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15話:精霊界での生活。


「じゃあ、僕についても少し説明しますね。僕はずっと精霊界で住んでいたので、多分……いえ、絶対に人間界のことについては疎いと思います。お母様に聞いたり、本を読んだりして知識は得ていたのですが……」


 小さい頃、お母様に読んでもらった絵本の内容を思い出しながら口角を上げると、ヒスイが僕の膝元へと乗ってきました。ヒスイを撫でながら、精霊界のことを話します。


「お父様が治める精霊界はとても平和で、僕は数多くの精霊と一緒に暮らしました。一緒に遊んだり学んだり……。そして、僕が精霊王の子と言うことを人間界の精霊も気付いています。だからこそ、使役契約をしなくても、精霊は僕に力を貸してくれるんです。あ、精霊界のことでしたよね。……そうですね、とても澄んだ空気で、色んな種類の花が咲いていて……精霊たちが楽しそうに暮らしていました」


 僕が十五歳の誕生日を迎えるまでは、人間と同じ成長スピードにするようにお母様がお父様に言っていたらしいです。精霊界は時間の流れが人間界に比べて穏やからしいです。僕は十五歳になったので、これからの成長は遅くなるみたいですが……。


「精霊王と人間の子どもは、僕が初めてみたいで……。僕が生まれてからは色々大変なことがあったらしいです。僕は全然覚えていないのですが……。そもそも、生まれた時から性別が定まっていないのも、ハーフなのが関係しているとかいないとか……。精霊たちに聞いてもそこら辺はよくわかっていないようでした」


 お母様は『不思議なこともあるのねぇ』とほのぼの笑っていたらしいですが……。僕のような人は精霊界にいないので、お父様たち結構苦労したとか、楽しそうだったとか、精霊たちは僕に色々話してくれました。


「……そもそもなぜ、エラは精霊王と出逢ったのだ?」

「お父様とお母様の馴れ初めですか? お母様が各地を旅していた頃、あまりにも綺麗なアイリスの花が咲く花畑でお母様が歌を歌い、その歌声にお父様が聞き惚れたのが出逢いだったようです。お父様は人間界の精霊たちの様子を確認しに来ていたみたいです」

「あ、だから『アイリス』?」


 こくりとうなずきます。お父様とお母様の思い出の花ですので、僕の名前に使いたいとふたりで話し合ったようです。アイリスは僕のミドルネーム。ファーストネームは結婚する相手にしか教えてはいけないと、口を酸っぱくして言われています。


「そう言えば、マオはファーストネームですか? ミドルネームですか?」

「ファーストネームよ。そもそも、私にミドルネームはないし」


 ミドルネームがない……? と驚くと、マオは肩をすくめて「平民なんてそんなものよ」と言いました。


「……あの、平民と貴族って何が違うんですか? どちらも同じ人間ですよね……?」


 精霊界では身分の違いを感じることはありませんでした。お父様はどの精霊にも意思があり、その意思を尊重するのが自分の役目だと話していました。ですが、人間界のことを調べるうちに人間には貴族と平民という身分の差があることを知りました。


「うーん、私も貴族についてはよくわからないけど……。良い貴族は平民にとって道しるべみたいなもの、かしら。領主でかなり違うのよ。領民の生活が」

「色々難しいんですね……」


 良い領主に恵まれなかったら領民はどうなるのでしょうか。想像するとちょっと怖いです……。


「あ、それでですね、お母様のことを気に入ったお父様が、口説きに口説いてお母様が精霊界に来ることになったのです。そこら辺でもやっぱりひと悶着あったらしいですが、僕は詳しく知りません」


 聞いたら、『アイリスは知らなくていーの』とお母様に言われました。気になるんですけどね……。ただ、お母様と手を組んだ精霊たち(人間界に恋人が居る)は、お母様のことを大変気に入って、その精霊たちが頑張ってくれた、と聞きました。


「人間と精霊の恋かぁ。種族を超えた愛って素敵ね……」

「……人間界には精霊と結婚している人も居ますよ?」

「え!? アイリスの両親が初めてだったんじゃ……?」

「人間界に居るウィンディーネは人間と結婚したりしますよ。ただ、精霊と言うことがバレたり、相手が浮気すれば消えちゃいますけど……。あ、人間界から消えるだけであって、精霊界に戻って傷心の心を癒すんです」


 僕が十歳くらいの頃にやったパジャマパーティーで、恋愛について話していたことがありました。消えてしまうのが悲しくてポロポロ泣いた記憶があります。ウィンディーネが消えちゃうのも悲しいし、もしも僕が恋をして失恋したら消えちゃうのかなって怖くなったのです。

 お父様が言うには、僕の半分は人間なので姿が消えることはないだろうけど、ちょっとの間、流した涙が宝石になっちゃうかもしれないね、と言っていました。……涙って宝石になるんでしょうか?


「そして、失恋の傷を癒したウィンディーネはまた愛を求めて人間界に行くのです」

「……ええーっと……。何というか、逞しいのね……?」

「……女は大抵逞しいだろ……」

「そんなことはないわよ!」


 ヒスイの知っている女性は、みんな逞しい方々だったのでしょう……きっと。


「……それで、アイリスは精霊界でどんな暮らしをしていた?」

「普通に暮らしていました。朝起きて、身支度して、勉強して、身体を動かして、楽器の演奏をしたり」

「……食事は?」

「精霊界ってあんまりお腹空かないんですよね……。あ、でも食べたら美味しいのでたまには食べていました」


 特に美味しかったのはお母様の作ったビーフシチューです。大きな牛肉をスプーンですっと割って食べるのが好きでした。もちろんホワイトシチューも好きです。


「人間界には美味しいのがたくさんあると聞いたので、それらを食べるのも楽しみです!」

「……じゃ、今度美味しいもの探しに行こうか」

「良いですね! あ、あと、人間界ならではのものも見てみたいです! 魔法道具や武器!」


 精霊界ではほぼ魔法道具を使いません。なぜなら、精霊が全てやってくれるから。魔法遺物であるハープは弾かないと意味がないので僕が使っていましたが……。ちなみに、そのハープに掛けられていた魔法は、間違えたら教えてくれるという優しい魔法でした。音が違うとびりっと来るのです。


「……なるほど。アイリスにとって人間界は未知の世界でワクワクしているということか」

「はい! 十五歳まで我慢していたので、すっごくワクワクしているんです!」

「……どうして十五歳まで?」

「人間界では十五歳で成人でしょう? 成人するまでダメって言われていたんです……」


 お父様とお母様が『そんなに急いで大人にならなくて良い』とは言っていましたが、僕としては早く大人になって人間界を冒険したかったので、今が一番楽しいかもしれません。お母様の故郷をこの目で見てみたいし、他の場所も行ってみたいです。


「……そっかぁ……。まぁ、うん。アイリスの感性が違う理由はわかったわ……」


 ……僕の感性って、そんなに人間と違うのでしょうか……?


少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

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