2話:王都の喧騒
三日後の夕刻、馬車が王都に到着した時、レンが最初に感じたのは空気の変化だった。
窓から外を見ると、息を呑む光景が広がっていた。城壁。石造りの巨大な城壁が、夕陽を背に聳え立っている。高さは二十メートル以上あるだろう。
その向こうに建物が密集し、石造りの家々が赤い屋根を連ね、煙突から煙が立ち上っていた。
人々の声が遠くから聞こえてくる。市場の喧騒。馬車の音。鐘の音。活気に満ちた、生きた街の音だった。屋敷の静寂とはまったく違う。そこには人々の営みがあり、生活があり、自由があった。
馬車が城門を通過する時、門番がアステリア家の紋章を見て敬礼した。門が開く。重い、軋む音が響き、馬車が王都の中へと進んでいく。
石畳の道が続き、両脇に店が並んでいた。パン屋では焼きたてのパンの香りが漂い、肉屋では店主が威勢よく客を呼び込んでいる。布屋の前では女性たちが色鮮やかな布地を手に取り、薬屋の看板には魔術的な文様が刻まれていた。
人々が行き交い、商人が荷車を引き、子供が路地を走る。魔術師らしき人物が杖を持って歩き、その周囲にわずかな魔力の気配が漂っている。レンはすべてを目に焼き付けた。
これが王都。ルヴェリア王国の中心。人口三十万人。
魔術文明の中心地。馬車が大通りを進むにつれ、建物はより壮麗になっていった。貴族の館が立ち並び、噴水のある広場を通り過ぎ、やがて見えてきたのは、巨大な建物――いや、城だった。
白い石造りの美しい城。塔が四つ、空に向かって伸びている。それぞれの塔に旗が掲げられ、夕風に揺れていた。
青、赤、緑、金。四つの学部を表す旗、アルカナシア王立魔術学院だ。
馬車が学院の門前に停まると、御者が扉を開けた。石畳に足を踏み出す。硬い感触が靴底から伝わり、冷たい夕風が頬を撫でた。
巨大で、美しく、そして威圧感がある。窓から差し込む夕陽の光が白い石壁をオレンジ色に染め、長い影が地面に落ちていた。
敷地内には他にも新入生らしき姿が見える。それぞれが緊張した面持ちで、学院を見上げていた。
門をくぐった先には広大な中庭が広がり、噴水の水音が静かに響いている。
石造りの回廊に高い天井。遠くから魔術の実習音が届いてくる。
「やるしかない」
小さく呟き、レンは学院の門をくぐった。
その足音が石畳に響き、新しい生活の始まりを告げていた。




