第十一話 戦いに向けて 2
「さてと、飲んでみるか……」
レインはクロナ、シーナと別れた後すぐに宿に戻り夕食を済ませると速攻で自分の部屋に戻り鍵をしめた。
宿の人が入ってこないとも限らないのでこれは念のための措置である。
「うーわ。これ、絶対やばいやつだよ……」
レインは緊張しながら経験値ポーションを取り出すとそれは虹色をした液体だった。それが、瓶に結構な量詰まっているのだ。
ゲームの時なら綺麗だなで済ませられたものでも実際に飲むとなると話が変わってくる。虹色の液体を進んで飲みたいなどと言う人は殆どいないだろう。
レインだって飲みたくない。
だが、これを飲むことで少しでも勝率が上がるのならば止むを得ない。
レインは覚悟を決めると瓶の蓋を開け一気に虹色の液体を飲んで行く。口に液体が触れた瞬間すでに吐き出したい衝動に駆られてしまうが、レインはなんとか我慢して経験値ポーションを全て飲み切った。
「んぐっ……ぷは! めちゃくちゃまz……!?」
レインは、この世のものとは思えないほどのマズさを体験した後に、身体が動かなくなったことに気づいた。
「ちょ⁉︎ い、痛い⁉︎まっ……」
レインはマズさ、体の硬直を体験した後、最後には激痛が待っており身体が動かないのでのたうち回ることも出来ずただただ動けないまま痛みに耐えることしかできなかった。
レインも誰かに助けを呼びたかったのだが、口も思うように動かないのでベッドに倒れたままずっと痛みに耐え続ける。
すでに1分は優に経過しているのだが、まだ硬直も痛みも取れる気配がない。この時、レインは本気で死を覚悟した。
「た、助かった……控えめに言って死ぬかと思った……」
激痛が始まってから約5後。
ようやく痛みも引き体も自由に動かせるようになって発した一言目がそれだったのは当然と言えるだろう。
この時、レインは二度と経験値ポーションを服用しないと心に誓うが自分のステータスを確認した時にその考えも簡単に揺らいでしまった。
と、言うのも……
ーーーステータスーーーーーーーーーーーーーー
レイン Lv7
HP 500/595 330up↑ MP 605/605 360up↑
攻撃力 425 240up↑
防御力 385 220up↑
俊敏 405 230up↑
知識 365 200up↑
器用さ 365 200up↑
-スキル-
剣術 Lv6 2up↑
体術 Lv5 2up↑
火属性魔法 Lv3 2up↑
-ユニークスキル-
-エクストラスキル-
-称号-
見習い戦士
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「これを見てしまうとさっきの苦痛も我慢できる気がするなぁ……」
レインは思わず自分のステータスを見てそんなことを呟いてしまう。やはり、ゲーマーとしてはどんな手段を使っても強くなれるのならばそれでいいと思ってしまうところもあるのだろう。
今日一日、ゴブリンと戦ったり死ぬ思いをしてまで討伐したグレードウルフを倒したときと同じだけレベルが上がっているし、ステータスに関していえばこちらの方が多く数値が上がっている。
スキルも使用したものだけに限らず魔法もレベルが上がっているのも大きい。スキルはレベルを上げなくても熟練度で上がるシステムだが、そもそもそんなに魔法を公に撃てないのとレインも魔法を放った時のことが予想できないため経験値ポーションを飲むだけでレベルが上がるのは本当に助かっていた。
「魔法か。この世界で魔法ってどうやって出すんだろ?」
火属性魔法のレベルが上がったことによって初めて真剣に魔法について考え始めたレインであったがよく考えればレインはこの世界での魔法の発動の仕方をまだ知らない。
クロナもシーナもレインのことを前衛職だと思い込んでいたため魔法については説明していなかったのだ。
GMOでは最初はデフォルトでそれぞれの初級魔法が使えそこからスキルのレベルと熟練度、あとはレベルなんかが作用して新しい魔法を覚える仕様だったのだが、この世界でレインはどうすれば魔法を発動させることができるのかが全く想像つかない。
GMOでは、知りうる限り全ての魔法を覚えて使いこなすことができていたレインなので、この世界に来てもそれは変わらないのだろうが、試すにしても部屋の中で火属性魔法をぶっ放すわけにもいかない。
下手したら火事になってしまうのだから……
「魔法はしょうがないか。それより、アイテムの確認をして経験値ポーションは…今日はもういいかな。ステータスを伸ばす系のアイテムもまだ大丈夫だろう」
ちなみに、今日レインが使用した経験値ポーションはGMOではレア度は星2であり、上級の経験値ポーションやレインしか持っていないであろう経験値ポーションもあるのだが一番レア度の低い経験値ポーションでこれなのだから、しばらくは星3以上の経験値ポーションを使う予定はレインにはない。
いくら、レベルやステータスが上がるからと言っても痛いものは痛いし不味いものは不味い。最低でも一日につき一本にしておかないと心身ともに持ちそうにない。
「ま、前日にできるのはこのくらいか。寝よ」
レインはまだ経験値ポーションの時のダメージが残っているせいかかなり身体がだるいようで一通りアイテムや戦術の確認を終えて、効果があるかはわからないがメニューの機能にある1つを選択するとすぐにベットに向かいそのまま夢の世界へと旅だった。
「ん……また夢か?」
レインは目がさめると自分がいるところがつい昨日看板とあった空間なことに気づきここがまた夢の世界だと言うことに気づいた。
だからと言って何をするでもなくまた看板が出現するのを待っていたのだが今回は全く来る気配がない。
「そういえば、看板もなかなか来れないって言っていたな。それじゃあ、この夢はなんの意図があって……あぁ、これか」
レインは、何もないことに不思議に思っていたがここが看板の意図ではなく『レイン自身の意図』できたことを思い出した。
「まさか、本当にできるとは思わなかったが……これは有意義な時間が過ごせそうだ」
レインが寝る前に操作した項目は1つ。
それは、『練習部屋』と言うものでこれを選択して睡眠をとると夢の中でも修行ができると言うものである。
ただ、睡眠をとっているので体の疲れは取れるが精神的な疲労は取れないのであまり連続しての使用は禁物である。
ちなみに、この練習部屋の利点としてはここではスキルレベルや熟練度、さらには新しいスキルを覚えたりできるのだ。ただ、レベルは上がらないのでステータスをあげることはこの練習部屋では不可能である。
それでもだいぶ有用性のあるものなのだが、実はこの練習部屋、GMO時代ではあまり活用している人がいなかった。
と、言うのもそもそも練習部屋で修行をするよりも実戦で経験値を集めつつスキルを使ったほうが早いのだ。ゲームではいくら死のうがデスペナルティーがあるだけなのでこの練習部屋はほとんど使われなかったわけだ。
かく言うレインもこの練習部屋を使用したのは初めてで実際に使用できるのか少し不安だったが問題なく使用できたようだ。GMOでは使えなかったかもしれないがこの世界ではとても使えるものなので今後、余裕のあるときは活用していこうとレインは決める。
「ここ、魔法を撃っても大丈夫なのか。めっちゃ使えるじゃん」
なんと、メニューで説明を読んでいるとこの練習部屋は異次元空間に該当するためどんな魔法を使用しようが全く影響がないようだ。
普通に、街などで使用したら国、いや世界そのものを滅ぼしてしまいそうな魔法も今後出てくるのでこれは素直に嬉しかった。
「よし、とりあえず最初は魔法からだな。頑張って火属性魔法と……あと1つ魔法が覚えられたらいいなぁ」
レインはそんな淡い期待を胸に抱きながら一人で練習部屋で黙々と修行をしていくのであった。