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FAKE HERO  作者: 月江堂
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自損事故

「なんだこれは……どういう状況だ?」


 ヒーロースーツに身を包んだ武石ジョーがよろよろと起き上がる。あれほどの速度で頭から怪人に突っ込んだというのに、どうやら平気なようだ。さすがはヒーロー。


 しかし状況が分からない。辺りには遠巻きに見る人だかり、自分と同じようにヒーロースーツに身を包んだ、しかしボロボロのクロノワールに、銃を手にした警官。そして少し離れたところにはこれぞ邪悪の権化であろうという、禍々しい造形の怪人が壁にめり込んでいる。


「なんだかわからんが……」


 ジョーは辺りを見回す。ヒーローとしての持って生まれた特質か、すぐに状況を把握した。


(どうやら俺はまた記憶を失ったようだ。ついさっきまでは車の中で兵装の着用をしていたように記憶しているが、気づけば目の前で怪人が倒れている。無意識のうちに敵を倒したということか。ヒーローの本能だけで戦っていたようだな!)


 大筋では合っている。問題ない!


「成敗!!」


 何となく状況に合わせて勝利ポーズをとる。


 ドオン!!


 爆発四散!!


 ジョーがポーズをとった直後、怪人の体が破裂した。


 特撮でよく見る光景かもしれないが、これにはちゃんと理由がある。説明しよう!


 悪の組織が改造によって異星人の兵装を人間に埋め込んだ「怪人」の場合、より殺傷能力を高めるためにちょっとした「改造」が加えられることがよくある。今回で言えば「電気を読み取る能力」がそれである。


 その場合、他の組織やヒーローへの優位性を確保するために、リバースエンジニアリング対策として兵装に自爆機能を仕込むことがあり、決して「演出」などではないのだ!!


:ええええ、なにこいつ


:トップランク配信者のクロノワールが手も足も出なかった怪人を一撃で……?


:こいつのチャンネルないのか? 誰か知らん?


:全然わからん。何者なん?


:ドローンどこにもいないよ? マジで配信してないの?


:クロノワがんばれ~(^〇^)ノ¥50000


 視聴者も混乱の渦である。唐突に現れた謎のヒーローがこの絶望的状況を打破したのだ。当然であろう。そして当のクロノワールも。


「……あ、投げ銭ありがとうございます、こんな状態ですが、いいねとチャンネル登録お願いしま……す」


 通常営業である。


「ジョー、何やってるの」


 人ごみをかき分けて小柄な包帯の少女が近づいてくる。ジョーの仲間、杉山ミカである。


「ミカか、見ての通りだ」


 そう言われても、この状況を見ただけで理解するのは難しいだろう。


「見ても分からないけど、アジトに向かうわよ」


 一見おとなしそうで控えめな女性に見えるミカであるが、強引にジョーの腕を引いて人ごみから抜けていく。


:あっ、行っちゃうの?


:あの包帯美少女、見たことある気がする


:マジ? やっぱあいつもヒーロー配信者なのか?


:今ミカカちゃんって呼ばれてた? カワヨ



― 着装 解除 ―


 人ごみを抜けてしばらくすると、電子的な音声とともにジョーの兵装が解けて、元のアタッシュケースの形に戻り、彼の右手に提げられる。まだ人はまばらに周囲にいるものの、ジョーやミカの身元を詮索するような視線はない。


 これはあくまでもヒーローへのマナーである。市民のために戦ってはいるが、基本的には非合法(イリーガル)な存在。そんな彼らへの身元の詮索は恩を仇で返す行為。とても許されないことだ。


「アキラはどうしたんだ?」


 そういえば神戸(かんべ)アキラの姿が見えない。彼と、彼の運転している乗用車はどうなったのか。アジトへは徒歩で向かうのだろうか。ミカは歩みを止めない。


「彼は警察の対応をしているわ……二人だけで先に行くわよ」


「そうか、あれほどの騒ぎだものな。イリーガルとはいえ警察への説明は必要か」


「違うわ……自損事故の後処理よ」


 皆さんも車の運転の際には周囲の注意、確認はゆめゆめ怠らぬよう。そして一般道では努力義務ではあるが、後部座席もシートベルトの着用を。さもなくば事故の際、人間ミサイルよろしく後ろの同乗者が勢いよくフロントガラスを突き抜けて射出されることとなる。今回は兵装を身に着けていたのでこの程度で済んでいるが、生身であれば間違いなく即死級の事故である。二日連続交通事故にあうなどどうかしている!


飯垣(メシガキ)博士! 飯垣博士!!」


 埼玉県某所、とある企業の地下オフィス。


「なぁに田中くん♡ そんなに慌てて♡ ざこ研究者はいつもなんかに追われててかわいそー♡」


 悪の秘密組織めいた研究室にいるのはその場に似つかわしくないメスガキ! 博士と呼ばれているものの、その白衣の下はキャミソールとホットパンツである。何たる破廉恥!


「サトリがやられました!!」


 しかしメガネの青年研究員は物怖じせずに報告をする。「サトリ」とは何者か?


「はぁ? ばっかじゃないの♡ サトリがやられるわけないじゃん♡ 試験的につけてみた電気読み取り能力が強すぎて社内の誰も制御できないなぁって思ってたら人の言うこと聞かずに勝手に外出て犯罪行為してるような奴だよ♡ むしろあんな誰も制御できないやべー奴が反乱起こしたらぅち潰れちゃうじゃん♡ どうしよ♡ 終わりだ♡ って今も内心ハラハラしてるくらいなのに♡」


「そういうのは内心思うんじゃなくってちゃんと上司に報告してください」


「ぇ……マジのやつ?」


 それまで余裕の笑みを浮かべていたメスガキの瞳から光が消える。


「マジの大マジです。動画見ますか? そんなやばい奴なら始末してくれてちょうどよかったかもしれませんね」


「ぇ~……ウソ、マジで……? ヒーローにやられたの……?」


 挑発的な物言いは鳴りを潜め、ふらふらと頼りない足取りで青年研究員に縋りつく。その姿は年相応の子供といったところに見える。


「もしかすると、うちの障害になるような奴らが現れたかもしれませんよ」


 どうやらこここそが、怪人を生み出す悪の秘密結社の本拠地のようであった。

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