太陽に吼えろ
「私が……市民を傷つけてる?」
ジョーの言葉に衝撃を受けるミカ。ジョーは言葉を続ける。
「まず何の謂れもない市民を拉致したことを謝れ」
尋常であれば謝って済む問題ではないような気もするが、しかしそもそも尋常な状況であろうか。
「怪人が市民? レッド、私はただ市民の通報から……」
「それは結果論だ。ピンク、君は相藤先輩が怪人だと確信があったのか? 違うだろう」
そこを詰められると正直ぐうの音も出ない。というよりはあまり触れられたくないところだ。どういうつもりで行動していたのかはすでにリンに全て把握されているのだから。
「ジョー君、怪人のボクを、一般市民と同じように扱うつもりなのかい?」
しかし一度は戦ったことさえある敵。そんな敵へ手を差し伸べるジョーの姿に最も違和感を持ったのは他ならぬビーバークサリガマであった。
ジョーは振り返ってこたえる。
「たとえ人より少し毛深くて、前歯が異常に黄色できっったないからといって、それが人を罰する理由にはならない」
「確かにレッドさんの言う通り、いくら前歯が臭そうで汚い黄色をしていても、それだけで迫害されるとしたら、それは差別としか言えないスね……」
ビーバークサリガマは涙を流した。きっとジョーとリンの優しい言葉に心を打たれたのだろう。
「……あんまり前歯のこと言わないで」
ミカはヘルメットを外して視線をジョーの方にやる。厳しい表情だ。
「この顔を見て」
頭に包帯が巻かれている。彼女の体には他にも大小様々な傷があり、常にどこかしらケガをしていることが多い。
「ヒーローたるもの美男美女でなければならない。不細工なクソダサ怪人が味方になるなんて甘い幻想を抱いていては命取りになる。あのド汚い前歯はいずれ私達に向けられるかもしれない」
「言う事が浅いス……」
「てっきり戦いの厳しさとか怪我の話をするのかと思った……」
説明しよう。拍子抜けという感じの二人のリアクションであるが、しかし待ってほしい。彼女の言っていることは即ち、リスク管理。つまり……なんだ。説明できない。何言ってるんだこの女。ただのルッキズムじゃないか。言う事が浅すぎる。
「俺は何も、知り合いだから彼女の罪を見逃そうだとか、そういうことを言っているわけではない。秋葉原の件については罪を追求すべきだが、あの時彼女は一般市民に危害を加えてない」
確かにジョーの言うとおりである。ビーバークサリガマは、前回秋葉原の街を襲った時、事前に無関係の市民の避難を誘導してから行動にかかっていた。
強盗未遂と器物破損の罪は当然あるだろうが。しかし目的遂行のための最低限の配慮はあったと言えよう。
「そして今回は、純然たる被害者だ」
ミカの背筋にぞくりと怖気が奔る。そこを突っ込まれると弱い。
「相藤先輩、詳しく話してもらえませんか? あなたの前回の犯行、あれはあなたの自由意思によるものなんですか?」
「かなわないな、ジョー君には。確かにボクは、自分の意志であの犯行に及んだわけではない……」
ビーバーが何か語りだした。
「話せることと話せないことがあるが、ボクは確かに自分の意志で怪人になったわけではない。医者もさじを投げた重傷を負ったボクが助かるには、改造手術を持ち掛けてきたメガデスの言いなりになるしかなかったんだ」
それはまあ、誰も好き好んでこんな汚い歯のクソダサ怪人になりたがらないだろうという事は分かる。
「事前の話だと、こう、なんかもふもふのかわいい動物の怪人だとか、大鎌を武器にするスタイリッシュな女の子の怪人だとか言われてたのに、ふたを開けてみればこのザマさ……」
その情報でビーバークサリガマを事前予測するのは至難の業であろう。
「ボクは……」
続けて何か語りだそうとしたころ、パトカーの音が近づいてきた。
「悪いが、話は全て聞かせてもらったよ」
いつの間にか入り口のドアに寄りかかるようにケイオスブルーこと神戸アキラが立っていた。
「警察を呼んだ。君はおとなしく法の裁きを受け、更生すべきだと判断させていただいた」
直後、数名の警察官が入室してくる。ビーバーの両手に、手錠がかけられた。
「十八時二十一分、犯人確保!」
彼女の怪力ならば、手錠ぐらいは簡単に引きちぎれよう。しかし相藤ナツキは、一切の抵抗を見せなかった。
「ありがとう。ジョー君。君のおかげで、ボクはギリギリのところで道を踏み外さずにすんだよ」
ナツキは、今にも泣きだしそうな潤んだ瞳で、ジョーを見つめる。
「ジョー君、ボクは……ボクは君のことが……」
ビーバーに言われても。
「さようなら、ボクの初恋」
こうしてビーバークサリガマこと相藤ナツキはパトカーで護送されていった。
「あまり、重い罪にならないといいが」
「どうかな。このアジトも、ひどく破壊されたようだしな」
「それはミカの仕業だ」
パトカーの赤色灯で規則正しく照らされる表の道を、ブラインドの隙間からアキラが眺める。
「彼女も、この歪んだ現代社会の被害者だったのかも、しれないな……」
真っ暗な繁華街の道を、パトカーが進んでいく。
「もし彼女が罪を償って出てこられるのなら、その時はぜひ『いいね』とチャンネル登録を……」
:なんなんだこれ
:何を見せられてるんだ俺達は
:あいとうナツキって誰なん?
:途中からだから全然話が分からん
:ミカカたんがカスってことだけは分かった
:カスしかいねえよこのチームもう終わりだよ
どうやらいつからかは分からないが配信が始まっていたようであった。太陽にほえろのエンディングBGMとともに、緞帳が下りる。
「相藤先輩」
それから一週間ほどが過ぎたころ。相変わらずくだらない口喧嘩をする杉山ミカと鈴木リンとともに下校している最中の武石ジョーの前に思わぬ人物が現れた。
制服は着ていないが、ビーバークサリガマこと相藤ナツキその人である。この一週間、学校で見かけることも、彼女のうわさを聞くこともなかったが、突如としてジョーの前にその姿を現したのだ。
「退学になっちゃった」
それはそう。




