一念発起したら、紙が燃えました。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今日は日曜日なので、予定外更新。
皆様に楽しんでいただけるために、隔日更新継続中です。
風邪が治って早一週間。
あまりにも体力が回復しないので、エリーゼさんにいたく心配され、しばらく療養命令が出ていた。
はじめのうちこそ、本当にだるかったので大人しくしていたが、さすがにもう元気だ。
そして、元気な時にする療養ほど暇なものはない。
なので、暇をつぶすと同時に、この世界のことをきちんと知ろうと思い、読書をすることにした。
この間の事件は、私の危機管理能力不足によるところが大きいのだから。この世界のことを、もっとよく知る必要がある。
だ方、アルベルトさんに、ここの図書室にある本は自由に読んでいいとの許可をもらった。
「え、お前文字読めたっけ?」
とかいう、クロの失礼な言葉を軽く聞き流そうとしたら、そうは問屋がおろさなかった。
一応、淑女教育で文字は習っていたのだが、それはいわゆる平民用の文字らしく、読めないとさすがに恥をかくレベルだから教えてくれていただけ。
このお屋敷にあるような、きちんとした書物は、当然に貴族用の文字だったりする。
この世界には、身分制度が存在していて、一種の封建的な社会らしい。ずいぶん長いこと平和で、住民の不満も特にない安定した時世だそうだ。
そして、文字にも種類があって、平民文字、貴族文字、魔術文字が一般的に知られているそうだ。超古代魔術文字なるものも存在するらしいんだけど、それはいまだに解読されていないので、使っている人はいない。つか、知っている人もあまりいない。
なので、私には、真面目に勉強するために読むべき本が読めなかった。
「だからいったじゃないか」
とか憎まれ口をたたきつつ、自分の勉強の時間ではない時間に、クロが私に文字を教えてくれる。
今まで子ども扱いしかされたことのない彼にとっては、誰かに何かを教えるというのは楽しいことなのだ。
さすがに60年近く生きている。平民文字だけじゃなく、貴族文字も完璧だ。
ちなみに彼は現在、魔術文字を勉強中らしい。さすがは貴族、勉強する量もハンパじゃないな。
おかしいな、この子、勢いよく走りすぎてドアにぶつかったり、ガラスがあるとこに気づかなくて突っ込んだりした、おバカなコなのに。
しかし、クロとて暇じゃない。
仕方なく、貴族文字に関しても自主学習もすることにした。
伊達に大学院まで行っていないし、虚弱体質でもない。自宅学習の方法は熟知している。
特に語学は。
懐かしい大学受験の時には、単語帳をひたすらに書いて呟いて覚えていた。紙がもったいないので、はたから見たら誰かに呪いをかけていると誤解されてもおかしくないほどに、ものっすごい小さい文字でかりかりと。
しかも、文法だの慣用句だのを覚えるのには、単語だけじゃなくて、きちんと例文で覚えたほうが効率がいいので、文章形式で覚える単語帳を使っていた。
ここには、そんなもとになる単語帳がないので、クロに一冊簡単な本を音読してもらい、それを文字に起こしてから、例文を作り上げていく。
単語帳まで自作しなければいけないところがめんどくさかったけど、それなりに満足のいくものが出来上がって、ほくほくしていた。
そんな風に、単語帳を作りながら、相当難しい専門書でのない限り、一通りの本が読めるようになったころ。
「我は・・・・・・、招聘する。・・・・・・・・・・火を灯し・・・」
全文を表すと、「我は近隣の諸領地より、優秀な職人を招聘する。彼らを新たに設置した工房に案内し、近くの蝋燭に火を灯して、設備の細かい説明をした」とかいう、バステト家の何代前かはよくわからない方の、所領運営に関する日記。
与えられた自室で、一人黙々と(いや、ぶつぶつと)本を読んでいた時だった。
横に並べた自作の単語帳と照らし合わせながら、指で日記と単語帳の文字を追っていると、なぜか突然、目の前が明るくなった。
いや、違う。
も、燃えてるーーーーー!!??
いつの間に火がついたのかはさっぱり不明にも関わらず、お義父様にお借りしている日記に火がついている。
それは本。つまり、素材は紙。
盛大に火が燃え広がっていく様に、思わず本を取り落す。
何とかして火を消さなければ、と、慌てて何か消火できそうなものを探して室内を見回す。
いいところに水差し発見!!
読書机から少し離れたサイドテーブルに、読書中喉が渇いた時のための水差しが置いてあった。
「リサ、どうした!?」
「何事だ!!?」
「お嬢様!?」
私が水差しを引っ掴んだ瞬間に、部屋のドアからクロと、本日お休みでお屋敷にいたお父様、ダンテさんが飛び込んできた。
すかさず状況を見たお父様が、私の手から水差しをひったくって、燃え盛る本に勢いよくぶちまける。
「お嬢様、お怪我はありませんでしたか」
すかさず近寄って来たダンテさんに、火元から素早く遠ざけられる。
彼がぶしつけにならない程度に、私の手や髪やら洋服やら、どこにも異常がないことを確認する中、クロが近寄って来て、私の手を握る。
あー、これ、ダメになっちゃったかなー。
そんなダンテさんとクロをムシして、私は水をぶっかけられた元・本を首を伸ばして覗きこむ。
この国で、紙は貴重品とまでは言わないけれど高価なもの。
しかも、昔の事象を記したものとなると、その内容だとか歴史的価値だとかが加わってくるから、弁償なんてできるものではない。
うーわー、どうしよー。。。
昼下がりの陽光を利用していた読書で、どうやって火が出たのかはわからないけれど。
借り物をダメにしてしまったことに、内心で地にのめり込むほど落ち込む。
だけれど、なにより、そんなものより先に謝罪だ。
「すみません。本をダメにしてしまって・・・・・・。」
本当に申し訳ありませんでした、と深々と頭を下げて誠心誠意謝ったが。
「・・・・・・。」
お義父様からはなんの反応もない。
え、私そんな言葉を失うほどまずいもの燃やしたの??
まだ練習だし、それほど貴重な本ではないものをダンテさんに選んでもらったはずなんですが。
やはり、土下座でもしたほうがいいのかと、膝に力を入れて曲げかけたとき。
「これは、だれが書いたのかな」
少しだけ水に濡れた、私作成の単語帳を手に取って、慎重にページをめくっている。
心なしか、お義父様のお顔の色が悪いような気がするし、声も震えている?
しっぽがせわしなくはたはたと動いているから、間違いなく動揺はしているみたいだけど。
家の中で火事を起こされかけたのだから、普通といえば普通だが、それにしては見ているものがおかしいと思う。
「私、ですけど・・・。文字を覚える、単語帳として」
おそるおそる、という言葉がぴったり。そんな調子でお返事を返す。
私の返事を聞いたお義父様の耳が、ピクリと動いて後ろ(つまりは私の方)を向く。小さく揺れていたはずのしっぽは、今や何かを警戒するようにピンと立っている。少し毛が膨らんでるかも?
「そうか。・・・・・・すまないが、これは少し借りていくよ」
しばらくしてから、お義父様はそれだけを言って、部屋を出ていかれた。
お断りなんてできる立場ではないので、もちろんこくこくと首を縦に振ったけれど、後ろ姿から醸されている空気は、尋常非ざるモノを感じさせる。
うーわーマジかよ、怒りMAX??
とかなんとか本気で地面にめり込みそうに落ち込んでいると、ダンテさんがとりあえず、私を別の客間へと連れて行ってくれた。クロも心配そうに付き添う。
私の部屋は、小火にもならなかったとはいえ、読書机には黒く焦げた跡があるので、それを綺麗にするまでは、ということらしい。別に、そのままでもいいのに。
しばらくして、今日はこの屋敷から出ないように言われて、お義父様はどこかにお出かけされたらしい。
そんな命令なくても、さすがに今日は出かける気になんてなれませんが。というか、この部屋から出る気にもなれない。
あー、もー、何で火なんか出たんだろ。
クロが必死に慰めようとしてくれている中、私は一人でめり込んでいた。
穴があったら入りたい。いや、穴を掘らせてください。自分で埋まります。
次の更新は前回宣言同様、消費税増税の前日夜8時です。




