目的等
敵わないと、数分で思い知らされた。
あの冷気の中に居続けたらそれだけで凍死してしまう。
しかもなるべく遠くから切り取って、思いっきり投げたのに止められてしまった。
あの質量の物体があの速度で飛んできているのに止められるなんて、人にその力をぶつけたら死んでしまう。
本当に、僕なんて足元にも及ばない、それどころか、同じ土俵に立つことなんてできないくらいだ。
大きさで言えば、粒子と地球くらい差がある。
「本当に憤怒さんが言ってた通りだったなぁ」
テメェじゃ勝てねぇに決まってんだろダボ‼︎
お前ごときが何十人いようが勝てるわけねぇんだよグズが‼︎
罵声で言われたそれを信じるための側面もあったこの行動は、事実だったことが証明された。
それにしても、本当に強かった。
あんな力が有ればよかったのに。
とりあえず、憤怒さんに言われた通り八首大蛇って人を蘇らせよう。素材は集めるのは大変だけど、なんとかすればいいだけだろう。
「さぁてと、頑張るぞーおー」
声からは覇気を感じず、自分の力のなさを嘆くような、そんな気配があった。
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零火さん、零火さん、零火さん、零火さん、零火さん、零火さん、零火さん、零火さん、零火さん。
あの人に会って、世界に絶望していた私は世界に希望を持てた。
大袈裟かもしれないけど、私にとってはそのぐらいの意味がある出会いだった。
私を自分の人形みたいに扱って、なんでもいうことを聞かせようとしてくるあの親たちから逃げて、行くところがなくなった時に助けてくれた。
それだけですぐに好きになってしまった私はとてもちょろい。
零火さんに振られて、世界に希望があるままに色を失った。
そこで1人の男性に話しかけられて、零火さんと同じくらい強くなればきっと好きになってもらえるって教えられた。
その通りだと思った。
きっとそうすれば私は零火さんと付き合えるって、そう納得した。
そこからはなりふり構わなかった。
その男性に教えてもらった施設に行って、異形という化け物と同化させられて、その瞬間に、私は暴走したらしい。
同化した異形との相性が悪かったのではない。
相性が良すぎたのだ。
その結果、その施設にいた23人中22人を殺し、
最後の1人、施設の所長を自分の確固たる意志で殺した。
手に入れた能力は19。
自分のも含めて20個、私は能力を持っており、いざ零火さんに会いに行こうとした時、またあの男性に会い。
殺されかけた。
「せめてボクと1分戦って致命傷を負わないくらいの力を持たないと、零火くんには勝てないよ」
そう言われた。
所長相手にかすり傷しか負わずに勝って、調子に乗っていた私を戒める結果となった。
なんと強いのだろうと思った。
零火さんと自分の実力差に思いを馳せて、泣きたくなった。
そして目をつけたのは、虹という組織。
そこに所属している自分が誰かを殺すとも、殺されるとも思っていない7人なら、楽に殺せて7つも能力を取れると思ったから。
殺すことに抵抗はない。
それで零火さんに好きになってもらえるなら。
私は遊園地の中に踏み込んだ。
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歩く場所は天下の公道。
どこにでもあるような街の一般的な歩道の内側。
数時間歩くだけで手を繋ぐオスメスが何組か、メスに話しかけるオスも何匹か、その逆も何匹か見かけた。
それらの行動は、結局のところ人間がただ自然に逆らわず、己れらの子孫を残そうという意志しか感じない。
そんな野生をしっかりと持った人間が、どうしてここまで堕落したのか、この地球の母、ワールドと名乗っている女はその答えをすぐに出す。
もともと答えの知っている質問をされた時、すぐに答えるようなきやすさで、
感情を持っているから。
それはワールドの中では正しい答えで、人が夜に行動できないことを不快に思ったから夜に輝く光を作った。
それが火であるのであればまだいい、雨を降らせて消せばいいだけなのだから。
そして、人が恥なんて感情を持っているから、他の生物にはあり得ない行動をとる。
なぜ裸体を恥じる。なぜ食料を道具を使って食べる。なぜ弱いものが弱いままで強者を打倒しうる。なぜ生殖行動を他の生物に隠して行う。
それらは全て、生物として逸脱している。
生物は常に裸体であり、食料は焼くこともなく両前足を使い固定して貪り食う。弱きものは強者に従い、強者よりも強者になった時に打倒し、生殖は繁殖期になればそこかしこで行う。
その自然の摂理を逸脱している人間どもは、地球にとって邪魔である。
だから、滅ぼす。
恐竜などを滅ぼした天災を持ってではなく、自身の気持ちで人類を滅ぼす。それの邪魔をするのであれば、人間に肩入れする娘などいらない。
気まぐれで、こねて作った娘なのだから、気まぐれで壊すのもいいだろう。
それこそ、人間の頭では納得できない理屈で自分の愛している娘を殺すことを決めた人外は、歩き続ける。
歩いた場所には、さまざまな花の種が埋められ、数日後には立派に咲くことだろう。
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とある街のそこそこ大きいボウリング場の中に、9人の人がいる。
ボウリング場は9人の貸切状態になっていた。
全10レーンある中で1人1レーン使い、それぞれ自分のタイミングでボールを転がしている。
2人3人はボールを投げることなくただ椅子に座って他の人を見ていたり、日頃の疲れを取るために寝転んでいたり、その寝ている人の腕の中に入り込んで眠るわけでもなく、さして何をするでもなく横になっていたり、スマホを使っていろんな有名人のの個人情報を見て爪を噛み砕いていたりしている。
ボウリングをしているものたちの中でも、上手い者、そこそこできる者、下手な者に分かれており、上手い者のうち、狂滎凶介と呼ばれているものは凄まじく、さまざまな体勢で投げ(座りながら、後ろを向いたままなど)、その全てでストライクをとっている。
「いやー楽しいねぇ、このボウリングってのは」
「ならば嬉しいですわぁ、私がこうして見つけたのも浮かばれるというもの、とても喜ばしいことですわぁ」
凶介の言葉に、隣のレーンにいた体の露出の激しさと反するような清楚さを醸し出し、その魔性、暴力的なまでの美しさで異性同性関係なく魅了する女は、擦り寄り腕にしがみつき、甘えるような猫なで声で応える。
「テメェ!狂滎様に触ってんじゃねぇ!狂滎様に触れていい存在なんていねぇんだよッ‼︎」
女の行動に、常に気だるげに見える垂れ目を吊り上げた男は、怒り、憤り、憤慨し、己の憤怒を躊躇うことなく爆発させ、持っていた球を粉砕する。
その破片などを振り落とすことなく、握りしめた手を開くこともなく、足を踏み鳴らして女に近より、その胸ぐらを掴もうとして、腕を掴まれる。
掴んだ男は、際限のない欲望を映す漆黒の瞳を眼鏡の奥で輝かせ、「その女は俺のもんだぜ?」とニタニタとした笑みを顔に貼り付けて言う。
「私はあなたのものにはならないわよ」
「テメェ、狂滎様のものを盗る気か?」
メガネをかけた男に、2人はそれぞれ嫌悪感を隠すことなく言葉にする。
その言葉がきっかけか、その場に一触即発の空気が生まれる。
「ふふっ、3人とも仲良くするんだよ、ここで喧嘩して、このボクの命令を聞く前に死んでしまったりしたら君たちは未練タラタラで成仏できないだろう?だからこのボクは君たちをそばに置いているんだぜ?バカな喧嘩はだーめです」
ピリピリした空間に響いた声は、ひどく呑気なもので、その言い草は世界が自分を中心に回っていると本気で思っているような傲慢なものだった。
そして3人は目の色を変え、
「申し訳ありません、狂滎様」
女の色欲も、男の憤怒も、男の強欲も、
狂滎凶介の傲慢に、勝てないことを知っているため、膝を折る。
「うんうんそれでいいんだよ。君たちはこのボクに従っていれば、それで十分なのさ」
傲慢なことを言う青年は、とても普通な、どこにでもいて、誰の印象にも記憶にも残りそうもない男だった。
だが、その姿は、どこか王を思わせる。
当然といえば当然、彼は1000年以上前、鎌倉時代初期の頃から存在する悪王。
今代の妖魔王の四代前の妖魔王。
狂滎凶介なのだから。
男は、沢山の頭部のない人間の体でできた山の上に座りながら、自分の持ち駒である8人に聞こえるように、
「さぁそろそろ全生命体抹殺計画を進めるとしようか、まずは妖魔王と変異の王を殺しちゃおう!」
そう言って、ボウリングの球に見立てた頭部を投げ、スコアにまた一つストライクを刻み、言う。
「さっさと変異の王と今代の妖魔王を殺さなくちゃね」
まずは変異の王からダァ。
そして、王は指を差した。
足の引きちぎられた嫉妬に、お前が行けと。