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14話:マオの過去。


「そう言えば、精霊が綺麗にしてくれるって言っていたけど……」

「あ、試してみます? パジャマに着替える前に」


 マオがこくりとうなずいたので、僕は精霊に頼んで、マオとヒスイも一緒に綺麗にしてもらえるように精霊に頼みました。精霊は喜んで僕のお願いを聞いてくれました。ほぼ一瞬のことだったので、マオはびっくりしたように目を丸くして、ヒスイは欠伸をしていました。眠いのでしょうか。


「わぁ、さらさらだー……」


 マオが自分の髪に触れてそう言いました。嬉しそうですが、複雑そうです。


「……アイリス、今度一緒にお風呂に入ろっか」

「え? お風呂に、ですか?」

「うん。肩まで浸かると気持ち良いんだよ。アイリスは性別不明だし、私と一緒に入っても問題ないと思うんだ!」


 お風呂……そんなに気持ちいいのでしたら、ちょっと気になりますね。ヒスイの言っていた温泉も気になります。僕が「入ります」と口にすると、マオはぱっと笑顔を浮かべました。そんなに一緒に入りたかったのでしょうか?


「それじゃあ、今度一緒に入ろうね。パジャマに着替えるのもここで良い?」

「はい」


 取って来るわーと、マオが部屋に向かいました。そして五分もしないうちに荷物を持って僕の部屋に戻ってきました。


「マオ、人前……竜前で着替えて恥ずかしくないですか?」

「え? 全然。アイリスのその姿は完璧に美少女に見えるし、竜と人間の感性は違うでしょ。ヒスイが私を見て興奮するって言うなら別だけど」

「人間の身体には興味ない。我の恋愛対象は竜のみだ!」


 ほらね、と肩をすくめるマオに、まぁヒスイは竜ですから……としか思えない辺り、僕の感性も人間とは違う予感がしてきました。精霊界では恋愛に関してあまり考えたことがありません。


「美少女って……。マオのほうが美人ですのに」


 艶やかな黒髪に煌めく黒い瞳。肌の色は透き通るように白く、唇はふっくらと厚みがあり色は健康的に紅がさされているように見え、身体つきもぼんっきゅっぼんっとメリハリがあって、マオに回復魔法を掛けてもらって冒険者たちが女神だと言うのも納得の容姿と身体……だと思うのですが……。

 ええ、お母様が言っていました。人間の男性は大体ぼんっきゅっぼんっが好きなのだと。つまり、魅力的な人なのです、マオは。


「アイリスの顔はどちらかというと可愛い系ではあるわね。って、そんなことはどうでも良いのよ。私はこれから、きみのことを女の子だと思って行動するようにするわ」


 そう宣言されました。僕が首を傾げると、マオは「ずっと妹が欲しかったのよね~」とパジャマを着替え終わったと思ったら僕の髪に触れました。僕が気を許しているから、精霊たちはマオの手を止めません。


「妹?」

「そう。アイリスみたいに可愛かったら、色々髪型整えてあげたりとか……!」

「……やりたいんですか?」

「うん!」


 では、お任せします、と言ったらマオはぱぁっと表情を明るいものにしました。その前にアイリスも着替えて、と言われたので、パジャマに着替えました。そして、マオは持って来た荷物から櫛を取り出すと、僕をベッドに座らせて、自分もベッドに座り僕の後ろに位置取り、さっさっと髪を梳かし始めました。まるでガラス細工に触れるような手の動きで、大事にされているような感じがして少しくすぐったい気持ちになりました。


「……私ね、孤児だったの。あの村の近くに捨てられていたんですって。だから、亡くなった両親とは血が繋がっていないの」


 マオがぽつぽつと昔話をしてくれました。


「両親と、髪の色も目の色も違うからなんかおかしいなって思ってたんだ。だけど、私は両親のことが大好きだった。ずっと……ずっと、幸せな時間が続くんだって思ってた。……残念ながら、そんなの、四年前に終わっちゃったけど……」


 辛そうに話すので、僕はマオのことを見ようとしました。ですが、マオはただ僕の髪を梳かし続けているので……僕は、マオが自分の顔を見られたくないと判断して前を向きました。マオは、言葉を続けます。


「きみの言った通りだよ。流行り病で両親が亡くなって、その後あの村で私は村人たちから責められた。拾い子を村に入れたからだって。あと、私が回復魔法を使ったことがあるのが魔女だと言われるようになったきっかけ。でも、怪我した子を放っておくことは出来なくて……。回復魔法で完璧に治療しちゃったから……、なのかな。村人が私のことを恐れだしたの。瀕死の子を治したから……」


 ……マオはきっと、育った村のことが好きだったのでしょう。両親はきっと、マオに惜しみない愛情を注いだのだと思います。だからこそ、マオは困った人を、瀕死の子を助けたのでしょう。自分に、その子を助けられる力があることに、気付いていたから。


「……その日から、私は回復魔法を使うことを辞めたの。なのに、きみがあんまりにもあっさりと回復魔法をなんて言うから驚いたのよ。なんで私が回復魔法使えることに気付いたの?」

「……マオからは神聖なものを感じたからです。神様に愛された人は、強大な回復魔法を使えると本で読んだことがありましたし……」

「そうそれ! 神様に愛された人ってどういうことよ?」

「言葉通りの意味です。マオは神様に愛されたのです。……村で、色々なことが起こったのは、村人がマオのことを迫害しようとしたからでしょう。マオ自身に降り注ぐことを配慮出来なかったのでしょうね。……多分、マオは教会に行けば『聖女』として暮らしていけると思います。マオが望めば教会に向かいますけど……」


 冒険者になったばかりの日に、こんなことを言うのはアレな気もしますが……。マオにとっての選択肢は多いほうが良いと思ったのです。僕がそう口にすると、マオは梳かしていた手を止めて、今度は僕の髪を弄り出しました。


「いや、私に『聖女』なんて無理無理。ああいうところって色々規律がどうのこうのって面倒そうだし、それよりも私は自由に生きたいわ」


 正直、教会にとっては喉から手が出るほど欲しい人材だとは思いますが……。マオは『聖女』として生きるよりも、こうして冒険者として生きることを望んでいたのですね。


「それに、私を望んでくれたきみについて行くって決めたし! ね、ちょっとこっち向いて?」


 くるりとマオを振り返ると、僕をじーっと見てぐっと拳を握りました。僕が首を傾げると、「ハーフアップも可愛い~」と喜んでいました。……まぁ、マオが喜んでくれたのなら良いのですが。


「あとほら、きみ、あんまり浮世離れしてたから、ちょっと心配で」

「そうですか……? 精霊界ではこれでも常識のあるほうだと自負していたのですが」

「……逆に、精霊界での暮らしがどんなものだったのか気になるわ……。ねぇ、ヒスイも気にならない?」

「……んぁ? 呼んだか?」


 ……半分眠っていましたね、ヒスイ。マオの話、どこまで聞いていたのかちょっと気になります。ヒスイは眠そうにこちらを見つつ、会話に参加するつもりがありそうで、なさそうな感じで尻尾を揺らしていました。


少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

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