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1話
「さて…それなら、荷物まとめておいで」
むつが泊まりに来るで決まると、冬四郎はぽんぽんとむつの頭を撫でて、身体を起こさせた。
「うん…あ、ご飯…作りかけなの」
「…どうしたい?」
「作っちゃう。で、タッパーにつめてお兄ちゃんところに持っていく。残りはお弁当にしてあげるから…待っててくれる?」
むつはどうかな、とうかがうような目を冬四郎に向けている。弱りきったようなむつを見た後だけに、冬四郎は嫌とは言えない。それに、夕飯を作ってくれと頼んだのは自分なだけに、尚更だった。
「それなら、何か手伝おうか?」
「大丈夫。お兄ちゃんはゆっくりしてて、すぐに準備するから」
ようやくいつもの調子に戻ってきたのか、むつはすっくと立ち上がるとキッチンに入っていった。そして、何事もなかったかのようにまた包丁を握ると、手際よく調理を再開させた。




