり前の少年のような声で言われた、白からの答えは零火の予想通りで、服の袖を掴まれて揺さぶられるのも予想通りだった。
こう言う子供っぽいところが、ヤンチャな頃の造火に似てて可愛いんだよな。
自分より年下、又は同い年でも精神年齢の幼い者を誰でも、妹のように捉えてしまう悪癖を持つ零火は、幼馴染の白の頭を撫でる。
自分の妹がほぼ全員13歳になる頃には嫌がっていた行動を、同い年の女にやる。
白は抵抗しないし、むしろ嬉しそうにしているから、可愛いと思ったら零火は毎回してしまうのだ。
白の頭を撫でるのをやめて「今選ぶのを手伝ってくれたら帰りにアイス奢ってやるよ」と子供にするような提案をし、白が「む、ならば手伝ってやる。あたし様に感謝するだぞ」受け入れ、あと一年は先の妹たちの誕生日プレゼントを選び始めた。
二人は手を繋いで歩いており、零火が白が食べたいと言ったもの、欲しいと言ったものをほぼ全て買って与えているため、付き合っている、もしくは金ヅルだと思われているだろうがそんなことはどちらともなく、零火が妹に砂糖をそのまま食べた時ほどに甘く、白が子供のように零火に甘えているだけだ。
二人が1番上の妹の扇火の一つ目のプレゼントを選び終わり、カフェに入り昼食をとり、白がカフェのショートケーキ、パンケーキ、モンブラン、を食べ終わったところで、カフェに来客があった。
「おっ、いたいた〜。レーカ、俺様ちゃんが来たぜ」
「いらん、帰れ」
零火は入り口にいる鬼灯魂魄を見ることなく冷たくあしらう。
零火よりも少し背の高い魂魄は、その冷たさに慣れているので「相変わらずだねぇ」と肩をすくめてから零火の隣の席に座って、
「今ここで俺様ちゃんがレーカを殺せば、俺様ちゃんはお前から受けた呪いが解けて晴れて自由の身。まず準備運動としてここにいる人間とか妖怪とか殺そうと思ってんだけど」
零火、殺していい?
誰に憚ることなく、劇のセリフを読むように、楽しそうに紅色の瞳を輝かせて言う。
この言葉が、この魂魄という男の性質をとてもよく表していることを知っているのは零火と白のみだ。
零火は魂魄が7歳の時、実の姉御魂を殺すところを見ていたし、白も伝え聴いている。
零火はふぅとため息をついてから、魂魄を困った弟を見るような目で見て、
「次、そんなことを言ったら、氷漬けにするぞ」
と、最終宣告のような威圧感を漂わせながら言う。
「なんなら今すぐにでも氷漬けにされそうな気がすんなぁ、んな怒んなって、[鬼]の出来損ないの俺がお前に勝てるわきゃねぇだろうが」
「零火、寒いぞ、そんなに怒るな」
白に珍しく大人っぽい言い方をされて、無意識に下げていた周囲の温度を上げる。
よく聞くと、周りからは寒くない?と訊く声が多く出ており、もう少し『これ』を制御できるようにしなくちゃなと、零火は毎度結局守れていない決意を新たにし、
「で、今日はなんのようだ、もしかして見つかったのか?」
魂魄に身を乗り出して訊く。
「いやー見つかってねぇよ、俺様ちゃんはあんな馬鹿げた情報収集力はねぇよ。でも、埼玉らへんで似たようなのを見たってやつぁいたぜ?」
魂魄が零火から頼まれていたことの報告をし終えた時にウエイトレスが来て、3人から注文を取る(零火はブラックコーヒー、魂魄はコーラ、白はチョコレートケーキとココア)。
零火が初恋の人を殺した魂魄に頼んでいるのは、人探しだ。
黒羽ムイ。
それが探し人の名前だ。
特徴は長いストレートの黒髪で、白い手袋を常につけていると言うことだけ、それも8ヶ月以上前のことなのでもう手袋なんてしていないかもしれない。
ただ、そこは2ヶ月近く一緒に暮らしていた零火が似顔絵を描いて、それをもとに情報を集めている。
黒羽ムイが人生で初めてできた安全基地である零火の元から去ったのは、バレンタインデーの時に告白してフラれたからだ。
零火は純粋に黒羽ムイのことが心配で探しているのだ。
魂魄に頼んでいるのは、零火が月に一度休みがあるかどうかと言うほど忙しいのに対して、魂魄は毎日が日曜日だからである。
「それで、埼玉のどこらへんだ?」
「わりかし近いところ、地名は見てねぇから分からん。だけどよ、顔が似てるってだけで、だいぶ違ったらしいぜ?」
「違うって言うのは?」
訊いた時にウエイトレスがココアとチョコレートケーキ、コーラ、ブラックコーヒーを持ってきた。
魂魄がコーラにストローを入れて、少し飲んだあと、
「なーんか、髪は黒じゃなくて白で、遠目から見ても目立つくらい全身白色だったらしい。レーカが言ってたみたいな色んな色を着てるなんてこともねぇし、なんなら目の黒目のところも白く見えたんだと。それに教えてくれたおばちゃんはそいつの髪の白さを雪と同じくらいって言ってたし、だーいぶイメチェンしてるみたいだな」
零火はその報告を聞き、想像の中の黒羽ムイの姿を更新する。
髪は雪のような白、そして黒目も服も白。
「アリだな」
黒羽ムイは零火よりも年下で、当然シスコン対象なので、たとえ外を裸で走っていようが零火は肯定するので(ただし、人の目につかないようにと言う注意はする)、零火の言葉はたいして当てにならない。
そして、想像の黒羽ムイに色んな服を着せていた零火の意識を現実に戻したのは「うわぁ!」と叫ぶ白の声だった。
魂魄は今零火がかけた呪いにより零火以外の生物へ害を与えることが出来ないので、きっとココアをこぼしたのだろう。そう思って見ると、案の定その通りで、ただし、防水効果のないスマホにぶちまけていることは予想していなかった。
そしてそれは零火と白の3つ上の兄黒がいつでも連絡が取れるようにと買って与えたスマホである。
白はそのスマホにかかり、机にぶちまけられたココアを啜ろうとして零火に止められて、魂魄がその間にウエイトレスからもらった布巾で机を拭き、スマホの動作確認をして、完全に故障していることを確認した。
「あ、あたし様は悪くない!えと、えと、えーと、スマホが!スマホが勝手に動いたんだ!ほ、本当だぞ」
「わかったわかった、でも壊れたんだから新しいのを買わなきゃいけないな、よし、今から買いに行こう」
「いやマジで、レーカ、お前甘すぎんだろ、この間、9人の妹全員に10個ずつ誕プレ送ったばっかだろ」
「金ならいくらでもあるからな」
「へーへー、さすが全妖怪を束ねる[妖魔王]様ですね」
その呼び方はやめてくれ、そう言って立ち上がり、伝票を持ってレジへ向かう。
総額7,800円(税抜)だった。
外に出て、3人は電気屋へ向かって歩き出した。
その途中で零火に電話がかかってきた。
電話の相手は不死鳥鳳凰だった。
この高校の頃の友達からの電話に出たのは、白が激しく抵抗したため(「今でなくてもいいだろぉ!今はあたし様と遊んでるんだー!」)10分後になった。
「もしもし、すまん、遅くなった。それで、どうした鳳凰?」
鳳凰は同い年であっても白のように精神年齢が低くないので、妹扱いはされていない。
「おせぇ、どうせ妹と話し込んでたか、白をあやしてたんだろ。このブラコンが。俺の用事はな、ちょっち最近やべ〜異形が出て来やがったから、それの報告だ」
異形。
そう呼ばれる化物は、一週間に一度程度の頻度で現れ、異形狩りと呼ばれている非公式の部隊がその存在を隠しながら討伐している存在だ。
その存在が非公式のままでいられるのは、妖怪と連携を組んで、目撃者の記憶を消し、崩壊した建物をほぼ完璧に修復しているからだ。
零火はこの異形狩りの組織に属してはいないが、異形狩りに属している妖怪はいるので、異形狩りの四天王の一人である鳳凰がこう言うように狩るのが大変な異形が出る時に連絡を入れてくる。
ただ、基本的に鳳凰がやべーと言うことはなく。雑魚だけど、一応報告しておくと言うのが常であり、零火の神経が鋭くなる。
「それは磊落高校の3年4組の集団失踪と何か関わりがあるのか?」
「いんにゃ、ねぇよ、私が知る限りではな」
鳳凰の一人称はコロコロと俺と私の間で切り替わる。それはもう慣れたものだったので、零火は気にせずに話を続ける。
「それじゃあ、どう言うやつなんだ?」
「はじめての人型の異形だ。姿もマトモで、両手両足は2本ずつで、刃渡り2メートル以上の大剣を振り回す首から上がない。頭のないやつだ」
それは、鳳凰が言うほど強い存在なのかと、零火は不思議に思ってしまう。
異形とは普通姿が醜ければ醜いほど強くなる存在なのだ。だから、人の姿で頭がないだけのやつは強いのだろうか?
それは零火が訊くまでもなく鳳凰が答えた。
「そいつはマジでヤベェ、物を切らずに持ってる獲物よりも長い距離の命だけを殺しやがる。どこからくるかもわからねぇし、距離がどのくらいかもわからねぇから正直どう対応したらいいのかわからねぇんだ」
そう言う鳳凰のアルト声には、焦りが少し滲んでいて、それは付き合いが長いからわかるもので、付き合いの浅いものには楽しんでいるようにしか聞こえない。
「わかった、お前がそこまで言うなら手伝ってやる。それで、時間はいつ・・・・・・・・・・・・だ?」
最後の言葉は裏返った。
「あー、4日後の夜12時。どした?なんかあったか」
鳳凰が日時を伝え、それから零火の裏返った声に対して質問する。
零火の左隣では、「すごい、飛んでるぅ」と白が銀色の目を輝かせており、右隣では魂魄が「やべーなありゃあ」と苦笑いを浮かべている。
「なぁ」
零火が口を開く。
「おう、なんだ?」
「建物が急に真四角の正方形で切り取られて空に浮かぶ、なんてこと、ありえないよな?」
「あ?世間一般的には俺たち妖怪だってありえない存在だろうが」
ああ、確かにそうだ。なら、今目の前で起こっていることも、別にありえないことではないのだろう。
周囲のビルが、先程鳳凰に行ったように正方形で切り取られて、空に浮かんで、空中に止まり続けて、文字になっているだなんて。
目の前で人が落ちてきて、赤い花を咲かせる。
[日本よ、私のねがいを叶えろ]
そう空中に書かれたのもありえなくはないのだろう。




