表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

再生


 死にたくない。

 何度も願って来た。

 でも苦しいから、死にたい。

 両立しえない願いを、毎日願った。

 神様だって、こんな願いをされたらどっちを叶えれば良いのか分からず、混乱してしまうだろう。


 でも今はハッキリ言える。

 私はまだ、死にたくない。


 せっかく元気な体を手に入れ、せっかく大好きなゲームの世界に入り込み、ゲームのような胸躍る大冒険が始まったばかりだと言うのに、こんなにあっさりと終わってしまうなんて未練が残りすぎる。

 だからどうかお願いだから、私をこんな所で終わらせないで欲しい。


 スキル習得・再生


 すると突然、目の前にそんな文字が浮かび上がった。そして真っ暗だったはずの視界が開け、視力が戻って来る。


「……」


 身体は、動かない。声も出せない。私は神獣と戦い、殺されたあの場所に横たわっている。

 見えるその先にある私の身体は、やはりバラバラだ。血と臓物をまき散らしていて、かなりグロデスク。本来ならパニックになるような光景。だけど私は依然として冷静だ。


 先程、スキルの『再生』を習得したと文字が出た。

 そのスキルの詳細を見てみる。


 再生・全ての肉体を再生する事が出来る。肉片が一つでも残っていれば再生可能。


 はは。なんだそれ。ほとんど不死じゃん。

 でもおかげで死なずに済みそうだ。再生にはどれくらいの時間がかかるんだろう。


 分からないから、とりあえずこのまま寝転がったまま待つしかない。


「……」


 どれだけの時間が経っただろう。

 私はずーっと、地面に横たわっている。

 何もする事がないので、頭の中では神獣の倒し方について考えている。新しい魔法についても、いくつか考えた。あの神獣を、どうやって倒すか。どうして攻撃が効かなかったのか。あの身体を霧に変えて移動する手段に、対抗策はあるのか。あるとしたらどのような魔法が効くか。

 まるで、ゲームの攻略を考えるかのような感覚だ。正直言って、少し楽しい。こんな状況で楽しいとか、まるで狂人だ。


 少しずつ、体の形が戻って来た。見つめている部分の肉が蠢いてくっつき、少しずつではあるけどちゃんと肉体が再生されている。


 だけど途中で邪魔が現れた。


「……」


 こちらを見つめる、6つの目がある。


 姿を現したのは、狼だ。3匹の狼型の魔物が、私に近づいて来る。


 1匹は、とても大きな狼だ。立派な長い毛を垂れ下げた、威厳のある姿。牙が口から飛び出る程に大きく、目つきは鋭くとても強そう。

 もう2匹は、小さな狼だ。まだ毛は生えそろっておらず、チワワサイズ。白色の狼と、黒色の狼で、見分けが凄くつきやすい。


 たぶん、親子だね。大きな狼の子供が、この黒いのと白いのだ。


 『鑑定』のスキルを使って、大きな狼を見てみる。けど、鑑定は無効化された。君もまた、鑑定阻害のスキル持ちか。


 ならばと子供の方にスキルを使おうとすると、大人狼が私の顔面を足で踏みつけて来た。割と冗談にならない強烈な攻撃で、私の頭はぐしゃりと割れた。


「……」


 不思議と痛くない。いや痛いといえば痛いんだけど、気にならないレベル。痛みに体が慣れ過ぎたのかもしれない。だってバラバラで再生中の身体って、ずっと痛いんだよ。こんな、頭を潰されるくらいもう気にもならい。ちょっと机の角に手の甲をぶつけてしまった程度の痛み。

 というかこんな状態でも意識がある自分が怖い。意識はあるんだけど、目を潰されて何も見えない状態なので、前より自由度が減ってしまった。


 というか、ちょっと待って。お腹に噛み付かれている。体が引きちぎられ、中の物を引き出されている気がする。この感覚は……たぶん、食べられている。私の身体が、狼の餌になっているのだ。視界がなくなってしまったので、その分他の感覚が強い。狼の牙や舌を、感じてはいけない場所で感じている。


 生きたまま、体を動かす事も出来ずに暗闇の中で魔物に食べられると言う、おぞましい体験だ。


 意識があったら、泣いて叫び声をあげていただろう。抵抗出来たら、出来る限りの抵抗をしていただろう。でも声も出なければ抵抗も出来ないんだから、受け入れるしかない。


 ……いいよ、たんとお食べ。私は諦めた。


 大きくなって、お母さんのように立派な魔物になるんだよ。

 でも肉片くらいは残してね。再生出来なくなっちゃうから。


 というような体験をしてから、またしばらくの時間が経過した。狼に食べられた後は、邪魔も入らず順調に再生していく。ようやく目が見えるようになって、胴体が復元し、片腕と片足が再生した。

 ここまでくれば、ほとんど復活したようなものである。お腹も普通に減るので、ストックしていた『スケイル・デスロアの腿肉の石焼き』を食べつつ、体力をつけて回復を促す。

 片手が復活したので、けん玉も出来る。という訳で地面を這って移動して、壁を背にして座った私はけん玉で遊んでいる。やる事がこれ以外ないので、だいぶ上達した。


 するといつかの大きな蜘蛛が、突然天井から降って来たではないか。

 今日は……1匹だけだね。とりあえず安心する。レベルもいつも通りで大した事なさそうだ。


 飛びかかって来たので、私は座ったままけん玉を振り抜き、けん玉の玉で蜘蛛を叩きつけた。

 玉に当たった蜘蛛は、メキメキと身体が砕ける音を響かせながら、凄いスピードで飛んで行ってしまう。そして壁にぶつかり、ピクピクと脚を動かして絶命。一応鑑定して見ると、HPはゼロを示していた。


「……」


 けん玉つよー……。


 何これ、本当にけん玉?神獣の攻撃を受け止めたり、今の玉の攻撃力だったり凄すぎて言葉もない。


 よし……。君には『破軍滅珠(はぐんめつじゅ)』という名前を授けよう。


 名づけられたけん玉が、心なしか嬉しそうだ。


 それからもたまにやって来る魔物を退治したりしながら、またしばらくの時間が経過した。


 私、復活。


 ついに手足も完全に再生し、5体満足で大地に立つ。


 けっこう時間がかかったな。数日?数週間?数か月?この世界に来てから、時間の感覚がなさすぎて困る。


 名前:ヒメノ

 種族:魔族

 レベル:48


 HP:25091 / 25091

 MP:253284 / 253284


 再生するために長い時間を特に何もせずに過ごしたので、ついにMPが全回復した。今思えば神獣にやられた時は、半分の10万程のMPしかなかったんだから、戦いには不利だった気がする。


 ……まぁ負け惜しみだ。MPがいくらっても、あんな攻撃を仕掛けられたら初見じゃ避けようがない。

 いや、これからは初見がどうのとか甘えた事を言っていたらいけないんだ。

 自分に言い聞かせる。


 ここはゲームの世界だけど、現実だ。ゲームのように死んだらセーブポイントからやり直せたり、蘇生魔法など存在しない。死んだら、終わりだ。

 今までの私は、どこか死んでも大丈夫と思っていた気がする。それを死に直面した事により、間違っていたと認識できた。

 まぁこれからは『再生』のおかげでよっぽどの事が無ければ死ぬ事はなさそうだけど、それでも肉片が残らないくらいに消滅させられたら死んでしまう。心を改めて、想定外の事がおきても死なないよう、初見がどうのとか甘い考えはここで捨てさせてもらう。

 もっと言えば、命を失わないよう慎重に行動すべきだ。


「……さて」


 復活したし、そろそろ神獣を倒しに行きますか。

 慎重さはどこに行ったって?時には大胆さも必要なのさ。


 それに私は、倒すのが難しい相手程燃え上がってしまうタイプなものでね。このままもう一度チャレンジさせてもらいますよっと。

 せっかく長い長い再生時間の間に、倒すための方法も考えていたしね。


「……」


 更に言えば、あの時のカミの失望した顔が脳裏にこびりついている。いや無表情ではあったんだけど、あんな風に言われて、あんな風に見捨てられたら悔しいじゃん。カミを見返すためにも、神獣を倒したい。


 私の威信や尊厳を取り戻すために、必要な事だ。


 という訳で私の冒険は再び始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ