第八話 白き悪魔の伝説
「ぐ、グレートウルフ⁉︎ レインさん、さっき冒険者登録したばかりですよね⁉︎」
レインとクロナが冒険者ギルドに戻り、先ほどレインが約束した通りシーナの元へと向かい依頼の完了の報告とゴブリンの素材や例のグレートウルフの買取をお願いするとシーナにかなり驚かれた。
他の冒険者や隣にクロナがいるにもかかわらず、シーナはレインの頭や体を触って必死に無事かどうかを調べている。
そのせいで、他の冒険者やクロナからの視線の温度がだんだん下がってきているが、レインは気にしないようにする。
「レイン、そこの女と知り合い?」
「おやレインさん、そちらの魔術師さんとお知り合いですか? まぁそんなことより、本当に無事でよかったです」
なぜかはわからないがクロナとシーナが笑っているのにも関わらずレインは震え上がってしまうほどの迫力を感じた。
ただ、それはレインから見た視線でしかなく他の冒険者からすれば、この冒険者ギルドの受付嬢で1番可愛いと噂されているシーナと、そのシーナに負けないくらい可愛いクロナを侍らせている新人ということで他の冒険者はかなり殺気立っている。
「し、シーナさんもクロナも一旦落ち着こう。シーナさん、今お時間ありますか? 事情を説明したいのと少し頼みたいことがあって……」
「頼みたいことですか? 別に構いませんよ? なんならデートとかも私が……」
「レイン、そんなやつに頼らなくても私がいる」
「ふ、2人とも落ち着いて! それよりシーナさん。個室はありますか? 話を聞かれるのはまずいので……」
「そうですね。では、行きましょうか」
シーナはレインが慌てているのを楽しそうに見ながらも、個室へと案内する。終始シーナはクロナのことを、クロナはシーナのことを意識していたがその理由をレインが理解することはなかったのであった。
「シーナさん。ありがとうございます」
「大丈夫ですよ。それと、私のことはシーナと呼び捨てで構いません。それに、敬語も必要ありません」
「ですが……」
「クロナさんだけずるいです。それにこの個室、本当は私の独断で使用することはできないんですよ。あぁ、レインさんのせいで私は……」
「わかったよ。シーナ、これでいい?」
「はい!」
「むぅ……」
レインがシーナのことを呼び捨てにすると、シーナはパッと嬉しそうに笑うが、反対にクロナがすごい速度で拗ねだした。
何か面白くないことがあったのかクロナはシーナに出会ってから、ずっと御機嫌斜めである。レインがなんとか機嫌を直してもらおうと必死になって色々頑張るが絶妙なタイミングでシーナからの妨害があり結局クロナはまた機嫌を悪くしてしまう。
「それより、レイン。なんで個室を借りたの?」
「2人にお願いがあってね。クロナにはさっき説明したんだけど僕はすごい田舎からやってきてこの世界のこととか常識とか全くわからないんだ。だから、教えてもらえると助かるなーって」
「そういえば、そんなこと言ってたね。別にいいよ」
「私も構いません」
クロナは街に戻ってくる最中のレインの言い訳を思い出したのか少し呆れたように返事をしたが、それでもレインのお願いを聞いてくれるようである。
シーナは何も聞かずに了承してくれたが、それが逆に不気味に感じてしまうレインであった。
「では、この世界の説明は私が担当しますね。この世界の名前はユグドラシルと言います。主に今は人族が住んでいる人界、魔族や魔王が住む魔界、精霊たちが住む幻界、そして神々が住む神界の四つの世界が存在します。この四つの世界を総称してユグドラシルと言います」
この世界もといユグドラシルの説明をシーナがしてくれるが初めからレインは大きく動揺してしまう。
まず、この世界の名前であるユグドラシルというものがGMOの時の世界の名前と違うのに驚き、さらに世界がレインたちのいる人界の他に三つもあることにさらにレインは驚いてしまう。
レインも魔王とかいるのか気になっていたので、この簡素でわかりやすいシーナの説明はすごくありがたいのだが、それでもまさか世界が四つもあるとは予想していなかった。
「現在、人界と魔界は休戦状態にありますがいつ戦争が再開されるかはわからない状態になっています。私の予想ではそろそろ勇者召喚が行われると思っていますがそれはまだのようですね。ちなみに、神界と幻界はあまり戦争などに興味がないので四つの世界が一気に戦争になることはないと思われます。」
「へぇ、魔界に魔王がいるってことは神界や幻界、そして僕たちのいるこの人界の王とかもいるのかな?」
「人界の王はいませんね。その代わり人界は国を作りそしてその国ごとに王がいます。神界は創造神が、そして幻界には幻王がいますね。この2人は正真正銘その世界のトップです」
シーナはそう言ってにっこり笑う。
シーナの言うことがあっているのはレインの隣に座っているクロナが頷いていることからも証明される。
最初は世界が四つあることに驚いてしまったレインであったが、よく考えたらGMOも新しいボスが生まれるたびに専用の異界が出現していたためあまり変わらないと言う結論に至った。
魔界とも、今は戦争していないと言うことはしばらくは人族のことだけを考えていればいいのでレインとしてもだいぶ負担が少なくて朗報であった。
なんでも、今人界と魔界が休戦の理由はお互い戦争のしすぎでかなり両方とも消費して今は戦争どころではないかららしい。
「へぇ、ちなみにこの世界って何年前ごろからあるの?」
「ユグドラシルが生まれたのは約8000年前からと言われていますね。その時に創造神と幻王が生まれユグドラシルが生まれたと言われます。ですが、その前……今から約1億年前にはとある伝説があったと言われています」
「ほう?」
シーナの話にレインは面白そうな話だなと言った様子で反応する。
1億年前……もし、あの看板の言っていることが正しいのなら有益な情報が得ることができるかもしれないとレインはシーナの言葉を一言一句聞き逃さないように耳を済ました。
「本当かどうかはしりませんよ? ですが、1億年前……私たちは黄金時代と言っていますがその時代に1人の神をも超える<絶対王者>が存在したと言われています。文献には白き悪魔と載っていたそうです。おかしいですね。その方は人族だったと言われているのに」
「そうですね」
シーナの話を聞いてレインは思わず苦笑いになってしまう。
まさか1億年たってもレインのことが伝説として残っているなんて思ってもいなかったのでレインも少し恥ずかしくなってしまう。
今、シーナたちにそれは自分だといったら面白いだろうが、そんなことを言っても信じてもらえないだろうからレインは黙っておくことにした。
「ちなみに、現在この世界にはその白き悪魔様の配下である12神聖守護王とその統括、あとは3叡智と呼ばれる方がどこかで白き悪魔様の復活を待ち望んでいるとかいないとか……」
「え? あいつらまd…じゃなかった。それは、一度会ってみたいな」
「ふふっ、レインさんは冒険家ですね。ですが、皆様白き悪魔様以外には全く興味がないのか今は誰にもバレないところでそれぞれ白き悪魔様の復活を身をひそめながら待っているそうです」
現在、白き悪魔ことレインはここで話を聞いているのだが姿を見せる気配がない。
まぁ、いま来られてもただただ困るだけなので別に構わないのだがレインの前に姿を表さないのはレベルが足りないのかそれとも他に条件があるのか……レインは少し気になったがきっと他のスキルやアイテムと同じく何かしら条件があるのだろう。
レインはシーナが説明している間にそんなことを考えていたのであった。