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1話
「…むつ?」
シャツを握りしめたままのむつが、自分を凝視したまま何も言わずに動かないでいるのを不審に思ったのか、冬四郎は表情を引き締めた。
「どうした?何が…」
冬四郎はゆっくりとむつの前に立つと、シャツを握っている手をそっと包み込むように握った。余程の力が入っているのか、それとも何かあったのか、むつの手は細かく震えている。
「むつ」
むつの手をそっとシャツから放させると、冬四郎はそのまま手を包み込んでいた。
外を歩いてきたはずなのに、じんわりと暖かい冬四郎の手のぬくもりにほっとしたのか、むつは糸の切れた人形のようにぺたんっと床に座り込んだ。冬四郎はむつと一緒に座り込むと、そっと顔を覗きこんだ。
「おにぃちゃ…」
「ん?」
絞り出されたか細い声に、冬四郎はふわっと笑みを浮かべると、むつの頭をおざなりに撫でた。




