第十三話 戦闘開始 2
「それでは、始め!」
エアドが宣言をすると、ナウナーたちは3人という利点を生かすように一度レインと距離をとった。
レインも、初撃で決めるつもりは毛頭なかったのでナウナーたちに習うように一度ナウナーたちと距離をとった。
この時点で、ナウナーたちの作戦が裏目に出ているのだが、ナウナーたちはレインが次に行動するまでその意味がわからなかった。
「水球!」
「チッ! 魔法が使えるだと⁉︎ マッツはそのまま距離を取れ! トバム、俺と一緒に一気に叩くぞ!」
「「おう!」」
流石はパーティーのリーダーと言うべきか、レインが魔法を使えることがわかるとナウナーはすぐに2人に指示を出す。
レインの魔法はナウナーの素早い指示のおかげで誰にも当たることなく地面に水が霧散するだけであった。
だが、レインは全く気にした様子もなく剣を抜いて武器を持って走ってくるナウナーとトバムに備える。先に、槍を持っているトバムの方から対処しようと考えたレインだったがその狙いはバレバレのようで先にナウナーからレインに襲いかかって来た。
「な⁉︎ お前、俺の剣を止めただと!?」
「ナウナー! 俺がいく!」
「チッ、任した!」
レインに剣を止められたナウナーはまさか、自分の上段からの振り下ろしが止められるとは思っていなかったのかレインに受け止められた瞬間に驚いたような声を出すが少し遅れてレインの元についたトバムの声に返事をして一度大きく下がった。
ナウナーが下がったあとにトバムが少し怒りの感情を露わにしながら自分の槍のリーチを生かして、一方的にレインの方に突き刺したりなぎ払ったりし始めた。
ただ、この攻撃もレインは全て剣で捌いたり足を狙った攻撃には飛んで避けたりしてなんとかトバムの攻撃を捌ききった。
現在のレインは普段のような優しい感じではなく、一言も話すことはなく完全に真剣モードに入っている。この、レインの様子もナウナーたちの焦る要因となっており現在、3人はかなり状況が悪い。
レインの様子に戸惑っているのは何もナウナーたちだけでなくクロナたちも同じように驚いていた。
クロナたちも、レインと出会ってまだ一日しか経っていないがそれでも今までのレインでは想像もできないほど集中していたからだ。クロナは、グレートウルフに襲われていた時のレインを知っているが故にそれ以上の集中力をレインは保っていた。
「チッ、テメェ新人じゃなかったのかよ!」
戦いがひと段落するとナウナーはかなり苛立っているのか息を荒げながらレインに向かってそう叫ぶ。
レインも多少行きを乱しているがDランク冒険者を3人相手にしながらまだ息を乱すだけで決定打を与えられていないので相当なものだろう。
ちなみに、マッツも弓矢でナウナーたちのサポートをしているためレインも未だナウナーたちに決定打を与えられていない。まだ、1対1ならなんとか決定打を与えられたチャンスもそこそこあったのだが、ナウナーたちが想像以上に上手く連携をとっているためレインも結構苦戦していた。
まぁ、そのためレインの顔が引き締まりナウナーたちにプレッシャーを与えているのだが……
「あなたの言う通り、僕は新人ですが?」
「嘘つけ! こんなに強い新人がいてたまるか!」
どうやら、ナウナーは自分たちが苦戦しているのが信じられないのかだいぶ焦っているようでレインの返事に大声で突っ込む。
「新人だから弱いと言うのはおかしな話です。まぁ、僕も大して強くないので偉そうなことは言えませんが、今回僕はクロナたちをチップにあなた達と戦っています。このチップが僕なら別に僕もここまで真剣にはならないと思う。負けても自己責任だからだ。だけど、クロナ達は違う。僕は、彼女達の人生を狂わせたくない。もし、今回僕が負ければ僕は自殺する覚悟でこの場に立っています。単に、覚悟の差だろう」
「はっ、偉そうにペラペラと……何が覚悟の差だ。それなら俺たちも負けてねぇな!」
レインの話を聞いて何が面白いのかナウナーは嘲笑を浮かべながらレインの方を見る。
ナウナーたちはさっきまでの焦りが嘘のように余裕を取り戻すと一度トバムとマッツと視線を交わし何やら合図をとった。
この時に初めてレインは少し顔をしかめたがすでにそれは遅くナウナー達はアイテムバックからそれぞれ1つずつ新たな武器を取り出した。
「怖いか ?俺たちの覚悟を見せてやるよ。この武器は俺たちの全財産をはたいて入手した特注品だ。お前のアドバンテージの一つである武器のレベルは無くさせてもらったぜ」
「禍々しいな」
「そりゃあ魔剣だからな。しかも達の悪い負の感情を操る類の武器だ。その分、こちらもそれ相応のリスクを負うがどうせ負ければ奴隷落ちだ。だったらやりたいようにやらせてもらう!」
ナウナーたちはそういって笑い出す。
すでに、正気を保てなくなってきたのか目の色がだんだん濁ってきている。
「考えたな。どうせ負けて全財産を取られるくらいなら全て武器に費やしたってことか」
「あぁ、ハハッ! イイぜ! イイ顔してるじゃねえか! さっさと勝たせろ! 女を抱かせろ!」
「これは、戦闘不能状態ではないのか? ま、エアドさんはまだ止める気がなさそうだから戦う必要があるのだろうけど……これはきついな……」
武器のアドバンテージを考えなくとも今のナウナーたちは魔剣などのせいで身体能力なども向上している。これは、レインの感覚でしかないが魔剣が負の感情を力にしているのだろうと予想をつける。
ただ、先ほどからだんだん正気を失ってきているのでナウナーたちの言った通りそれ相応のリスクは負う必要があるのだろう。
魔剣とは諸刃の剣であるし、ナウナーたちも今回魔剣を使用するつもりはなかった。レインがナウナーたちの予想通り弱ければ先ほどと同じように3人でフルボッコにする予定だったのだが、思いの外強かったので止むを得ずといった感じで魔剣を使用することになってしまったのだ。
レインもまだ切り札はあるとはいえ、魔剣を装備したナウナーたちは非常に厄介で今にも攻撃を仕掛けてきそうなナウナーたちのことを鋭く眺めている。
「はぁ、僕も頑張るか……魔剣の力に頼ってる奴に負けるのは癪だしな」
「ん”だとテメェ”! トバム! マッツ!」
「「おうよ”!」」
レインのため息交じりの呟きが聞こえたのかナウナーは唾を飛ばす勢いで叫ぶとそのまま仲間である2人に声をかけて先ほどと同じようにレインに向かって攻撃を仕掛けてきた。
最初からあまり柄が良かったわけではないのだが、今のナウナーたちは正気とは程遠いものとなっており、レインは先ほどからエアドに向かって戦いを終えるように視線を送っているのだが、エアドはどこ吹く風で試合を止めようとはしなかった。
魔剣の力を借りるのもルールで規制しているわけではなかったのでエアドの判断は正しいといえば正しいのだが、人としてどうかと聞かれればグレーと言わざるを得ない。
「クッ! 本当に強くなってる! それに……呪いか?」
「ハッハッハ! この魔剣に触れると武器の劣化が早くなるんだよ! 武器を失って死ね!」
レインは襲いかかってくるナウナーの剣をそのまま受け流すが、受け流した際に剣の刃が思った以上に欠けてしまう。
幸い、レインが何があったか分析する前にナウナーが自信満々にネタバラシをしてくれたのでそこまで頭を使う必要はなく簡単に対策を考えることができた。
「もう後のことは考えない! とりあえず貴方達を倒します!」
レインは覚悟を決めて眼をカッと開けると気合を入れた声でそう叫び一気に『無詠唱』でレインの剣に火属性魔法と水属性魔法を付与した。
「な⁉︎ なんだそれは!」
「ナウナー! あれはマズイぞ!」
「もう遅いよ」
レインの異変にいち早く気付いたトバムはナウナーに必死に声を荒げて注意を促すが時すでに遅し。ナウナーが反応するよりも前に二属性で強化した剣を魔剣に向かって思いっきり振り下ろし魔剣をポッキリ折ってしまった。
まさか魔剣をへし折られるとは思っていなかったナウナーは非常に驚いた表情をしてしばらくその場で硬直してしまい、その隙を逃すはずもないレインの蹴り一発によって一瞬で意識を刈り取られることになった。
「む、無詠唱だと⁉︎ これは、マz……」
トバムはレインの動きが急に素早くなったことに危機感を覚えて即座にマッツと合流しようと思ったが、今度はレインの無詠唱魔法で現在レインが使用できる三属性を使い鳥の形をした三色の魔法がトバムを襲った。
トバムはなんとか避けようと魔斧を盾にして威力の軽減を試みたが全く意味をなさず魔斧と一緒に吹き飛ばされてしまい、それで意識を失ってしまった。
「お、お前、何者なんだ……」
「ん? 普通の冒険者ですよ。っと、そんなことはどうでもいいです。降参しますか? そうすれば、彼らみたいに痛い目を見ることはないと思いますが?」
「わ、わかった。降参する……」
レインは笑顔を浮かべながら自分が持っている剣をマッツへと向けて降伏を進める。
マッツも後衛型一人では勝機が皆無なのはわかっているのか、非常に悔しそうにしながらも魔弓を手放し降伏するためにエアドの方を向いて降伏宣言をする。
「マッツの降伏を確認した! よって、この勝負、レインの勝利となる!」
マッツの降伏宣言を聞いたエアドは右手を大きく上げて叫ぶようにレインの勝利を宣言した。
後にその場に残ったのは流石に疲れたのかその場に座り込むレインの姿と悔しそうにしながら気を失っている2人を気遣うように近くに座り込むマッツの姿があったのであった。