re:ships.memories
「それで、俺は何をすればいいのかな?」
これまで何をしたという記憶がないから、とてもじゃないが、何もしないなんてことはできない。そんな変な真面目さが何をすればいいのか、何をしてもいいのか、という質問を起こさせる。
「とりあえず、私達は下っ端なので、甲板長の指示に従って動けばいいのですよ〜」
「甲板長?」
「甲板長は、記憶をなくしたせんぱいが、はじめて会った人であってます。」
あぁ、あの髭面おじさんか。
「髭面おじさんです。」
分かってるよという、ドヤ顔をしていた。
白山こわい。心、読まれてる。
「というか、シロと俺は2年のブランクがあるのに同じ立場なのか?」
「あ~、それは~せんぱいがあまりにも鈍くさいから、っていうのも十分にありますけど」
シロのイタズラな表情を見て、ちょっと聞くんじゃなかったと、後悔しつつも目覚めてからの数時間で既に切れ者ではないことは自覚している。
「けど?」
「航海士の席が埋まっていたって事が大きいですね。」
「航海士ってことは、甲板長とは別ということか?」
「そうですよ〜、甲板長はあくまで現場監督みたいなもんですから、経験のしっかりある髭面がやるんです。」
髭面は余計だろうと思った。
「なるほど。で、同じ立場か」
「で、今のところは同じ立場ですし、やることは、せんぱいから教わったことをやれば大丈夫です。多分。まあ、分かんなかったら甲板長に聞きましょ」
「分かった。ありがとう。」
「せんぱいもこんないきあたりばったりでも大丈夫なことを、のんびりやってたら休む時間なくなっちゃいますよ。」
と、シロは自分の部屋に戻りながら
「さっさと休んで寝て、思い出してください。」
と、励ますような口調で、俺じゃないもう一人に言うようにして帰っていった。
「分かった。よく休ませてもらうよ。」
ここで、一日が終わってしまった。
記憶がないというのは、不思議な感覚だ。
これまでの自分については、何もわからないのに、自分がどうしたいのか、何が好きで?何が嫌いなのかは判断がつく。
記憶喪失というより、記憶の書き換え、上書き。書いてある文字を修正テープで読めなくされている気分だ。
まっさら、では決してない。思い出せないが基礎になるものが必ずある。
元々と今の違いすらわからない気分だ。
考えつかれた。
おやすみなさい




