1話
得体の知れない物を気にしてか、冬四郎はその後は寝付けなかった。むつも同じなのか、何度も寝返りをうっていた。だが、いつの間にか眠りについていたようで、冬四郎が目を覚ますと、キッチンの方から物音がしていた。ベッドを見ると、すでにむつは居ない。いつ起きたのか、冬四郎の身体には毛布の上から布団がかけられていた。
冬四郎が部屋から出ると、むつがぱっと振り向いた。物音には敏感になっているのか、険しい表情を浮かべていたが物音の正体がすぐに分かったようで、表情をゆるめた。
「おはよ。少しは寝れた?」
「あぁ…いつの間にか寝てたみたいだ。むつは寝れたのか?」
「うん、寝れたよ。それより、早く支度しなよ?遅刻になっちゃう」
「…まだ余裕だよ」
ついていたテレビに目を向けて時間を見ると、まだ6時を少し過ぎたばかりだった。冬四郎は、腕を伸ばしてのびをするとキッチンに行き、むつの手元を見た。朝食の支度と同時に、本当に弁当も作ってくれているようだった。
「卵焼き…「甘くないから」
甘い卵焼きは好まないというのは、重々に知っているからかむつは出汁をきかせて作ってある。そうと分かってか、冬四郎はちょっぴり嬉しそうに笑みを浮かべた。




