第63話 天使な獣と戯れときますね②
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 十七歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 十七歳
人工魔眼持ちの少女。〝天理逆行〟を引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 十七歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派で面倒見のいい性格。〝秘跡の魔眼〟の持ち主。
◆十文字 かれん 自称二十歳
戒めの使徒。創世六位〝人間の創造主〟。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。
◆煌々 輝夜 自称十四歳
戒めの使徒。創世一位〝光の創造主〟。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い…??
◆ルーナ・クレアーレ 自称十九歳
戒めの使徒。創世四位〝天体の創造主〟。ラメドに所属し〝神の兵器〟を欲している。
◆シロマロ 二十二歳
ルーナの子分その一。がたいのいい男。
◆クロマロ 二十二歳
ルーナの子分その二。痩せ気味の男。
◆イリス・ベラルディ 五歳
預言の館に訪れた女の子。水月曰く、誘拐されるそうだが……?
◆レムス・ベラルディ 十五歳
行方の分からなくなったイリスの兄。
◆千里眼 年齢不詳
ラメドに所属する人物。ルーナから危険視されている。
「水月! いける⁉」
「任せて!」
水月の近距離攻撃と莉奈の遠距離攻撃。それを交互に繰り出してラピス・アルバを翻弄し、息の合った動きを見せる二人。そのおかげで悠斗は邪魔されることなく目的の場所に辿り着くことができた。
ガタイのいいシロマロは意識があるが、クロマロの方は気を失っている。すぐ横の壁面には大きなヒビが入り、地面には砕けた石材が転がっていた。ここに身体を打ち付けられたのだとしたら無事で済むはずがない。
一刻も早くかれんに診せなければ──しかし、男二人を同時に運ぶというのは流石に無理がある。
「……ぉぅおぅ……す、すまねぇな……兄ちゃんよぉ……」
「気にしなくていい、命があってよかったよ」
「クロマロのやつ……先に助けてやってくれねぇか……頼む……」
「……わかった。すぐ戻るから大人しくしてろ」
悠斗は意識のないクロマロを担ぎ、ラピス・アルバから距離を取って歩き始めた。
クロマロの身体に響かないよう慎重に、それでいて迅速に神殿の入口を目指す。完全に脱力したその身体は見た目以上に重たい。
それともう一つ、シロマロとクロマロは裸エプロン姿のままなワケで。救出役が水月と莉奈になっていた場合、それは中々に酷な話だっただろう。
とは言え仮にそうなっていたとしても、あの二人なら危険に晒された命を前に躊躇うようなことはしないと断言できる。
「絶対助けるからな……生きてるよな──クロ……‼」
神殿の入口に辿り着くと、すぐにかれん達がクロマロの応急処置を開始、悠斗は息をつく間もなくシロマロの救助に向かった。
走りながらすぐそこで繰り広げられている戦闘の様子を伺う。
素早い動きで攻撃を躱し、水月がラピス・アルバの四肢を何度も斬りつけていく。
「月華想刀──朧月‼」
以前よりも動きが速い。
その姿を追うのは悠斗でも難しく、虚空に線を描く月華想刀の蒼い光だけがハッキリと瞳に映る。
「ЭΠЭΠЧДЪ」
「何か言ってるけど、動きは単純……そんなに知能は高くない……⁉」
ラピス・アルバの動きが明らかに鈍くなってきた。
「あと少し……‼ これでもう、動かないでよね‼」
莉奈が放つ渾身の一撃。
しかし、それが命中することはなかった。
回避する素振りを全く見せていなかったラピス・アルバが、命中する寸前に神殺槍を躱し大きく跳躍したのだ。
「え──」
鈍くなっていた動きがまるで嘘のようで、莉奈から驚きの声が漏れる。
そして標的を見失った神殺槍が進む先──悠斗とシロマロはそこにいた。
「ユート避けて‼」
反射的に身を屈めた悠斗の頭上で巨石を穿つ音が響く。
「なっ──おれ……そんなはずは──」
悠斗が混乱するのも無理はない。
何故なら、悠斗がいる場所は莉奈の背後に位置していたはずなのだ。
「何でよ……だって悠斗は今……‼」
「幻覚でも見せられてたのか……⁉」
もしそうなら、今見えている状況すら幻という可能性もある。
「ごめん! わたしがさっきアルアルのことバカにしたから……‼」
水月がいつの間にか名前を付けていた。
「ちょっと水月……⁉ 名前なんてつけたら……」
「うん、なんか愛着湧いて攻撃しづらくなっちゃいそう」
「ほらぁー‼ もうアルアルとか呼んじゃダメだからね⁉」
そうこうしている内にもラピス・アルバが仕掛けてくる。
「仕切りなおすわ! あと少し持ちこたえればいいだけなんだから……‼」
後手に回らないよう莉奈が神殺槍で相手を牽制、悠斗はラピス・アルバの狙いが自分に向けられていない事を確認し、シロマロに肩を貸して再び入口を目指す。
その間ラピス・アルバに狙われることはなかった。
しかし先程までとは戦況が明らかに違っている。この場を優位に立ちまわっているのはラピス・アルバで、悠斗はわざと見逃されているような──そんな印象。
目の前の状況が幻覚かもしれないという疑念のせいで、水月と莉奈の動きには迷いがハッキリと見て取れる。
一刻も早く加勢したい気持ちを抑え、悠斗はシロマロと共に入口を目指す。
「大丈夫じゃ! 必ず助かる!」
こちらの様子をずっと見守っていたルーナからの言葉。
それはきっとシロマロだけに向けたものではない。
なんとか無事に入口まで辿り着き、ルーナにシロマロを預ける。
「ルーナさん、シロのこと、頼んだ! おれはあっちを助けてくるから!」
「逢沖悠斗──‼」
すぐさま神殿内部に戻ろうとすると、ルーナがまっすぐな眼差しで悠斗を見据えた。
「──ありがとう。本当に、本当に、ありがとう──」
大切な心の内を全てさらけ出すように紡がれた感謝の言葉。
その想いに対して謙遜など必要ない。
「ああ、いいってことよ!」
それだけ言ってニカッと笑い、悠斗は再びラピス・アルバのいる方へと走っていった。




