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FAKE HERO  作者: 月江堂
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ネグレクト

「進むぞ」


 あれから三時間ほどが経過した。


 途中休憩をはさみながらも四度の戦闘をこなし、いずれもジョーのみが戦闘に参加し、そのいずれの戦闘でも圧倒的な力を見せて勝利してきた。以前に苦戦した非人間型、蜘蛛タイプのドグマを相手としたときにもその力は揺るぐことがなかった。


:めちゃめちゃ安定感あるな


:こりゃ本当に未踏領域まで到達するかもな


:俺は最初からやると信じてたぜ


「レッド、しっかり休憩はとった方がいい。本人が気づいていなくても疲労は蓄積している。


 少し座って休むだけで、栄養補助食品をとるとすぐに先へ進もうとしたジョーをミカがいさめる。彼女は荷物から折り畳み式の簡易ケトルと湯沸かしのセットを取り出してお茶を入れようとしている。


「……腹は空いていない」


「レッド、精神は緊張の連続には耐えられん。一旦休んで、茶でも飲んでリラックスするんだ」


 アキラもミカと同じくジョーをいさめる。二人からの説得を受けてようやくジョーも観念し、通路に腰を下ろした。


「それでいい。今私が心の栄養ドリンクを作る。待ってて」


 ミカはお湯ではなく牛乳を温め始めるとティーバッグを煮出し、さらにそこにたっぷりのはちみつとショウガを入れる。かなり自己流ではあるが、チャイのようなものを作っているようだ。


 ダンジョンの中は一年を通して十七度ほどの気温が保たれている。外よりは暖かいが、リラックスするには少し寒い気温。


 カップにお茶を注ぐと、その気温のためにすぐに牛乳の成分が膜を張り始めてしまうが、ジョーは気にせずにバイザーを上げてそれに口をつけた。


「……あたたかい」


 一息つくことで、彼も自分の精神がどれだけ疲弊しているのかをよく理解した。砂糖とはちみつにより過剰なほどに甘さを足され、ショウガが胃の中に柔らかい火をつける。


「ありがとう……確かに、少し疲れていたようだ」


 少しずつお茶をすすりながら、頭の中でここまでの戦いを内省する。最大で三日を想定している今回の探索。状況によってはそれを上回ることも十分に考えられる。食料は十分に持ってきているが、おそらくはそれよりも先に体力か精神力が尽きることだろう。


 工程での力の配分がキモとなる。幸いにも戦いを主にジョーだけが受け持つこのパーティーは、逆説的ではあるがそれを受け持つ余裕のある人員が十分にいる。


「以前にダンジョン内のチェスト(宝箱)の話をしたが、中には探索者のサポートをしたいのかとしか思えないような補給食が入っていることもある」


 ダンジョンの奥深くに取り残され、そういった補給品で命を繋いで何とか帰還できた探索者も実際にいるのだ。


「本当に、何なんだろうな、この宇宙船と、ドグマというやつらは」


 外敵を排除しようとする攻撃と同時に、人間の使えるような兵装をドロップしたり、助けとなるチェストが点在する。まるでドグマと人間の力比べのゲームのようである。


「ジョーはドグマを、すべて殺したいと思う?」


 彼と同じようにお茶をすすりながら、静かにミカが訪ねる。


「……どうだろうな。実際にドグマに殺されている人が何人もいる。ヒーローだけじゃない。最近は少ないが、非戦闘員の市民もだ」


「じゃあ、無理?」


「会話でもできないことには」


 ゆっくりとミカの言葉をかみしめるように聞いてからジョーは答える。今までに考えもしなかったことではあるが、もしこのダンジョンを完全攻略するとなれば、いずれはそういう話も出てくるだろう。


「これまでに、ドグマと会話ができたという事例も無いことはない」


「どんな会話なんだ?」


 カップの底に残ったほとんどはちみつの塊をぐいと喉に流し込み、ジョーが訪ねた。


「会話と言えるほどのものかどうかまでははっきりとは言えんがな……」


 ゆっくりと、アキラは弄ぶ様に手のひらの上にカップを乗せて回し、その温かみを兵装越しに感じながら答える。


 件の事例はとても系統立てて言葉を学んだようなものではなく、人間側の言葉に何か反応したようでもなく、ただ「言葉を発した」程度のものであったらしい。


 ただそれでも単語の繋がりとある程度意味の繋がるような「文脈」は存在したようであったらしい。


 彼が言うにはドグマはどうやら何者かの「前哨部隊」に過ぎないとの事。本隊がどこかにいて、彼らはその「本隊」が来るまでの地ならしをしているに過ぎないと。今この船内に居て、圧倒的な科学力と、戦闘能力を見せている者らは、その「本隊」の小間使いに過ぎないのだという。


「その『本隊』は何故でてこない? ばかうけが地球に着陸してから十六年、奴らはろくに成果もあげられてないだろう?」


「そこから先は分からない。その『本隊』が姿を現さないからな。それでも奴らは盲目的に()()に従って戦うだけだ。だからドグマ(教条)と呼ばれてる。親に見捨てられている事にも気づかずに言われたことを守り続ける、憐れなネグレクト被害者かもしれないな」


「滅多な事を言わないで。当事者の気持ちになったことがあるの?」


 アキラの軽率な言葉にミカが咎めた。滅多に感情をあらわにすることのないミカが怒りの感情を見せたことにアキラは少し焦ったようだ。


「す、済まない。特定の家庭環境を揶揄するつもりはなかったのだが」


 その様子を見ながらジョーはふと、仲間であるにもかかわらず互いのプライベートのことにはあまり詳しくないという事に気付いた。アキラが妻帯者だという事も今日の今日まで知らなかったし、ミカの事も同じ高校に通っているという事以外は一切知らない。ネグレクトに晒されているような環境で育ったのだろうか。


 だが、よくよく考えたら二十五歳にもなって家庭環境もへったくれもあるまい、と思い、考えるのをやめた。


「む、どうやら、休憩時間は終わりのようだな。敵の反応、一体だ」


 ふうう、と大きく息を吐いてジョーは立ち上がる。気力は十分に満たされた。


『ふっふっふ、また会ったわね、キャプテンケイオスぅ♡』


 聞き覚えのある声。いや、それ以前にドローンのプロペラ音がする。


『どうもー♡ 今日はあんた達ざこヒーローに新商品を届けにきたわよぉ♡』


 この特徴的な鼻にかかるような声を忘れるわけがない。メガデスの飯垣(メシガキ)博士だ。


『さあ、出でよ、ニンジャラプター!! 奴らをとっちめておしまい♡♡♡』


 飯垣博士のその言葉と共にドローンの背後から大型犬くらいの大きさの化け物が現れた。獣脚類のシルエットに、頭にはニンジャの様な鉢金を乗せている。恐竜である。


「な……なんだコイツ」

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