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1話
冬四郎のマンションで冬四郎が近くにいるという安心感からか、むつはあっという間に眠りについた。だが、自宅マンションでの不審者の事があったからか、微かな物音に目を覚ました。冬四郎が寝返りをうったのか、それとも外からの音なのか、むつには分からなかった。
「………」
しばらく寝付けずにむつは、じっと身動ぎもせずに周囲の気配をうかがっていた。冬四郎はくぅくぅと寝息をたてて、ぐっすりと眠っている。冬四郎の寝息を聞きながら、何もないと分かってか、むつは再び寝ようと目を閉じた。だが、寝付けそうにない。また何となく落ち着かない気分になってきていたのだ。そして、そうなると動こうと思っても動けなくなっていた。
くぅくぅと冬四郎が眠っているという事は、何もない物という事なのだろう。だが、冬四郎とむつでは分かる物が違う。自分が神経質になりすぎているのだろうと思わないでもないが、正体の分からない不安と恐怖は、しっかりとむつを取り巻いてしまっていた。




